高島宏平氏(以下、敬称略): 議論を始める前に、「結果を出すリーダーシップ」について会場に問題意識を聞いてみよう。今日はどんな話を聞きたいか、その場から大きな声で教えて欲しい。(以下、会場から)「メンバーのやる気をどう高めるか」「チームのマネジメントをどのように行うか」「どのようにミッションを共有するか」「どのようにリーダー自身のモチベーションを高めていくのか」「チーム力を高めるために必要なことは?」「危機における意思決定をいかにチームと共有するか」(以上、会場から)。では、今のご質問を御三方には考慮していただきつつ、ご質問とは関係なく進行しよう(会場笑)。まず、御三方の経歴を、リーダーシップをとるようになった経緯と併せてお聞きしたい。(02:13)
大西 健丞氏
大西健丞氏(以下、敬称略): イギリスの大学院で書いた自分の論文について、自分自身で「嘘を書いてしまったのでは?」と思ったことがある。そのときはイラク北部について書いたのだけれど、「じゃあ、見に行こう」と。当時はまだ24歳ぐらいだったし、想像力や知恵が足りないぶんは体力で補おうと思った。それでトルコとの国境を越え、イラクに密入国していろいろなものを見た。すると、たとえばイギリスのNGOが命がけで頑張っているのだけれど、現場にはオックスフォードでPh.D.を修了したやつなんかがいて、日本とは少し違う。それで、「やっぱり日本社会もこうなっていくべきだな」と思っているうち、はまってしまった。NGOで派遣され、その派遣元NGOが倒産し、それでプロジェクトをほっぽり出すわけにもいかず新しいNGOを仕方なくつくり、「どこまでやれるかな」と思っているうちに18年が経った。明日もイラクへ発つ予定だ。(05:05)
高島:リーダーシップを意識していたのではなく、プロセスのなかで必要に応じてリーダーの役割を果たしていったという感じだろうか。(06:05)
大西:自分の部下というかスタッフになった人たちは、ゲリラあがりのクルド人ばかり。そんなツワモノたちは、自分たちの大将がアホか頭が良いかで生死が変わるからすごくシビアに見てくる。だから失敗もたくさんしたけれど、彼らに鍛えられた。リーダーということをあまり意識しなかったし、どちらかというと族長のような形だった。(06:15)
小林 りん氏
小林りん氏(以下、敬称略): 私も大西さんと似たような経緯で、自分からリーダーになって今のプロジェクトをやろうと思ったわけではない。2008年8月、ある人に「この学校を立ち上げて欲しい」と言われたのがスタートだ。で、「じゃあ一緒にやりましょう」と言って、それで1年逡巡して帰ってきたらリーマンショック。お金がまったくない状態になってしまった。そのなかで期せずして自分がプロジェクトを率いていかねばならなくなったという形だ。だから本当に不完全なリーダーで、多くの人に助けられた。お金集め、許認可取得、土地探し、人集め、チームのモチベーション向上など…、あらゆることについて周囲の人々に助けられながらここまで来たと、ひしひし感じている。(07:46)
元々、私は前職でユニセフ職員としてフィリピンに駐在していて、ストリートチルドレンという貧困層の子どもたちに向けた教育にたずさわっていた。ただ、現地には大変な格差と渦巻く汚職があり、「貧困層教育だけで世の中は変わらないのかな」という思いを強く持っていた。そのとき、今も一緒にやっている何人かのメンバーと、「学校を作って、もっと社会に対してアクションを起こせる人やチェンジメーカーになるような人を育てよう」という話になったのがこの学校の発端だ。2007年の出来事になる。(08:58)
高島: その思いはどういったプロセスを経て具現化していったのだろう。(09:50)
小林:実は、岩瀬大輔(ライフネット生命保険代表取締役社長)君は大学の同級生。1年の頃から知り合いで、同じようなタイミングで3回も4回も転職している仲間だ(笑)。二人とも、周囲から「何をやっとるんだ」と言われながら転職を繰り返し、留学に行って、それでまた帰ってきて同じように「うーん…」と悩んでいた。その岩瀬君に、「今やっていることはドリームジョブだと思ってたんだけど」と、フィリピンで抱いた悩みをそのままぶつけたことがある。すると彼が、「それなら学校を作りたいって言っている人を紹介するよ」と言う。それで会った人が、今一緒にやっている谷家衛さんだ。だから、自分の問題意識を発信し続けるというのはひとつのポイントなのかなと思う。(10:01)
田村 耕太郎氏
田村耕太郎氏(以下、敬称略): 僕は民間でも働いていたけれど、新聞社の経営をしていたとき、「行動を起こさなきゃ」と思った。「書いているだけじゃ世の中は変わらない。自分が当事者になってみよう」と。親父にも、「政治家の悪口を書いているのはラクだけれど、自分でやってみろ」と言われ、「やってみます」と。そうして無所属で3回落選したのち、4回目で当選した。当時、鳥取県という保守地盤で、かつ30代で世襲なしに当選したのは僕が初めてだ。そこから、政治家として皆さんの協力を得ていろいろなことをやったし、第一次安倍政権では内閣府の大臣政務官としてアベノミクスの走りのような政策も作ったりしていた。で、その後政界から離れて、今はいろいろなことをやっている。(12:10)
その1つが現職だ。僕が最も尊敬するリーダーはリー・クアンユーさん。スティーブ・ジョブズを超える最高の起業家だと思う。シンガポールは来年独立50年を迎える。50年前はGDPも人口もジャマイカ並みだったけれど、今はGDPが25兆円で人口が500万。1人当たりGDPでは日本を35%ほど上回っていて、国民の6人に1人が億万長者だ。これほどの王国を築き上げたリー・クアンユーという人を近くで見ることができ、彼とのご縁があって今はリー・クアンユー公共政策大学院で教鞭を執っている。この大学院は、アジアにおける将来のリーダーを育てる学校。ここで、反面教師でもあり良い教師でもある日本の事例を教えている。(13:11)
高島: 欧米とアジアと日本でリーダーシップに違いはあるとお感じだろうか。(14:20)
田村: 企業か政府か、あるいはベンチャーか大企業かでも変わるし、ケースバイケースだと思う。ただ、変化の時代には日本型のサラリーマン経営者でなくオーナーシップを持ったリーダーが必要になると、各国を渡り歩いてきたなかで感じている。(14:38)
高島: さて、グロービスの皆さんはリーダーについては今までさんざん勉強している筈だ。いろいろな話を聞いて、今までに何百回も「なるほど」と感じているだろう。そこに、今日新しい「なるほど」を追加しても仕方がないと思う。リーダーシップに関しては「分かる」と「できる」との間にギャップがある。従って本セッションは、今日明日からのアクションに繋がるような時間にしたい。来週月曜、皆さんが今所属する会社を辞めて起業したら、たぶん日本にとってプラスだ。すでに起業している方は別として、組織にいる方はとっとと辞めていただきたい(会場笑)。とにかく今日は「分かる」セッションでなく、アクションに落ちることを念頭に議論するセッションとしたい。だから、メモも取らないでいい。メモを取っていると勉強した気になるけれど、それは分かっているだけ。「できる」とはちょっと違う。で、議論中にいてもたってもいられなくなり、「俺、やる!」となったら、途中でいいから会場を出ていって(会場笑)、アクションを起こして欲しい。それが僕らには一番嬉しい。(15:17)
では、3人には事前に、「結果を出すリーダーシップについて大事なことを紙に書いて欲しい」とお願いしているので、それを3人同時に挙げていただこう。はい…、大西さんが「突出」、りんちゃんが「感謝力」と「楽観力」、田村さんは「忍」と「平」。すごく象徴的だ。僕は事前に、結果を出すリーダーシップに必要な“3つ”のことを書いて欲しいとお願いしたのに1人も3つ書いていない(会場笑)。ここが1つ目の学びだ。ではまず大西さんから、「突出」について説明して欲しい。(17:21)
大西: たとえばクルド人に囲まれているか日本人に囲まれているかでも少し変わると思うけれど、基本的には同じ人間だからあまり変わらない部分もある。要は、人間を含めた哺乳類には基本的に保守性があるから、上手くいっているときは羊や牛みたいに自分自身に囲みを作り、その中へ自分を追い込む。そうして囲いの中にある予定調和のなかで幸せそうな感じになる。でも、それをやるとすべて止まってしまう。僕は紛争地という流動的な環境にいて、常にそれを壊さないといけなかった。だから、「うちの大将はまた頭が狂った」と思われるほど、相当に奇天烈なことを常にやっていたし、突出しようと思っていた。それをやるか否かの判断基準は、「死ぬか死なないか」。紛争地帯で大事なのはそのラインだけだ。以前、日本の大企業を創業されたオーナーの方々とお話をしたときも、戦争帰りの人が多かったからその辺で意見が大いに一致した。「死なないならどんどんやろうよ」なんていう人が多かった。(18:30)
高島: そこは突出した自分であろうと意識しているのか、元々大西さんが突出しちゃっている感じなのだろうか。(19:59)
大西: たぶん後者(会場笑)。だから一緒に働きにくいやつだと思う。結局、生まれながらの性(さが)は変えられないという話だろうか(笑)。(20:14)
高島: 逆に言うと、周囲の方が大西さんの奇天烈に対応する実行力を持っているという話でもあると思う。苦手なところを補い、良さを体現してくれる人がいたと。(20:43)
大西: 忍耐力のある人を選んでおくのは大事だと思う。それに、僕自身は本当にいろいろな能力が欠けているから、ひとりでできると最初から思っていなかった。その意味では、結構平等主義ではある。ひとりで突出して、「俺が1番偉い」とは思っておらず、「ガンガン行くけどよろしく」なんていう感じで皆と一緒にやっている。(20:52)
高島: ご自身の強みに気付かれたのはいつぐらいからだろう。(21:23)
大西:小学校ぐらいからだ。成績は悪かったけれども、誰も考えつかないようなことをひとりで考えつくということはよくあった。戦争ごっこも絶対に負けなかったし(笑)。だから、その頃から「あ、自分はそういうのが結構得意なんだ」と思っていたし、それを楽しんでもいた。ただ、ひとりでは本当に何もできないから、マネジメント云々といったことを考える前からチームということは強く意識していた。(21:31)
高島 宏平氏
高島: 少し、参考になる感じになった(会場笑)。次はりんちゃん。(22:32)
小林: 1つ目の「感謝力」について言うと、先ほどの不完全なリーダーという話に直結している。自分の限界や苦手分野を知って、そこをどんどん諦めてきた。だから、それを人にやってもらう。その繰り返しでチームができてきた。優秀な人ほど、「自分でやればもっとできるのに」なんて思いがちだが、そうじゃない。自分のキャパはどんなに頑張っても10。でも、そこでもう1人入ってくれた人がたとえ7でも5でも、足せば17や15になる。1人でやるより絶対に大きい。そのプラス5や7に心から感謝することが大事だと思う。冒頭でチームのモチベーションをどう保つかという問いがあったけれど、「自分はチームにとってクリティカルな一部だ」と、皆が思うチームほど強いところはないと思う。その意味で「感謝力」という話になる。(22:38)
高島: いかに我が事感のあるメンバーを増やすかが大事というのは、頭では理解できる。ただ、「もうちょっとしっかりやれよ」なんて思ってしまうときもきっとあると思う。そういうときは、どうやって感謝しているのだろう(会場笑)。(24:03)
小林: 2つある。まず、褒めること。「え、えぇ〜?」なんて思うような仕事にも、とりあえず「頑張ってくれてありがとう」と。「ちょっと時間がかかっちゃったけど、こんなに時間をかけてくれてありがとう」みたいな(会場笑)。とにかく、まず感謝を伝える。で、その後、「後はもう少しこうしたら、こういう結果になったかもね」と話す。褒めた後にもう少し頑張ってもらいたいことを言う。そんなコンビネーションになる。(24:27)
高島: それはありのままの感情というよりスキルという感じだろうか。(24:57)
小林: うーん…、両方というか。ただ、自分で手が回らないのは事実だから、「やってもらってありがとう」はそのままの感情だと思う。(25:05)
高島: ご自身の強みはどのようにして見つけたのだろう。(25:19)
小林: 私は社会人1年目でモルガン・スタンレーという投資銀行に入社したのだけれど、それまで自分の強みがぜんぜん分からなかった。数学も理科も苦手で、英語は得意だと思って留学してみたら英語もダメだったという(笑)。それなのにモルガン・スタンレーなんていう会社に入ってしまったものだから、円とドルを間違えたり桁を間違えたり、あれこれしでかしてボコスコ怒られていた(笑)。それで、1年目のエバリュエーションでは「君は本当にアナリストには向いていない」と。「ただ、コミュニケーション能力やマネジメント能力といったピープルスキルはありそうだから、10年ぐらい辛抱すればいつか芽が出るかもね」と言われ、「あ、そうなんだ」と思った。で、「このまま大きな組織にいたら10年間芽が出ないんだな」と思い、同社を辞めてベンチャーに入った。自分で気付いたのでなく教えてもらったという感じだ。(25:35)
それともう1つ、「楽観力」についてもお話ししたい。実際に今のプロジェクトを始めてみると困難や計算外の出来事ばかりだった。2008年に帰国してプロジェクトを立ち上げた時は2012年開校と言っていたのに(笑)、それが2013年になり、それでも開校できず結局は2014年に遅れた。苦難の連続だ。ただ、松下幸之助さんは「成功するまで諦めないこと」とおっしゃっていたけれど、まさにそれだけだと思う。「ああ、これは底だ。もうダメかも」と思う瞬間は何度も訪れるけど、絶対にそこで諦めない。「ここで頑張って辛抱すればいつか上がる。救世主が現れる」ということの繰り返しだった。そんな楽観力を持ち続けていたことが鍵だったと、今振り返ると思う。(26:49)
高島: その諦めない力というか楽観力は身に付けたもの? 元からだろうか。(28:06)
小林:基本的に能天気だったと思うけれど、プロジェクトを進めるうち、さらに能天気になってきたと思う理由がある。プロジェクトに関して言うと、最初の頃のハードルは小さなもので、「これなら超えられるかな」という程度だった。「許認可のペーパーがこんなにあるけど書けるかな」と思っていたら、誰かボランティアが入ってくれるとか、その程度のハードルだ。ただ、そのうち、今度は「5億円足りない」なんていうふうに、だんだんハードルが高くなっていく。でも、さらに辛抱していると救世主がやはりまた現れてくれて、そのハードルをチームで超えてきた。そんなふうに、「また超えられた」「あ、また超えられた」ということを繰り返すうち、私だけじゃなくチーム全員に、「我々に超えられないハードルはないんじゃないか」なんていう楽観力が伝播していった。(28:13)
高島: そういった、ある意味で都合の良い思い込みは大事だと思う。では、田村さん。グローバルな観点とは思えないような渋い言葉を2つ挙げていただいいた。(29:11)
田村: 実は来週、『頭に来てもアホとは戦うな! 人間関係を思い通りにし、最高のパフォーマンスを実現する方法』(朝日新聞出版)」という本を出す(会場笑)。(29:32)
高島: 戦いまくっている田村さんからそんな言葉が出ると思わなかった。(29:42)
田村: (笑)。私自身がアホと戦う最悪のアホで、アホと戦っても結果が出ないと学んだからだ。永田町時代の反省も含め、今、世界のリーダーたちを見ていて思うことがある。「忍」も「平」も同じだけれど、これは英語で言うところの‘consistency’。波がない状態が大切だ。大西さんが言われた通りで、死んじゃダメ。ピークは後ろに持ってきたほうがいい。どこかで終わっちゃうとか引退するのでなく、死ぬまでリーダーでいること。ネルソン・マンデラやリー・クアンユーが良い例だ。リーダーについていく人にとってもリーダー自身にとっても、それが一番幸せな形だと思う。スティーブ・ジョブズは大変な激情家だったという。そうなるとストレスを浴びて50代で亡くなってしまう。彼の夢はiPhoneで終わらなかったと思うし、無念だったのではないか。やっぱり長生きして長くリーダーをやらないと本当のイノベーションは起こせないと感じる。坂本龍馬だってそうだ。あんなところで死んじゃいけなかった。まだ夢はあったと思う。(29:48)
だから、一貫してアホとは戦わず敵をつくらず、アホをうまく持ち上げ、アホを利用してリベンジする。それが一番の倍返しになる。アホは上にも下にもいる。アホしかいない(会場笑)。日本はアホが権力を持っている(会場拍手)。アホは結託してデキる人間を潰すから。それが日本だ。彼らと議論して公衆の面前でぶった切っても憎まれるだけ。やられたフリをすることだ。感情に任せて喧嘩せず、アホをうまく利用する。これは2500年前、孫子の兵法にも書かれている。戦わずして勝つ。(31:38)
高島: こんなに「アホ」という言葉が出てくると思わなかった(会場笑)。ただ、今のお話は「分かる」と「できる」との間にギャップがあると思う。つい感情が高ぶるときはある。それを頭で理解したとして、どう体現していけばいいのだろう。(33:21)
田村: それも本に書いてあるけれど(会場笑)、素晴らしい質問だ。まず戦ってみること(会場笑)。それで、いかにつまらないかを学ぶ。議論に勝ってもスカッとするだけ。それで逆に敵をつくったり、ポジションをもらえなかったり、思ったことが実行できなかったりする。そんな風に、スカッとすることと引き換えに失うものがいかに大きいかを実感したら、もう戦わなくなる。だから早く戦ったほうがいい。ポジションができてから戦ってそれを失うとなかなか取り返しがつかないけれど、皆さんぐらいの年齢なら思い切り戦えばいい。高島さんのおっしゃる通り、痛い目に遭ってみれば分かる。大西さんだって弾がかすったことはあるかもしれないけれど、その痛みが分かったら弾を避けるようになる。当たったら一撃で死ぬような時にケンカしちゃいけないけれど、当たる前にケンカしておくことは大事だと思う。取ることのできるうちにリスク取り、いろいろな転び方や転んでからの立ちあがり方を覚えておくほうがいいかもしれない。(33:52)
高島: 皆さん、来週月曜朝の出社時にやることが1つできた。皆さんの周りにいるアホと戦う(会場笑)。それで虚しい思いをしてください。さて、次の質問に移りたい。チャレンジの中身がどんどん大きくなっていくのだから、チームも強くなっていかなければいけないし、リーダー自身も成長しなければいけない。そこで、ご自身のリーダーシップや実力を高めるためにどのようなことが有効だったかということもお伺いしたい。あるいは、そのために普段どういったことを意識していらっしゃるだろう。(35:22)
小林: 意識してやっていることは、実はあまりない。ただ、ポジティブなものについてもネガティブなものについても、周囲からのフィードバックはもらえるよう強く意識している。もちろん、これこそ「言うは易く行うは難し」だ。リーダーにネガティブなフィードバックをする人はそうそう出てこない。でも、信頼できる人からオープンな場で、「これはこういう風にしたほうがいいのでは?」といったフォードバックをもうらことは大事だと思う。で、その指摘が正しいのなら、「間違っていました」と、きちんと認める。それで改善していくとフィードバックも結構出てくるようになる。実際、私自身はいろいろなところで迷うし決断できないほうだから、多くの人に意見を聞く。そうしていくうち、「あ、この人はフィードバックを必要としているんだな」と、皆が思ってくれる。だから今もたくさんの人に「あれを直せ」「これを直せ」と言われながら(笑)、日々仕事をしている。(36:34)
高島: ネガティブなフィードバックはもらう側も体力を使うと思うけれど。(37:44)
小林: 最初はパーソナルに受け取っちゃうし、私自身が否定されているように思いがちだ。そこで、「そうじゃないんだ。この人はプロジェクトを良くするために言ってくれているんだ」と思えるようになるまでには、実際のところ、時間がかかった。最初は「何を言ってるの」なんて思ったりした時もあったし(笑)。(37:50)
高島: リーダーシップというのは人格とスキルが混同されがちだ。何かできない時、人格まで否定されているような受け止め方をしてしまいがちになる。(38:15)
小林: たとえば、もう、なっがいメールで(笑)、「あなたが直さなければいけないポイントは5つあります」なんて書かれ、それで私もカーっとなって、「あなたが言っていることが違う理由は4つあります」なんて返していたけれども(会場笑)。田村さんと同じだ(笑)。それで戦いまくっていたけれど、互いにカーっとなって終わるのは不毛だと気付いたし、私もそれを本にも書いた(会場笑)。最近はそういう時、すぐに返事をしない。一晩寝て、朝起きて、それでも忘れられないからもう一晩寝る。それでも夢に出てくることがあるけれど(笑)。で、3日ぐらいしたら電話で話すか会って話す。それでようやく冷静になれる自分が、最近はいる。(38:32)
高島: ここでもアホとは早めに戦うべきという理論が証明された(会場笑)。田村さんはどうだろう。(39:29)
田村: これからは激動の時代だ。高齢化もグローバル化も進むし、テクノロジーの進化によって、たとえば人口知能が我々の仕事を奪う可能性もある。だから僕は人間として…、リーダーとしてでも良いけれども、自分との対話によって自分の優先順位をしっかりつくっておくことが一番大事になると思う。「自分の基準はなんなのか」と。お金がなければ起業もできないから、「俺はお金だ」でもいい。真理の追究でも、家族でも、「信頼を得る」でも、「世のため人のために生きる」でもいい。とにかく、その優先順位がはっきりしていないと決断できない。皆さんだってそうだ。たとえば会社に属するか、あるいは起業するかといった決断がある。だから、「この順番で譲れない」ということを、自分自身との正直な対話のなかで確立しておく。そのうえでフォーカスしていけば、自然に決断もできるようになると思う。(39:49)
なぜこう考えるようになったかというと、もう僕の年代になると大親友で亡くなっている人が出てくるから。素晴らしいことをして素晴らしい業績を上げながら、道半ば、病気で亡くなったりしている人たちを見て、「僕が最期に持っていけるものはなんだろう」と考えるようになった。お金はもちろん持っていけない。「じゃあ、名誉かな?」とか。そこで、「僕はどういう気持ちで死ぬのかな」と想像すると、やっぱり最後は「納得」しかないんじゃないかと思った。自分が納得している気持ちを最期に持つことができたら、それが一番大事だと。「じゃあ、納得ってなんだ?」というと、自分の優先順位に合った決断ができたかどうか。自分と本音で対話した結果、それが見栄なら見栄でいいけれど、それなら「見栄だ」と決断するまでは見栄なんか放っておくほうがいい。(41:18)
高島: それを具体的な作業レベルに置き換えるとどうなるのだろう。たとえば半年に1度ひとり篭って考える日をつくってみたり、あるいは田村さんは移動が多いだろうからその時に考えてみたりするのだろうか。(42:22)
田村: 誰にでも大事な決断はあると思う。お金を使う時、誰かと縁をつくる時、あるいは誰かと縁を切る時など。そんな時、自分との対話がある。あと、移動の際は実際にそういうことをよく考える。たとえば飛行機で映画を観ていたりすると、少し疲れた時、スクリーンに映った自分の顔を見ながら、「お前、何がしたいんだ? 本当にそれでいいのか?」となる。気持ち悪くも風呂の鏡に映る自分と対話しながら、子どもや奥さんが入ってきてびっくりするとか(笑)。とにかく、ひとりになる時間をつくるというのはリーダーにとってすごく大事だ。よく思うのだけれど、日本の総理は日程が厳し過ぎる。オバマさんは1日で最大5組ぐらいにしか会わない。ところが安倍さんを見るとどうだろう。首相動静に書いてあるのは半分ほどで、本当はあの倍ぐらい会っている。地方分権から経済から教育まですべて総理が担当だから。本当に決断できるのかなと思う。僕が秘書官ならあれほど人に会わせない。「さくらんぼ女王」とか、そういう人にまで会うでしょ? リーダーは自分ひとりの時間を持つ必要がある。オバマさんはちょっと持ち過ぎで、だから考え過ぎて何も行動を起こさないんだけれども、ひとりの時間を適度に持つというのはすごく大事だと思う。(42:42)
高島: 優先順位を決める、決断するといったことをしなくても、人は意外と日々幸せに生きていくことができてしまう。だからこそ、無理矢理にでも考えたりする時間を取ることが大事になるというお話だと思う。(44:28)
田村: そう思う。日本企業のサラリーマン経営者の方に聞くと政治家と似ていて、冠婚葬祭にばかり行っている。アメリカの経営者はそこに担当者を置くし、本当にお世話になった人以外は絶対に自分で行かない。あとは沈思黙考だ。今、アメリカではコンサルタントの代わりに哲学者を連れてくるのが流行っている。哲学者と対話しながら自分の考えをブレイクダウンしていくわけだ。そういう作業は大事だと思う。(44:43)
高島: 大西さんはいかがだろう。(45:17)
大西: 結果を出すリーダーシップという意味であれば、長生きすることだと、最近気付いた。自分は40ぐらいで死ぬのかなと思っていたからあまり気にしていなかったけれど、周囲を見ていると、そこそこの人でも長生きしている人は成功したと言われる。まあ、長生きできるかどうかは結果論だけれど、たとえばネットでいろいろ繋がることによってストレスを溜めるという人もいるようだ。それなら、それらを切ってどこかへ行って、まったく違う環境でリフレッシュするというのも、時には大事だと思う。そうして先進的なアイデアを、それこそ地球の裏側でもどこでもいいけれども、どこかで仕入れて帰ってくる時間というは必要な気がする。(45:26)
高島: リーダーとしてぶつかる問題の難易度はどんどん高くなっていくと思うけれども、大西さんはそれを基本的にすべてオンジョブというか、とにかく実際の問題に向き合いながら全力で解いていくという感じなのだろうか。あるいは、どこかで知識を仕入れたり、何かの学習をしたりしながらやっていくのだろうか。(46:24)
大西: 後者だと思う。「捨てる神あれば拾う神もあるだろう」なんて思いながら、楽しんで勉強している。絶対に突破できる道がある筈だと思いつつ、「ああでもない、こうでもない」と、それこそトイレでも風呂でも考えていることがある。(46:42)
高島: 勉強というのは、具体的にはどんなものになるのだろう。(47:00)
大西: 移動中に本を読むというのはある。あと、まったく馴染みのない環境へわざと飛び込んでみるというのはやっている。名乗らず、ぽっと入ってみる。(47:05)
高島: たとえばどういうところに?(47:22)
大西: ヘリコプターの教習所にいきなり行ってみたり(会場笑)。「ヘリコプターって、いいな」なんていう冷やかしだけれども。ただ、たとえばそこで、「あ、日本人って基本的にアビエーションが弱いな」と気付いたりする。国境なき医師団はアフリカでもばんばんの飛行機を使うのに、うちは…、日本の団体としては使っていたほうだけれど、航空というか、空を飛んで空間を広げるという発想がまったく弱かった。震災前、そこに気付いていて良かった。それ以前は火山弧である日本列島でヘリが大変有効に使えることをあまり認識していなかった。でも、演習でいろいろ使ってみたら、「やっぱりすごいな」ということで震災前にヘリを用意した。だから震災時も翌日から対応できたわけだ。ぜんぜん違うところに自分を放り込んでみるのは面白いかもしれない。(47:23)
高島: 少しだけ、関連のあるところに行くわけだ。(48:32)
大西: まったくない時もある。会場の皆さんがヘリ教習に行っても、そのうち何人かは空からの俯瞰図を見て何かしら考え方が変わるかもしれない。(48:34)
高島: 続いて、今度は3人に異なる質問をしたい。まず大西さんには戦時に結果を出すリーダーシップと平時に結果を出すリーダーシップの違いについて、そしてりんちゃんには母親になってからリーダーシップに違いが生まれたのかどうかを伺いたい。で、田村さんはご自由に喋っていただけたらいいのかなと(会場笑)。(48:56)
大西: 極論を言うと、リーダーシップが必要なのは戦時だ。平時であればリーダーシップなんて本当はあまり必要なくて、調整力さえあればいいのかもしれない。ヒマラヤ遠征隊を見ていただくと分かる。基本的には隊長ひとりで決めて、皆はそれに従う。圧倒的に能力が高いやつの決定に従って、それで10回のうち3回は間違うかもしれない。ただ、皆で民主的に話し合って決めていると10回のうち5回間違う。だから傑出した能力を持つ1人に意思決定を委ねる。「ちょっと間違ってもいい」というような環境なら民主的に話し合っていても問題ないと思うし、結局、皆さんが置かれる環境によってリーダーシップの形は変わるのだと思っている。(49:38)
高島: 戦時にチームとして良いパフォーマンスを出すため、平時にやっておくべきことは何かあるだろうか。(50:48)
大西: 戦争の話なら、予測して、準備して、対応するという、それだけ。で、その予測が難しい。未来を予測するのは一番難しい作業だ。ただ、特にリーダーは想定外を想定してください。想定内のことは、優秀なチームなら絶対に誰かが想定も準備してくれる。リーダーが考えるべきことは想定以上のことが起きた時にどうするか。それが何かを考えていないと、戦時にそれが起こった時、全員ミンチとなる。(50:56)
小林: 母親になってからは、「何をやらないか」を決めることが強く求められるようになったし、そこが一番大きく変わった。6年前に帰国してこのプロジェクトにたずさわった私は、5年前に1人目を妊娠し、昨年2人目を出産した。「この大事な時に何を考えとるんだ?」と皆に言われながら(笑)。で、6年のうち前半3年ぐらいはバランスもよく分からず、土日の仕事にも夜の会食にもすべて出ていた。それで主人から「ええ加減にせえよ」と。18歳の頃からずっと付き合っている主人に、「結婚生活について少し考えたい」と、その時初めて言われ、それがいろいろと考え直したきっかけになった。それで「どうしよう」と悩んでいた時、長谷川(閑史:武田薬品工業 代表取締役取締役会長CEO)さんに相談したら、「僕は10時以降に仕事なんてしないよ」とおっしゃる。毎晩10時には寝て、毎朝4時に起きてトレッドミルをこぎながら新聞4紙を読むそうだ。「すごいな」と(笑)。ただ、長谷川さんほどの人にそれができるなら、私ごときの仕事量で同じことができないわけはないと思った。それで今、夜は10時に子どもと寝る。それで4時に起きて、7時までに答えられるメールにだけ答えるというふうにした。そうしたら夜は子どもといることができるようになったし、週末仕事も基本的にはほとんど断るという形でメリハリをつけることができるように、ようやくなってきた。(52:26)
田村: 「想定外を想定するのがリーダーの務め」というのは、本当にその通りだ。これからの時代、想定外のことしか起こらない。一番深刻なのは高齢化と人口減少だ。どこで何をしていていようが、皆さんも大きな影響を受ける。僕は世界で最も高齢化が進んでいる鳥取の出身だけれど、とにかく高齢化と人口減少によってグローバル化は必然になる。テクノロジーの進化についても同じだ。置き換えられるのは自動車の運転やものづくり現場の単純労働だけじゃない。人工知能の能力を考えると、「彼ら」が感情を持つようになり、いずれ人間よりもはるかに高度な判断ができるようになる。そこで、「人間にしかできないことは何か」と、20年以内に問われるだろう。しかも、これは想定内のこと。想定外に早く起きるかもしれない。(54:31)
経済予測というのは難しく、ほとんど当たらない。しかし人口予測は算数だ。絶対に当たる。そこで今後、もし日本が外国人を入れず日本人だけでやっていくとすると、恐らく2100年に人口は3700万人を下回る。しかもその半分近くが高齢者だ。財政こそ破綻しないけれど、皆さんの年金や社会保障や医療保険はとんでもないことになる。また、人口減少でパイが減るし、高齢化でモノも買われなくなる。それが20年以内に東京で、ものすごいスケールで起こるようになる。だから今後は国内市場だけ見ていると、経済縮小と国民負担の増加というダブルパンチで、本当に、とんでもないことになる。懸命にお子さんをたくさん産んでくださるりんちゃんのような人はありがたいけれども、それでも間に合わないのが実態で、1億人を維持するのは無理だ。(55:42)
東京は巨大な人口減少装置。若い女性が仕事を得てどんどん東京に来ている。また、これは批判じゃないけれど、現実として平均初婚年齢が東京では32歳ぐらいにまで上がっている。そうなると、どうしても少子化が進んでいく。独身は楽しいし、相手を選ぶ目もさらに厳しくなるから。それで全国の若い女性を東京が吸い上げ続けると、東京は当分大丈夫だけれども内需は20年で枯渇すると僕は考えている。従って、どんな会社であろうがグローバル化は必然だ。エサのあるところへ獲りにいかなきゃいけない。国内に留まって円だけで給料や資産をもらっておくのは非常にハイリスクだと思う。想定内でもそれぐらいはもう間違いなく起こるということだ。東京や日本の心地良さは今後大きく変わり、残念ながら心地悪いところになっていく。それが分かってから行動を起こすのはリーダーじゃない。点が1つの時、傾向を読むのがリーダーだ。点が2つや3つになったら傾向線は誰にでも描けるけれど、ビジネスと政治は先手必勝だ。点が1つの時に…、まあ、すでに点は何個も見えているけれど、とにかくそれをどう乗り越えるか。グローバル化しかない。また、テクノロジーの進化を味方にするか敵にするかでも、我々の人生は大きく変わってくると考えている。(57:24)