下請けを叩いて利益を出すのはよくない? 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「うちの会社は結構下請けにきついこと言っているよ」という会社の人も多いかもしれません。もちろん、例えば下請けのパフォーマンスが期待値より低い時などに、適切な範囲で厳しい要求を出したり指導したりすることなどは必ずしも否定されるべきものではありません。上司が部下を指導するのと同様、時には下請けに厳しい注文を出すことも、自分たち自身の製品・サービスの品質や納期を守ったり、また下請けのケイパビリティ開発をしたりという目的に照らすと重要です。

問題になるのは、必要以上に下請けに厳しく当たることです。過大な値引き要求や、一定の予算内で追加の仕事を委託するなどがその典型です。自社の利益は高くなるわけですが、なぜこうした行動は好ましくないのでしょうか?3つの理由を挙げます。

第一の理由は、自社に関する評判リスクです。「あの会社は下請けに対して(不当に)厳しい要求をする」という噂は、あっという間に広まるものです。特に昨今はSNSなどの進化により、そうした情報の拡散スピードが極めて速くなりました。そのような噂が広がると、いざという時に新しい下請けを開拓する際にも困りますし、何より顧客に対して悪い印象を与えかねません。近年は顧客が企業を見る目も厳しくなり、そうした行為に嫌悪感を抱く層は確実に増えています。

業界での地位が圧倒的に強く、それで困ることはない、という会社であればそれでもいいのかもしれませんが、そのような会社は稀です。評判、さらにはブランドという会社の貴重な資源を守るためにも、必要以上に下請けに厳しく当たるのは、短期的な利益確保以上に、長い目で見てリスクが高く、割に合いにくいのです。

第二の理由は、会社同士のパワーバランスが変わった時にしっぺ返しを食らう可能性があるということです。特にIT業界のように競争環境がすぐに変わる業界では、昨日までの下請け企業があっという間に巨大企業に変貌するということも決して珍しいことではありません。その結果、相対的な力関係が弱くなってしまうのです。

その際、過去において紳士的に対応した会社であれば、その後の関係構築もそんなに困ることはないでしょう。しかし、過去において必要以上に厳しく当たった会社であれば、意趣返しとは言わないまでも、厳しい対応をされる、たとえば取引そのものをしてもらえないといった可能性も高まります。人間が合理のみではなく、感情というものに引っ張られて物事を考える限り、こうしたリスクはあるのです。

企業のパワーバランスが変わらないまでも、人材の流動性が高まった昨今、昨日までの下請け会社の社員が、発注サイドの会社の社員になるという可能性だってあります。こうなると、先と同様の理屈で、良い関係を構築できる可能性は低いでしょう。そうしたリスクもしっかり意識しておかないといけません。

ちなみに、筆者は昔、非常に後輩に対する態度が丁寧な先輩にあたったことがあります。そこまで優しくしなくてもいいのではと思ったので、なぜそうした態度をとるのか聞いたところ、「今の時代、後輩や部下が将来の上司になることもあるし、クライアントになることもあるから」という答えが返ってきました。「この人のためならいざという時に力になろう」と考えたことを今でも覚えています。

第三の現実的なリスクは、下請けが不正等に走ってしまい、自社の製品・サービスにもダメージが出るリスクが高くなるということです。例えばゼネコンが下請けのサブコンに無茶な低予算で仕事を押し付けたらどうなるでしょうか? 1つの可能性として、本来指定されている資材や工法を守らず、基準に満たないような工事をしてしまうということが起こりえます。

実際にこうした事件は起きており、時々問題となることもあります。マンションなどでトラブルが発生し、調べてみたら不正な工事が行われていたというケースです。競争の激しい業界では、往々にしてこのような下請け叩きが起こる土壌があるのですが、それを過剰にやってしまうと、最終的にはそれが自社に跳ね返ってくる可能性があるのです。

不正に走らないまでも、過度に下請けを消耗させて、想定していたパフォーマンスを得られないというケースもあります。「マジメな下請け」ほどそうしたケースが生じることがあります。メンタル的にもトラブルが起き、極度に生産性が下がってしまうわけです。場合によっては下請けの経営者や社員が自死を選ぶことすらあります。これは最悪のパターンですが、マジメでいい加減な仕事ができない人間ほど、そうした最終手段を選ぶことがあるのです。あるいは、疲労した下請け会社の社員が事故を起こす可能性もあるわけです。

ジャーナリズムの世界では、「事件は構造を明らかにする」という言い慣わしがあります。そうした大きな問題が起きると、一気にジャーナリズムが問題構造追究に乗り出します。本稿を執筆している2016年1月19日現在では、1月15日に発生した軽井沢のスキーバス事故に関連して、低価格のバスツアーにおけるバス運転手の過酷な労働環境が明らかになりつつあり、バス会社に大きな非難が集まっています。そうしたリスクが自社に降りかかってくる可能性もゼロではないのです。

今回は大きく3つのリスクを提示しましたが、その他にもさまざまなリスクが存在します。ぜひ皆さん考えてみてください。

なお、冒頭に書いたこととやや重なりますが、本稿の趣旨は、下請けにただ優しくしろということでは決してありません。やはり言うべき時は言わないといけませんし、適切な緊張感のないところで慣れ合っていては、良い仕事はできません。バランスをとるのは非常に難しいのですが、今回述べたことなども意識した上で、中長期的なリスク-リターンも見据えつつ、Win-Winの関係をしっかり構築していくことがやはり望まれるのです。
 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

名言

PAGE
TOP