インフラ・プロジェクトに政府のトップセールスを! 

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初稿執筆日:2011年10月3日
第二稿執筆日:2015年4月15日

2009年末、日本は首長国連邦(UAE)向けの原子力発電所プロジェクト落札において、韓国に敗北した。

李明博・韓国大統領は、自らムハンマドUAE皇太子と直接6回にもおよぶ電話交渉や、価格引き下げなどの陣頭指揮を行うとともに、UAE訪問時には安全保障や教育、再生可能エネルギーなどの分野での国際協力にも合意した。韓国の官民挙げての積極的な受注活動により、韓国企業連合が同プロジェクトを落札した。

各種報道によると、UAEの同プロジェクトの入札価格は日本の320億ドルに対し、韓国は200億ドルであったが、60年間の運転保証との条件が韓国落札の決め手になったと言われる。(参考までに、世界中の原子力発電所において、未だに60年間運転し続けたプラントはない)。

しかしながら、韓国政府の国家戦略の下、政策当局である企画財政部・外交通商部・知識経済部・国土海洋部と、政府外郭団体の韓国国際協力団(KOICA)、韓国輸出入銀行(KEXIM)、韓国輸出保険公社(KEIC)、韓国貿易投資振興公社(KOTRA)が協力連携して、国家を挙げての国際受注競争に勝つという強い政治的意志と政策執行システムには、日本は見習うべきであろう。

韓国に加えて、国家資本主義により成長してきた中国は、ブラジルやカリフォルニア州の高速鉄道プロジェクトでも日本と競合し始めている。他国は、政府トップがセールスに全面的に関与するとともに、プロジェクト以外の政治的・外交的要素で日本チームを凌駕し始めている。その中、2010年10月に前原外相(当時)が、ベトナムを訪問し原子力発電プロジェクトのセールスを実施したことを、率直に評価したい。

経済産業省が2010年4月に取りまとめた「インフラ関連産業の海外展開のための総合戦略(案)~システムで稼ぐ~」によると、水、石炭火力発電、送配電、原子力、鉄道、廃棄物処理・リサイクル、宇宙産業など各分野での、今後のインフラ関連投資について、世界全体で必要な投資総額は年間約1兆6000億ドル、アジア地域では年間7500億ドルとの見通しが示されている。

このインフラ整備市場は、日本の経済成長戦略にとっても重要な市場である。なぜならば、インフラ関連産業は単発の工業製品の輸出だけではなく、高い技術やノウハウを活用した運営・維持管理業務を受注することで、付加価値を増大させるとともに、日本産業の高度化にも寄与できるからである。

実は筆者は、大学卒業後入社した商社で、プラントを含むインフラ・プロジェクトに従事してきた。1件数千億円にも及ぶ案件で、国際コンソーシアムを組み、フルターンキー(工事を一貫して完成まで請け負う)、大規模なファイナンスが絡む案件が多く、最後は政府間の合意によって決まる場合が多かった。かつての商社の花形ビジネスと呼ばれていたもので、総合力が問われるものであった。そのプロジェクトに、中国、韓国が参入してきたのが現状だ。

日本政府には、総合的かつ戦略的にパッケージ型インフラ・プロジェクトの海外展開を支援し、トップセールスに取り組むことを強く求めたい。特に、アジアを中心とする旺盛なインフラ需要に対して、民間企業の取組みを支援し、国家横断的かつ機動的に取り組むために、以下の通り、政策を提案する。

1.政府のトップセールスを!【一歩前進】

オールジャパンで総合的にインフラ・プロジェクトを推進するためには、関係省庁および関係機関によるハイレベルな協力連携が不可欠である。

そのために、まずは、海外情報の事前収集機能を強化するために、在外公館の体制をしっかりと機能させる必要がある。事前情報収集の体制強化により、各国のインフラ開発計画や制度の策定段階から、JETRO(日本貿易振興機構)の官民一体のプラットフォーム機能を活用して、開発計画の策定に積極的に関与するとともに、日本企業と各国インフラ需要との戦略的マッチングを図るべきである。

そして、収集された事前情報を基に、国を挙げて取り組むべき重要案件を、関係閣僚会議で決定するとともに、経済協力や金融支援をはじめ、官民一体による総合的支援のパッケージ化を図り、首脳・閣僚レベルでのトップセールスを戦略的に実施することが求められる。

2011年10月に本稿の初稿を書き下ろし、インフラ・プロジェクトのトップセールの必要性を世に問うてから、政府におけるトップセールスの必要性への認識はさらに高くなり、2012年末に発足した安部政権では、具体的なプロジェクトがいくつも実現に向かっていることは高く評価したい。

2012年3月、政府はインフラ・システム輸出を関係省庁が連携し、民間とも一体となって推進できるよう、官邸に官房長官を議長とする閣僚級の「経協インフラ戦略会議」を設置した。この会議で、各省連携を図るとともに、「インフラシステム輸出戦略」を決定。インフラ・システム輸出を成長戦略の重要な柱と位置づけ、2020年に約30兆円のインフラ受注を目指すことを掲げている。

その成果は既に出ており、日本企業による2013年の海外でのインフラ受注額は、前年比約3倍の約9兆2600億円(285件)。外務省経済局によれば、首相がトップセールスによって関わった案件がこのうち25件、閣僚が42件であった。

具体的には、首相がトップセールスを行った案件は、モンゴルの新ウランバートル国際空港建設事業(約500億円)、トルコのシノップ原子力発電所の建設計画(約2兆円)、インドのデリー・ムンバイ間の貨物専用鉄道敷設工事(約1100億円)などで、空港や原子力発電、鉄道建設など大規模なインフラ整備事業が目立つ。昨年(2014年)、マレーシアを首相が訪問した際には、世界最大級の最新石炭火力発電所事業で日本企業が優先入札権を獲得して成約し、受注が決まっている。中南米5カ国歴訪では、日本企業の経営陣を同行させて新規事業の受注開拓を支援し、インドのモディ首相との首脳会談でも、新幹線技術の導入やレアアース(希土類)輸入など経済・投資分野を重要議題として議論するなど、トップセールスへの意欲は極めて高い。

インフラ・プロジェクトは受注額が大きいだけでなく、その後も長期にわたって利用されるものであるため、成長する新興国の需要を日本経済の成長に取り込むサイクルを形成することができる。相手国の親日感情を醸成し、日本外交の長期的な戦略に貢献することもできる。トップセールスに大いに期待したい。

2.日本が強みをもつ分野で先進国向けのインフラ・プロジェクト推進を!官民連携の徹底強化を !【一歩前進】

2011年10月に三菱商事、産業革新機構、日揮などが組んで受注したオーストラリア国パース郊外向けの上下水道事業は、興味深い試みである。3社が買収した豪州の水道事業会社のノウハウと日本の技術・信用力を生かし、欧州の水メジャーに打ち勝ったのだ。ファイナンスは、三菱UFJのプロジェクト・ファイナンスにより大半が賄われた。

西オーストラリア州水道公社からの委託を受けて、パース近郊に新しく浄水場を建設したこのプロジェクトは、海外における初の日本の官民連携プロジェクトであり、産業革新機構と本邦銀行の持つ資金力、東京都水道局の水道事業に関するトップレベルの知見と経験、日揮のプラント建設・運営能力、三菱商事のノウハウ、マネジメント能力など、官民、国内外それぞれの事業体が持つ強みを相互に補完し合って、大規模なプロジェクトが進められた。

現在(2015年現在)では、同社は、オーストラリアの人口の約13%にあたる約300万人の人々に上下水道サービスを提供するとともに、海水淡水化プラントの運営、下水の再生処理など多岐にわたる最先端の水事業オペレーションを総合的に提供する会社に成長している。

このように、成熟した先進国においても、高度な技術を有する日本のインフラ・システムへのニーズは高い。

先進国向けには、産業革新機構などの出資機能を活用することや日本企業による海外投資や事業・企業再編を図るとともに、インフラ運営までも含めた企業コンソーシアムを形成して、コスト競争力の強化と受注・運営体制の構築を図ることができよう。

日本の技術とノウハウを生かし、先進国市場でインフラ・プロジェクト輸出を成功させれば、他の新興国市場でも評価とブランド力を得ることができるわけで、先進国市場は重視すべきだ。

注力すべきは、原子力、鉄道(超電導リニア、高速鉄道、都市鉄道)、水事業の3つの柱だ。さらに再生可能エネルギーや、医療分野も視野に入れたい。日本が強みを持つ分野に特化してインフラ輸出を狙い、あらゆる機会をとらえて首脳・閣僚レベルでトップセールスを進めてほしい。

在外公館の機能強化をはじめ、政府の現地支援体制を充実、現地における情報交換を活発化するなどを通じて官民連携を進めるべきだ。また、出資・融資を絡めた総合力によって国際競争力を強化し、成功事例を重ねていきたい。

3.発展途上国との経済協力支援と信頼関係の構築のため、円借款制度の拡充を!【一歩前進】

対発展途上国におけるインフラ事業を可能とするためにも、円借款供与を活用するのも有効である。また、JICA(国際協力機構)による海外投融資制度を拡充して、開発効果の高い案件に長期・低利の公的資金を投入することも可能であろう。目的は、発展途上国の暮らし・文化面での向上に寄与するとともに、我が国との太い信頼関係を構築することにある。

2013年4月には、円借款の制度改善として、対象が拡大、「環境」「人材育成」に「防災」「保健・医療」を新たに追加し、日本の強みを生かしやすくなった。また重点分野については、金利を0.50-1.20%から0.01-0.60%へ引き下げ、日本企業の海外子会社も新たに契約者として適格とするなどの制度拡充が行われた。

さらに、途上国におけるPPP(官民連携)案件への日本企業参画を後押しするための2つの新制度も同年10月に導入されている。

「インフラ整備事業に対する途上国政府の出資を補う円借款(Equity Back Finance)制度」は、途上国政府・国営企業などが出資する電力・水・交通などのインフラ整備事業などに対して、当該出資金のバックファイナンスとして円借款を供与するものだ。日本企業が途上国との合弁で特別目的会社(SPC)を立ち上げて事業を行う場合に、SPCに対する途上国側の資金手当て(出資)を支援することにより、日本企業のスムーズな事業展開を支援することが狙いだ。

「事業運営権獲得を視野に入れた有償資金協力を含めたパッケージ支援(Viability Gap Funding)制度」は、途上国政府の実施する電力・水・交通などのインフラ事業に関し、原則として日本企業が出資するもの、商業資金ではファイナンスが困難なもの、途上国政府が主に事業期間を通じたキャッシュフロー平準化のために助成を行うものに対して、円借款を供与するものだ。日本企業が出資するインフラ事業に対して、当該事業運営の支援を円借款を通じて行う狙いだ。

これらの制度拡充の結果、JICAの事業規模も拡大傾向にある。本稿の初稿を発表する前の2010年に有償資金協力(円借款)が8910億円、技術協力が1480億円だったJICAの事業規模は、2014年には、有償資金協力(円借款)9885億円、技術協力が1503億円となっている。

拡充された制度をフル活用し、円借款の要請から事業実施までのプロセスにおける、さらなる効率化・迅速化策なども進め、発展途上国向けのインフラ・プロジェクトの拡大を図り、国際標準の獲得に取り組むべきだ。

4.企業のリスクテイク支援のため、JBICの公的金融機能とNEXIのリスク補填能力の強化を!【一歩前進】

日本企業の海外インフラ・プロジェクトへの参画におけるリスクテイクを支援するため、JBIC(国際協力銀行)によるリスクマネー供給力の強化とNEXIによるリスク補填能力の強化が必要だ。

2010年11月16日の政令改正により、JBICによる先進国向け投資金融の対象が、原子力発電のみから鉄道・水分野などに拡大された。今後、先進国におけるインフラ市場の拡大も見込まれる中、民間金融機関との協調融資が必要な分野についても、幅広く対象とする必要があろう。

さらに2013年には、JBICは日本の投資家や邦銀などと連携して日本企業による海外M&A案件などへの出資を目的として、財政投融資特別会計から690億円の出資金を受け入れて「海外展開支援出資ファシリティ」を創設した。

融資によってJBICが資金を供給することで、中堅・中小企業を含む日本企業の海外M&A案件やインフラ分野などへの海外展開を推進するのが目的だ。

この制度を活用して、三菱重工とデンマーク王国法人Vestas Wind Systems A/Sによる洋上風車合弁事業、セコム医療システム、豊田通商及びインド法人VSK Holdingsによる私立総合病院運営事業、三菱重工と三菱商事による、アラブ首長国連邦ドバイ首長国を拠点とする総合水事業会社への投資など、多くの事業への出資が行われ、2014年12月末における、この海外展開支援出資ファシリティ対象案件の実績は、10件・合計約1137億円となっている。

リスクマネー供給能力の強化に加えて、日本企業の出資に対する海外投資保険について、NEXI(独立行政法人日本貿易保険)による事業リスクてん補範囲を拡大することも必要だ。

2013年1月に発生したアルジェリアにおけるテロ事件は、インフラ・プロジェクトを輸出する日本企業の海外事業地域において、戦争やテロのリスクが極めて大きくなっていることを明らかにした。また、そういったリスクの拡大に加え、日本企業の海外子会社による取引の増加などの取引形態の多様化、現地通貨建て借入などの資金調達の多様化も進んでいる。

政府は、こういった環境変化に対応するため、2014年4月に貿易保険法を改正し、以下を新たに貿易保険の対象としている。

(1)日本企業が海外でプラント建設を行う際に、テロや戦争によって事業が中断された場合に当該企業が被る人件費、貨物保管費などの追加費用。

(2)日本企業の海外子会社や日本製品を扱う現地販売会社による輸出などの取引。

(3)日本企業が参画する海外での資源開発などのプロジェクトに対する資金調達を円滑化するため、本邦銀行の海外拠点や外国銀行からの融資。

また、再保険引受対象として、地域中小企業が利用する国内損害保険会社による対外取引保険を追加するなど、NEXI設立時以来の貿易保険法の大改正が行なわれている。

こういったNEXIの機能強化を通じ、テロなどのリスクの高い地域を含む海外で、日本企業がより安定的にインフラ・プロジェクトを実施できる事業環境を整えることが重要だ。

5.インフラ・プロジェクト輸出の担い手となる人材育成、企業・地方自治体などの支援を!【一歩前進】

最後にインフラ・プロジェクト輸出の担い手となる人材育成と、地方自治体、企業などへの総合的な支援を求めたい。インフラ・プロジェクトを通じて、日本経済をけん引する世界規模のグローバルメジャー企業を育てるためには、それを支える人材の育成と相手国との人的ネットワーク構築が欠かせないからだ。

政府は、教育改革によって小・中・高等学校を通じた英語教育の強化、スーパーグローバルハイスクールの整備、スーパーグローバル大学創成支援、海外留学支援制度の拡充などによるスーパーグローバル人材の育成を図っている。

一方、企業の人材育成支援も十分に行う必要がある。政府は新興国の政府系機関・企業への日本人若手のインターンシップ派遣や専門家派遣、相手国キーパーソンの訪日研修などによって、インフラビジネス獲得に重要な政府系インフラ機関との関係強化、相手国との人脈形成の推進に努めている。食、医療、原子力、リサイクル、水などのテーマを重点的に、海外展開を人材面から戦略的に支えることが重要だ。

また、これまで上下水道や清掃事業、バス事業等を公共事業として行ってきた地方自治体は、インフラ・プロジェクトに関する巨大なノウハウを持った事業体であり、意欲ある先進的な地方自治体の海外展開について積極的に支援することは極めて有効だ

地方自治体がインフラ・プロジェクトで海外展開することは、地域に拠点を構える地元企業にとっても海外展開の足掛かりとなり、地域経済の活性化と日本経済の成長にもつながる。

すでにアジアを中心に、東京都、横浜市、福岡市などの上下水道事業、北九州市のリサイクル事業、消防、川崎市の廃棄物、下水事業など、多くの自治体がインフラ事業の海外展開を進めている。

政府は、これらの先進的な自治体の成功事例を共有し積極的にPRするとともに、地方自治体の海外展開の支援に関する相談受付窓口の整備、地方自治体が受託者となるような各種JICA協力(草の根技術協力、技術協力アドバイザー、調査事業など)を通じて、地方自治体と開発途上国との関係構築を図り、地方自治体の海外事業参画を後押ししようとしている。

自治体の都市インフラ輸出は、(1)先方地方政府との関係構築、(2)戦法地方政府へのODAなどによる技術協力、(3)具体的なインフラ輸出案件の調査受注、(4)具体的なインフラ輸出案件の本格受注という4段階を踏む。今後、ODAなどを戦略的に活用し自治体がプロジェクトの上流段階から参画できるよう、包括的かつ継続的な支援が必要であろう。

公害の克服や災害からの復興、人口の急増など、日本の経験を活かした都市インフラ輸出のパッケージ化を進め、都市インフラの「ジャパンブランド」を確立すれば、インフラ輸出の競争力は格段に高まるはずだ。

「100の行動」の1つに、あえてこのインフラ・プロジェクトを入れるべきかどうかは、見解が分かれるところであろう。筆者の商社での個人的経験から、どうしても熱が入ってしまう。1件数千億から数兆円にまで総資金が積み上がるビッグ・プロジェクトを追いかけて、世界中を駆けまわり、官民連携で、出資も融資も行い、国際コンソーシアムを組成し、工事の建設から運営まで請け負うのだ。このような高度に複雑なプロジェクトは、国家の総合力が問われるものである。

日本政府としては、原発を含めて、これらのプロジェクトに全面的支援をするという姿勢で臨んで欲しい。インフラ整備への金融支援のみならず、直接関係のない分野(教育、技術協力、産業人材育成、パイロット事業など)を含めた、オールジャパンによる総合支援を相手国に提案するとともに、首脳・政府ハイレベルでのトップ外交の推進により、後押しをしてほしい。これが、雇用、技術力の進展、産業競争力の向上、そして日本の外交力にもプラスの影響を生み出すからだ。

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