海外で仕事をしていると、「相手に伝わらない」「相手が理解してくれない」という思いに駆られる場面に多く遭遇します。仕事をする上で、自分の意志・アイデアが伝わらなかったら何も前に進みません。なんとかしようと、異文化への理解を深め、コミュニケーションスキルや語学力を身につけようと必死になっている駐在員も多いことでしょう。しかし、それにも関わらず一向に効果が出ないのはなぜでしょうか?
実は我々日本人が悩む「異文化コミュニケーション」の多くは、コミュニケーションの質にあるのではなく、コミュニケーションの「量」にあることが多いように感じています。先日、日立金属タイランドの元工場長・岸大輔氏に伺った話が非常にわかりやすかったので、それを元に解説しましょう。
現地語で完璧にコミュニケーションできるほどの語学力がある人はさておき、通常日本人が海外で仕事をする際には、英語でコミュニケーションすることになります。相当の語学力がない限り日本語と同じような勝手では会話できません。おそらく、日本語を使っているときに比べ、その6割が伝えられていたら良いほうです。
一方、聞く側も英語を第2言語として使っている人が多いはずです。我々が英語で何かを言われても100%理解できないのと同じように、第2言語で英語を話すその相手側も、理解度はおそらく6割から7割になるでしょう。
日本人だけの組織で、日本語でコミュニケーションするときは、言いたいことが100%伝えられ、また相手もその日本語を100%理解してくれます。しかし海外では、自分自身も6割くらいしか伝えられず、相手も6割ほどしか理解してくれない現象が起こります。自分自身は100%伝えたと思っていても、結局は60%×60%=36%しか伝わっていないわけです。
ここに「伝わらない」「理解されない」と感じる一因があります。日本国内で日本人とコミュニケーションしていた時と同じコミュニケーション量では、言語の問題で36%しか伝わらないのですから、伝えたいことがあったら日本語で日本人スタッフとコミュニケーションする3倍の量のコミュニケーションが必要なのです。
グローバル環境下で「伝わらない」「理解されない」と感じるとき、自分自身の話す量をチェックしてみてください。日本語で話すときの3倍の量を話しているかどうかを確認すると、多くの人は3倍どころか3割くらいしか話していない自分に気が付くでしょう。コミュニケーションを四六時中英語で行うのは、とても根気のいることです。言いたいことがうまく伝えられないストレスを感じることもありますし、時間もかかります。面倒くさいと感じてしまい、日本人スタッフに日本語で話しかける量に比べ、話しかける量は圧倒的に減ってしまうのが通常です。
まずは、「コミュニケーションの量を3倍」にしてみるところから始めてみる。シンプルなことですが、簡単に始められることですから、ぜひ取り入れていただきたいと思います。
【参考リンク】
グロービス アジアパシフィック/グロービス タイランド
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