離職率ゼロ!日立金属タイランドに学ぶ現地化のヒント 

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タイの多くの外資系企業では、従業員の離職率が非常に高い。業界によっては3年で全ての従業員が入れ替わってしまうこともあり、優秀な人材の定着に苦労している企業が多いのが現状だ。日立金属タイランドは、そのタイで、日立金属の100%子会社としてエレクトロニクスや自動車関連製品の製造・販売を行っている。従業員の離職率は0%、自分の子供も働かせたい会社として称賛され、現地の人々に受け入れられていることで有名だ。しかし、日立金属タイランドも最初からこのような理想的な組織を実現できたわけではない。岸工場長へのインタビューを通じて、会社のビジョンである “To be an Excellent Company”を実現するために、同社がどのような努力をして、生まれ変わったのかを探り、そこから企業が現地化をする上でのヒントを得て行きたい。

改革に着手し始めた2002年頃は、収益的に厳しく、組織的にも疲弊していたと聞くが、まず何から手を打ったのか?

■タイ人スタッフが日本人駐在員を任命、タイ人スタッフと一緒に戦える環境作りを行った 

岸大輔氏(4月より日立金属株式会社 技術開発本部技術センター所属)

当時、会社の状況は待ったなし。本気で会社を変えるために必要な体制を作った。まずは、日本人駐在の数を激減させた。正確には、駐在員の内、会社作りを行う「経営人材」と、様々な技術移転のための「スペシャリティ人材」とに分けて、「経営人材のみを駐在員」とし、本気で会社を立て直せる人材だけを残した。日本人駐在員の役割の明確化だ。これにより「どういう会社にして行くのか?」という話題にフォーカスできる環境を作った。強い問題意識を持った当時の中西工場長(現・日立金属本社技術開発本部 主幹技師)を中心に会社改革が始まった。「未来永劫、脈々とアユタヤの地で永続していく会社をつくる。そのためには、競争力の源泉である人材の質の強化しかない」という信念の下、数々の施策を実施したのだった。

駐在員の役割の明確化に伴い、新たに「日本人駐在員の選定ルール」を設けた。そのルールとは、日立金属タイランドに赴任する駐在員は、事前にタイに出張をして現地のタイ人にも適性を評価してもらうのだ。ちなみに、ダメ日本人駐在員の特徴は、(1)自分のコストを理解していない(ローカルマネジャーの10倍のコストがかかることへの意識の欠如)、(2)ローカルを信用できないと言って日本人だけで決めてしまう、(3)目的(夢)の共有ができないまま枝葉の指示をする、といった点だ。タイ人から評判の悪い出張者の再渡航は拒否した。まずは、日本人から襟を正したのだ。

次に、会社の「収益状況を全てオープン」にした。厳しい経営をするには、数字をオープンにすることが必須と考えた。日本人駐在の給与等コストも含めて全ての財務情報をオープンにしたのだ。タイ人スタッフから見ると、日本人はいい家に住んで、いい車に乗って、週末はゴルフして、我々は搾取されているといった思いがあっただろう。こうした関係から変えていく必要があったのだ。そのため、積極的に収益を開示し、収益の見方をタイ人社員に教育した。

実際に、収益状況をオープンにした際のタイ人マネジャー陣の反応は、極めてまっとうなものだった。透明性を高めたことによって、全社意識が芽生え、部門間の連携意識も育まれた。そうすると、タイ人同士で、売り上げが落ちた部署からは人を動かそう、自部門から出した人は、状況が改善したら戻してね、といったコミュニケーションが始まった。さらに、従来のバリューチェーンで区切った部門別組織から「一貫して収益責任を持つ」 プロダクト・マネジャー制に組織体制を変更し、そのキーポジションにタイ人をアサインした。

収益情報までオープンにすると、タイ人マネジャーは日本人駐在員を次第に信頼するようになり、真のパートナーシップが生まれた。一緒に、「夢」を語り、「信頼」を育み、「やりがい」を共有したのだ。 日本人駐在員の給与の開示には、リスクも伴ったが、これがターニングポイントとなった。

現地のスタッフを巻き込んでいく中で、どうモラルを高めていったのか?

■給与のインセンティブと心のインセンティブを導入
「頑張った者は報われる」をスローガンに、成果に対する報奨制度を整えていった。ここでのポイントは、「お金のインセンティブ」に加えて、名誉や認知を重んじる「心のインセンティブ」を重視したことだ。いくらお金のインセンティブを充実させても、競合が高い給与をオファーすればすぐにそのインセンティブはなくなる。従い、「心のインセンティブ」を加えて行かないと変革は加速しない。

「お金のインセンティブ」では、かつての一律の給与アップから、賃上げの原資の25%を若年層の賃上げに回し、残りの75%の原資をインセンティブに回した。評価は査定基準を明確にし、査定結果を各職場に掲示した。最優秀者は、食堂の掲示板に本人の写真が掲載されるようにし、会社指定のカラーシャツを着用することにした。そうすると、社長や幹部からよく頑張ったねと声をかけられて、「心のインセンティブ」となる。

その後、給与水準が上がって相対的にお金のインセンティブのインパクトが下がってきた際に、インセンティブの見直しが必要では?という意見が出たが、教育制度など「心のインセンティブ」の工夫によって従業員のモチベーションの向上を一層図る方法を選択した。事業や組織の発展段階において、何のインセンティブにフォーカスするかは大事な視点だ。

現地化を促進する中で従業員の能力アップについて何に着目すべきか?

■資質の差ではなく、習慣の差に着目する
習慣化」の度合いが、経営や仕事の品質を決めると思っている。その習慣化を促進するキーワードは、「感性」だ。そして、感性を高めるのは、「気付く力」をつけることだと考える。

習慣が人に与える影響は大きい。四季のないタイと、春夏秋冬が毎年めぐる日本では、人々の感性や習慣は大きく異なる。この習慣の差の理解をすることはとても大事だ。一年を通して同じ天気がずっと続いていれば、物事への備えが甘くなるのは当然だろう。日本のように暑くなったり、寒くなったり、風が吹いたり、台風や地震が来たりとコロコロ天候が変わる中で生きて来た人は、常に変化に前もって準備をする習慣が自然に身に着く。能力があるからではなく、環境変化への感性が違うのだ。タイにやって来る日本人駐在員は、自分たちが習慣として自然にやっていることが、他の人にとってはどれだけ難しいことなのかが理解できないことが多い。「習慣ギャップ」を理解できるかどうかが、現地化を推進するリーダーにとって非常に大事な能力だ。そして、習慣を変える方法論を知っておく必要がある。

一番効果がある習慣化の方法論は、会社を「綺麗に」することだ。ただ見かけを綺麗にという働きかけでは感性に響く力は弱いと考えており、「機能美」=整理・整頓・清掃にこだわっている。つまり、不要なモノを捨てて、身の回りを今必要なモノだけに機能美で維持できれば、全ての仕事のパフォーマンス(質)が高まるという考え方だ。日立金属タイランドでは、オフィスの廊下の明かりをとても明るいものにしている。経費節減と言って明かりを落とすと、廊下が汚れていても目立たない。それでは感性が育たない。常日頃から明るく綺麗に整理・整頓されていれば、汚れたり、何かかが違うとすぐに気付く。気づきによって感性が高まり、習慣化していくのだ。

一方で、習慣化のプロセスは長期戦略だ。日立金属タイランドの第一世代の社員の教育が進み、彼らの習慣が変わると、その習慣が変わった第一世代に育てられた子供たち、即ち、第二世代の社員はだいぶ様子が変わってくる。さらに、日本にも行ってもらい日本の現場を体験する。日常生活から挨拶や規律などを学んでもらう。ここまで来ると、タイが日本がという議論はなくなって、「いいモノ」はやろうという空気が生まれるのだ。現地化を促進するには、このぐらいの覚悟と時間軸を持って対応する必要があると考える。2002年から始めて約15年。「習慣化」と「インセンティブによる仕組化」が、現地化においての成功条件とまでは言わないが、これがないと絶対にうまくは行かないという必要条件だと考える

海外で活躍したいと考えているビジネスパーソンにメッセージを

■コミュニケーションと仕事以外での関係作り
現在、そしてこれからは、外国人と一緒に如何に働いて行けるかに企業の価値向上はかかっている。その際に、アジアの多くの国では互いに第二言語の英語でコミュニケーションするが、言いたいことの約60%が言えて、言われたことの60%が理解できればいい方。つまり、言ったことのせいぜい36%しか伝わっていないということだ。ならば、日本語でやった場合の3倍の努力が必要ということだ。同じことでも3回言ってやっと伝わる計算だ。しかし、多くの日本人駐在員を見ているとそこまで伝える努力をしておらず、むしろ、日本人に対するよりもコミュニケーションが少ない。これでは伝わらない。昼間の時間は常にスタッフとのコミュニケーションの時間にあてて、自分の仕事は夜に回す覚悟が必要だ。

また、コミュニケーションに関連して、仕事以外での関係作りがあると、仕事での誤解も起こりにくい。同じ趣味や話題があれば、接点作りのチャンスだし、冠婚葬祭には必ず出席して人となりをお互いに理解することは重要だ。そうすると、「仕事で何か誤解が生じるようなことが起きても、岸さんはそんな人じゃないはず…」と誤解を解く意識を持ってくれるのだ。これもコミュニケーションの量がとても大事になってくる。

私は人の資質は同じだと思っている。よく言われる文化の違いも、掘り下げると「習慣の違い」や「感性の違い」に行きつく。この違いはお互いの努力と訓練で乗り越えられるはずだ。うまく行かないというのは、先入観や偏見から来ていることが多い。この点を意識すれば、世界のどこに行っても通用すると思う。

【ポイント】
・まず隗より始めよ! 日本人駐在がどれだけ襟を正せるか
・現地化のプロセスにおいて、能力の差に着目するのではなく、習慣の差と捉えることが鍵
・コミュニケーションの量が圧倒的に足りていないことを肝に銘じるべき

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