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日本GE安渕聖司氏×Civic Force大西健丞氏×日本戦略支援機構・田村耕太郎氏「世界で戦う武器を身につけよう」前編

投稿日:2013/10/07更新日:2021/10/19

「回転ドアを作りたい・・・僕の武器は“ずるさ”、そして日本人であること」(田村)

田中慎一氏(以下、敬称略):本セッションのテーマは「世界で戦う武器を身につけよう」。グローバライゼーションという波のなかで皆さんがどのように戦い、勝ち抜いていくかという議論だ。今日は各分野で世界を舞台に戦い、自らの武器を磨き、そして勝ち抜いている方々にお集まりいただいた。「俺にも言わせろ」ということで私も参戦したいと思っているが(会場笑)、最後の30分は会場の皆さんにも参戦して欲しい。そしてどんどん語り合うなか、パネリストの方々による生のお話から皆さんが何を持ち帰ることが出来るか。人生は短い。この75分を真剣勝負にしよう(会場拍手)。(03:15)

まずは自己紹介を兼ね、世界で戦う御三方がどういった武器をお持ちなのか、そして何故そういう武器を持つに至ったのかを伺っていこう。では田村さんから。(03:46)

田村耕太郎氏(以下、敬称略):今は日本戦略支援機構という組織をつくっており、そこで「回転ドア」をつくりたいと思っている。私自身は政治の世界にもいたし、経営者もやっていたし、学会にもいたが、そうした異なる分野を横に繋げる人がいないと感じていた。特に現在の政治は課題が複雑化し、課題設定やその解決が難しくなっている。そうした状況下では少し違う世界に行ってみて、そこからまた政治の世界に戻るような動きが必要になると考えたためだ。その土台をつくりたい。(04:50)

私はランド研究所とシンガポール国立大学にも所属しているが、回転ドアを世界で最も上手く構築している国がアメリカとシンガポールだと思う。ランド研究所は規模のうえでも世界最大級だが、クオリティという点で見ても、たとえば29人ものノーベル賞受賞者を輩出している。そこにはやはり政府・民間・学会等、あらゆるところから人間が来ている訳だ。シンガポールも同じ。各分野の人材がシンガポール国立大学を一度経由し、そしてまた違う世界に出ていく。我々の組織ではこの2機関とも連携して、日本にそういった環境をつくっていきたい。(05:33)

私自身は最初に投資銀行でM&Aを手掛けており、次に新聞社の社長を務め、その後政界に入った。今はアベノミクス云々と言われているが、6年前の安倍政権でもアベノミクスは掲げられていた。そこで私は当時、内閣府の経済・財政、金融、再チャレンジ、そして地方分権という4部門で政務官を務めていた。(06:06)

当時はアベノミクスのへそが金融市場のグローバル化ということで、世界を一周して各国の金融市場も廻っていた。ニューヨーク、ボストン、ロンドン、パリ、アブダビ、ドバイ、シンガポール、香港、そして東京へ戻るツアーだ。そのなかで日本市場のプレゼンテーションを行っていたのだが、私自身はその道中でさまざまな知己を得た。政治の舞台を一度降りたあともそこから色々な付き合いがはじまっており、それでシンガポールとアメリカの組織にも入った訳だ。(07:20)

今回のテーマについてだが、私自身も似たようなタイトルの本を出している。『君は、世界がうらやむ武器を持っている』(大和書房)という本だ。ただ、今回のテーマ設定をいただいて「俺の武器って何だろう」と考えてみたのだが、分からなかった。人に教えようと言っている割に、だ。それでカミさんに聞いてみたのだが、「あなたの武器は“ずるさ”」と言われた。僕もそう思う。「自分をより大きく見せる」、あるいは「同じ土俵で戦わない」といったところだと思う。要するにポジショニングを上手にとるようにしている。ただ、最大の武器は…、今日は事前の約束を破ってパワーポイントをつくってきたのだが…。(08:18)

田中:事前に「プレゼン資料は使わないでおこう」という話になっていたが、昨日、不意打ちのごとく資料が3枚送られてきた(会場笑)。(08:25)

田村:その辺がずるい。ルールを守るのが日本人だが、ずるさが大事だ。何が言いたいかというと、日本というのはすごい。僕の最大の武器は日本人であることだ。日本にいて思うのだが、日本人の悪口を最も上手く、天才的に言うのは日本人だ。マスコミだけでなく日本人自身も同じだ。「駄目だ、駄目だ」といつも言っている。(08:57)

よくアメリカのシンクタンクはあらゆる要素を加味したうえで総合的な国力分析を行うが、日本人は切り貼りで比べてしまう。「アメリカに比べるとベンチャーが生まれづらい」、「シンガポールに比べて政府の効率が悪い」「スウェーデンと比べて社会保障が薄い」「韓国の方が企業に勢いがある」等々。しかしそんなパッチワークの合成国家はない。トータルの国力で見ると日本はまだ圧倒的に世界2位。2013年のデータであって10年後は分からないが、今のところは世界第2位な訳だ。(09:50)

だいたい人間というのは不幸に敏感で、幸福に対して鈍感だ。不幸はすぐに分かるが幸福に対する感謝の気持ちは持ちにくい。それが人類というものだが、日本人はおしなべてその傾向が強いのかもしれない。しかし本当は日本人に生まれただけで、日本人のパスポートを持っているだけで、もう金メダルだと思う。(10:08)

エピソードをひとつ紹介したい。先般、ロシア・フォーラムという会議に参加した。これはダボス会議とほぼ同じメンバーで行われる国際会議だが、当地に飛行機が着くなり同フォーラムの随行者に「とにかくイミグレーションまでダッシュしてください」と言われた。中国人に先を越されないためだ。日本人のパスポートであれば30秒〜1分で済む入国審査だが、中国人相手となると3〜4時間の嫌がらせが続く訳だ。(10:53)

何故ならロシア人は中国人に、歴史的に嫌な目に遭っているから。また、ウラジオストクやハバロフスクといった極東ロシアには現在710万人のロシア人しかいないが、黒龍江省には1億2000万人もの中国人がいて、もう包囲されている。さらに言えば今は中国人がアフリカや南米でも台頭している。それで…、ある意味では勢いがあって良いのだが、やはり荒らしている部分がある訳だ。ただ、「日本人は違う」と言う。「信用出来るし大人しいし、空気も読むしお金もあって約束も守る」と。それで相対的に浮上してきている。日本人であることは非常にラッキーだと言える。(11:27)

「タイトルで物事を判断してはいけない。本当は何をする人なのか、そこに真実がある」(安渕)

田村:また、アジアに出ている投資家や起業家も、「IPOを香港やシンガポールでやろうと思ったが、やはり東京にはお金がある」ということをよく言う。やはりお金は東京で集めたいと。とにかく外に出たら分かると思う。日本人であること、あるいは日本人のパスポートを持っていることは、グローバルで圧倒的に有利ということだ。(12:01)

それともうひとつ。「グローバルだ」と気張らないことも大事だ。人類自体がグローバルなのだから。アフリカで生まれた人類はユーラシア大陸を渡り、ベーリング海峡を越えて北米から南米最南端まで渡っていった。その過程で10万年かけて個体数を70億まで増やした。何故ならエサが無くなったら移動していたから。これは普通の話だ。市場を求め、国境を感じないで広がってきたのが人類だ。「リスクを回避する日本人はグローバルに向いていない」という向きもあるが、ユーラシアを超えて日本列島まで降りて来ただけでリスクテイカーだと言える。我々には冒険を経てここまで来た人類祖先のDNAが入っている訳だ。だから日本人にも出来ると思う。(13:04)

田中:武器を使う以前に、日本人に対する日本人自身の思い込みを捨てる必要があるというお話は大変重要だと感じる。(14:08)

田村:ハーバードに来ていた日本人のメディアの方が、「日本は首相がころころ変わって駄目だ」と言っていたことがある。すると中国の人が、「羨ましい。変えることが出来るだけいいじゃないか。我々は投票も出来ない」と言っていた。エジプトから来ている人は「うちは40年一緒だった」と(会場笑)。「駄目なら良い人が見つかるまで変えたらいい」なんていう話をしていた。そういう見方も出来る訳だ。(14:46)

田中:では次に、リアルな戦いに直面することもある大西さんに伺おう。(15:03)

大西健丞氏(以下、敬称略):紛争地域にいた期間が長いために「武器」と聞くとリアルなロシア製兵器等が頭に浮かぶが(会場笑)。敢えて長所ということでお話をすると、そうした経歴もあるために毎日が混沌という状況下で仕事をすることに慣れている点かと思う。まったく想定していないような変数が次々に顕在化するような世界では、最後は知力ではなく腹が据わっているかどうかが武器になると感じる。(15:55)

あとは自由であるという点か。結婚が40歳前後と遅く、子供もおらず、妻のほかには犬が5匹いるだけ。妻は僕より才覚があるから僕が死んでも勝手に生きていくだろう。だから自由に物事を決めることが出来る。特に小さい団体の責任者でしかないので「なんとでもなる」と。新入社員に「例えるならうちはどんな組織ですか?」と聞かれて、「うーん、特攻機かな」と言ったら絶句されたが、「最後は体当たり」と(笑)。(16:41)

田中:続いて安渕さんにもお願いしたい。(17:40)

安渕聖司氏(以下、敬称略):私は30年少々、ビジネスだけのキャリアを歩んできており、その6割前後を日本企業、4割強を外資系企業で過ごしてきた。元々、社会人になった当初から、グローバルというか、当時で言うインターナショナルに働きたいという軸があったためだ。「海外はどうなっていて、どんな人がいるのか」という大きな好奇心を抱いていた。また、しっかりと仕事で稼ぐプロフェッショナルになりたいという軸もあった。その二つを追い続けてきたキャリアになる。(18:34)

まずは「CEOって何をする人ですか?」という問いから考えていきたいのだが、タイトルで物事を判断してはいけない。皆さんも誰かの肩書を見たときは、「本当は何をする人なのか」ということを突き詰めてみて欲しい。そこに真実がある。そこで私がやっていることは主に五つ。ひとつ目は日本市場を評価し、ここでどういうビジネスをやっていくかという戦略の策定だ。二つ目はそれを実行したうえで結果を出すこと。そして三つ目は、我々が持つバリューを浸透させる仕事になる。で、四つ目はどうやってGEとGEキャピタルを日本の人々にもっと知って貰うか。広告・宣伝や私自身の登壇等、色々な形のブランディングになる。そして五つ目は人を育てること。これが一番大事だ。次代のリーダーを育てる。今はこの五つをやっている。(19:32)

この五つに重なる形で持っているもうひとつの責任が、いわゆる説明責任だ。私がやっていることを、たとえば自分の株主…、これはGEキャピタルそのものだが、株主に説明する。それからパートナー、社員、そして規制当局にも説明していく責任がある。そういうことをずっとやってきたなか、色々な形で自分に必要な武器が分かってきた。そのほとんどは失敗から学んだものだ。「ここでああいうことをやっておけば良かった」といった思いのなかから得たものになる。(20:02)

今日はそれを三つご紹介したい。ひとつは学ぶ力。それも、速く集中的に新しいことを学ぶ力だ。過去の知識に頼らない。今はどれだけ早く学ぶことが出来るかも重要になる。そのためには常に好奇心を持ちながら次に何を学ぶべきかを、出来ればクライシスが来る前に把握していたい。そして二つ目が自分の頭で考える力。では自分の頭で考えるにはどうしたら良いのか。本に書いてあることをそのまま実行しない。あるいは藤原(・和博氏:教育改革実践家)さんが仰っていたことを会社でいきなり実践しないとか(会場笑)。とにかく自分で一度考える力を養っていくという話になる。(20:57)

そして三つ目が伝える力だ。どうやって伝えていくのか。コミュニケーションの質や頻度に加え、それを伝えるタイミングも重要だ。メッセージの内容はもちろん、誰にどう伝えるのか、そしてそのためにどうしたら良いのかといったことを、思考錯誤を繰り返しながら考えていく。こうした三つの力を養っていく必要がある。グローバルで戦っていくためには、最低限、こうしたことが出来ないといけないのではないか。それが私自身、失敗を含めた色々な経験を通して学んできたことだ。(21:37)

田中:では次の質問に移ろう。今伺った武器を有効に使うにあたり、日本人であることはどれほど寄与しているのだろう。今度は大西さんから伺ってみたい。(23:26)

「コミュニケーションとはパワーであり、会話ひとつにも原理原則がある」(田中)

大西:僕の場合は紛争地帯にいることに多いため、「スパイでは?」と疑われることも多く、疑われると大変なことになる。ただ、日本人のクレディビリティは本当に高い。アメリカ人やイギリス人はすぐに疑われてしまうが、僕らは違う。太平洋戦争で激戦地にしてしまった一部地域や植民地支配をした地域の方々は別かもしれないが、基本的には長い歴史を通じて世界のほとんどでリスペクトされていると感じる。東南アジアでも同様だ。その意味では台に乗せて貰っているのかなと思う。(24:27)

何故かと言えば日本語で言うところの信義、つまり約束を守る人が多いからだ。また、たとえばインド人とスリランカ人とバングラデシュ人と日本人で1時間の会議をやるとしたら…、壇上の方々は別だが(会場笑)、日本人は恐らく30秒ぐらいしか話さない。ただ、逆にそれが評価されるときもある。僕らはそれを「マイナスだ」と言いまくっているが、喋って時間を埋めれば良いというものでもないと。(25:18)

田中:重要なポイントだ。日本人はどちらかというと言葉でなく行動で示すところがある。これは非言語のコミュニケーションだ。安渕さんはどうお考えだろう。(25:48)

安渕:日本人は気付きの力が優れていると思う。私は時々、「日本人の物差しは1mm刻みで、アメリカ人の物差しは1cm刻み」と言っている。「ここを少し微調整して、こういう風にやって欲しい」と言われたとき、日本人は大変細かい調整で物事を完成させる。細かい目で世の中を見ているためだ。複雑になっていく世の中で物事を進めていかなければいけないとき、その力は大きなアドバンテージになると思う。(26:45)

田中:気付きと気配りがあるということか。田村さんはどうお考えだろう。(27:03)

田村:たとえば今は質問を受けた訳だが、グローバルな舞台では自分に都合の悪いことに答えないという考え方もある。そこでまったく違う話、あるいは自分の得意な話をする訳だ。よく国際会議では「日本人をいかに喋らせ、インド人をいかに黙らせるか」と言われるが、グローバルでは僕ですらお喋りではないほうだ。今の大西さんぐらい控えめであれば逆に目立つ。ただ、国を代表するとき、あるいは背景に何かしら交渉目的があるときは相手を制してでも喋らなければいけないときがある。(28:01)

よく日本人は空気を読むと言う。実際、読むことが出来る。しかし世界で一流の連中も空気を読むこと自体は出来る。ただ、読んだあとの行動が違う。日本人は空気を読んで遠慮するが、世界の連中は空気を呼んだうえで、「相手はこう考えている。それならこう持っていくため、こういう発言をしよう」と考える。空気を読みながら自分のゴールへ持っていく貪欲さが世界にはある訳だ。(28:40)

日本人の細やかなところは抜群に素晴らしい。インド人で一番空気を読める人間よりも日本人で一番空気を読めない人間のほうが倍ぐらい読めると思う(会場笑)。ただし、世界を舞台に活躍する時に重要なのはそれをネゴシエーションの成果にまで持っていけるかどうかだ。遠慮せず、今後は読んだうえで「使う」という考え方が不可欠になると思う。(29:05)

もうひとつ。課題先進国であるという点も日本が有利な点ではないか。日本は公害を最も早く経験したが、中国や東南アジアでは今後、日本よりもさらにスケールの大きな公害問題が顕在化していくだろう。高齢化についても同じだ。世界人口は現在の70億から2050年には90億にまで増えていく。そこでピークを迎え、その後は高齢化に突入する。その先頭を走るのが日本であり、そのまた先頭を走るのが私の地元である鳥取だ。だから「鳥取は世界最先端の都市国家」とよく言うのだが(笑)、世界の未来は鳥取にあると思う。人口の4割が高齢化していくからだ。(29:45)

従って、グローバルで戦うのならハイパーローカルに進むというのもひとつの手だ。高齢化もグローバル化も進むが、同時にハイパーローカル化も進む。そこで日本の高齢化問題を掘り下げることによって何らかのソリューションを見つけたら、それをグローバルな商売として展開出来ると思う。現在の日本が抱える課題の多くは、世界がこれから抱えることとなる。それらを先に解決したとき、日本にいながらグローバルに戦える武器が身についているのだと思う。(30:24)

田中:日本人はコミュニケーションを単に仲良くするためのもの、あるいは意思疎通を図るものといったレベルで捉えている。しかし、コミュニケーションというのは実はパワーであり、会話ひとつにも原理原則がある。田村さんが仰っていた「質問とは別のことに答える」という手法はブリッジングと呼ばれる。相手の質問を利用してこちらの主張をぶつける手法だ。グローバルではほとんどのリーダーが使っている。(31:31)

そうした欧米あるいはグローバルで使われる力学は、当然ながら身に付けなければいけない。ただ、これから重要なのはそれプラスαの部分。どのようにして日本人としてのコミュニケーションに持っていくか。田村さんが仰っていた通り、同じ土俵で戦っても駄目。まずは相手と同じ土俵で戦える力をつけつつ、それを超える力をどのように養っていくかという議論もしてみたい。安渕さんはいかがだろう。(32:1)

安渕:私がエグゼクティブ・コーチングを受けた経験などを踏まえてお話したい。日本人は会議等で自分のエモーションを込めることにどうしても躊躇ってしまうところがある。しかし、何かをやりたいから意見を言う訳で、当然ながらエモーションを持っている筈だ。それらをどのように伝えるか、常に意識する必要がある。それが大事だからこそメールではなかなか伝わらないことも世の中にはある訳だ。感情とともに「自分はこのプロジェクトに掛けたい」といったことをメッセージに込める。日本人がそういうことをすると意外な感じが出てきて大きな武器になると思う。(33:23)

田中: “意外感”というのは大事だ。コミュニケーションの原理原則に「想定外をつくる」、という手法がある。すると相手が一瞬真っ白になるから、そこにメッセージを打ち込んでいく訳だ。日本人の感性というか、エモーショナルな部分には大変優れたものがあると僕は思う。これは非言語で繋がるし、もしかしたら非言語の領域は日本人にとってひとつの強みになるかもしれない。大西さんはどうだろう。(34:15)

大西:実際、日本人は非言語コミュニケーションが得意だと思う。言語でも挑戦していくうちに良くなるとは思うが、すぐに上達する訳ではない。一方、たとえば何か話をする前、相手の好みに応じてブラックにしたり、ミルクや砂糖を添えたコーヒーを振る舞うといったことはすぐに出来る。人には何かをくれた人に悪意を抱きにくいという心理的構造もあるし、それで‘yes’と言ってしまうこともあるだろう。そうした配慮は昔から、たとえば茶道のなかにもあった。それらを上手く使うだけで、グローバルな関係において言語に頼らずとも相手にかなり接近出来るし、理解もして貰えるだろう。まずはそこからやってみてはどうかと思う。(35:10)

田中:そうしたおもてなしの心とは、相手の視点に立ち、言葉にせずとも色々な形で働きかけるものだ。それをもっと戦略的な発信に使うことが重要だと感じる。(35:43)

安渕:日本にはおくりものの習慣もある。ものを送り、送られるという習慣。これにどんな意味が込められているのかを考えてみると、今のお話に繋がると思う。(35:55)

田村:田中さんが言われていた技術も身に付けたほうが良いと思う。中国はアメリカで行われる会議によく代表団を送っているが、そこに来る中国人はグローバルに必要とされるコミュニケーションスキルに関して大変高いレベルの訓練を受けていると感じる。冗談も上手く発音も正確だ。そうした会議では日本人がよく使う起承転結なんて受けない。結論、証拠、そして結論というのが世界のプレゼンテーションにおける流れが。中国の代表団はそうした訓練も受けていると思う。また、感情的にならず、中国に対する批判にはアメリカの問題点も絡めてジョークで返す。日本人の良さを生かすためにもグローバルな舞台における最低限のテクニックは学ぶべきだと思う。(37:22)

特に大事なのは期待値マネジメントだ。日本人が有利なのは、日本人が今のところあまり期待されていない点だ。日本人は「上手くプレゼンテーション出来ない」、「登壇しても紙を読んでいるだけだ」等々言われている。政治家や財界人も同じだ。ハンドモーションを使って面白いジョークを飛ばしつつ、結論から入るようなプレゼンテーションが出来る人は少ない。そんな人が出てきたらそれだけで受ける。(37:59)

「エリート層は古典に親しみ、ラテン語のフィデス、つまり信義を大切にしている」(大西)

田村:国の代表としてプレゼンしていたとき、それを強く感じた。だから僕はエクスペクテーションマネジメントを行った。たとえばドバイやアブダビへスイカを売りに行ったとき、僕はスイカ模様のスーツで行ったりしていた。全身金色のいでたちで金融会議に参加したこともある。それで現地の方々は皆、目を逸らしていた。「汚いものを見てしまった」みたいな(会場笑)。ただ、そんな風にして期待値を下げておきながら、そのあと普通の話を滔々と語ると「こいつはすごいやつかもしれない」という話になる(会場笑)。実際、そのあとの名刺交換では僕の前に長い列が出来た。「心に残った」と。(39:04)

大西:田村さんのお話には120%共感する。ハイパーローカリズムの話はまさにそうだし、スイカに関して言えば鳥取の名産だ。それでスイカの話をなさったと思うが、たしかに鳥取はその領域で最先端だ。僕も広島県の神石高原というところに住んでいる。高齢化率は鳥取の平均よりも高い44%で、限界集落だらけ。そういうところに住んで最先端を見ている。すると世界の何十年後かが見えてくる。田村さんはその辺をよく見ているし、鳥取のためにドバイまで行っている訳で、素晴らしいと思う。(40:10)

また、討論技術も当然身に付けなければいけないと思う。そうでないと世界ではあくどい人間にコテンパンにやられてしまう。ただ、たとえばヨーロッパ文化の源流はローマおよびギリシアであり、特にローマ文化の影響が大きい。特に古典をよく読んでいるようなエリート層は、基本的にはラテン語で言うところの「フィデス」、古来中国語で直訳するところの信義を最も大切にしている。上辺だけの討論で打ち負かすことは出来るが、説得は出来ないし同調も出来ないからだ。その意味で言うと、フィデスつまり信義をこちら側も理解していると、しっかりと伝えることも大事だと思う。ヨーロッパの古典を読んでおいたほうが良いと思うのはそのためだ。相手のそうした真髄的価値を掘り起こしたうえで話をすると、特に分かっている人は態度を大きく変える。(41:21)

田中:人間は信頼関係で結ばれた瞬間に動いてくれる。その意味で信義はひとつの鍵になるのだと思う。では、そろそろ質疑応答に入ろう。(42:09)

※後編はこちら

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