セレンディピティ―チャンス感度の鋭いラジオになる 

働くココロに哲分補給
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「チャンスは準備された心に微笑む」。(Chance favors the prepared mind.)
――ルイ・パスツール(細菌学者)

執念がチャンス感度を鋭くする

科学の世界での偉大な発見・発明は、偶発の出来事がきっかけとなることが多いといいます。ある日、徹夜明けのP博士は、ぼーっとしてA液の入ったビーカーにあろうことか、飲もうとしていたコーヒーを注いでしまった。すると、A液とコーヒーのカフェインが反応して思わぬ物質が発見された!とか、そんなような偶発です。

しかし、それは本当に偶発なのでしょうか?「いや違う。そういったチャンスは自分が呼び込んだものなのだ!」――こう主張するのが細菌学者パスツールです。冒頭に挙げた彼の言葉を、多くの科学者は身をもって読んでいます。

2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんも自著『物理屋になりたかったんだよ』の中でこう書いています──

「たしかにわたしたちは幸運だった。でも、あまり幸運だ、幸運だ、とばかり言われると、それはちがうだろう、と言いたくなる。幸運はみんなのところに同じように降り注いでいたではないか、それを捕まえるか捕まえられないかは、ちゃんと準備をしていたか、していなかったかの差ではないか」と。

私はこれを次のように解釈しています。つまり、世の中には実はチャンスがいっぱい溢れている。目に見えないだけで、そこにもあるしここにもある。それはたとえば、この空間に無数に行き交う電波のようなものです。電波は目に見えませんが、ひとたび、ラジオのスイッチを入れれば、いろいろな放送局からの音声が受信できます。感度のよいラジオなら、少しチューニングダイヤルを回しただけでいろいろと音が入ってくる。逆に感度の悪いラジオだと、ほとんど何も受信できないか、不明瞭な音声でしか聴くことができない。

一つの仕事に執念を持って取り組んでいる人は、その仕事課題に対する感度がいやおうなしに鋭敏になってきます。すると、チャンスをさまざまに受信しやすい状態になります。逆に、漫然と過ごしている人は、いっこうに感度が上がりません。そのため、チャンスはそこかしこにありながら、それらを素通りさせるだけで何も起こりません。

偶然をとらえて幸福に変える力は鍛えられる

こうした予期せぬチャンスを鋭くつかみ取る能力を表す単語として英語には「セレンディピティ(serendipity)」があります。東京理科大学大学院の宮永博史教授は、セレンディピティを「偶然をとらえて幸福に変える力」と表現しています。同教授は『成功者の絶対法則 セレンディピティ』の中で、古今東西の科学者たちが「ただの偶然」をどう幸福に導き、「単なる思いつき」をどう「優れたひらめき」に変えることができたのかを、数々の事例を集め説明しています。

また、セレンディピティを「偶察力」(=偶然に際しての察知力で何かを発見する能力)と翻訳するのは、セレンディピティ研究者の澤泉重一さんです。澤泉さんは、人生には「やってくる偶然」だけではなく、「迎えに行く偶然」があると言います。

つまり後者は意図的に変化をつくり出して、そこで偶然に出会おうとする場合のものです。何かに取り組む際、事前に仮説をいろいろと持っておけば、何かに気づく確率が高くなる。有能な科学者たちは、こうした習慣を身につけ、歴史上の成果を出してきたと、彼は分析しています。

さらに、パデュー大学のラルフ・ブレイ教授によれば、セレンディピティに遭遇するチャンスを増やす心構えとして、「心の準備ができている状態」「探究意欲が強く・異常なことを認識してそれを追求できる心」「独立心が強くかつ容易に落胆させられない心」「どちらかというとある目的を達成することに熱中できる心」を挙げています(澤泉重一著『セレンディピティの探究』より)。

キャリア形成理論の分野で日本でも広く知られることとなったジョン・クランボルツ教授(米・スタンフォード大学)の 「計画された偶発性理論」(Planned Happenstance Theory)においても、やはり、自らの意図のもとに偶発性を起こしてチャンスを最大限に広げた人たちが幸福なキャリアを手にしているという事実を示しています。同教授は、「計画された偶発性」によるキャリア形成の鍵として、「好奇心・持続性・楽観性・柔軟性・リスクを取る姿勢」を挙げていますが、これはセレンディピティ研究者たちのメッセージと通底するところがあります。

いずれにしても大事なことは、セレンディピティは「能力」という意味合いを含んでいることです。これは能力だから強めることができるという発想にもつながります。単に「棚からボタ餅」でぼーっと幸運を待っている状態ではないのです。

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