組織形態のデザイン 

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1. 組織形態のデザイン [骨格]

ここでは「開発・製造・販売」といった価値を生み出す一連の活動を、多様な製品や事業、市場や顧客層がある中で、どう切り分け分担していくかを考える。

組織形態のデザイン

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次のような例を考えてみよう。日本、アジア、アメリカといった市場に対して製品を供給している会社で、各国それぞれの営業部門がある。一方、製品開発と生産は日本で、製品別の「本部」が行っている。営業部門は各市場の顧客に合った製品を欲する一方、開発、製造部門では、全地域どこででも売れる最大公約数的な製品開発、一括した製造を行うことで効率性を高めようとする。

地域により求められる製品特性が大きく異なり、共通性が少ないのに、この組織形態で運営するとどうだろうか? おそらく営業部門は「開発・製造は自分たちの要望を聴いてくれない」と不満を持つだろうし、開発・製造部門は、各地域から寄せられる要望のどれを優先するのか、また開発や生産の方向性や力点をどうするのかといった課題に悩まされることになる。結果、頻繁に会議が開かれているにもかかわらず、開発・製造・販売のベクトルは一致せず、メンバーの意欲も低下していくだろう。各地域の顧客のニーズに関する情報も営業部門にとどまりがちで、開発部門の製品開発力が低下するかもしれない。

この状況を改善するためには、自然に各地域の異なるニーズに合わせた製品を生み出しやすい組織の形、すなわち「市場別」に組織を再編成し、その上で開発や生産をどのように全体で調整するかを考えたほうがよいだろう。

分業の原理を理解する

組織形態のデザインには幾つかの原理がある。まず理解すべきは「分業」の原理だ。分業には、ある仕事を「考える役割と実行する役割」に分ける縦の分業と、ある仕事の企画と実行を、同レベルで分担する横の分業がある。横の分業はさらに、全国を七つの営業地域別に分ける、製品種別に工場を分けるなど、対象によって分割する市場・製品別分業と、開発・製造・販売など、それぞれが異なる役割を分担し、複数の市場向けの業務をまとめて行う機能別分業がある。

分業、特に機能別分業には多くのメリットがある。領域を絞って同種の業務に集中することで、習熟度や専門性が高まる。また、その分野について専門知識・スキルが向上し、優れた結果を効率的に出せる。一方、分業にはデメリットもある。活動同士を相互に統合していくための相談、調整が必要になり、意思決定にも時間がかかる。いわゆる「調整のコスト」だ。

さらに、分業が人の意識や意欲に与える影響も大きい。業務を細分化しすぎると、自分は一体何のためにその仕事をしているのか、仕事の意味、やりがいが見えにくくなり意欲が低下しがちだ。また「開発・製造・販売」などのそれぞれの機能は、機能独特の考え方、価値観、行動特性を強化する。時間の経過とともに、それぞれ独自の判断・行動特性や文化が生まれ、「部族化」する。そうなると、ほかの機能との調整・統合時に、互いの考え方を理解するのに時間を要したり、判断の優先順位の違いなどが深刻化するなど、調整・統合の難易度が上がる。

分業のメリットを最大化し、デメリットを抑えるには、活動をどのような切り方・大きさでくくり、どう分けるのかが極めて重要だ。その判断の基準は、「活動間の相互依存性」「活動の共通性の高さ・専門化の必要度合い」、そして「メンバーに意識に与える影響」である。

活動の相互依存性を分析する

「相互依存性」が高い活動は、頻繁に情報を共有し、相談・調整を行うことが必要なので、できるだけ一つの分業単位としてくくり、緊密、迅速にコミュニケーションを取り、意思決定できるようにすべきだ。一方、相互依存性が低い活動は、それぞれ独立して動くことができるので、組織を分けて専門性を高めることができる。

相互依存性が高いかどうかは、二つのファクターから決まる。一つは「影響度」だ。ある部門が活動をする際、部門の外での意思決定や、他部門から供給される資源や成果の違いによって、自部門の活動がどれくらい影響を受けるかということ。もう一つは、本来「影響度」が高くても、何らかの方法でそれを「下げることができるか」という視点だ。生み出すべき成果や使う資源、ほかから受け取る成果物などの条件をあらかじめ明確に定め、変更しないルールを決めることができれば調整が不要になる。こうした調整を「標準化」という。標準化によって、調整の必要性を減らすことができれば、活動間の相互依存性は下がる。

製品・サービスが顧客ごとに多様で、また常に変化する場合は標準化が難しい。また同じ価値を生み出す場合でも、そのために用いる材料や方法、また人材などが変化する場合は、多様性・変化に応じてさまざまな調整が生じる。どんな製品にするのかという方向性、それぞれの部分の設計のすり合わせ、前の工程と後の工程の作業調整、作業スケジュールの同期化など、関係者が緊密に相談・調整する必要がある。こうした場合、関連性の高い活動を別々の組織が行うと効率性が大きく低下しかねない。

活動の共通性の高さと専門化の必要度合い

扱っている顧客や製品、もしくは業務内容の共通性が高く、また専門的に知識、ノウハウを長期的に深めていく必要性がどれくらいあるかも、組織のくくり方を考える上で重要なポイントだ。多様な顧客向けの機械を設計製造する場合でも、すべての要素が異なるわけではなく共通の部分がある。例えば、動力を起こすモーターは顧客が違っても同じようなものを使うのであれば、その設計や製造はひとまとめにしたほうがよい。これにより、似たようなモーターの設計作業をあちこちで個別に重複して行うような無駄をなくす、一括して生産することで累積生産量が増し作業の習熟が速くなる、あるモーターの製造プロセスでの改善がほかのモーター製造にも容易に展開できるなど、さまざまな点で生産性が高まる。また、モーターに特化した専門的技術を深く探求し、同時に多数の製品を扱う中で幅広い顧客の要求に触れることで、モーターに関する知識の幅を広げることができる。結果として、より適用範囲が広い、優れた価値の創出につながるのだ。

実際の組織は、こうした「相互依存性」「共通性」を考慮しながら、「機能別」と「市場・製品別」の二つを各段階で組み合わせて編成される。例えば、大きな枠組みは市場・製品別に「産業検査機器事業部」「医療機器事業部」といった形でくくり、その中を「開発部、生産部、販売部」という機能で分け、さらに販売を地域別に分けといった具合に細分化していく。

組織形態に関し特に注意が必要なのは、いったん形成された組織は、時間の経過とともに、なぜそのように組織形態が決まっているのかについて人びとが問わなくなり、所与のものとして捉えがちであることだ。そして組織自体も自らを存続させる方向に動く傾向がある。このため、実は環境の変化から違う組織形態に切り直す必要性が高いにもかかわらず、古い組織の形そのままで対応してしまいがちだ。

例えば、以下のような場合は、組織の形態が市場や顧客の変化と不整合を起こしていないかチェックしてみる価値がある。

● 顧客からの問い合わせに答えるため、多数の関係部署に連絡を取らなければならない場合が増えている
● 多くの案件でたくさんの部署を招集する会議が頻繁に開かれる
● 新しい取り組みをする際、組織横断のプロジェクトチームや新たな部署を作ることが通例になっている
● ○○推進部、○○企画部、○○調整部といった名前の部門が増えている

組織形態が人の意識に与える影響

組織の形は、組織成員に大きな影響を与えるため、新たな環境、戦略に合った組織形態に変えることは、人の意識や行動を変える上で極めて効果的で、かつ強烈な手段だ。

ここで、これまで機能別組織の中で、技術の高度化に邁進してきた技術者に、技術よりも顧客ニーズを捉えた開発を促したいという場合を想定してみよう。「開発本部」の中でいろいろな施策を打つのではなく、組織の枠組み自体を変え、市場・顧客別の組織の中に「開発担当」として組み込み、販売やマーケティングの担当とも頻度高く交流し、同じ目標を追求させるようにするといった対処策が考えられる。こうした変更はときに組織メンバーの強い反発を生み、当初は混乱を生じるが、だからこそ、組織成員に強いインパクトを与えることができる。「組織形態はメッセージ」と言われる所以だ。

組織形態の決定や変更は、その重要性の高さや行われる頻度の少なさから、専門に所管する部署は通常存在せず、組織のトップマネジメントにより都度決定されることが多い。このため、人事部門でも組織形態の原理について実感として理解している人は思いのほか少ない。しかし、企業の活動の効果と効率、そして働く人びとの認識、意識、能力に長期的に強い影響を与える重要な要素であるため、「戦略的HRマネジメント」に欠かせない視点だ。ぜひ皆さんもこのような視点から自社、自組織の現状をチェックしてみていただきたい。

次回は、2. 情報の流れ・調整・意思決定の仕組みの設計運用[神経]について

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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