文句は言わない、俺が変えてやる 【ミナカラ・喜納信也氏】 

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前回は、「おくすり宅配」など画期的なネット医療サービスを展開する株式会社ミナカラの喜納信也氏に、起業のきっかけや立ち上げ時の数々の困難について語っていただきました。今回は、その経験を元にどのような組織づくりをしているのか、さらに今後何を成し遂げようと考えているのか、教えていただきました。(全2回)

立ち上げ時に本当に必要な人材とは?

鳥潟: 僕も20代前半の時に共同創業した経験があるので何となく分かるのですが、創業者と後からジョインしてくれた社員って、圧倒的に「事業に対する思い」や「かける時間」が違うので、そういうメンバーをどう巻き込んでいくのか難しいのですよね。

喜納: そうなんですよね。でも、私には初めての創業経験で理解できていないことがたくさんありました。そこで、創業メンバーが去っていくなど一連の苦い状態の最中に、先輩起業家にメンタリングしてもらったんです。「実はこんなことが起きちゃって」と相談したら、「全部お前が悪い」とぼろくそに言われました。

鳥潟: メンターの方にお話を聞くに行くっていうアクションは素晴らしいですね。

喜納: 重要ですよね。先輩の経営者から学べることはとても多く、少しの時間のメンタリングで多くの問題が解消することがあります。その時に言われたのは、ナンバー2の人材を含めて創業者と同じだけのコミットを社員に求めちゃ駄目だとか、優秀さの基準を変えたほうがいい、創業時と会社が成長してからの優秀さは基準が異なるなど。

あとは、メンバーが希望を持って働けるように組織を設計し、コミュニケーションを取りなさい。創業時は組織作りをしなくていいわけではなく、創業時なりの組織作りは最初から必要、と。先輩起業家は私が失敗したポイントに既視感を持ちつつ、私が理解できる目線でメンタリングしてくれたので、全てがドンピシャで刺さりました。

鳥潟: その後、自分の中で変化はあったんですか。

喜納: このメンタリングでは、ぼろくそに言われながらも、本当にその通りだなと思って、組織作りに対する私の意識が一気に変わりました。この時期は精神的に追い詰められていたのですが、うつ状態になるというのはスタートアップの時期にはよくあることだとも言われて。「辛いだろうけど、君の悩みはスタートアップあるあるで、何回も見ているよ」と言われて。それを聞いて冷静になることができて、落ち着いて問題解決に集中できるようになりました。じゃあ、もう一回ここから組織を立て直そうと。創業時はいろいろな問題が起こりますが、まずは問題解決に集中できる精神状態に持っていくことが大切だと学びました。

その結果、社員に対して社員の立場でちゃんと考えるようになりました。また、創業当初は自分が困っていることや悩んでいることをメンバーに共有するのは皆無だったのですが、困っていることを相談するようになったり、「組織作り」とか「組織文化」を強く意識するようになりました。毎週全体ミーティングを開催したり、合宿を四半期毎に1回やるようになったのも、この頃くらいからです。

貯金25万円で起業!?

喜納: 他にも小さな修羅場はたくさんあります。例えば「お金」です。恥ずかしい話ですが、私は起業時に貯金が25万円しかなかったんです。起業すると決意したのは実際に起業する3か月前で、直前まで通っていた大学院の学費などに全て使ってしまい、お金の面の起業準備は全くできていませんでした。

鳥潟: それで起業したんですか。

喜納: そうです。投資家から出資してもらう時に、「喜納さん、せめて300万円くらいは資本金出してください」と言われたのですが、「1,000万円くらいなんとかします!」と見栄を張って。本当はお金ないけど、家族、親戚、友達と回って、1000万円ほど集めてなんとかしました。

鳥潟: 資金的に厳しい時期ってありましたか。

喜納: 公私ともに何度もありました。貯金がないのに起業後半年間は自分に給料を出さなかったし、出し始めてからも最初は6万円程度に抑えていました。自宅も引き払い、創業後1年半はオフィスに住み込んで、働き続けることで節約しながら集中していました。また、会社も何度か資金ショートしかけました。私のお金を会社に貸し付けることもあったのですが、自分自身が資金を持たない状況で会社の資金が足りなくなるのは精神的にも結構きつかったです。会社って1円足りなくてもつぶれますからね。いざというときに会社をサポートできるように、個人的にも資金を確保しておいた方がいいなと思いました。

経営者として大事にしていること

鳥潟: 喜納さんが、ファウンダーとして、経営者として、大事にしてることは何ですか?

喜納: 一番重要なのは、「ユーザーに向き合う」ということですね。コンシューマーサービスだからというのもありますが、私はもともとBtoBのコンサル営業や開発をやっていたんですけど、BtoBは人間関係や気合いや交渉で意思決定が動くケースもあると思うんです。でもBtoCは全然違う。こちらにいくら気合いが入っていても、サービス自体が本当に良くないと使わないですよね。

次に大切にしているのは、「(仮説を立てた上で)早くプロダクトを出す」ということです。実際に出さないと仮説の検証はできないですし、プロダクトを出して検証することで新しい仮説が生まれることが多いのです。仮説を立てることはとても大切で、そのための社内の議論も必要ですが、それ以上に早く出してユーザーにその審判をしてもらおう(仮説の検証をしよう)というサイクルを、いかに早く回せるかが大切だと思っています。

他に大切にしているものとしては、「経営者である私自身が最も問題児であること」です。経営者は大きな転換となる意思決定をしたら、「今すぐやる」と言うじゃないですか。そうすると、社員は「今の仕事や人をどうやって移していくか、混乱なく移行するにはどうしたらいいか」を考えがちになりますが、私はソフトランディングにならないように全員の今の仕事をいったん止めさせたりします。結果として社内が混乱することはあります。もちろん、今の仕事を止めさせた後に意思決定した方向にすぐ切り替えて集中させるわけですが、切り替えがドラスティックで緊張が走ることはある。そのようなとき、社員にとって私が問題児にしか見えないことはあると思います。

鳥潟: 基本的に組織は戦略に従って変わっていかなきゃいけないんですよね。でも、実際はその逆で、長年経過すると固定化する。それを壊すって結構大変なんですよね。だから、組織を大きく変えるような戦略変更は、トップしかできなくて。でも、それは勇気が要るんですよね。

喜納: 社内で最も大きな意思決定ができて、それを一気に動かせるのは私の立場だけだと意識しています。ワークスでもグロービスでも、社内の現場から見ると経営者が問題児に見えることはあると思うんです。組織を揺さぶる存在。でも、それが正しいんだろうと経営する立場になってから思います。ただ、組織を揺さぶった結果、組織がついてくるのに時間がかかったりして、自分も揺さぶられることもありますが。

鳥潟: でも、そこでぶれないということですね。

喜納: そうですね。大切にすべきこと、集中すべきことに自分自身が確信を持ち、日ごろから周囲にちゃんと伝えられているかどうかが重要なんじゃないかと感じます。

鳥潟: そうですね。「他責にしない」ということでしょうか。

喜納: そうですね。「他責にしない」というのも、とても大切にしていることの一つです。多くの薬剤師や薬学生に会う中で、「薬剤師はユーザーの治療の意思決定に入っていきにくい職業だ」とか、「将来、調剤がロボットで代替できるようになったら仕事がなくなるんじゃないか」といった心配や不満を耳にすることがよくあります。今の制度や環境を嘆いているのに、自分自身では何も変えようとしない人は多い。でも、スタートアップって、これの真逆の活動だと思うんです。「既存の制度の壁に嘆くくらいだったら、その現実を変えない自分の力のなさを嘆け」というのが健全だと思います。現実を変えたくて起業しているのだから、起業した以上、現状に文句を言うのは止めよう。文句を言うくらいなら変えに行くぞと。それで上手くいかなくても、文句言うくらいなら悔しがりたい。

会社の未来像、そしてこれから起業を目指す人に伝えたいこと

鳥潟: 最後に、今後の会社の目指す姿とか未来像をぜひ教えてください。

喜納: 理念にもありますが、まずは医療に関するユーザー体験を感動的なものに変えて、まずは全国、それから世界に届けたいです。我々のサービスがあるおかげで、世界が救われた、命が救われた、日本の医療すごいな、未来きたなと言ってもらえるサービスを作り上げたい。

その上で、医療者に対して新しい活躍の場も作りたいのですが、それはユーザーに喜んでもらうサービスをつくることで実現できると思っています。私たちのテーマは医療ですが、医療のユーザーとのタッチポイントに関わっているのは医療者です。ユーザーの医療体験が変わるには、医療者の活動も変える必要があると考えています。ユーザーにより感動的な医療を提供することで、医療者に新たな活躍の場を作りたいと考えています。

鳥潟: これから起業を目指す方にメッセージをお願いします。

喜納: 起業というのは、社会の問題解決をするための一つの選択肢だと思っています。解決したい問題が、大企業のリソースを使ったほうがいいものであれば、大企業のリソースを使ってやるのも手だと思います。少なくとも、起業すること自体に集中するのではなく、解決する問題に集中することをオススメします。

もう一つは、スタートアップは社会のR&Dができる方法でもあると言うことです。社会的に大きな問題として放置されているテーマに対し、検証の意義が高いにもかかわらずまだ誰もトライしたことがないアプローチなどは、起業やスタートアップでのトライが向くケースだと思うんです。そういったテーマやアプローチに対して、仮説検証を積み上げていくのはスタートアップらしいし、失敗してもその事例が将来的に社会に還元されやすいと言う点で社会のR&Dでもあるなと感じます。仮に10回失敗したとしても、1回でも大きく成功する事業が作れたら、と思っています。

医療分野では起業家がやるべきテーマがたくさんあると思うので、医療分野でどんどん起業家が増えたらなと思います。

鳥潟: 今日は素晴らしいお話ありがとうございました。

<インタビューを終えて>

「ベンチャーは社会のR&Dだ」。喜納さんのインタビューを通じて一貫して感じられた強いメッセージです。世の中には多くの「不満やニーズ」が存在しているのに、既存企業がしがらみや過去の慣習によりで着手できていない現実が存在する。その課題に着手し、高速でPDCAを回しくことがベンチャー企業に求められるひとつの役割なのかも知れない。そう感じさせられるインタビューでした。

また、ベンチャー創業期に組織やヒト関連で悩み続けた喜納さんのストーリーが印象的でした。一人で課題を抱えず外部のメンターに相談、指摘されたことを真摯に受け止め自己否定および改善をする姿は素晴らしいと感じます。論語に『過ちて改むるに憚ることなかれ』という有名な一節がある。自分の行動や考えに誤りがある知ったら、ためらうことなく改善すればいい。この簡単すぎるからこそ難しい自己改善を繰り返しながら、喜納さんはさらに成長されていくことと思います。これからの飛躍的な成長を応援しています。

 

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