ODAパワー 

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初稿:2011年12月6日
第二稿:2015年5月20日

2011年3月に発生した東日本大震災に対して、合計163の国・地域と43の機関から人・物資・寄付金などを含む支援表明があり、現時点(2011年12月)において、合計126の国・地域・機関から公式ルートで物資・寄付金が届けられたと外務省が公表した。

さらに、発災直後の3月22日の時点で、世界中の670以上のNGOなどから支援の申し入れやお見舞いの言葉があったことを、総理官邸のホームページで明らかにしている。そして、これまでに少なくとも16カ国43のNGO団体が来日した模様である。

このように、日本には途上国を含め、諸外国から多くの支援が寄せられた。これらの支援の背景には、甚大な災害被害への人道的支援のみならず、日本が長年取り組んできた政府開発援助(ODA)などの国際協力に対する、評価や感謝の気持ちも反映していると思われる。

日本のODAは、(1)貧困削減(教育・保健医療・人口・水と衛生)、(2)持続的成長(経済社会基盤・ICT・貿易・農業・制度整備)、(3)地球規模課題への取組(環境・気候変動問題・感染症・食料・資源・エネルギー・防災・テロ対策)、(4)平和構築(アフガニスタン・パキスタン支援・イラク支援・対人地雷対策)など様々な分野で実施された。

具体例としては、

・インドネシアでの母と子の健康を守る母子健康手帳普及支援による妊産婦死亡率の低下
・ベトナムのフーミー発電所事業による官民連携のインフラ整備
・世界最貧国のひとつであるニジェールでの「みんなの学校」プロジェクトによる初等教育の普及
・メキシコでのマヤビニック生産者協同組合に対するコーヒー技術支援による経済的自立
・エジプトのザファラーナ風力発電事業プロジェクトへの支援
・インドネシアのアサハン・プロジェクトでの水力発電とアルミニウム製造事業への支援
・その他に、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などを通じ、資源を保有する開発途上国に対する資源開発調査での技術協力

など多岐にわたる。

日本が2009年度までに、2国間政府開発援助の実績を有する国・地域数は189に達している。また、国際協力機構(JICA)が行っている青年海外協力隊事業では、これまでに合計30,816名の日本人が世界の82カ国でボランティアとして国際協力活動に従事してきた(2007年 11月時点)。さらに、将来の国造りを担う途上国の青年を対象にした海外研修生受け入れ事業では、既に30,000名を超える若者が来日している。

しかしながら、1993年以降8年間にわたり世界第1位であった日本のODA予算額は、2001 年には米国、2006 年には英国、2007年にはドイツとフランスを下回り、現在では第5位に転落している。過去3年間のODAの円借款などを除いた一般会計での予算額は、2009年度は6722億円(対前年比-4.0%)、2010年度は 6187億円(対前年比-7.9%)、2011年度は5727億円(対前年比-7.4%)であり、ついにピーク時の1997年度1兆1687億円から半減している。

日本のODAを取り巻く国内環境は、予算面でも国民世論の面でも、非常に厳しい状況に直面しているが、ODAは間違いなく日本外交の「パワー」である。このODAパワーを向上させるには、(1)ODAの戦略を構築し、(2)司令塔を作り、(3)必要予算を確保し、(4)実行のために必要な国民の理解と支持を得、(5)人材を育成することが必要となる。そのための具体的な「行動」を以下の通り提案したい。

1. 国際協力(ODA)戦略を積極的に見直し、再構築を!<済み(2015年2月)>

日本の国益を実現するためのODAの戦略的重要性を踏まえると、安全保障、通商、金融、外交戦略の一環として、ODAのグランドデザイン・戦略を策定する必要があろう。

本稿の初稿で戦略の必要性を提示して以降、政府による検討が進み、専門家による議論を経て、2013年に閣議決定した「国家安全保障戦略」も踏まえたODA戦略を、政府は2015年2月に閣議決定した。

2003年以来15年ぶりとなる大綱改定によって、名称を「開発援助」大綱から「開発協力」大綱に変え、日本にとっての戦略的重要性を踏まえ、日本の安全保障や経済成長に役立つ対外協力を行う方針を明確化している。

新たな戦略のポイントは以下の3つだ。

第1に、これまで避けてきた非軍事分野での他国軍への支援の解禁だ。インフラ整備や国境警備の強化など様々な非軍事分野での協力を可能とし、国連平和維持活動(PKO)との連携が見据えられている。

第2に、日本の国益にかなう場合の、所得水準が高い国への協力である。これまで1人当たり所得が高い国はODAの対象から外れていたが、ハリケーン被害を受けるカリブ地域の島諸国、廃棄物処理など都市課題を抱える中東湾岸諸国を念頭に置き、国連改革などの国際政治やエネルギー安全保障で重要な国と結びつきを強める狙いと言えよう。

そして第3が、民間投資との連携などODAの枠を超えた協力だ。途上国への資金の流れは、今、ODAよりも民間投資のほうが大きくなっており、政府の支援と民間企業の投資の連携が相手国の成長につながるからだ。

こうした戦略を踏まえて、日本の国益に適うODAを実現してもらいたい。

2. 「国際協力庁(仮称)」の設置を!

戦略構築と実行のために、司令塔として国際協力庁(仮称)の設立を検討すべきだ。米国では国務省国際開発庁、ドイツでは経済協力開発省、英国での国際開発省など、主要国では国際協力の一元化機関(司令塔)が設置されている。しかし、日本ではODA関係省庁が、外務省以外に、警察庁、金融庁、総務省、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省など12省庁もあり、政策・予算・権限の一元化が図られていないことが課題だ。戦略的なODAを実現するためにも、司令塔としての国際協力庁が必要である。

3. ODA予算の増額を!

国の一般会計でのODA予算額は2011年度で約5727億円(2014年では5502億円)で、予算全体の1%にも満たない。このため、ODA予算の削減による財政健全化への効果はあまり期待できない。むしろ、ODA予算額の減少による外交政策に対する支障や、国際社会でのプレゼンス低下への懸念が大きい。

ODA予算のGDP比を諸外国と比較すると、日本が0.17であるのに対して、米国0.19、英国0.56、フランス0.45、ドイツ0.37など、日本のODAの規模感は、欧州先進国の半分以下だ。

また、国民1人当たりの負担額で見ても、2009年のDAC諸国(開発援助委員会: Development Assistance CommitteeでOECD委員会の1つ)における政府開発援助実績の国民1人当たりの負担額は、22カ国中第18位の74.2米ドルと低迷が続いているのが現状である。(出典:外務省ODA白書)

したがって、後述のODA効率化、国民の理解と支持を得るための情報公開の促進、などを必須条件として、ODA予算額については、政治判断として増額を目指す必要があろう。さらに、民間資金やODA 以外のその他政府資金である国際協力銀行(JBIC)の出資金・融資金や日本貿易保険(NEXI)の貿易保険なども、発展途上国の経済発展に寄与するために継続的に活用できよう。

4. 国民にODAの目的と重要性を明示せよ!

国民のODAへの見方は、年々厳しくなっている。2011年度の内閣府「外交に関する世論調査」の結果は、「積極的にすすめるべきだ」との回答が1990年以降でピークを付けた1991年と比較すると、41.4%から14.0ポイントも減り、27.4%にとどまる。一方、「なるべく少なくすべきだ」 では、8.0%から10ポイント近くも増え、17.8%となっている。

しかし、ODAは確実に日本の外交パワーを向上させるツールである。日本のODA支援を相手国が非常に高く評価した結果、日本の援助に敬意を称して、「中国の雲南省人材育成計画記念切手」や、「カンボジアの1000リエル紙幣(国道6・7号線改修計画)」や、「ガーナの野口英世博士生誕120周年記念切手」などになったものもある。

このため、「ODAを中核とした国際協力により、世界の様々な課題解決に積極的に貢献することは、日本の国益に合致する。日本の平和と豊かさは、世界の平和と繁栄の中でのみ実現可能である」と政府は国民に対し説明する必要があろう。

その上で、国益と国際社会からの期待と要請との両立を図るために、具体的な国際協力の重点分野、(1)貧困削減、(2)平和への投資(紛争予防・緊急人道支援・平和構築)、(3)持続的経済成長の後押し(インフラ整備・グリーンイノベーションなど)、(4)資源・エネルギー・食糧の確保などを明示することで、国民に理解と協力を求めることが望ましい。

日本国民にODAへの親しみを持ってもらうために、国連難民高等弁務官事務所の親善大使にアンジェリーナ・ジョリー氏を選んだように、日本の若者に人気がある女優・俳優・歌手をJICA親善大使に任命するのも一案かと思う。

さらに、大学の国際関係ゼミ生の現地への派遣や、JICAボランティア事業への参加の呼びかけ、小学校・中学校での国際交流についての教育機会の拡充 などを図るべきであろう。NGO・外務省定期協議会の更なる拡充、外務省・国際協力機構(JICA)とNGOとの人事交流の促進等も同様である。

また、さらなる情報公開の強化のためにも、全ての援助プロジェクトの事前評価・進捗状況・事後評価などがウェブサイトで、情報公開されている必要があろう。

5. 国際協力に関わる人材の育成を!

戦略立案と司令塔、予算、そして世論の理解喚起といった「行動」の全ての問題に絡むのが、人材育成である。グロービスにも、ベトナムで国際協力に2年間従事した人がいる。援助活動に従事した人が、帰国後ビジネスに携われるようにすること、ビジネスパーソンが一定期間会社を離れ、援助の現場で汗をかくこと等、自由自在にキャリアを組成できるように工夫することが重要だ。

グロービスがある麹町にJICAの派遣センターがある。JICAが 行っている青年海外協力隊事業では、これまでに合計30,816名の日本人が世界の82カ国でボランティアとして国際協力活動に従事してきた(2007年 11月時点)。さらに、将来の国造りを担う途上国の青年を対象にした海外研修生受け入れ事業では、既に30,000名を超える若者が来日している。これらの行き来が人脈を生み、信頼を育み、ビジネスを生み、そして平和に貢献する。JICAの持つ世界的なネットワークを国内にも広め、人的交流を活発にする中で人材育成に活用する必要がある。

日本の外交パワーを支える1つが、顔が見えるODAだ。どの国に行っても日本の援助への賞賛は絶えない。それは、お金ばかりでなく、日本人が現地に溶け込み、その国のために本心からお手伝いしたいという、「心」がこもっているからだ。日本の心や現地との絆の意識が、発展途上国にも伝わり、生きているのだ。

ぜひとも、僕ら日本人一人ひとりがODAの必要性を認識し、一緒に行動し、声を上げ、日本にとり重要な外交の「打ち手」であるODAを、現地の人々のためにも、国益のためにも有効活用できるようにしたいものだ。

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