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教育とは未来に向けた投資であり、社会政策であり、経済政策である~松野博一文科大臣講演

投稿日:2017/02/27更新日:2019/04/09

テクノベートがもたらす新たなパラダイム―日本企業の競争優位の構築に向けて[1]

松野博一氏(以下、敬称略): 本セッションのテーマは「テクノベートがもたらす新たなパラダイム ~日本企業の競争優位の構築に向けて~」とのことですが、この分野と文部科学省との関わりについては、本来は「高等教育のグローバル対応」や「Society5.0の推進」、あるいは「人工知能」といったものが最もテーマに沿ったものかもしれない。ただ今日は、私からは日本の教育、特に現在の学校教育が抱える構造的問題について、重点的にお話をさせていただけたらと思う。

1つ目の課題は「学校・家庭・地域の教育における役割分担」だ。これは安倍総理直属の有識者会議である教育再生実行会議でもテーマのひとつになっている。まず、たとえば日本の学校教育を象徴的に表したものをひとつご紹介すると、…堀(義人氏:グロービス経営大学院学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)さん、恐縮ですが、壇上の前を元気良く歩いてみていただけますか?(両手を大きく振って壇上前を小走りする堀氏)あ、ありがとうございます(会場笑)。

これは、生活に関わることのほぼすべてを、日本は学校教育を通じて普及させてきたということを象徴的に表している。実は歩き方も明治時代に学校が普及させた。江戸時代の日本人は手を振らずに歩くか、右手と右足、左手と左足が同時に前へ出すという歩き方をしていた。この動きは今でも舞踊や古武術の世界に残っている。

しかし明治になると、まさにそうした歩き方にはじまって、生活全般に渡ることが学校教育を通じて普及されるようになった。司馬遼太郎さん的に言うと「文明の配電盤」という表現になる。そういう使命を日本の学校教育は負っていたわけです。その結果、公立でありながら「おらが学校」意識が世界で最も強くなった。村の三役と言えば、昔は村長さんと警察署長さんと学校の校長先生。大変尊敬されていたし、強い影響力を持っていた。

こうした歴史的経緯を踏まえつつ日本の教育の際立った特徴を考えてみると、やはり日本では学校が総合的指導を行ってきたということが言える。欧州における学校のあり方と比較してみるとどうか。寄宿舎制の学校を除くと、欧州の学校は知識を教えるところ。そのうえで、しつけは家庭教育が、倫理は教会が、スポーツは地域のクラブがそれぞれ受け持っている。しかし日本の学校はそれらすべてに関与してきたし、その指導方法は高い成果を挙げ、世界的にも高く評価されている。

ただ、こうした日本の学校制度が今は現場の先生方にとって大変な負担になっている。先生方はもうアップアップの状態だ。現在の制度は教師の長時間労働に支えられていると言える。これは決して持続可能性のある状態ではない。

そうした現状を踏まえて文科省が「学校・家庭・地域の役割分担について議論しよう」と言うと、マスコミの方々には「文科省が家庭教育に介入するつもりか?」「学校の責任を切り離すつもりでは?」といった批判をされる。これはまったく当たらない。今必要なのは、学校・家庭・地域でそれぞれの役割を整理しようという議論だ。そのうえで、もし学校が抱え込み過ぎているのなら、家庭や地域もその役割をしっかりと自覚し、できることは積極的にやってもらうという話になる。

ただ、今は家庭をとりまく環境も厳しい。だから「学校教育が今行っていることをしっかり受け持って欲しい」という話なら、当然、人員や予算の面で学校に資源投入をしていただかないと学校だってもたない。そうしたコンセンサスを国民のなかにつくる必要がある。さらに言うと、イギリス等では学校をアクセスポイントまたプラットフォームにして、児童福祉まで学校という場を活用して行う傾向があり、「日本でもそれを進めてはどうか」との意見もある。そうした役割をさらに加えるのなら、もう学校の制度設計からやり直さなければいけない。

自己肯定感の低さは日本の大きな課題

会議における2つ目のテーマは「子どもたちの自己肯定感」になる。日本の子どもたちの学力は世界一と言っていいと思う。スポーツの能力も高く、規律も守る。素晴らしい生徒・児童たちだ。でも、そんな彼らに「自分に人並みの能力があると思うか」と聞くとどうなるか。中国やアメリカでは90%の生徒・児童が「ある」と答えるのに対し、最も優秀である筈の日本の生徒・児童のなかで「ある」と答えるのは56%だけ。世界各国と比較して、最も自己肯定感が低いグループに属している。

さらに切実だと私が思うのは、「自分はダメな人間だ」と考える生徒・児童の割合が世界で最も高い点だ。中国や韓国やアメリカではその割合が日本を大きく下回っている。大変切実な問題だと思う。

今後、学校教育ではいわゆる「アクティブ・ラーニング」の視点に立った学習が重視される。現在の小学生が就職する頃は、彼らの65%が今はまだ存在しない職業に就くだろうと言われている。そうした非常に激しい社会変化のなかでは、洞察力を持って主体的に考え、他者とコミュニケーションをとりながら協働して物事を進める能力が不可欠になる。それを養うのが「アクティブ・ラーニング」の目的だ。でも、現在のように自己肯定感が低く、「自分はダメな人間だから」と思ってしまう状況では、「アクティブ・ラーニング」やグローバル対応を進めるのも難しい。

もちろん学校教育だけですぐに変わるわけではないし、日本の社会や歴史的背景にも大きな原因があるのかもしれない。ただ、いずれにせよ自己肯定感というテーマについては基本的な問題として取り組んでいかなければいけないと考えている。

日本は真の学歴社会になっていない

そして、3つ目の課題は「高等教育改革」。日本は真の学歴社会になっていない。「学歴社会だ」という批判はよく聞く。でも、よく分析してみると、どこの学部や学科で何を学んできたかは日本企業でほとんど評価されないし、マスターやドクターの肩書にもそれほど高い評価が与えられていない。だから日本ではリカレント教育・社会人再教育が盛んではない。海外の大学院では社会人経験者が相当な割合を占めるけれども、日本ではそのような状況になっていないわけだ。

これは企業による評価の問題だけではない。さまざまな社会的ニーズに答える実践的教育が大学側でなされてこなかったことにも原因があると思う。また、大学の閉じた環境のなかで産学連携も十分に進んでいない。恐らく、投資額では欧米の数十分の一といった状況だと思う。理由として、「日本の大学は結果・解決策にコミットしないから資本投下ができない」といったお話を企業からは聞く。これも高等教育の大きな課題だ。

教育とは未来に向けた最大の投資であり、最大の社会政策であり、最も効率が高い経済政策だと考えている。

※この記事は、2016年11月3日にグロービス経営大学院 東京校で行われた、G1経営者会議2016 第7部全体会「テクノベートがもたらす新たなパラダイム ~日本企業の競争優位の構築に向けて~」を元に編集しました
※本セッションの内容は、GLOBIS知見録「視る」で動画版をご覧いただくことができます
テクノベートがもたらす新たな「教育」のパラダイム ~松野文部科学大臣×藤原和博氏×北野宏明氏

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