続「逃げ恥」論: 恋愛における「告白コスト」の重さ 

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前回に続き、「逃げるは恥だが役に立つ」という人気ドラマを題材に、今回は恋人を作らない独身男女が増えている理由について考えてみる。

「逃げるは恥だが役に立つ」(以下、逃げ恥)は、36歳の津崎平匡と25歳の森山みくりの恋愛を軸に構成されたドラマである。当初は契約結婚という形態(みくりが住み込みで家事サービスを請け負う)だったが、二人は互いに恋心を抱くようになる。しかし、恋愛関係はなかなか進展しない。このじれったさが、人気の理由でもある。

このドラマの設定は、一昔前ならありふれていた「恋愛結婚」が難しいという世相を反映している。近年、独身で恋人がいない男女が増えているという。今年発表された国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、異性の交際相手がいない人の割合は、男性69.8パーセント、女性59.1パーセントと、いずれも過去最高である。

「逃げ恥」の主要登場人物4人のうち、アラフォーに差し掛かっている津崎平匡(京大卒のシステムエンジニア)とアラフィフの土屋百合(みくりの叔母でキャリアウーマン)の2人は、比較的恵まれた属性にもかかわらず、異性との交際経験ゼロの独身である。

恋愛に積極的になれない構図

恋愛に積極的になれないのは、男女ともに恋愛で得られるベネフィットが、恋愛にかかるコストを上回らないと計算しているからである。※ここでは「恋愛=恋人を作る」と定義する。

恋人がいる独身男女が減ったということは、恋愛のベネフィットが減ったか、コストが上がったか、あるいはその両方である。

ちなみに、独身で恋人がいない人に「恋人を作らない理由」を聞くと、「面倒くさいから」という人が多いらしい(特に男性)。面倒くさいというのは、様々な手間や面倒が嫌だということである。どちらかというと、コストを問題としている。もちろん、娯楽の手段が増えたなどの理由で「恋愛で得られるベネフィット」が減っているから、恋人なんて要らないという人もいるだろう。

恋愛のコスト構造

恋愛のベネフィットが激減している可能性があるのを承知で、今回は「恋愛コストの高さ」に絞って話を進めていくことにする。恋愛コストの内訳は、こんな感じだろうか。

私が注目するのは、「告白関連コスト」である。先の国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、恋人がいない独身男女の半数以上は恋人を欲しがっている。少なくともこの人たちは、「恋愛のベネフィット>交際関連コスト」の計算をしているはずである。仮にそうであれば、恋愛のネックは出会いの機会が無いか、「告白関連コストの高さ」になる。

データ出所:国立社会保障・人口問題研究所 第15回出生動向基本調査

 

 

 

 

 

私が「告白関連コスト」に注目するもう一つの理由は、逃げ恥の平匡の態度である。彼は自分から決して告白しない。平匡はみくりの「告白」によって相手も恋愛感情を持っているのを確認してから、恋愛に対して積極的になっていく。つまり、恋愛に対する熱意や興味が無かったというより、告白のコストが高いために、恋愛への興味を封印していたように思える。

仮に「告白関連コスト」が高くなっていたとしたら、それはいつ頃からだろうか。また、世代や性別によって違うのだろうか。

恋愛における告白行為の変化

男女の恋愛告白をテーマにしたテレビ番組を取り上げ、「告白」の変遷を追いかけてみよう。

(1) ラブアタック(1975~84)
一般公募から選ばれた女性「かぐや姫」との交際を巡り、5人の男性が様々なゲームにチャレンジし、残された3人が「告白する権利」を勝ち取るというものである。かぐや姫は一方的に与えられた3人のうちから誰かを選ばねばならない(もちろん、断ることも可能)。

(2) ねるとん紅鯨団(1987~1994)
一般の男女30人程度で、集団でお見合いのようなことをする。制限時間後に「告白タイム」となり、男性が自分の意中の女性に告白する。このルールの問題点は、女性には「男性に告白する権利が無い」ということである。

(3) あいのり(1999~2009)
男性4人と女性3人がワゴン車で世界中を旅し、意中の異性に告白してカップルが成立すれば2人で帰国できる。旅という非日常空間を共有することで恋愛が生まれやすく、男女の数が微妙に不均衡なことで、男性側に競争が発生する設定になっている。先の2つが「短期決戦」だったのに対し、あいのり以降は「長期決戦」に変化する。また、男性から告白するという構図も、徐々に崩れていく。

(4) テラスハウス(2012~2014)
あいのりとの主な違いは、男女の人数が3人対3人で同数になっていること、旅のような非日常空間ではなく、シェアハウスという日常空間であることである。

時代の変遷と共に、「告白するまでに要する時間の増大」と、「告白における性役割の変化」が起きていることが分かる。昭和時代は「男性から女性に告白し、女性はそれを待つ」というのが常識だった。そして、女性もそれを当然だと考える傾向があった。

イケメンという言葉と、草食系男子の登場

恋愛における「1次選択」の権利が男女平等になり、男性は2000年代にその特権を失った。そして、選ぶ側の意識を持った女性は、これまで以上に男性を「比較」し、「評価」するようになっていった。2000年ごろから使われ始めた「イケメン」という言葉にそれが表れている。また、恋愛バラエティだけでなく、ドラマやアニメでも強い女性が登場するようになった。例えば、98年から放送されたテレビドラマ「ショムニ」である。江角マキコ演じるOLの坪井千夏は、庶務二課の実質的なボスとして、男性の下僕を従えて女王のように振る舞う。95年にテレビ放映を開始した人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」でも強い女性が活躍している。

女性が強くなり、男性が特権を失ったのと同時に、ちょうどこの頃から恋愛に対して消極的な人が増えてきた。津崎平匡もその1人である。そうした男性に対して、2008年頃から「草食系男子」(恋愛機会はあるのだが、恋愛に消極的)という言葉が使われるようになる。

草食系男子は恋愛に消極的だが、恋愛感情が無いわけではない。女性に「比較」され、「評価」されることから距離を置く一方で、女性のことは「比較」して、「評価」したいと思っている。男性が失った特権にしがみついていると言えなくもない。

その象徴がAKB48の「AKB総選挙」である。AKB総選挙は女性だけが一方的に選挙で選ばれる。AKBのメンバーたちはファンから選ばれるために懸命なアピールをするが、男性は「選ぶ」ことだけに集中していればいい。AKBを熱心に応援するファンの草食系男子は、「選ばれたくないが、選びたい」のである。

しかし、彼らは恋愛の「告白」になるとAKB総選挙のように積極的になれない。それは「面倒くさい」からである。その理由のひとつに、「告白関連コスト」の上昇がある。

「告白関連コスト」の上昇のメカニズム

1次選択権の男女平等によって、「選ぶ側」という特権を失った男性は、「当たって砕けろ」という姿勢から、「自分は相手に選ばれるだろうか」と気を揉むようになった。そうなると相手を慎重に選ぶようになり、告白に至るまでに必要な期間も長くなる。期間が長くなれば、これまでにかけた労力や築いた関係性を失いたくないので、徐々に告白するのが面倒になってくる。

このように、「告白するまでに要する時間の増大」と「告白における性役割の変化」は同時に起きている。こうして男子の「告白関連コスト」が上昇した。アイドルなどの女性好きの草食系男子は、恋愛意欲が無いのではなく、合理的に草食系であることを選択している。

「告白関連コスト」が高くなったのは女性も同じだ。男性がなかなか告白しないと、女性にとって「相手の告白を促す」ためのコスト(バレンタインデーのチョコとか、手料理をふるまう等)は上昇する。また、時には「自ら相手に告白する」という追加コストを支払わねばならない。みくりは平匡が全く恋愛に対して動かないので、自ら好意を口にするしかなかった。

逃げ恥の「歳の差カップル」で年下がリードしている理由

「告白」に関する時代の変化は、ドラマの恋愛模様にも影響している。

主要な登場人物のうち恋愛に絡むのは4人だが、この4人は「歳の差カップル」である。主人公のみくりと平匡の年齢差は、10歳、土屋百合(みくりの叔母でキャリアウーマン)と風間涼太に至っては親子ほども離れている。さらに、両カップルのうち年長の2人は独身主義者で恋愛経験すら乏しい。歳の差恋愛の場合、恋愛経験豊富な年上とウブな年下という組み合わせが普通であるが、このドラマは逆である。これは奇妙だ。

この奇妙な設定の背後には、恋愛の「1次選択権」の変化がある。

男女雇用機会均等法第1世代の百合は、エリート会社員として自力でキャリアを切り開いてきた。だから、男性が一方的に「女性を選ぶ権利を持っている」と勘違いしているのが許せない。彼女の担当する化粧品ブランドのコピーは「自由に生きる。美しくなる。」である。男性に媚びるような広告を許可した本部長に抗議するなど、このコピーに対する思い入れが強い。そんな彼女は典型的な昭和の男はもちろんのこと、「相手を選ぶ自由度が高い」と思い上がっているイケメンが嫌いである。しかし、風見はイケメンなのにそうした意識が無く、百合にとって嫌な男ではない。だから恋愛が成立する。

アラフォーに近い平匡は「特権を奪われた世代」であり、どのように恋愛を始めたらいいか戸惑っている。そこに、男性に対して「女性は待つのが当然」と思っていない20代のみくりの素直な態度によって、彼の告白コストが下がっていく。まさに、絶妙な組み合わせである。

「歳の差恋愛」なのに年下がリードするという奇妙な設定が多くの世代の支持を受けている理由は、50代から20代までの恋愛観のズレが、見事に噛み合っているからだろう。

最後に:告白関連コストを下げるには

では、高くなってしまった「告白関連コスト」を下げるにはどうすればいいのか。

残念ながら、アラフォーで「ねるとん世代」の私には気の利いた処方箋を示すことができない。こればかりは、逃げずに「恥をかく」しかないのだ。続けていけば、いつか役に立つだろう。

 

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