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【日経コラム】偉人に学ぶ大震災対応―Eメール・フロム・ジャパン

投稿日:2017/03/15更新日:2019/04/09

あす11日で東日本大震災から6年となる。毎年この時期になると、震災直後にめまぐるしく過ぎていった日々を思い出す。

震災の3日後の月曜日にグロービス東京校で「大災害のなかで僕らにできること」と題したセミナーを開いた。もともと予定していたセミナーのテーマを急きょ変えて開催することにした。その日は東京電力福島第1原子力発電所の建屋が水素爆発した。余震が続き、首都圏では電力不足に対応するため計画停電が行われていた。それでも参加者は100人を超えた。

セミナー終了後に、登壇者や主催者である僕らが被災地で何ができるかを話し合った。そこで決めたのが震災復興支援プロジェクトの立ち上げだ。人と人、日本と世界を希望でつなぐとの意味を込め、希望と虹(RAINBOW)を組み合わせた「KIBOW」という名前を付けた。

過去の事例に学ぼうと、関東大震災で偉人たちがどうふるまったのかを調べた。一番参考になったのが渋沢栄一氏だ。邸宅を避難所にして物資を人々に与えただけでなく、世界に電報を送っていたことに感銘を受けた。海外の友人に自分が無事であることを伝え、義援金をお願いするとともに、日本の状況を正確に伝えた。

僕も渋沢栄一氏と同じことをしようと思い立った。当時、僕らが懸念していたのが世界の報道機関の姿勢だ。米CNNテレビなどが福島第1原発の事故をセンセーショナルに報道していた。あたかも日本全体が放射性物質で覆われていると言わんばかりの伝え方だった。

今の時代のツールは電報ではなくて、メールだ。米ハーバード経営大学院の同窓生やダボス会議などで出会った世界の人々約3000人に向けて、起業家の視点で発信することにした。題名は「Email From Japan」だ。

福島第1原発の状況から始まり、放射線の度合い、日本の人々の冷静な振る舞いなどを事実に基づいて伝えた。東京は安全だから多くの人や企業に早く日本に来てほしいということを主に訴えた。

2011年8月まで全部で13通を発信し、返信にも一つ一つ返事をして対話をした。メールを発信している合間の4月には、英国エコノミスト誌とKIBOWで共同シンポジウムも開いた。

11年5月にはダボス会議を主催する世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長が急きょ来日した。世界から日本への支援・支持を表明するために「ジャパンミーティング」を開催してくれたのだ。それまでダボス会議で何度会っても、シュワブ氏は僕の名前と顔を覚えてくれなかった。だが、シュワブ氏は「君のメールは大変参考になった」と日本に来るとすぐに僕に声をかけてくれた。必死に送ったメールが認識され、シュワブ氏を通じて微力ながらも日本に貢献できた気がする。

翌年、ダボス会議の夜にグロービスが開いた催しに、ある年配の紳士が夫人を伴ってやってきた。「メールを送ってくれた君に会いに来た」という。その人が、インドネシアのリッポー・グループの最高経営責任者(CEO)、ジェームズ・リアディさんだった。それ以来、友人として親交を深めている。

Email From Japanを書いていた震災後の時期は本当に忙しかった。KIBOWで支援金集めに奔走し、被災地訪問を2週間後から始めた。津波に襲われた福島・宮城・岩手県の沿岸部のほぼすべての市町村を7月までに訪問した。

多忙だったけど、時間を割いて海外に発信して本当に良かったと思う。渋沢栄一氏という偉人から学んだ大震災への対応が、復興に少しでも役に立てたとすれば幸いだ。メールは被災地や日本を世界につないだだけでなく、僕を世界につなげてくれた。

※この記事は日経産業新聞で2017年3月10日に掲載されたものです。日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

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