バナナ自動販売機に学ぶ「AIDMA補完計画」 

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存在感増すバナナ

バナナといえば、2008年にTBS系のテレビ番組でオペラ歌手の森久美子が挑戦した「朝食に水とバナナだけを摂る」という「朝バナナダイエット」を覚えているだろうか。話題が話題を呼び、全国のスーパーの店頭からバナナが軒並み売り切れになる騒動が起こったが、熱しやすく冷めやすいのが日本の消費者。昨今ではどこのスーパーにもバナナはきちんと並んでいる。

バナナ自動販売機は「バナナブームよ、もう一度」という狙いではないようだ。ブームに頼らずとも、国内の果実消費量が減少傾向にあるのに対し、バナナの消費量は増加傾向にある。輸入果実の中でも数量、金額とも最多であり2005年時点で輸入果実(輸入統計品目表第8類)では、数量では48.5%、価額では25.3%を占めているという。(神戸税関資料より)。さらに、貿易統計によると2009年の輸入量は過去最高の125万トンに達している。

「バナナ自動販売機」を展開した株式会社ドールによれば、忙しくてなかなかスーパーマーケットにも行けず、健康や美容のためにフルーツを取りたくても取れない一人暮らしの学生やビジネスパーソンをはじめとした、あらゆるお客様の声にお応えする日本初のサービスですと狙いを語っている。(7月22日同社ニュースリリース)

朝バナナダイエット騒動の後からか、一部のコンビニエンスストアやスターバックスでも1本売りのバナナを目にするようになった。バナナの販路は増えている。しかも、ターゲットとする「一人暮らしの学生やビジネスパーソン」が立ち寄りそうなところに。

しかし、そこで目にするものの、筆者は購入している人の姿をあまり見たことがない。ランチにバナナをむさぼるビジネスパーソンを見たことがあるだろうか。やはりない。スーパーで房を買い、家庭で摂取する機会は増えてはいるものの、外でバナナを食べる習慣がまだまだ定着していない。「そこにあっても、手に取らない」ということが問題なのだろう。

「ドール」といえば、「バナナ」だ。実際にはパイナップルやグレープフルーツ、キウイやパパイヤ、マンゴーなど様々な果物を扱っているにも関わらずだ。「バナナはおやつ300円までの中に入りますか〜?」という、こどもの頃の憧れ(←かなり年齢がバレる・・・)のブランドだったからというワケだけではない。最近では、テレビでは香取慎吾がアタマや耳、ひげ、指にまでバナナを生やした「Doleマン」に扮したコミカルなCMが忘れられないからという理由も大きい。なのに、若者やビジネスパーソンは買っていない。・・・もしかしたら、「若者のバナナ離れ」か?まさか、バナナからも?

バナナ自販機の野望

消費者が商品を認知してから購買に至るまでの態度変容を表すモデルに、「AIDMA」がある。注意(Attention)→興味(Interest)→欲求(Desire)→記憶(Memory)→購買行動(Action)である。

「Doleマン」のCMは面白い。テレビで目にすれば、確実に目が引き寄せられるし、興味も湧く。何度か見れば、しっかり記憶にも残る。しかし、自らとバナナの「接点」がなければ購買(Action)には至らない。故に、スーパーに行かない・いけない人との購買接点として「バナナ自動販売機」は機能する。

しかし、数台の自動販売機でカバーできるターゲットは限られている。ましてやバナナは生ものだ。輸入→袋詰め→自販機に配荷→販売というバリューチェーン(VC)の中で、加工度を高めて付加価値を上げる部分は袋詰めだけで、利益率は高くないと考えられる。生もの故に、廃棄率も低くないだろう。自販機の設置・維持費を考えれば、1本130円の販売価格はよくてトントンぐらいではないか。では、何のために自販機を展開するのか。

「Doleマン」のCMを起点とした上記のAIDMAを見ると、欲求(Desire:購買欲求)がスッポリ抜けていることがわかる。欲求が起こらなければ、コンビニやスターバックスでバナナを見ても手にとって購入することはない。

ダイエットという特殊な購買理由を持った層。そして、筆者以上の世代に多い、バナナが貴重品であった経験から、日常的にありがたく食べる層やその家族にとっては、バナナは身近な存在だ。しかし、バナナから縁遠くなってしまっている層にとっては、自らが「購入する」という行動を起こすこと自体が認識の範疇になくなる。「Doleマン」はあくまで、テレビCMのコンテンツの一つとして消費されていて、認知はされても、欲求を喚起することはない。

バナナ自動販売機の重要な役割。それは、バナナと縁遠くなっている層に、「そういえば、バナナ買って食べてもいいな」と「自分のこと」として注意を喚起し、購買欲求を起こさせることなのだ。

バナナ自動販売機が話題となってメディアやツイッタ—、ブログで取り上げられる。注意(Attention)→バナナ自動販売機という存在が面白く、興味(Interest)を持つ→いろいろな人が買っているという報道・情報に触れることによって、自分も機会があれば購入してみようという欲求(Desire)を持って、記憶(Memory)する→自販機に接触しなくとも、コンビニやスタバ、もしくは久々にスーパーに行った時、バナナが目に触れて購入する(Action)。

消費者に向けて、広告という刺激を与えること。自動販売機という購買接点を展開すること。それぞれを単発で行っても最後の購買行動まで誘導することができなければ、商売としては完結しない。また、限定的な購買接点(自動販売機)だけでなく、様々な接点に向かわせる方が販売を完結できる可能性が高くなる。つまり、「バナナの自動販売機」は、広告だけでカバーできないターゲット層の購買を喚起するためのAIDMAを補完する機能を担っているのではないか。

2010年9月6日付日食外食レストラン新聞の記事では、渋谷ではバナナを購入するだけでなく、携帯電話で珍しい自販機を撮影して写メールを送る若者の姿も多く見られると報じ、「日本の1人当たりの果物消費量は、アメリカ人1人当たりの約半分」と、ドール・マーケティング部のコメントを紹介している。

アメリカなど欧米では、リンゴやバナナをランチに食べる姿を当たり前のようによく見かける。日本の消費者にも、同じような習慣が身につけば、バナナ市場はこれからも拡大の一途をたどるはず。ドールは今後学校やオフィスにも自販機を導入する予定といい、日本特有の“自販機カルチャー”をうまく使いながら、日本人のバナナに対する認知や、食習慣を、変えていくことにチャレンジしているようにも見える。ハードルは高いが、面白い挑戦だ。

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