議論をさばく(8)さばきの基本動作(7)発言を理解し共有する(6) 

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前回まで、「発言を理解する」ことについて詳しく見てきました。人の話を正しく、深く理解することこそファシリテーターが身につけるべき最も重要な能力であり、「さばき」において最も注力すべきことであることがおわかりいただけたかと思います。

さて、改めて「議論の現場でファシリテーターが行うべき基本動作」のステップに戻ってみましょう。「(1)発言を引き出す→(2)発言を理解し、共有する→(3)議論を方向づける→(4)結論づける」という4つのステップでした。前回までに(2)発言を理解し、共有するところまでが終わりましたので、ここからは、発言を受けて議論をどのように方向づけていくのか、考えていきましょう。

「方向づけ」の前に行うべきこと

ある発言を受け、そこからどう議論を進めるか。そこには非常に多くの選択肢、方向性があります。前の発言内容に対して問いかけ発言者に更なる説明を求める、同じ論点について他の参加者に意見を求める、その論点についての議論を終わらせ次の論点に移る、発言が議論すべき論点からずれているので論点を戻す、議論を終わらせ結論を導く、などです。

どの方向に進めるにせよ、まずは前の発言への対応を決める必要があります。その際、ファシリテーターは、前の発言をどう扱い、どのように対応するかを考えるだけでなく、議論全体の流れ、他の参加者の状態なども見ながら、どうすべきかを決めなければなりません。では、どのように判断すればよいのでしょうか?

参加者が納得感・達成感を持ちながら、話が先に進んでいくというのが望ましい議論の姿です。同時に、そのプロセスができるだけ効率的に進めば言うことは無いでしょう。この状態を作る上で重要なのが「ある結論に参加者が納得感を持って合意するうえで、議論すべき【論点】が十分に議論されているか」という視点です。このため、ある発言をどう扱い、それに対してどう対応するかを考える上での第一の判断基準は、話された内容がそこで議論すべき論点に沿っているかどうか?ということになります。もしある発言が「そこで今、議論すべきでない論点」であれば、ファシリテーターはまず「議論をあるべき方向に戻す」ことに注力することが求められます。

「そこで今、議論すべきでない論点」への対応

「そこで今、議論すべきでない論点」という表現からもわかるように、「議論すべきでない」と言っても二つの意味があります。ひとつはそもそも合意を導く上で全く関係ない、つまり「そもそも議論する必要がなく、その議論に時間を使うべきでない論点」です。もうひとつは、合意を導くうえで確かに議論する必要はあるものの、他の論点について結論が出てから議論しないと結論が出せない論点など、「議論すべきだが、今、ここではない」場合です。

たとえば、ある商品についてのプロモーションプランについて議論する場合、広告のメッセージや使う媒体の選択などは「議論すべき論点」ですが、そもそもターゲットとする顧客をどこにするかが決まっていない段階で議論しても結論が出ないでしょう。この場合、「どのプランにすべきか?」は「誰をターゲットにするか?」が決まっていない段階では、「議論すべきだが、今、ここでではない論点」になります。

いずれの場合も、前の発言に議論が引きずられて、あまり意味の無い論点についての議論に時間が浪費されないよう、早めに論点を戻す必要があります。但し、何の説明もなく、強引にファシリテーターが論点を動かすと、参加者から、特に前の発言者から強い反発を招くおそれがあることに注意すべきです。ファシリテーター自身が「議論すべきでない」と判断していても、発言者や他の参加者が同じように思っているとは限らず、ファシリテーターの判断自体が間違っている可能性もあります。このため、「議論すべき論点であるかどうか?」の判断と対応は、注意深く進める必要があります。

反発を招いたり誤った判断をしないようにするには、以下のようなステップを踏んで働きかけ、修正を試みるとよいでしょう。

まず、発言者の意見を「論点」に転換し、明確にします(「広告を雑誌よりも新聞に出すべきだというのは、【どの媒体を用いるべきか?】という【論点】についてのご意見ですね」)。
そして、今ここでその論点について議論をする必然性についての疑念を表明する、もしくはそこで議論すべき理由について発言者に説明を求めます(「確かにどの媒体を用いるかは重要ですが、ターゲットを誰にするかによって選ぶべき媒体も変わるのではないかと思います。先にターゲットの議論をしませんか?」「ターゲットについて議論する前に、どの媒体を使うかという論点について議論するのはなぜですか?」「特に使う媒体について今議論すべきだという理由を教えてください」など)。

そして、発言者、もしくは他の参加者が「論点を変える」ことに対して同意しているかを確認します。「では、媒体の選択についてはもう少し後で議論することとして、まずはターゲットについて先に議論しましょう。それで良いですね?」といった感じです。

「そこで今、議論すべき論点」の場合

次に、発言が「そこで今、議論すべき論点」についてである場合はどうでしょうか? この場合、「論点について、発言者・他の参加者が明確に意識共有できているかどうか?」そして「その論点について議論が活性化している/しそうか?」の2点を考えます。

前の発言が議論すべき論点に関するものであっても、それが参加者の中で明確に意識、共有されているかどうかはわかりません。まさに今、そこで議論すべき論点であれば、それをはっきりさせ、【論点を強化する】ことを考えると良いでしょう。たとえば、「今の意見は、【ターゲットを】10代の男性にすべきだということですね。」といった感じです。更に、その論点に関して議論がいまいち活性化していないとすれば、他の参加者に対して意見を求めるなど、議論を活性化するための働きかけを行います。「【ターゲットを誰にするか?】というのは重要なポイントですね。ここに関して他のご意見は?」「【ターゲット】については、10代の男性という考え方もあると思いますが、たとえば20代の女性といった可能性は無いでしょうか?他の皆さんはどう思いますが?」といった感じです。

では、「論点について、発言者・他の参加者が明確に意識共有できている様子で、その論点について議論が活性化している、もしくは活性化しそうである場合、ファシリテーターはどのように対応すべきでしょうか?

ここでは「STAY(介入しない)」、つまり「ファシリテーターは何も口を挟まず、議論の推移を見守る」がすべきことです。慣れないファシリテーターが犯しがちな誤りとして、自分が議論すべきだと思う論点が出てくると、反射的に自分の意見を述べてしまったり、自分が何かしなければという想いが強すぎて、発言ひとつひとつに口を挟んでしまい、他の参加者の発言機会を奪ってしまう、結果議論の場が活性化しないということがあります。議論すべき論点について参加者が活発に発言している状態であれば、ファシリテーターはその流れを大事にし、参加者が自由に発言できる空気を保つことが重要です。

実は、「STAY」という選択肢を意識することは、ファシリテーター自身にとっても重要かつ効果的です。ファシリテーターは議論の場で話されている発言の内容を理解するだけでなく、他の参加者の状態、議論全体の流れなどにも気を配り、議論の状態を適切に評価、判断したうえで、必要な対応をとる役割があります。ファシリテーターが全ての発言に対して発言をして話し続けてしまうと、本来の役割を果たすための頭脳のキャパシティを失ってしまいます。同時に、ファシリテーターが全ての発言に介入し、いちいち反応していると、参加者は自由に発言する機会を失い、また発言することに気を使うようになり、議論が活性化しなくなってしまいます。こうしたことを避けるためにも、ファシリテーターはまず「STAY」の選択肢を第一に考えるべきです。

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