ダイバーシティの推進は粘土層をどう動かすかが肝 

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本記事は、「ヒューマンキャピタル 2016」で開催された、日本CHO協会提供のオープンフォーラム、「多様な人材を活かす真のダイバーシティ実現に向けて」の内容を書き起こしたものです。(全2回)

林恭子氏(以下、敬称略): 本会場にお集まりの皆さまは、企業におけるダイバーシティや人事および人材マネジメントのあり方について高い関心をお持ちだと思う。そこで日々ご苦労をなさっていることもあり、大きな問題意識をお持ちではないだろうか。私自身、皆さまと同じ課題意識を持って本セッションに参加させていただいている立場だ。そこで、今日はテーマにあるような領域で先進的取り組みをなさっている企業の御三方にお話を伺って、皆さまとご一緒に学んでいきたい。

まず、お話を伺う前に会場の皆さまと課題認識を共有したい。実は私、2年前の2014年6月もこの壇上にいた(笑)。で、そのときも「ダイバーシティマネジメント」といったテーマで議論を行っている。では、日本におけるダイバーシティや、始めの一歩と言える女性活躍推進にまつわる当時の状況がどんなものだったかというと、2013年頃から、「どうも国は本気で女性の活躍推進をやると言っているらしい」という状況だった。それで経済同友会の発案もあって「2020年までに女性の管理職比率を30%に引き上げよう」という話が盛りあがってきていた。

ただ、当時は皆、「2020年までに女性管理職比率を30%にするなんて、本気なの?」と。目標を掲げてはいるけれど、本当にやっていくかどうかについては、どこか半信半疑の思いがあったように思う。しかし、この2年間で政府も次々とメッセージを発してきたし、今年から女性活躍推進法も施行される。そうした環境下、各企業のほうも本気で取り組み、見える化して結果にコミットしなければいけない。今はそうした状況になっている。とにかく、なぜダイバーシティを推進しなければいけないのかといった部分の認識は、ここ2年でだいぶ広まってきたと思う。

さはさりながら、今日もこうしたダイバーシティ関連セッションにこれほど多くの方々がお集まりになるということは、やはり皆さま、まだまだ課題意識をお持ちだし、難しさをお感じになっているのかなと、強く感じる。だからこそ日本CHO協会(以下、CHO協会)様のほうもダイバーシティに関する研究会を設けているわけで、「まだまだやっていかなければいけない」というご認識なのだと思う。

そういうこともあり、今年4月にはダイバーシティ推進に関するCHO協会様のアンケートが会員企業様に届いたと思う。お手元の資料集にあるリーフレットにその結果が紹介されている。まず、「御社におけるダイバーシティ推進の主要テーマはなんですか?」という質問に対する回答はどうか。全168社におよぶ会員企業様の人事およびダイバーシティ担当者の方によるご回答ということで、分母は168。そのなかで160社近く、つまり90%以上の企業様が、「女性の活躍推進」とお答えになっている。

これは、その次に多かった「障害者雇用の推進」(約53%の企業が回答)を大きく引き離している。ということで、当然、ダイバーシティ推進は女性の活躍推進だけではないし、その他にもさまざまな多様性を企業に採り込んでいくことが必要だが、まだまだ多くの企業様では女性の活躍推進がメインテーマなのだと思う。国籍も言語も教育水準も一緒ということが多い環境のなか、性別だけが違う状態で、まだそれすら乗り越えることができていないのが現実なのだと思う。だからこそ、そこをメインテーマに掲げつつ、いまだ苦しんでいる企業様が多いという現実が、アンケート結果から見えてくる。

一方、「ダイバーシティに関連したテーマやプログラムとして関心があるものはなんですか」という質問への回答も興味深い。最も多かった答えは「管理職層の意識改革」だ。で、次に多かったのが「働き方、ワークスタイルの改革」。私としては、この2つはセットじゃないかなと思っている。今ダイバーシティを推進している皆さまが、リアルにぶつかっている大きな課題の1つと密接に関連しているように感じるからだ。それは、「粘土層」と言われる管理職の…、こう言うと怒られてしまうかもしれないが、つまりは「おじさまたち」が変わらないこと。トップは旗を降っていて、現場も頑張っている。でも、中間にいらっしゃる管理職層の、つまりは粘土層の皆さまが依然として変わらない。そうした根強い問題があるからこそ、管理職層の意識改革が関心あるテーマの1位になっているのではないかと思う。

また、「働き方、ワークスタイルの改革」について端的に申しあげると、これは長時間労働が習慣になっていてなかなか改善しないというお話ではないか。これも、「粘土層」というお話と同根の問題だと思う。日本企業が長らく習慣としていたものからなかなか離れられないというところに、問題意識があるのではないか。多様な人々が活躍できるように、多様な働き方を導入していくことが、なかなかできていない。結局、これら2つの問題は同根のように思う。

一方、回答数3~5位は女性自身に関わる問題だ。3位が「女性社員の意識改革」、4位が「女性リーダー候補者の意識改革」といった課題認識。そして、5位に「女性リーダーの育成」といった、能力開発に関する課題認識もある。活躍して欲しいと思われている女性自身に関するお悩みも、まだまだ多いのが現実だと思う。

そこで、今回はそれらの問題を乗り越えてダイバーシティを推進している先進企業の皆さまに、それぞれ深掘りしてお話を伺ってみたい。まずは抵抗勢力…、というか「粘土層の方々」、または古いしがらみから抜けられないという課題について。他にもいろいろ問題はあるかもしれないが、まずはそうした抵抗勢力や障害を、具体的にどのような形で乗り越えてこられたのだろう。ダイバーシティの取り組みや理念に関しては、すでに会場の皆さまもいろいろな形で耳にしていらっしゃると思う。それを本当に推進するために、具体的にどんなご苦労があり、そこでどんな工夫をして今に至っていらっしゃるのか伺いたい。

まずは日本生命保険(以下、日本生命)の浜口さん。前段のプレゼンでご紹介いただいたお取り組みのなかで最も興味を引かれたのは、男性の育児休暇取得100%という部分だった。多くの企業が「男性も育児休暇取得を」とおっしゃってはいるが、取得率100%を掲げ、それを本当に実施するのは大変なことだったと思う。たとえば、そこで抵抗する方はいらっしゃらなかったのだろうか。実際に取得率100%を達成するまでのご苦労を、リアルなところでぜひ伺ってみたい。

男性の育休取得100%達成、1つの成功事例が風穴を開け、徐々に外堀が埋まる

浜口知実氏(以下、敬称略): この取り組みの初年度、100%(1週間程度を目途に)ということを掲げたときは、「急に会社は何を言い出すんだ」という感じだったと思う。実際、これを打ち出したことに対し、特に営業現場からは、本当に100%取れるのか、半信半疑で戸惑いの声があった。弊社には全国に1500ほどの営業部があって、そうした営業部の長にも育休取得対象の男性がいる。「1週間も休んだら営業成績に影響がでるのではないか」といった懸念の声が出てきて、当初、営業現場の男性の育休取得は、なかなか進まなかった。

けれども、そうした状況のなか、「実は、これは良い取り組みなんじゃないか?」ということで率先して取り組んでくださる支社長が現れた。その方は「育休中は支社から応援を出してきちんとサポートするから、しっかり育休を取りなさい」と、支社をあげたイクメンプロジェクトとして盛りあげていただいた。私たちはそのボスを取材したうえで、社内イントラを通じて全社的に発信をしていった。すると、それに続く方も出てくる。また、次のボスは、「いや、業績には影響はなかった。むしろ、それ以上の効果が数多くあった」というコメントをくださった。旗を振っている側としては「このコメントはうれしい!」と思い、そうしたコメントをイントラで発信し、社内機運の盛り上げに努めた。

そんな風にして育休を取得した男性の体験談を紹介するとともに、その方のボスにも「ぜひコメントをください」とお願いしていった。すると、ボスからは男性育休の効果が伝わるような素晴らしいコメントをいただけた。男性が育休をとるということは、ボスが若かった頃には考えられないことなので、部下の男性の育休取得を心の奥でどう感じていたのかというと複雑な気持ちはあったかもしれない。ただ、やっぱり自分の部下が取得すると、その効果は実感していただけたし、全社のイントラに自身の名前でコメントが載るときには、ボスとしてそのことを前向きに発信したいと思っていただけたと思う。そういうお話が増えて、男性育休に対する見方が少しずつ変わっていったのかなと思う。

このようにして、ボスの意識が少しずつ変わり、部下も「育休を取得したい」と言い出しやすくなったと思う。育休取得が最も難しいと思われていた営業の最前線で成功事例が生まれて、それを積み重ねたことが、今回の取り組みが広がったポイントだったと思う。

林: 人事は何かに取り組む際、どうしても「公平性を担保して全社一様に取り組んでいこう」といった意識になりがちだと思う。でも、今のお話からは、必ずしも足並みを揃えないといけないわけではないということも感じる。まず協力してくれるところとともに実績を積み重ね、そこで出てきた成功事例を拡散することも大事なのかなと思った。

あと、育休取得に関してコメントを求められると、皆さんポジティブなお話をしたくなるという部分も興味深い。人間にはコミットメントや一貫性を求め、自分で言ったことを守りたくなる心理がある。言ったことが正しいと証明するため、いろいろと行動したくなる心理があるのだという。今のお話は図らずもそうしたメカニズムも巧みに採り込んでいるように思う。

指標を設けて数値を出し、競争心を起こさせる

林: 続いてジェイティービーの松岡さん。前段のプレゼンで伺った、「ダイバーシティを推進するにあたっては見える化が大事になる」というお話には、皆さま、異論がないと思う。ただ、これも「言うは易し」。実際に推進するためのご苦労は並大抵のものではなかったのではないかと感じる。特にジェイティービーさんの場合、グループ会社はおよそ60社にも及ぶ。人事の制度や内容もそれぞれ異なっていたりすると思うが、そうした多様性のなか、「ダイバーシティINDEX」を設けて指標化を行っていったとのお話を前段プレゼンで伺っている。しかし、そうした指標を評価につなげようとすると、それこそ抵抗も出てくるのではないかと想像してしまう。そのあたり、どのように進めていらしたのだろう。

松岡徹氏(以下、敬称略): ダイバーシティINDEXは3つ設けていた。まずは「経営者の意思と行動」。これは、今ご紹介いただいた通り、点数化してランキングにしている。2つ目は「中長期目標」で、「各社の課題に関してきちんと目標を立ててくださいね」というものになる。こちらも、加点方式ではあるけれども各社を評価する基準の一部として使わせていただいている。そして、3つ目が「ポジショニング指標」。「グループのなかで自分たちがどんな位置にいるのか」と。こちらは労働時間や女性の活躍度といった指標になるけれども、比較に使うだけで評価の対象にはしていない。

いずれにせよ、我々が最も重要だと考えていたのは、「グループ60社のトップがどんな行動を取るか」。ダイバーシティの推進を図るには、各社の社長がきちんと発信して実行に移す必要があると考えていたためだ。そこで、INDEX Ⅰでは、具体的に4つの項目で3段階評価を行い、特定の係数を掛け合わせて点数化している。さらに、意識調査の回答率も大きな得点として加えて、各社の得点にしていった。

その結果を当初はベスト20まで発表していたけれど、経営会議では全ランキングを報告している。それで結果的に「下のランクでした」とお伝えすると、やっぱり社長によってはその辺を強く意識してくれて、行動が変わる方もいらっしゃる。ただ、たとえばグループには社員3000名ほどの会社もあれば、50名ほどの小さな会社もあって、その辺の差は大きい。従ってランキングも人数ベースで分けている。人数が増えるほど難しくなる面は事実としてあるので、その辺にも配慮しながらランキングを発表し続けている。

まだまだ低迷している会社はあるものの、「何をどう変えればいいの?」と、社長自ら、または担当者を通じて質問してくる会社が出てきている。そうした行動変化が起きれば、一定の多様化は進むだろうと考えている。ただ、まずは経営者の意識と行動を変えるという意味で、インデックスには効果があったのかなと思う。あと、抵抗勢力への対応ということで言うと、やはりグループ本社の社長や経営会議の力を活用させていただいたというのが事実としてある。その意味でもトップの力は重要だったと思う。

林: お話を伺っていて、1990年代、コンピューターメーカーからソリューションビジネス企業へと生まれ変わるため、かつてIBMが推進していた取り組みを思い出した。やはりトップの並々ならぬ決意が重要だし、それを全社的、さらには社外にも発信するということを徹底的にやっていく必要があると感じる。また、各社でトップの方々が本当に行動しているのかどうかを逃さず見ていく必要もあるのかな、と。その辺、逃れられない状態にしたり明らかにしていったりするには、相当な気迫や覚悟が必要だと思う。

松岡: 経営者層は、数値化に敏感だ。数字にしてしまうと逃れられないし、長く業績を追求して活躍してきている方々なわけですから。そういう方々に対しては、営業成績を含めて数字にして出していくというのが、最も分かりやすく、効果的だったと思う。

林: なるほど。営業等で数字を見ることに慣れていらっしゃる方々としては、こういう取り組みも数値化されると言い訳できなくなる部分があるのかもしれない。これは大変興味深い発見だった。

 

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