ソニー「背景をぼかす」のとってもシャープな切り口!! 

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浅野忠信、北川景子がアピールするぼかすカメラ

浅野忠信が屋久島の自然を旅し、北川景子が故郷の神戸を訪れるCMシリーズを展開するデジタル一眼カメラ・ソニーαNEX−5・NEX−3。同機種はデジタル一眼カメラの中でも新世代といわれる「ミラーレス」カテゴリーに属している。

「ミラーレス」の特徴は、レンズ交換が可能でありながら、光学ファインダーを取り除いて液晶ファインダーに特化したことによる形状/コンパクトさである。フィルムカメラ時代から一眼カメラの特徴であったレンズ上の突起部分がなくなり、見た目はレンズの大きさを除けばコンパクトデジカメとほとんど変わらない形状となっている。

ミラーレス一眼カメラは、そのサイズや、液晶で見たままを撮影できるという気軽さから、コンパクトデジカメからの買い換え、一眼カメラエントリー層の需要を取り込んでヒットしている。週刊東洋経済3月27日号の記事によれば、数カ月で一眼カメラ(一眼レフと超小型を含む)の国内市場規模(約550億円)の2割まで達したという。

従来の一眼カメラは、キヤノン、ニコンが世界で圧倒的シェアを握っていたが、この超小型市場は、昨夏、オリンパスの「PEN」が上市され火がついた。以前このコラムでも「宮崎あおいの二面戦略『一眼デジカメオリンパス・ペン』」と紹介したが、その宮崎あおいのCMと、往年のフィルムカメラの名ブランドを冠して若い女性と中高年男性の両方に大ヒットした。ほかにも、樋口可南子が女性向けで使いやすさを徹底訴求するCMを展開するパナソニック「LUMIXG2」などの強豪揃いである。

強豪ひしめくカテゴリーで、αがCMで繰り返し訴求しているのは、前述の「背景ぼかしコントロール」だ。被写体だけにピントを合わせ、背景をぼかすという「プロっぽい」写真が手軽に取れることが売り物である。

実はこの撮影方法、ちょっと写真をかじった人間であれば、そんなに難しくない。中・高と写真部にも属していた筆者が解説すると、基本はレンズの絞りを開き、シャッター速度を速めること。つまり、ピントが合う範囲・被写界深度を浅くすることで、狙った部分と前後に距離がある場所はぼけることになる。

しかし、全自動のカメラではなかなかそれはできない。簡単にやるなら、人物写真ならズームを望遠にして、さらに被写体の背景を遠くにすれば結構いい具合にぼける。だが、うまくそんな状況設定をするのは難しかったりする。

「面倒な手間をかけずに、いつでも“プロっぽい写真”を撮りたい!」という、多くの人のニーズに応えたのが「背景ぼかしコントロール」なのだ。カメラを映したいものに向け、液晶画面横の「コントロールホイール」を回せば、好みのぼけ具合が無段階で調節できる。あとはシャッターを押すだけ。確かに仕上がりはプロっぽくなる。北川景子バージョンのコピーである「背景をぼかす。心が動きだす。胸が高鳴る。」になってしまうわけだ。

ではソニーはなぜ「ぼかし」だけを訴求してきているのか。それはこのカテゴリーの顧客特性と関係がある。

ソニーのお家芸

この超小型カメラカテゴリーは、従来の一眼レフとは違い、コンパクトデジカメからの買い替え層という新たなユーザーを取り込んで大きく成長している。前掲の東洋経済の記事では、一般的に一眼カメラの女性比率は1割といわれるが、超小型では3割に上ると分析、料理写真の撮り方講座に女性が集う様子を紹介している。

「背景ぼかし」の機能は、αのだけのオリジナル機能ではない。例えば、筆者も所有している「キヤノン・EOSKissX3」。ミラーレスではなく従来型の光学ファインダタイプではあるが、エントリーモデルの一つだ。撮影モードを選んで、おおよそのぼけ具合を段階的に設定できる。しかし、少々手間がかかることと、液晶ファインダーでそのぼけ効果を見ながら撮影できるわけではないので、本当の初心者が使いこなすことは難しいだろう。

ソニーαは、多くの初心者がやってみたかったことを、とにかく手軽に実現できることに注力している。その1点をCMで、浅野忠信と北川景子に実演させて、繰り返し繰り返し訴求している。実は他にも、「世界最小サイズ」「ハイビジョン動画撮影機能」「3次元(3D)写真の撮影機能」など盛りだくさんなのだが、全く触れていない。「ぼけ」という1点だけで、「手軽に持ち歩けてプロのような写真が撮れる」というメッセージを実現し、一眼カメラへの買い替えを検討しているユーザーを取り込む戦略だろう。

この初心者に使いやすい「背景ぼかしコントロール」には、ソニーファンにとっても、「やったな!」と思わずうなるポイントがある。

ソニーのいくつものハードウエアに搭載されているユニークな機能の一つが「ジョグダイヤル」だ。

古くは1980年代半ばにソニーのベータマックス型ビデオデッキの特徴として、ホイールをクルクルと回してテープのコマ送りをしたり録画予約ができたりする機能として採用された。以来、「ソニーといえはジョグダイヤル」的な機能として市場に認知され、パソコンVAIO、PDA、電子辞書、ウォークマン、ミニコンポ、カーナビなどに採用。携帯電話では今は亡きツーカー向けの端末にサイドジョグとして搭載されて「クルクルピッピ♪」のコピーで親しまれた。

昨今、ダイヤル型のコントロール装置は他社の機器でも採用しているものがあったり、ソニー製のハードウエアでも必ず付いているという状況ではなくなったりしている。しかし、直感的な操作・使いやすさが求められるシーンでお家芸を投入して、ここ一番の勝負をかけているのは、「自社ならではの提供価値=ValueProposition」の示し方として秀逸だといえるだろう。

競合が厳しい市場に参入するなら、「訴求ポイントを徹底して絞り込む」「ターゲットニーズの実現に、“自社ならではの提供価値”を用いる」ことが重要だ。ソニーαNEX−5・NEX−3の展開は極めてシャープなのである。

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