お世辞は効果があるか? 

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結論から言えば、お世辞を言うことやゴマをすることには一定の効果があります。ロバート・B・チャルディーニはその著書『影響力の武器』の中で、「好意」を6つの武器の1つとして挙げました。好意を持つ人の言うことは、そうでない人の言うことよりも応えてあげたくなるということが、さまざまな実験などから証明されています。これは皆さんの直観にも合致するでしょう。

そして、好意を持ってもらうための技術の1つとして紹介されているのが、お世辞も含めて人を褒めることなのです。その他にも、接触頻度を増やしたり、共通点があったり、身だしなみがしっかりしているなどは、好意を獲得する上で有効なことが示されています。

ただし、お世辞を言ったり、褒めたりという行為は、無暗に行えばいいというものではありません。極端な例ですが、ゴルフでとんでもない方向に打ったOBのショットに対して、「ナイスショット!さすがですね」などと言うことが好ましくない結果をもたらすことは容易に想像がつきます。

ポイントは、どのようなことに対して、どのようにお世辞を言えば効果的かということです。まず「どのようなことに対して」について考えてみましょう。これは褒めること全般に共通することですが、基本的に、相手が得意だと思っていること、自信があることに関して褒めると、人間は気分が良くなることが知られており、それを言った相手に対しても好意を持ちます。

例えば、相手が講演やスピーチに自信を持っているなら、「今回も参考になりました」「もっと多くの人間に聞いてほしいですね」「ここの部分は圧巻でしたね」などと言えば、相手は悪い気はしません。自分に対して好意を持ってくれるでしょうし、「こいつ、分かっているな」というポジティブな評価にもつながります。

逆に、相手が苦手と感じており、自信もないことに対して見え透いたお世辞を言うのは逆効果です。文章が苦手な人間に対して「美しい文章ですねぇ」などと言えば、むしろ皮肉と捉えられてしまいかねません。見当外れのことや、あからさまな嘘、取り入りたいがための無理なお世辞などもマイナスの結果をもたらします。人間はそうしたことを見破る察知能力が意外にしっかり備わっていると思っておいた方が賢明です。

つまり、お世辞を言うのであれば、相手の関心や特徴をうまく認識したうえでのお世辞でないと逆効果と言うことです。そのためには、常日頃からの人間観察力が必要となります。何にお世辞を言うかは、意外と難しいのです。

次に、「どのように」ということについて考えてみましょう。まず、あまり好ましくないのは、いつも会うたびに言うことです。人間は慣れる動物でもあるので、毎回言われていては、どんどん印象が弱くなっていきます。ここ一番と言う時に感銘しましたと言う感じで伝えると、一般には効果的です(なお、これはビジネスを前提にした話ですが、恋愛シーンなどでは、「可愛いね」や「カッコイイね」は何度も何度も繰り返す方が効果的という実験結果も存在します。何事もテーマや状況次第です)。

もう1つ好ましくないのは、第三者が多くいる前で露骨に言うことです。前回も書きましたが、人はさまざまなシーンでその人の本性を感じ取ります。周りの視点があるにもかかわらず、お世辞を連発する人間には、「ずる賢い」「いつもへりくだってよほど自分に自信がないのか」などとの評価を下してしまいます。これは長い目で見て自分のブランド価値を低くしてしまいます。

また、お世辞を言われる側も、そうした視点を意識している点は忘れてはなりません。露骨なお世辞を言ってくる人間を重用すると、それがお世辞による重用でなかったとしても、「あの人はそういうことを言ってくる人間に弱い人間だ」というレッテルが貼られてしまいかねません。相手もそれは避けたいと感じている点を忘れてはならないのです(そうしたこともあってか、お世辞そのものを嫌悪する人間も一定比率存在します)。

まとめると、ちょうど良いタイミングで自然に効果的な褒め言葉が出てくるのが理想なのですが、これも常日頃からの人間観察力や、人間に対する洞察が必要となるため、容易ではないのです。そうしたお世辞が言える人間は、実は非常にコミュニケーション能力が高く、世間智にも長けている必要があります。冒頭に「お世辞を言うことやゴマをすることには一定の効果がある」と書きましたが、その「一定の効果」を得ることさえ、実は容易ではなく、むしろあちこちに「地雷」が潜んでいることは意識しておきたいものです。

さて、ここまでの議論は上司や取引先と言った、自分に対して強い立場の人間に対するお世辞を取り上げてきましたが、逆に部下や下請け先と言った「自分の方が立場が強い」というシーンも当然あります。

こうしたケースでは、褒めることは非常に大きな効果を持ちます。先述したような第三者の前でやり過ぎるからと言ってマイナスになることはそれほど多くはありません。むしろ、多くの人の前で褒めることで(もちろん、的を射たポイントに関する褒め言葉であることは必須ですが)、「あの人はよく見てくれている」「モチベーションを上げてくれる」などの評価が生じる可能性があるのです。

「褒め上手は仕事上手」と言う人もいます。相手が部下であっても褒めるのは苦手と言う人も多いかと思いますが、まずは恥ずかしがらずに本音で感心した点をさりげなく伝えてみましょう。「褒めの達人」になるのは容易ではありませんが、どうすればうまく部下を褒められるかということに意識を向けることは、部下に対する関心度の向上などにも結びつき、結果として職場の生産性を上げることにつながります。

褒めることは人間の重要な欲求である承認欲求を満たすものでもあります。相手が上司なのか、部下なのか、取引先なのかなどによってその効果的な方法論は変わりますが、その重要性には常日頃から意識を向けたいものです。

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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