なぜ親しくもない他人に優しくする必要があるのか? 

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「他人」と言ってもさまざまな距離感の他人がいるわけですが、ここで言う他人は、家族や上司・部下といった近しい人々ではなく、プライベートでもビジネスでも、それほど関わりがない人を指すものとします。たとえば初めて入ったコンビニエンスストアや居酒屋の店員、あるいはたまたま電話をした先で電話に出た役所の人などです。

皆さんの周りにこんな人はいないでしょうか? 
「いつもはそれほど態度がでかくないのに、自分が客の立場だと、お店の店員のちょっとしたミスや不手際に対して高圧的な態度をとる人」
「クレーム電話などで顔の見えない相手に対してやたらと言葉遣いや態度が悪い人」
「年下やお年寄りに対して必要以上に横柄になる人」

こうした人々の行動に共通しているのは、「立場的に相手に対して優位になった時に、態度が大きくなる」というものです。たとえば、コンビニエンスストアや居酒屋の店員から見れば、自分は客です。客に横柄な態度をとることは一般的には許されていませんので、店員はどんなに顧客の態度が気に食わなくとも、それに対して咎めたりすることが構造的にできないのです。さらには、そうした店員は往々にして若いアルバイトの人が少なくありません。中高年者から見ると、人生経験という部分でも、精神的に優位に立ちやすいのです。

そうした「弱い立場」の人間に横柄、あるいは高圧的になることがなぜ問題なのでしょうか? 第一に、前回の「下請けを叩いて利益を出すのはよくない?」とも重なる部分が大きいのですが、社会が複雑化し、人材の流動性が高い昨今、そうした相手がいつ自分より優位な立場に立つか分からないということがあります。見ず知らずの人がいきなり自分の上司になる可能性はかなり低いでしょうが、取引先のキーパーソンになる(あるいは、実際にキーパーソンだった)程度のことは、十分にありうるのです。

極端なケースではありますが、実際に、銀行の店員が、支店の前(本来の駐輪場ではない場所)に自転車を停めていたお年寄り(見た目には弱々しい)に対して、赤の他人と思って高圧的に咎めたところ、実は高額の預金をしているお得意様で、多額の預金を引き出されてしまった、というケースもあったということです。

逆に、文字通り「情けは他人のためならず」が実現するケースもあります。たまたま親切にしたお年寄りが、取引先のVIPだったというケースです。ドラマや漫画などではしょっちゅう出てくるシチュエーションですが、現実にも少なからずこうしたことは起こっているものなのです。

もう1つの重要な理由として、人間は「自分が優位に立てるシチュエーションで本性が出やすい」という点があります。つまり、いつもは慇懃に振る舞っている人でも、いざ自分が自由に振る舞えるシーンになると、真の性格が現れてしまうのです。

そうしたことを多くの人は経験則的に知っていますから、「ああ、この人は、根はこういう人なんだな」というのがばれてしまうわけです。例えば、いつもはにこやかな上司が、会社の仲間と飲みに行った時に、店員に高飛車な態度をとると、部下は、それがその上司の本性と見抜いてしまうのです。ビジネスを進める上で、こうしたことが決してプラスにならないことは言うまでもないでしょう。逆に、先方の多少のミスに対しても寛容に振る舞えるような上司は、部下や取引先からも慕われるのです。

さらに若干補足すると、特にお酒の席では素の自分が出やすいことがさまざまな実験から知られています。アルコールが理性のタガを外してしまうことが大きな要因です。いつもは堅苦しい上司が、お酒が入るとセクハラやパワハラをするおじさん/おばさんに変わってしまった、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。その意味でも、居酒屋や宴席において「弱い立場にある人」にどう振る舞うかは、他人からの評価を大きく左右してしまうのです。

その他にも、たぶん自分が関わることはもうないだろうと思われる人々(例:滅多に行かない旅先のホテルや観光地の従業員など)に対しては、人間は本性が出やすいとされています。家族や同僚、あるいは結婚を考えている相手などと出かけるときなどには意識しておきたいものです(実際に、相手の本性を見抜く上で、今回紹介したようなシチュエーションでの振る舞いをチェックせよ、と書いている婚活指南本もあるくらいです)。

では、誰も知人が見ていない場所なら多少横柄に振る舞ってもいいかといえば、それももちろん控えるのが賢明です。これだけSNSなどが発達した時代、「壁に耳あり、障子に目あり」と心得ておくべきでしょう。自分自身のブランドマネジメントが重要になっている昨今、自分のイメージを傷つける可能性が高いことをわざわざする必要はありません。ブランドは、通常の企業のブランド同様、構築するのは大変ですが、壊れるのは一瞬です。そしてそのほころびは思わぬところから生じるものです。

「趣旨は分かるのだが、いきなり性格は変えられないなあ」と思われた方もいるかもしれません。もちろん、人間の性格は急には変わりませんし、それには多大なエネルギーを要します。しかし、「型」や習慣を変えることが性格に影響を及ぼすことも事実です。「自分が優位に立てる場合でも無暗に高圧的にならない」「ちょっとした親切をする」くらいのことは、少し意識すればそんなに難しいことではありません。こうしたことの積み重ねが、長い目で見るとペイすると意識しておきたいものです。

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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