秋好陽介×伊藤羊一(2)諦めずに打席に立ち続ける 

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リーダーシップの出現メカニズムを解き明かす本連載、前回は、日本初のクラウドソーシングサービス「Lancers」を運営する秋好陽介さんに、起業にいたった経緯を伺いました。今回は、起業後の難所とそれをどう乗り越えたか、教えていただきました。

<プロフィール>
ランサーズ株式会社代表取締役社長CEO 秋好陽介
1981年大阪府生まれ。大学在学中にWeb制作の受託を始め、インターネットビジネスに目覚める。2005年、ニフティ株式会社に入社。インターネットサービスの企画・開発に携わる。仕事の受託者・発注者、両方の立場を経験したことから、仕事を依頼したい企業と仕事を受けたい個人をオンライン上でマッチングするウェブサービスを思い立ち、2008年4月に株式会社リート(現・ランサーズ株式会社)を創業。12月、日本初のクラウドソーシングサービス「Lancers」の提供を開始する。


社員50人のカベに直面

伊藤: 2011年以降は事業が順調に回り始めたわけですね。

秋好: はい。そこから悩みはサービスから人に変わっていきました。社員が急激に増えたことが原因です。社員数は11年の時点では10人くらいだったのが、12年は15人、13年に20~30人、14年が50人~100人。今は150人ぐらいの社員がいます。

伊藤:すごい増え方ですね。人の悩みとは具体的にどんなことですか。

秋好: 最初は社員が50人ぐらいになったときです。採用すればするほど、むしろ人が辞めていきました。社員の数が少ないときは、お互いの距離が近かった。みんなが、僕が何をしているか、今日何を食べたかも知っていたし、経営が見えているというか、自分ごとにできる状態だったと思います。

大人数になるにつれ、話すのは週に1回とかコミュニケーション量が以前に比べ圧倒的に減っていく。コミュニケーションの量が10分の1程度に減ったなら、その分、10倍濃く伝えてやっと同じ。にもかかわらず、僕は前と同じ伝え方をしていた。伝えているつもりが伝わっていなくて、社内の雰囲気はあまりよくなかったですね。

伊藤:それで何か変えたのですか。

秋好: まず自分自身の認識を変えました。当たり前ですが、社員は50人まで増えていること、コミュニケーション量は以前の10分の1しかないということを意識するだけでも、コミュニケーションは変わります。間接的なコミュニケーションでもちゃんと伝わるように工夫して話すとか。

とはいえ、密なコミュニケーションは欠かせないので、コミュニケーションの量を確保するために、全社会を始めたり、ワン・オン・ワン・ミーティングの回数を増やしたりもしました。

もう1つ、部長など役職者の選び方を変えました。それまでは能力重視で決めていましたが、今は僕の考えや想いをきちんと翻訳して社員に伝えてくれる分身が必要なので、スキルというよりマインドを優先しています。それで少し社内が安定しました。

行動指針を作って徹底的に価値観を合わせる

秋好: 30人、50人のカベは何とか突破したものの、社員が100人くらいになると、また新たな課題が出てきましたね。営業は営業、開発は開発と、チームごとに分断していくというか。会社の中の空気がランサーズっぽくなくなってしまった。先輩経営者から社員100人のカベがあると話には聞いていましたが、実際にそうなってみて初めて分かる。頭で理解しているのと、実際に味わうのとではまるで違いました。

そこで3カ月かけて、社員全員と1対1で話しました。現場は何を思っているのかを知りたくて。聞いてみたら、いろいろ出てくる。例えば、役員によって言うことが違うとか、会社の方針と僕のやっていることは合っているのか、とか。すると何かが立体的に見えてきた。僕が変だなと思った空気は、具体的にこういうことだったのかと感じました。

社員の生の声を聞いて「これはまずい」と思い、ランサーズの価値観を固めようと社員を巻き込み、行動指針をつくることにしました。3カ月間、毎週2時間、有志で集まり、ランサーズの社員としてのあるべき姿など議論を重ねました。ゲストを招いて一緒に考えてもらったり、過去のオフィスをツアーで回ったりもしましたね。そして、今の「Lancers way」ができました。さらに浸透を図るために奄美大島で全員合宿を開きました。

<Lancers way ランサーズ人としての行動指針>

【ランサー第1主義】 ランサーへの価値提供を第一に考える
【ポジティブ思考】前向きに考え、発言し、行動する。批判より提案を
【チャレンジ】迷ったらまずやってみよう。思想より行動を
【やり切る】自由に思考し責任をもってやり切る「自律集団」
【自分ごと化】圧倒的な当事者意識をもつプロ集団
【チームランサーズ】お互いを信頼しリスペクトする仲間。グループではなくチーム
【誠実】社会に対してフェアに真摯に向き合う。家族に誇れる行動を

伊藤: Lancers wayで一番大事にしたことは何ですか。

秋好: 役員やマネジャーがコミットせず、秋好が勝手に言っている絵空事にしないことです。だから価値観を合わせることを大事にしましたね。上に立つ人間が同じことを言わないと一枚岩にはなれませんから。

例えば「ポジティブ思考」であれば、「この言葉の意味は、単に前向きになるということではなくて、事が起こったときに考えるのをやめずに、できる方法を考え抜くことだよね」と僕が話す。すると、役員が「そう言いながら、この過去の案件はポジティブ思考じゃない」と指摘してくる。そこでもう一度、対話をしながらすり合わせていきました。

伊藤: 秋好さんは普段どういうマネジメントスタイルなのですか。

秋好: 僕は『北風と太陽』の太陽方式ですね。基本的にはメンバーに任せて、先のことだけ語り続ける。今の仕事は、僕にしかできない部分、採用や広報、新規事業の立ち上げがメインです。あとは役員4人のモチベーションを上げ続ける。ちょっと高いボールを投げ続けるというか、わくわくさせるというか、それに終始しています。でもオーナーが投げるボールってキツいらしいですね。

伊藤: それはキツいに決まっていますよ。

秋好: 最近、それを自覚しています。だからといって、みんなに気を使ってスピードを緩めるのはおかしい。時速100キロで走れるのに100キロで走らないで、社員に遠慮して時速20キロに落とすのはユーザーに失礼なので、そこは譲らないですかね。

ランサーズが描く新しい世界

伊藤: ランサーズの今後についてはどんなふうに考えていますか。

秋好: こういう人と仕事をしたいとか、働きたいという人と自動的にマッチングするプラットフォームをつくりたいんですよね。そのためには究極の人のデータベースが必要で、それを一番やりやすいのがオンライン。オープンでタレントの情報が掲載されているプラットフォームを構築して、その結果、個人には自分らしく働ける世界を、企業側には適切な人に適切にマッチングするというサービスを提供したいですね。

伊藤: そうなるとワークスタイルの提案になってきますね。一部の人たちだけじゃなく、新しいワークスタイルが日本全国に広がる。

秋好: 僕は大学生のとき、ホームページ作成スキルだけはちょっとあって、時間は無限にあって、インターネットという手段があったから仕事にできた。誰でもきっと何か得意な領域があると思うので、それを使って仕事ができる世界をつくりたいんです。

僕の夢は、海外旅行先のバーで隣り合わせた外国人に「何をしているの」と聞いたら、「ランサーズというのがあって、それで働いている」と言ってもらうこと。そうなったら一番うれしいですね。

諦めない仕組み

伊藤: これまでの経験を通して得た一番の教訓は何ですか。

秋好: 諦めないことですね。起業仲間で、今はもう事業をやめてしまった人が結構います。やめた原因は、借金が増えたからでも、事業がうまくいかないからでもなく、諦めてしまったから。例えば借金があっても、社長にその気があれば誰かから金を借りられるし、銀行も貸してくれる。大事なのは、バッターボックスに立ち続けることです。そうすれば、例え相手がプロの投手でもいつかヒットが打てるかもしれない。でも1回か2回、打席に立ったぐらいじゃたぶんヒットは打てませんよね。

僕の場合、手掛けている事業が自分自身の原体験に沿っているので、ちょっとのことじゃ諦めない。本当にやりたいことだから。あとは一緒にわくわくしてくれる仲間がいたことが大きいですね。

諦めないことって、口でいうほど簡単じゃない。だから諦めない仕組みをつくることが大事だと思います。僕だって、もういいやと思うことが個別事象ではいっぱいあって……、今なら頭2つ分はありますよ。でも僕の才能なのか、周りの経営者を見ていてもそうですけど、みんな物忘れが激しい(笑)。嫌なことを全部覚えていたらたぶんストレスで倒れていると思うけど、都合よく忘れられるのでやっていける。忘れるのは大事だと思いますね。あとはテンションを上げる仕掛けを用意しています。

伊藤: テンションを上げる仕掛け?

秋好: 人と会うことです。どうしても内向きになりがちなので、筋肉をストレッチしてもらう感覚でしょうか。先日もある経営者の方にお会いして、ぐっとモチベーションが上がりました。僕は、ポートフォリオにした人と会っています。3年先、5年先にこうなっていたいという経営者、大先輩を3人ぐらいピックアップして、何とかお願いして時間をつくってもらっています。

伊藤:そうやって諦めずに事業を続けてきたわけですね。

秋好: そうですね。運もよかったんでしょう。創業したばかりの頃、事業がなかなか軌道に乗らず、銀行口座にあと30万円しかないとなったときに、奇跡的にV字回復したんですよ。僕は不思議と運がいい。たまたま日本で最初にこのサービスを立ち上げられたり、苦しいときにヤフーに取り上げてもらったり。ただ僕が思うに、本当に運がいいわけじゃなくて、たぶん自分自身でそういう課題設定をしているから、目の前にチャンスを拾えているんだと思います。

伊藤: チャンスを逃さず、きゅっとつかむための課題設定なり、感度なりを持ち続けているかことが重要なのかもしれませんね。

インタビュー後記

秋好さんは人と壁を作らない気さくな人柄で、一緒にいるだけで周囲を明るくさせる方です。とはいえ、それまでになかったクラウドソーシングという業態で起業され、事業を拡大させてきた過程でのご苦労は相当なものであったはずで、その経験と、お持ちの明るい雰囲気とのギャップはどんなものだろう、と思いながら、この対談を楽しみにしていました。

お話を伺ってみると、ご多分にもれず、本当にそれぞれの局面で、色んなご苦労をされていらっしゃる。でも、決して悲壮感がなく、笑顔を絶やさず、「いや~大変でしたよ~」と、本当にそれはつらいだろうなぁ、という話を語り続けるのですね。

その表情をずっと追い続けながら、リーダーには、大きな志と自分を信じる気持ち、そしてポジティブさが必要なんだな、と改めて感じていました。

仕事の需給のミスマッチを解消して、発注する企業サイドにとっても、ランサーにとっても、お互いハッピーな状況を作り出したい、という志、売上が思ったように上がらなくても自分の志を信じ続ける気持ちの強さ。そして課題が次々に起きても、なんとかなるさ、と立ち向かうポジティブさ。

そういったマインドをベースに実行し、うまくいったことやうまくいかなかったことを振り返り気づき、そしてまた実行し、振り返り、ということをくりかえしていくうちに、いつしか、今の秋好さんが形作られてきた、そんな印象を持ちました。

しかしある意味、これはリーダーとして、当然のように必要な要素ではあるし、成長するうえで当たり前のプロセスとも言えます。ということは、秋好さんの真の素晴らしさは、当たり前のことを当たり前にできること、そういった要素なりプロセスなりを、当たり前のように真正面から取り組む、そんな素直さ、謙虚さなんだろうな、と感じました。

リーダーは、素直に、謙虚に、ことに立ち向かうことが重要。大きな学びを頂きました。ありがとうございました。
 

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