21世紀政策研究所・澤昭裕氏×国立環境研究所・藤野純一氏×リサイクルワン・木南陽介代表「日本は環境ビジネスで勝てるか」 

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2020年までに温室効果ガスを25%削減する——。昨年鳩山前首相が国連で行った演説。耳を疑った人もいれば、喝采を送った人もいるだろう。メディア、財界の反応も様々で、「苦しむ日本経済にこれ以上重しをかけるな」「環境問題で世界をリードできる」と、賛否両論が噴出した。

一方で、その後に行われたCOP15(気候変動枠組み条約第15回締約国会議)では、先進国と途上国の溝が埋まらず、京都議定書のように拘束力のある政治合意に、世界は至らなかった。

これから環境問題はどこへ向かい、何がイシューとなり、どこにビジネスチャンスが生まれてくるのか。

環境ビジネスのベンチャー企業「リサイクルワン」を自ら立ち上げた木南陽介氏は時価総額が2000億円に達したアメリカの電気自動車ベンチャー、テスラ・モーターズなどの例をあげ、「ITの時と同様、世界中でベンチャー企業が立ち上がり、環境市場のデファクトを握る戦いが始まっている」ことを強調、日本の技術が“ガラパゴス化”していることに警鐘を鳴らす。

一方で長年環境行政に携わってきた澤昭裕氏は、「人々の意識は変わりやすい。環境トレンドがいつまで続くかはっきりとは分からない」と環境ビジネスの危うさを指摘、「環境ビジネスは規制そのものから生まれてくるという特質を持つ。自らがルールメーカーになるぐらいの能動性を持つべき」と、ロビー活動など政治への働きかけが必要と説く。

政府のビジョンを実行可能なシナリオに落とし込む研究を担う藤野純一氏は「日本はこれまで政策を何一つ実行してこなかった」と政府の姿勢を非難する一方、「低炭素社会を目指すことが、技術の革新を生み、人々が快適な暮らしを営む社会を構想することにつながる」と話し、環境問題が私たちの社会を根本的に変革するチャンスであることを訴える。

法的拘束力のある国際的な合意はなくとも、環境問題を中心に大きく動き始めているビジネスと社会。ITではアメリカに後れをとった日本。どう戦略的に立ち振る舞えば、世界の動きをリードできるのか。起業家、元官僚、研究者。3者の視点から立体的に眺めることで、そのヒントが垣間見えるかもしれない。

政官民の視線から見る環境問題

田久保:最初にオーディエンスのプロファイリングをします。今日ご参加いただいた方の中で、どんな形でも、環境ビジネスに携わっている方は挙手をお願いします。10名弱いらっしゃいますね。直接は携わっていないけれども、会社で取り組んでいたり、これからやりたいと思っているという方はどれくらいいらっしゃいますか。同じくらいの人数ですね。今日は、木南さんからビジネスチャンスとしての低炭素社会のプレゼンテーションしていただいて、そこから話を広げていきます。その前に、澤さん、藤野さんから自己紹介をお願いします。

澤:今所属している21世紀政策研究所は経団連傘下の組織ですが、私自身はかつて経済産業省にいて、課長として京都議定書の批准に関わりました。それ以降、地球温暖化を中心に政策問題、あるいは国際交渉問題について提言してきました。民主党政権が打ち出したCO2の25%削減は、日本経済にとってマイナスなので、国際交渉を進める中でもっと慎重にやるべきだというのが私の立場です。

実は親が経営していたアパレル企業を継ぐことになり、ここ2年はそちらが本業になっています。どちらかというと中小企業の経営をしている立場から、環境ビジネスはどうなのかという視点も今日はお話しできると思います。

藤野:私は1972年に生まれました。民間シンクタンクのローマクラブが、地球環境に警鐘を鳴らす『成長の限界』を発表した年です。中学の頃、石油があと30年でなくなると言われていることに関心を持ったのが環境問題との出会いですね。東京大学の工学部電気工学科に進み、エネルギーシステムの分析をしました。「温暖化の問題が急速に進行するかもしれない」という危惧が自分の中にあり、縁あって2000年に、国立環境研究所に入って、ちょうど10年がたちました。国立環境研究所は環境省のシンクタンクの役割もあるので、CO2の25%削減をシミュレーション分析してサポートしています。澤さんは厳しい意見をお持ちですが(笑)、それぞれポジションがありますので。環境問題をどうビジネスチャンスに結び付けていくのか、皆さんが働きやすいルールをどうつくるかといったことに、強い関心を持っています。

環境ビジネスを知るための基礎知識

木南:私は1970年代生まれです。環境問題との出会いは、大学で環境政策を専攻する学部にいたことに始まります。1990年代後半、COP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)で京都議定書を議決した頃にちょうど京都にいて、非常に関心が高まりました。その後、外資系コンサルティング会社のマッキンゼーに入社しましたが、もともと環境に関する事業をやりたいという想いがあり、2年ほどで辞めました。リサイクルワンを創業したのが10年前のことです。いま行っている主な事業は、環境コンサルティング、プラスティックのリサイクル、カーボンオフセットです。

それでは5分から10分ほどこちらからお話しして、そのあとディスカッションに移っていきます。なぜ低炭素市場にビジネスチャンスがあるのかという、基礎的なところから入ります。

まず大きな構造変化を確認しましょう。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のレポートにもあったように、当たり前のようでもありますが、人間社会は、昔、環境問題に気付いていなかった。ところが、人口が爆発的に増え、一方では気候変動が起きる。「どうも自分たちに跳ね返ってくるぞ」ということに気付き始めるんです。これを科学で解明しようということで、1960年代、70年代ぐらいから、人類が動き出しました。調べてみると、「このままではまずい」ということが、いろいろ出てくる。科学が人間生活と気候変動の関係を捉え始めたんですね。そして今は、様々な制度をつくって環境問題を乗り超えよう、というフェーズに入ってきています。50年前、低炭素社会が世界のトップイシューになっているとは予測されていなかったでしょう。

2000年から2100年までの間、CO2の排出量がどう伸びていくか。先進国はほとんど伸びないものの、発展途上国は右肩上がりに伸びていってしまいます。地球全体が大変なことになることが、予測されているわけです。それを踏まえてどうするかということが起点になります。

G8では、2050年に温室効果ガス(GHG)を50%を下げるという目標を掲げました。中でも先進国は80%削減。日本は2020年に90年比25%削減すると打ち出しましたね。ようやくこれを法律化しようというところまで来ています。

ビジネスチャンスとして見るとどうか。環境に優しい製品が沢山売れること、人の意識が変わること。この2つがベーシックにある要素だと思います。ちょっと高いけれどもプリウス買おうか、あるいは太陽光パネルを設置しようかといった具合に、「環境にいいことは格好いい」という意識に、段々と転換してきています。

ここ最近は、政府の支援策も厚みを増してきています。これは決して一時的なものではないでしょう。「この方向に産業を伸ばしていく」という明確な国の意思表示と思います。購買層が拡大する。すると、技術革新が激しく起こる。結果として環境に大変良いものが、コストが安いという状況が生まれてくる。ここに非常に大きなビジネスチャンスがあるわけです。

どのくらいの規模で事業ができるか。ヨーロッパでできたEU-ETSという排出権取引市場のデータによると、2008年はおよそ30億トンの排出権が取引されています。債券や株と同じように取引されているんです。2009年にはだいたい60億トンくらい取引されたと予想されていて、取引額でおよそ9兆円になります。ヨーロッパではそれだけの規模の市場ができているわけです。日本にもアメリカにもまだありません。

日本に当てはめてみると、専門家の方々と意見交換したところ、現状ではまだまだ小さいんですけれども、2020年頃には50億トンぐらいの取引規模になる。取引額で5兆円規模になるのではないかと言われています。

環境市場のデファクトを握ろうと、世界中でベンチャーが立ち上がっている

低炭素関連のビジネスは非常にシンプルで、基本的に3つのサイクルです。「測る」「減らす」、そして「埋め合わせる」。「減らす」ためのものには、特に高いインセンティブが出る。当然ここがビジネスとしてメインマーケットになります。「埋め合わせる」も重要で、例えば、CO2を減らした分の価値を転売するマーケットができる。これはカーボンオフセットや排出権のトレーディングビジネスとして、いま起こりつつありますね。

低炭素市場での新ビジネスの事例を少し紹介したいと思います。先週、アメリカの電気自動車ベンチャーであるテスラ・モーターズが、ナスダック市場に上場しました。大変な注目を浴びていますが、現状は大赤字です。まだ年間1000台しか電気自動車を売っていないんですが、時価総額が2000億円つきました。この会社は2003年に創業したので、約7年のスピード上場ですね。2000年頃、ITが大ブレイクして、赤字会社が上場したりしていました。同じ現象です。いずれはかなりの黒字になるだろうということで、これだけの投資家がついているんです。アマゾンやグーグルがそうであったように、うまくいくかどうかは現状保証されない環境下でも、世界のデファクトをつくるような企業がきっと出てくると思います。

それからIT業界出身者が、自動車業界に転身する事例が増えています。なぜか。ガソリン自動車で部品数2万点だったものが、電気自動車では3000点とか5000点といった1桁違う部品点数で生産できるようになりました。簡単になった、技術のハードルが下がり、参入が容易になったということです。今回、自動車会社の新規上場は、アメリカでは55年ぶりでした。非常に象徴的なことですね。

太陽光パネルで世界一のシェアを誇るのが、アメリカのファーストソーラー社です。日本の太陽パネルメーカーで大幅な黒字企業はありませんが、ファーストソーラーはすでに年間500億円の利益を上げています。この収益性の高さに着目してください。何が収益性の高さを生んだかというと、ドイツやスペインなど欧州で、電力買取制度が電力会社に義務づけられたこと。それが明らかに後押ししています。同時に徹底的に低コスト戦略をとったということです。

中国のリチウムイオン電池メーカーBYDは、電気自動車もつくっています。市場そのものが中国では爆発的に伸びているので、10数年で一気に売上が5000億円の会社になっています。大変な変化です。

大企業の事例として、GE(ゼネラル・エレクトリック)のエコマジネーション戦略があります。2004年、2005年あたりからこういう構想があったと聞いていますが、例えばドイツで破綻した風車メーカーを買収して、それをアメリカや中国といった別のエリアで展開し、大きな収益を上げています。こういった世界の大企業が動くということは、環境分野の研究開発が非常に盛んになるということです。

排出権取引市場の中の事業者には、イギリスのAIM市場に上場しているエコセキュリティーズやカムコがあります。売上は70億や50億円規模ですが、利益が2億や3億円出るようになっています。日本では三菱商事などが成功していますが、ベンチャービジネスで十分できるだけの規模のビジネスですね。

ここまでの話をまとめます。当然のことながら政策は重要なところなので、そこの議論はします。ただ、せっかくビジネスチャンスがあるのだから、是非これに乗りませんかということです。競争は熾烈になっています。大資本が攻めてくるので、そこでベンチャービジネスを起こすのは大変なことではあります。資金の支援が必要です。人材については、このビジネスに参入したいと考えている有能な方は多数います。ですから、チャンスはあります。巨大な企業に立ち向かうのは無謀な争いかもしれませんが、ど真ん中を狙うのではなくて、周辺領域が広大に広がっているところに着目すべきです。横綱相撲を取れないのであれば、小資本でできる事業を行えばいいのです。

田久保:政策論ではCO2削減25%の善し悪しがありますが、今回はあくまでもビジネスチャンスとして、低炭素社会をどのように実現していくのか。そこにどのようなビジネスチャンスがあるのか。CO2が出ているところに実はビジネスチャンスがあるというお話からすると、国内だけの話ではなく、中国の巨大な市場に打って出た方がいいかもしれない。今の木南さんの話を受けて、澤さんは、気をつけるべきこと、行政との関係を含め、どう考えでしょうか。

環境ビジネスが抱えるリスクを把握せよ

澤:環境ビジネスの振興を目指して、産業構造審議会にひとつの部会を2001年に立ち上げました。環境ビジネスをプロモートしていくことが目的でした。10年前です。さらにその10年前から、環境ビジネスは「約束されたビジネス」と言われ続けてきました。ですが、私自身の印象からすると、このビジネスに参入するのは相当難しいと思います。

トレンドとしては周囲や社会が囃し立てますが、実際に事業を起こして収益が上がるところまで持っていって、世界的な企業になれるのは、いくつかの成功事例はあるけれど、とても難しい。ターゲット・収益目標を身の丈に合わせた形で始めないことには、支援する側も失望する世界なんです。

一番大きな問題は、需要者側、つまり消費者側が環境のためにどれだけ加算してお金を払っていいと思っているかという意識の問題です。いまは新エネルギー、自動車、あるいは家電の関係などに、エコポイントが付いています。これはたしかに後押しになっています。トレンドができてはいるんですが、それがずっと続くとは思えない。なぜか。政策に飽きるからです。3年ぐらいはトレンドがあるんですね。しかし「もういいんじゃないの」という人がそろそろ出てくるはず。

また、エコにお金を掛けている一方で、予算を待ち望んでいる人たちがたくさんいるんです。例えば、医療介護に携わっている人たち。ITもそうです。環境の次はおそらくクラウドなどのIT分野でしょう。そしてITも飽きられます(笑)。そしてまた環境に戻ってくる、かもしれない。次のトレンドを待つ5〜6年、事業としてどう持続していくかが問題になってくる。政府の支援が永遠に続くものとして、利益計算ししてはいけません。

もう一つ。法律上の規制、あるいは国際約束上の制約です。環境問題が特殊な点は、ビジネスが規制から発生しているということなんですね。規制をつくり出す力を自分が持っているかどうかが、ポイントになります。排出権ビジネスでいえば、規制ルールをヨーロッパではEUが持っていますが、アメリカではアメリカで検討している。日本も同様です。どの政府がどういうルールをつくるかによって、ビジネスがまったく違ってくる。

だから環境ビジネスに携わる人は、もの凄く大きなリスクに晒される。リスクを軽減するためには、自分でロビー活動をして、「こういうルールをつくっていくことがいいですよ」と指南する必要がある。規制があることを前提として事業を行うだけでは、能動性が足りなさすぎます。投資のタイミングをいつにするのか、サイズをどのくらいにすれば良いのかということも、規制の内容によって変わってきます。CO2の削減目標が25%か10%では、まったく違いますよね。そうした情報をいち早く察知することも必要です。報道を待っているようでは、お金をさっと失うことになります。そういうリスクがこのビジネスにあることを、注意点として持っていただいたほうがいいと思います。

田久保:木南さんは環境省といろいろ話をされていると伺いましたが、具体的にどんな動きをされているのか。ルールメーカー側に回ろうとしているのか、お伺いできますか。

木南:環境関連の監督官庁には、環境省と経済産業省があります。リサイクルや低炭素について彼らと話をしていて感じるのは、現場の情報がないんです。私たち民間サイドが現場の情報を届けることを、徹底的に行わなければなりません。現場が見えてないのに、政策を打たれることが、大きなリスクです。

それるから政策において困っているのは、玉虫色になること。立場や主張がA、B、Cの3グループあるとすると、それを足して3で割ってしまうんです。明確な1つのビジョンを示さないと、ベンチャービジネスとしては乗りづらい。この7月の参議院選挙で民主党が勝てば、3年間は確実に同じ方向に進むかと思うんですけれども、非常に不安定ですよね。去年も政権交代したときに、政策がほとんど止まってしまいました。そういった政情がビジネスに非常に影響してくるんですね。それがとても怖いと思います。ただこちらからの話を、監督官庁には聞いてはもらえます。伝えるのは自己責任です。

田久保:政策の話になると、温暖化対策のシナリオの裏側をつくっているのは藤野さんで、いろいろな提言を国立環境研究所からされていると思うんですけれども、今の課題についてコメントをいただきたいと思います。

藤野:澤さんがおっしゃることは、もっともですね。まず補助金頼みにならないこと。いわば麻薬なので、依存してしまうと中毒患者のようになってしまい、自立できません。それから、環境ビジネスという名目だけで戦わない。もともとの本業や、技術、コミュニケーションの能力など何かプロとしての根っこを持って事業を行っている人が、環境を打ち出してやるのはいいと思います。私の場合も大学院の専攻はエネルギーシステムの分析で、あくまでそれを根っこに、環境問題に取り組んでいる。しかし大学の環境学科に行くと、専門性がまったくない。環境というのは身の回りのこと全てを含む大きな概念ですから、扱う範囲もとても広くて、薄っぺらい。

政策の話ですが、国立環境研究所は独立行政法人であって環境省の部局ではないので、中立的な立場から、2010年、2030年、2050年、日本はこういう方向に行くべきだという、社会やビジネスのグランドデザインを常に議論する場をつくりながら、政策立案できたらいいと思って活動しています。

田久保:国としてどういう方向に持っていこうとしているのか、お話をしていただきたいと思います。

2050年は80%削減・・・バンジージャンプを回避し豊かな低炭素社会を目指せ

藤野:そもそも低炭素社会とは何でしょうか。私の定義では、生活に必要なサービスは発達させながらも、投入するエネルギーはできるだけ少なく、できるだけ低炭素なエネルギーを利用する社会です。富士山の尾根のラインのようにCO2を減らしていけば、低炭素社会が実現できます。

数字の多寡はありますけれども、鳩山前首相が出した目標は、2020年に25%削減です。2050年に80%削減という数字もあるんですね。先程、木南さんがおっしゃったように、G8の認識として先進国全体で80〜95%削減を共通目標としています。ホップ・ステップ・ジャンプという段階を踏んで、実現させなければなりません。2020年の「ステップ」である程度いいところまで行かないと、2050年はバンジージャンプになってしまうんですね(会場笑)。そういう意味で、25%から多少の揺り戻しがあったとしても、大きな方向性としては変わらないと思っています。

日本ではどこから CO2が排出されているのか。エネルギー転換、産業、業務、運輸などがある。それぞれのところで、木南さんがおっしゃったようにビジネスチャンスがあります。

2008年に排出量が下がりました。非常に有り難い。京都議定書を何とか守れそうです。これは、リーマンショックのせいで活動量が下がったからです。神風が吹いた。逆に言えば、それまで日本は一体何をしてきたんだろうか。炭素に価格を付けるような仕組みをつくってきたのか。残念ながら、排出量取引もない、炭素税もないのが、現状です。そこは我々の役目だと思っているので、何とか頑張ります。

世界の中で、日本の排出量は4%です。だから日本はそんなに減らさなくてもいいという議論もありますが、逆に言えば世界の96%を下げるお手伝いするチャンスもある。排出量の多い中国を説得するためには、まず日本で減らす必要があるのではないかと私自身は思っています。それを皆さんかどう思うかは自由です。

減らし方なんですけれども、例えば太陽光発電、自動車・交通流、住宅・建築物などがあります。例えば2020年25%削減という目標から試算すると、太陽光発電は現状の55倍、断熱住宅は新築の100%、そして既築も100%改修と、ハードルはとても高い。皆さんの生活に近いところも相当大きな変化をしないと、25%削減という数字は出てきません。大きな変化を誰かが起こして、それを積み重ねないと減らない。

そのときいくらお金が掛かるかという試算もしています。追加投資という考え方です。例えばハイブリッド自動車を買う。でも同程度の性能のほかの自動車と比べたときに、どれだけ余計にお金を払わなければならないか、全部積み合わせたものを追加投資と呼んでいます。2020年に25%削減しようとすると、10年間合計で100兆円必要なんです。年間10兆円です。誰が投資するのか。すべて政府がやるのか。炭素税2000円としても、12億〜13億トンのCO2で、税収2.4兆円〜2.6兆円です。それでは足りません。7兆円余りを何とか民間から持ってきて、ここに投資してもらわなければならない。これは分かっているだけの数字で、ほかにも波及的にインフラを変えるとかすると、またお金が掛かってきます。

一方で、そうして投資したお金の半分は、2020年までの間に、エネルギー費用の削減から回収できるという計算を我々はしています。さらに機器の中には2020年以降も動くものがありますから、2030年までのスパンでみれば、投資額はほぼ回収できるんです。いま日本のエネルギー自給率は4%です。化石燃料の値段が上がっているので、以前は年間5兆円、ないし10兆円程ほどの輸入代金だったものが、現在は20兆円を超えています。鉄鋼業の売上とほぼ変わらないぐらいのお金を、エネルギーの輸入と引き換えに出しているんですね。この輸入代金が減っていく。

いったん、「そもそも何のためにやるのか」という議論に戻りたいと思います。2050年の社会では、人口分布が逆三角形になります。70代から80代の人口が一番多い。こういう人口構造になるときに、どうやって我々が過ごしやすい国に変えていくかという全体のデザインの中に、低炭素社会を位置づけることも、とても大事です。

集中的に低炭素投資を促進し、2020年25%削減を目指すとともに、雇用創出にもつなげ、日本のグリーン産業を世界のトップランナーへ押し上げる。環境省がその中長期ロードマップこの3月にまとめましたが、副次効果が色々とあるんですね。LED、ゼロエミッション仕様の住宅建築物、高速鉄道などです。これらをアジアにどう売っていくか。国家戦略室の人と意見交換したら、この副次効果こそメインの効果ではないか。これをやって、日本のグリーン市場、世界のグリーン市場をつくることこそが成果ではないか、と言われました。

世界のグリーン市場という意味では、私はアジアを大切に考えています。日本の排出量はいま4%ですね。アジアは人口もCO2の排出量も世界の半分以上です。1人あたりの排出量で見ると、日本は10トン、中国は5トン、インドはまだ1トンです。彼らにも経済成長する権利はあるから、どんどん上がっていくでしょう。一方で日本は下げていく。アジアの排出量を、経済発展しながらもどうやって落としていくのか。そこが1つのチャンスだと思っています。

私は『低炭素社会実現に向けた12の方策』を本にしてまとめました。今日はその中で1つだけ紹介します。「快適さを逃さない住まいとオフィス」です。ここが今どうなっているかというと、環境省が中長期ロードマップを3月の終わりに出した後、経済産業省と国土交通省と組んで、建築基準法に則った基準を評価するという話になっています。規制を入れるんです。2020年の住宅は、すべて次世代基準を守るような流れになっています。これはみなさんの暮らしの快適さを確保するためでもあるんです。暖房や冷房の熱を逃さない建築物で、家の中の温度差がなくなれば、例えば高齢者の心臓に負担がかかる風呂と脱衣所の温度差がなくなります。もっと単純に、家やオフィスが快適であれば生産性があがります。家族や職場の団らんも増えるかな(笑)。

ここが低炭素社会のポイントです。安定した気候や資源節約・有効利用が大目的ですし、低炭素に向けた技術イノベーションと社会イノベーションを生み出すことも大きいでしょう。ただ、低炭素社会を目指すということは、生活者の視点にたった国土利用、都市計画につながるんです。安全・安心、快適な暮らしにつながる。これが大きい。ポジティブな未来を描くためのエビデンスを、私自身も積み重ねていきますし、皆さんと一緒に新しい社会を構想していきたいと思います。

田久保:東大の小宮山宏元総長が「課題先進国日本」とおっしゃっています。2050年に日本の人口分布が逆三角形になってしまって、75〜80歳くらいの人が一番多いという状況に陥った場合、本当にCO2削減が大きなイシューなのか。どういう世の中をつくっていくべきなのかというグランドデザインを描いて、そこに社会インフラの変化やエネルギー問題を織り込んでいくほうが正しいのではと思えてきます。この人口分布の変化に、ヨーロッパを中心とする先進国も突き当たるのだとするならば、日本がそういった面から世界に貢献できることもあるのではないでしょうか。

藤野:まさにそこだと思います。澤さんがおっしゃったように規制だけでは、人々の意識は変わらないし、みんなが変革に向かって動きだすとは考えにくい。エネルギー以外の価値、例えば健康的な価値、快適な暮らしをする価値、次世代を考える価値などを織り込みながら、さらにどう強いビジネスをつくれるかというのが、キーポイントだと思っています。

田久保:有難うございます。新興国が高効率なものをつくることを支援するところに、ビジネスチャンスがあると思うんですけれども、そういった事例は何かありますか。

やっぱりガラパゴス化している日本の環境技術

澤:私は2国間の排出枠(クレジット)構造を、政府に提案しています。CDM(クリーン開発メカニズム)は、先進国が、途上国で温室効果ガスを削減した分を自国の削減量にするメカニズムで、京都議定書で定められた国際的枠組みです。しかし、これがうまく機能していないと指摘されている。国連の事務局が調整し、クレジットの発生を認定していく仕組みですが、とても手続きが面倒で、ヨーロッパ系の人々やコンサルティング会社が大きな影響力を握っているという話もあります。審査が厳格過ぎて、申請してからの時間がかかり過ぎる上、却下される可能性も高い。手続きリスクが非常に大きいんですね。

2国間クレジット構想は、インドネシアやフィリピンなどで、新しい工場に切り替えていくプロジェクトや、何らかの改修工事をするような仕事など、そういうプロジェクトで発生するクレジットを、日本政府が独自で認定して、その技術と資金を提供した日本の企業に対してそのクレジットをあげる。

その後どうするかはいろいろな政策がありますけれども、例えば政府が買い上げるというやり方もあるわけです。いわば企業の技術提供版エコポイントです。私はグリーンマイレージと呼んでいますが、そういう構想を政策とセットで、ビジネスをつくっていくというやり方はあると思います。ここは政策をつくらないと、ビジネスのポテンシャルが顕在化してこない。まずは政策論を、藤野さんに頑張ってやっていただきたいですね。

もう一つ。エネルギーは原子力でも石油でもなく、石炭によって賄われているといっても過言ではありません。ドイツにしても中国にしてもアメリカにしても、5割以上、7割近くは石炭で発電しているんです。日本は2割5分程度ですが、これは特殊な状況です。石炭は無尽蔵というぐらいありますし、値段が安いので、石炭による火力発電はなかなかなくなりません。これをどれだけ効率的に燃やさせるかが、CO2の排出を減らす方法としては大きなパイを占めている。中国にも石炭火力で効率の悪いところがありますから、日本の効率的な高い技術を移転し、買ってもらうということが具体的なアイデアです。

ここからが実はポイントなんですけれども、日本の技術は非常に優れているがゆえにマーケットで売れないということが、最近になって分かってきました。値段が高すぎるんです。たとえば99.5%の確度のいいものを、99.9%まで追求する技術屋の意識があります。その0.4%を上げるために、もの凄く高価格になっているわけです。中国が欲しがっているのは、中程度中価格のもの。環境ビジネスは技術がいいから売れるわけではない。ユニットあたりの値段を考えなければなりません。

木南:全く同感です。ちょっと話はずれますが、日本は廃棄物を燃やす焼却プラントの技術が優れているんですね。この焼却プラントについて、タイに行って話をしたことがあります。「日本にはこういうメーカーがあって、こういう良いプラントがあるんです」と説明すると、向こうの反応は、「あー、もういいです」という感じ。見積書も出していない段階です。

「日本のものは高い」と認知されているからです。非常にこれはまずい。要は風評によって、オファーも来なければ見積書も出せない。認知を変えるためにも、あえてスペックダウンして安いものつくることが大事です。中国では、「30年前に日本で使わなくなった技術があるんですけど」と言って提示したところ、商談が成立した事例があります。CO2において日本にはたった4%しかマーケットがないのに、国内しか見ないでものをつくってしまうというのは、大きなリスクです。

田久保:私の友人が、三菱重工業という会社に勤めていました。発電プラントにCO2の排出装置を付けて中国に商談しにいくと、「それを付けると発電所の値段が倍になってしまうから、かわりに2つつくって」と言われちゃうんだよね、という話を5年ぐらい前に聞いたことがあります。そんな状況なのかもしれませんね。

ASEAN諸国と排出量取引の2国間協定を結べ

会場:2つ質問させていただきます。日本のCO2排出量は全体の4%ですから、大きな投資を国全体として行って技術開発をしようとする際、100%全体を見たうえで、そこで通用する技術プラットホームやビジネスを展開することが出発点だと思うんです。それを踏まえて1つ目の問いは、澤さんがおっしゃった通り、石炭火力をどれだけ世界で売れるかが最大の課題だと思いましたが、それ以外のところで重点的に技術開発すべきところはどこだとお考えですか。

2つ目の問いは、仮に強い技術プラットホームを持って世界中に売ることができても、例えば中国にタービンを売っても、その世代の技術はどんどん吸いとられていって、日本が先に進まない限りにおいては、5年後には中国に完全に抜かれるような状況に陥りかねません。米国、中国、インドにちゃんと乗ってもらって、先方でのCO2の排出削減に協力したら、日本のクレジットになるという国際的な枠組みがどのタイミングでできるのかということと、日本の技術が新興国にどんどん吸いとられていくこと。この時間競争になると思います。中国、インドを枠組みに乗せるのに、どれだけ時間かかるとお考えですか。あるいはそのための戦略をどういうふうに、組み立てていけばいいとお考えですか。

澤:この2つの質問は本質的で重要なポイントでしょう。ですから明確な答えはなく、みんなで知恵を出していくべき問いだと思います。そのうえで、まず1つ目の質問について。産業分野の工場を注視するだけでなく、発展途上国の生活水準が上がっていく過程で出てくる社会的課題を、日本がどうクリアしてきたかという政策のパッケージを移転していくことが考えられます。交通政策や家庭での省エネが典型です。途上国がつくる自主行動計画の策定を支援する。例えば新幹線を含めた高速輸送機関などを使いつつ、できるだけ低炭素な社会を構築していく手助けをする。そこで発生するプロジェクトに関与するやり方が一番だと思います。

もう一つ可能性のある分野は、木南さんがお話されたCO2の3つのサイクル、「減らす」「測る」「埋め合わせる」のうち、測るというところに日本にとってのビジネスチャンスがあると思っています。認証ビジネスです。例えばアパレルだと、中国で作っていても、一端日本を通って再輸出するだけでも付加価値が高くなるんですね。同じように、日本が技術を認証した、あるいは裏付けをしたということを、どうビジネスに展開していくか。私もまだ思い付きませんが、そこを何とか売ることはできないか。我々の世界では、測定・報告・検証可能(MRV)と言います。アメリカもそのポイントを国際交流の中で一番重要な要素として考え始めています。MRVをやっていくうえでは、必ず技術が必要になっていく。これを早めに日本が押さえておくというのが、大切でしょう。

それから2つ目の質問について。中国やインドを巻き込むのは、先にやってはいけないと思っています。日本はインドネシアやASEAN諸国をメインに、まず2国間協定を結ぶ。そしてアメリカも「REDD」といって、森林の保全など土地の利用形態の変化に伴うCO2の増減をクレジットとしてカウントする仕組みを、熱帯林を抱えるインドネシアと一緒になってやろうとしています。だから、アメリカも組み込んで、3国間のアグリーメントを結ぶ方向で考えていく。その中でクレジットは国連ではなく、日米両国の政府が共同で認定する。その認定する際の測る技術を、一緒に高めていく。それをどういう分野でやればいいかというと、先程言ったように交通政策を含めた社会の課題を捉えた政策に、プロジェクト付きで関与していく。こういうことが大きな戦略だと思っています。

技術・制度・行動・・・大局観を持ってビジネスチャンスを拓く

会場:国内クレジットを支援する仕事しています。現場の話をすると、規制が沢山ありすぎて、「どれに従っていいか分からない」というのが対象になった企業の方々の本音です。省エネルギー法(省エネ法)、地球温暖化対策基本法案、東京都の環境確保条例・・・。規制がこれからどういう方向になっていくのか、教えていただければと思います。

澤:政策経験者として言えば、これから規制の状況はなかなか解消しないと思います。まず省エネ法は通産省時代からありますが、オイルショック以降、「何とか日本は省エネを続けなければならない」とつくったエネルギー行政側の法律なんです。いま排出権取引法案をつくろうとしていますが、この法案が施行されるからといって、省エネ法は廃止しません。なぜか。省エネと温暖化対策は重なる部分もありますが、基本的にはエネルギー政策と環境政策と出自が違う。一本化すべきだという声があるのはもちろんですが、規制が二重に掛かる状態がしばらく続くと思います。

藤野:だからこそ、そこを打ち破らないといけないと思うんです。なぜ打ち破れないかというと、すべて官僚に任せているからですね。大学の法学部の教授が条文をつくってくれるのか。エネルギーや環境、温暖化の法案を皆さんのニーズに合ったものに作れる人が、誰ひとり見当たらないんです。知識を持ったプロフェッショナルを育成しなければならない。エンジニアばかり育てても、ものを売るルールをつくれる人がいないと、標準化を他国に取られて、CO2削減に頑張ろうとしている人たちを失望させてしまう。ここが非常に問題だと思っています。

それから、現場のニーズと政策立案者のギャップが常にあります。今回、中長期ロードマップをつくったとき分かったことは、誰も生活者には意見を聞いてない。現場にしっかり聞いて政策に上げる仕組みを、私たちは研究者としてつないで行く責務があると思います。逆にいえば、そこにもビジネスチャンスがあるはずです。

会場:貸しビル事業を行っています。我々のような事業者は苦しい立場に置かれています。例えばエネルギーを削減するために、電気関係を代えても、テナントの賃料は変えられません。投資に見合う回収は、まったく見込めない。例えば不動産業界では、これから施工する建物については、環境に十分配慮した場合、容積率を割り増しにするということが考えられています。ほかにも何か処方箋あれば、教えていただきたいと思います。

澤:テナント料に転嫁できないコストが掛かってしまうということですが、これは大きなポイントですね。事業者が負担することになるのが現状ですが、そこは課金のシステムを考えなければなりません。低炭素社会をつくるときには、炭素に起因するコストはエネルギーの最終消費者に転嫁されなければ、何も起こりません。むしろ、不当に損する人が沢山出てきます。環境税でも排出権取引でも、最終消費者に外税方式で必ず転嫁される仕組みをビルトインすること。これが制度設計の必要最低条件です。

会場:私はBtoBのケミカル薬品を販売しています。産業廃棄物(産廃)の総量規制があるので、その削減に貢献するような装置を売っていこうとしています。しかしそれをお客様に提案した際に、大きな問題があることが分りました。産廃を商売にしている人たちがいるので、そういった団体から圧力が掛かるケースがあります。ステークホルダー(利害関係者)を巻き込んで問題を解決できればいいと思うんですけれども、1企業が対峙していくのはなかなか難しいと考えています。そういったようなことに対して、国のケアがあるのでしょうか。

澤:産廃規制はリスクが付きまといます。だから国ももの凄く慎重に行うものです。ケアがあるのかというと、実はリサイクル法、リユース法のようなものを、個別の物品に法律を付けていくことしかない。自動車リサイクル法という法律がありますが、この法律が施行される前は、今おっしゃったような問題がいっぱいあった。しかしケミカル薬品が対象になる法律はまだありませんから、今できることは現場の事情を行政に伝えることです。行政がアンテナ張っているわけではないですから。

田久保:木南さん、藤野さんも、最後に一言お願いします。

木南:取引業者のチェックは、過去10年とても厳しくなっているはず。企業の自己防衛の話ですから、それは行政に届け出るべきだと思います。届け出ると警察情報と連動していますから、もし反社会的な団体が絡んでいれば、その会社はすぐに許認可を取り消されます。

今日いろいろキーワード出ている中で、標準化というものがありました。国内の産業、例えば交通、水、ガス、電気といったものがあって、このインフラを輸出をしようというときに、競争力があるのは民営化されているものです。例えばJRは国鉄から民営化されて、飛行機と競争していて、低炭素もしなければならないということで、強いインフラになっているはずです。水の分野はそうなっていませんね。公営なので、効率化されておらず、ノウハウも売るためのマニュアルもない。アジアの人が求めているのは、使い方や、使う運転員の教育方法だったりするんです。日本人は以心伝心の世界なので、もともとマニュアル化は苦手なんですが、マニュアルを組み込んだパッケージを売って行くことが大事だと思います。

藤野:私としては、ぜひワクワクする低炭素社会を、どんな形であれ皆さんと作りたいと思います。役割分担が重要です。「餅は餅屋」でまず、個別に能力を高め、それぞれの分野で頑張る。また、行政に対する文句もいっぱいありましたけれども、行政担当者にも頑張ってもらう。持続可能な低炭素社会はこれからの時代に不可欠で、皆さんがそのキープレイヤーになっていただけると思いますので、スクラムを組んで一緒に戦っていきましょう。

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