「オムニチャネル化」と「マネタイズの多重化」がコマースの鍵を握る ―丸井、セブン&アイ、ヤフーの事例から(1) 

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eコマースを含め、小売のイノベーションは私達の生活をどう変えるのか。丸井グループ代表取締役社長の青井氏、セブン&アイ・ホールディングス 取締役常務執行役員の伊藤氏、ヤフー株式会社 執行役員の小澤氏が語り尽くしたセミナーの模様をお届します。(全3回)

コマース革命で日本が世界の模範となるために、企業はどう動くべきなのか[1]

岡島悦子氏(以下、敬称略): 皆さんこんにちは。今日は会場の方々とも一緒に議論を進めたい。本セッションのテーマは「コマース革命で日本が世界の模範となるために、企業はどう動くべきなのか」。私自身は一応丸井グループの役員もやらせていただいているので、今日はその立場でも、あるいは買い物大好きなおねえちゃんとしても、いろいろ伺ってみたい。

まず今日は小売流通でリアルの店舗もお持ちの企業から御二方、そしてeコマースをやっていらっしゃる企業から小澤さんにお越しいただいた。現在も上昇しているEC化率がどこまで上がるのかというと、これは国内小売流通の事情も関わってくる。今は4~5%と聞いていて、これは何を分母にとるかによって変わると思うけれども、市場規模は2016年6月に経産省が発表した数字によれば2015年は13.8兆円とされている。

そうした数字も踏まえたうえで、まずはリアルな店舗をお持ちの青井さんと伊藤さんにオムニチャネル戦略のようなところから伺っていきたい。リアルとネットでさまざまなチャネルがあるなか、今はどういった取り組みを進めておられるのだろう。今後を見据えて「日本が世界の模範に~」というテーマも意識しつつ、今はどんなことを考えて、どんなことをしていらっしゃるのか。現在の事例から伺っていきたい。

「オムニチャネル」で顧客の接点を増やし、利便性も上げる

青井浩氏(以下、敬称略): まずeコマースに関しては、当初「マルチチャネル」ということを掲げて、「リアルだけじゃなくeコマースもやりましょう」ということで10年ほど前にスタートさせた。ただ、今オムニチャネルということでご紹介いただい通り、お客さまから見ればリアルもeコマースひとつながりになっている。なので、「お客さま視点でひとつながりとなるようにやっていこう」ということで、数年前から今の取り組みを進めている。

今一番力を入れているのは「体験ストア」というものを軸にしたオムニチャネルの取り組みだ。そこで、主に「ラクチンきれいシューズ」という私どもがやっているプライベートブランド(以下、PB)の販売を行っている。これはお客さまから見ると基本的にはeコマース。ただ、eコマースははじめから終わりまですごく便利で快適だけれども、1箇所だけ少し困るところがある。それが実物を見て試着をする部分だ。ということで、「じゃあその部分だけリアルの店舗で行って、あとはぜんぶeコマースで通しちゃおうよ」と考えた。

それで去年ぐらいから実験的にはじめたけれども、店舗は在庫を持っていない。で、ショールームのようなスペースで接客をして試着をしていただいて、そこで気に入っていただいたらタブレットを使ってその場で注文していただく。

じつは店ごとに在庫持つと在庫ロスが必ず出てしまい、逆に機会損失が発生しやすい

岡島: サイズも幅広い。身内トークで申し訳ないけれども(会場笑)、かなりのバリエーションですよね。

青井: そうですね。日本人の成人女性を対象にすると今は19.5~27.0cmまで揃えたら、ほぼ100%…、99%台ということだと思うけれども、ほぼカバーできる。ただ、それを0.5cmピッチですべて用意しようとすると16サイズ必要になる。そこに20~50型ものスタイルがあると、ものすごい在庫になってしまうわけだ。だから今までもどのみち店舗には在庫できないということで、すべてセンター在庫として抱えたりしていた。

これは伊藤さんもよくご存知だと思うけれども、店ごとに在庫持つと在庫ロスが必ず出てしまう。売り逃しも売れ残りも発生するので。でも、オムニチャネルにしたことで幅広いサイズをハンドリングできるようになったし、在庫効率も良くなった。まあ、後者はおまけになるけれども、そういったメリットがあるので、やはりオムニチャネルのような取り組みは今後も進んでいくんじゃないかなと思う。おかげさまで発売以来7年の累計350万足ほどになった。

 

岡島: ユーザーとしてすごくいいなと思うのはブーツ等の商品を手に持って帰らなくてもいいこと。「翌日すぐ履きたい」という方には少し対応しづらいかもしれないけれども。

青井: そうですね。ユーザーエクスペリエンスという言葉はよく使われるけれども、お客さま視点で考えるとどうなるか。リアルな店舗だと商品を販売してお金をいただいて「ありがとうございます」と言ったら、もうそこで終わりのような感覚がある。でも、お客さまはその後、実際には靴箱を抱えてお帰りになる。雨だったら箱にビニールをかぶせたり、あるいは混んでいる電車内で靴箱の角が隣の乗客に当たって「すいません」なんて言ったり、なんというか、いろいろと大変な思いをしたりする。だから持って帰らなくていいということが分かると、特に女性のお客さまは「あ、それ便利ね」となる。

洋服や靴なら、即日に手元になくてもいい場合が多い

その代わり届くのが翌日や翌々日になるけれども、このあたりはアイテムによって違ってくる。アンケートを取ってみると、お客さまの70~80%が「洋服や靴なら別に翌日届かなくてもいいです」とおっしゃっているので。

岡島: そのあたりは食品と違うところですかね。あと、丸井グループの特徴として顧客の声を反映させてつくっていくということを相当やっていらっしゃると思う。

青井: お客さまの声を聞くことはもちろん、お客さまと対話することをすごく重視している。お客さまの声に対して、我々のほうから「じゃあ、こうするのはいかがですか?」と投げかける。で、それにまたコメントをいただく、と。そんな風にキャッチボールしながらつくっていくことを心がけている。

そういうコミュニティがネットにもリアルにもある。そんな風にしてお客さまと対話を繰り返していくなかで、今はどちらかというとそういうコミュニティをつくることのほうが大事なのかなと感じるようになった。なので、今後は売れるモノやサービスづくりのためというより、コミュニティをつくること自体を目的にやっていこうかなと思っている。

岡島: そうした「コ・クリエーション」のお話は御二方からも聞けると思う。では、続いて伊藤さんにもオムニチャネル戦略について。

伊藤順朗​氏(以下、敬称略): 私どもはオムニチャネルということをぶちあげて「オムニ7」というものをつくってきた。ただ、昨年はいろいろなことがあって、結果としては少し舵を切っている。当初、統合サイトとしてグループの商品力をもって戦っていこうとした「オムニ7」だけれども、ヤフーさんやアマゾンさん、あるいは楽天さんと伍していくうえでは「自分たちの強みを十分に活かせないのでは?」と考えたので。

では、私どもの強みは何か。1万9000店におよぶセブン-イレブンをはじめとした約2万店の店舗インフラと、そこへいらっしゃる1日2200万人のお客さまだ。2200万というのはトランザクションの数であって、来店するお客さまの数はもっと多い。私たちとしては、そういったお客さまとの関係性を強化していく必要があると考えている。

「顧客の近くにリアル店舗(コンビニ)がある」という強み

そのために、まずは生活に密着した形で商品・サービスを提供していこう、と。グループにはイトーヨーカドーやそごう・西武もあるけれど、今は売上高の6割以上を食品が占めている。なので、食品を中心としたネットスーパーや、「セブンミール」というセブン-イレブンから商品をお届けするサービスで、よりお客さまにより近づいていく。そのなかで…、もちろん電話もファックスもあるけれども、ご注文時にサイトを使っていただく形がひとつ。

あと、お客さまとの関係性という点でもう1つ。今も一部でリリースしているけれども、これからさらにバージョンアップしていきたいのがアプリだ。アプリでさらに来店を促進する、あるいはお客さまとの関係性を強めていくといったことを、CRM(Customer Relationship Management)と併せて進めたい。また、私どもは銀行とカード会社も持っているので、そういう領域も含めて客さまを…、「囲い込む」という表現は好きではないけれども、そうしたことができるのではないかなということで今は進めている。

岡島: 百貨店やコンビニ等、グループにはさまざまな業態があるし、その成り立ちもそれぞれ大きく違うと思う。そのなかで今おっしゃっていた在庫や顧客情報の一元管理をするというのは、組織の壁もあって難しいのかなと、素人的には感じるけれども。

伊藤: 分かっているくせに(会場笑)。厳しいですよね(笑)。その通りで、たしかに「言うは易し」というか。青井さんのお話通り、店舗ごとでも在庫の偏りが生まれるわけで、会社間を跨ぐとその辺がさらに難しくなる。顧客管理も同じだ。まあ、できなくはないし、実際に「一本化しよう」ということで今はいろいろ仕掛けを考えているけれども。

ただ、やっぱり百貨店でカードをつくったお客さまからすると西武やそごうのミレニアムカードが良いわけで、そこにイトーヨーカドーのカードやnanacoが付くのは嫌がるという面はあると思う。そうしたお客さまの心理も考えつつ、バックのほうではきちんとつなぐことはできる。今は個人情報に関して非常に厳しい話もあるので、その辺をクリアしていくという課題もあるけれども、いずれにせよ、今はその方向で進めている。

岡島: 加えて今は2万店近い店舗があり、特にコンビニは人々にとってなくてはならないインフラになっている。そこへ毎日2200万人もの方がいらっしゃるわけで、たとえば店舗で商品をピックアップできるという点も武器になっていく感じだろうか。

伊藤: そう。特にコンビニエンスストアはスペースに限りがあるからそれも簡単ではないけれども、やはりピックアップする場所として、あるいはお客さまに商品をお届けする起点という意味での活用はすでにはじめている。その辺も今後は進めていきたい。

岡島: 最近はユニクロさんの商品を取り扱うといったこともはじめていらして、オープンな方向にも進んでいらっしゃると感じる。

伊藤: 今後はあらゆるところに対してオープンにしていく。ローソンさんやファミリーマートさんでもアマゾンさんの商品を受け取ることができるわけで、私たちも他のところを含めてやっていく。自分たちだけで閉じるのでなくオープンにするのは当然の指向だと思う。

日本では現在約5%のeコマース。今後はどこまで拡大するか

岡島: では、続いて小澤さん。最近は「eコマース革命 第2章」ということを伺っているけれども、最近の取り組みや事例をぜひ教えていただきたいと思う。

小澤隆生氏(以下、敬称略): まず、ここには楽天さんかアマゾンさんが座っているべきで…、まあ、登壇を断られたんですかね。申し訳ないですね(会場笑)。そもそも「世界に対して」なんて話をする以前にYahoo!ショッピングは日本でも勝てていないわけで。なので、今日はヤフーというよりeコマース(EC)全体のお話をさせていただければと思う。

まあ、実際はどうかというと、3年前に「ヤフーでeコマースを(もっと)やりなさい」と、孫さんや宮坂(学氏:同社代表取締役社長)さんに言われ、現況ではどのECサービスよりも高い成長率を示している。これは事実だ。その辺はなぜかというのも含めてお話をさせていただければと思っている。

まず、eコマース自体はそれほど大きな新規需要をつくり出しているわけじゃない。基本的にはリアルなお店で買っていたものをインターネットに付け替えているだけ。ただ、リアルからインターネットへのシフトは不可逆で、あとはそれがどれぐらいの割合まで進むのか。先ほどご案内があった通り、日本では現在5%前後だけれどもイギリスでは15%ぐらいにまで進んでいる。アメリカでも10%弱。ただ、日本ではセブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)さんが頑張っていただいたりして細かい店舗網がすでに構築されている。その状況で「わざわざ」インターネットで買うようになるのか。ある意味「わざわざ」なんですね。2分歩けばお店があるのに、送料や決済手数料を払ったりしてまでわざわざインターネットで買うということがどこまで進むのか、と。それでも伸びてはいくわけだけれども。

じゃあ、なぜわざわざインターネットで買うのか。もちろん近くのコンビニエンスストアにゴルフクラブも丸井さんの洋服も置いてません。そういう商品力の問題と、それから価格の問題がある。なので、eコマースにおける最初の戦略というのは、基本的には近くのお店で手に入らないようなものを、近くのお店で手に入らないような金額で売ることになる。

ところが、以前のYahoo!ショッピングはモノも足りなければ価格も高い状態だった。だから、そこはシンプルに、一気に品を増やして価格を下げていった。そうすると、当然ながら売れる。セオリーに則っているから。でも、それだけではいけないねということで、大きな流れがグローバルレベルでは出ている。

1つにはマネタイズポイント、つまり商売の多重化だ。これは、小売として見るか、お買い物として見るかの差になる。小売なら「仕入れて売ります」ということになる一方、お買い物として考えていくと、たとえばSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売業)のようにしてモノをつくって売ったりするようにもなる。あるいは、これは丸井さんがお得意だけれども、金融というか決済でも儲ける。つまり、仕入れて売るという小売の粗利だけだと価格競争で商売が成り立たなくなっていくから、多層化をしていく。

利幅が減少しやすいeコマースにおいては「マネタイズポイントの多重化」が重要

その究極がアマゾンだ。もうデータを預かったりモノを預かったりするところでもお金を稼いだりしているわけで。で、そんなアマゾンが今1番頑張っているのが顧客から参加費を取るということ。リアルではグローバルで唯一コストコが成功したモデルを、インターネットに持ち込んだのが「Amazonプライム」になる。では、顧客から参加費という形でお金を取ると何がいいかというと、ロイヤリティがめちゃくちゃに高まる。だから少々の価格が高くてもアマゾンで購入するということになる。マネタイズポイントの多重化という話で、これが1つ目。もう一つは、忘れました(笑)。途中で思い出す予定です。ちょっと長くなったかな、と(笑)。

 

※この記事は、2017年3月18日に北海道ルスツリゾートで開催されたG1サミット2017のセミナー「コマース革命で日本が世界の模範となるために、企業はどう動くべきなのか」を元に編集しました
※GLOBIS知見録「視る」で本セッションの動画版をご覧いただくことができます
小売業界で勝ち抜くための「オムニチャネル戦略」~丸井、セブン&アイ、ヤフーの事例から

1961年生まれ。慶應義塾大学卒業。1986年株式会社丸井(現:株式会社丸井グループ)入社。常務取締役、副社長等を経て、2005年4月より代表取締役社長に就任。
丸井グループは、小売事業とフィンテック事業を両輪とした事業展開で、お客様に豊かなライフスタイルを提供する企業グループ。すべてのステークホルダーと進める「共創経営」の実践により、様々なビジネスモデル革新に取り組む。
米国金融専門誌「Institutional Investor誌」による2016年の「日本のベストIR企業ランキング」においては、小売業Best CEOカテゴリーで、セルサイド部門1位、バイサイド部門3位にランクイン。

1982年学習院大学経済学部経営学科卒業、三井信託銀行(現中央三井信託銀行)入社。1987年同社退社、米国クレアモント大学経営大学院へ留学。1989年同校経営学修士(MBA)修了、ノードストローム社勤務。1990年セブン-イレブン・ジャパン入社。2002年同社取締役。2007年同常務執行役員マーケティング部長。2009年5月より同社持株会社であるセブン&アイ・ホールディングスへ転籍、取締役執行役員事業推進部シニアオフィサー。2011年4月より現職。

アスクル株式会社 社外取締役、株式会社一休 取締役。1999年に創業した株式会社ビズシークを2001年に楽天株式会社に売却。その後、2003年にビズシークの吸収合併により楽天に入社、オークション担当役員に就任する。2004年からの楽天イーグルスの立ち上げに際しては、取締役事業本部長としてプロ野球ビジネスに深く関わる。2006年に楽天および楽天野球団を退社して小澤総合研究所を設立。スタートアップベンチャーへの投資やコンサルティング業務を精力的に展開しつつ、2016年の東京オリンピック開催を目指した招致委員会にはチーフインターネットオフィサーとして参画。2009年から2012年までは楽天の顧問をつとめる。2011年、株式会社クロコスを設立、2012年に同社をヤフー株式会社に売却し、ヤフー株式会社に入社し、ベンチャー投資責任者となる。2013年よりヤフー株式会社 執行役員ショッピングカンパニー長としてYahoo!ショッピング、Yahoo!トラベルを中心としたヤフーグループのeコマース関連事業の成長を牽引している。

モデレーター

経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス・グループを経て、2007年プロノバ設立。アステラス製薬株式会社 社外取締役、株式会社丸井グループ 社外取締役、ランサーズ株式会社 社外取締役、株式会社セプテーニ・ホールディングス 社外取締役、株式会社リンクアンドモチベーション 社外取締役。リーダーシップ、ダイバーシティ、キャリアに関する著書、講演多数。企業の成長戦略コンサルティングの一環として、多くの企業で多様性推進支援プロジェクトを手がける。180社、8,000人以上の女性とワークショップを実施、多様性を活かした組織開発に関する提言を行っている。ダボス会議運営の世界経済フォーラムから「Young Global Leaders 2007」に選出される。

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