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気持ち・読んでる。西友の「KY」絶好調!

投稿日:2010/03/26更新日:2019/04/09

西友ニトリあえずIKEA

総合スーパーが長期的な低迷に苦しむ中、一人気を吐いているのが西友だ。世界最大の小売業、米ウォルマート・ストア—ズの傘下に入り7年。2008年12月期まで7期連続で最終赤字が続いていたが、昨年の既存店売上高は0.3%増。イオンやイトーヨーカ堂が前年割れする中、復活ののろしをあげはじめている。その西友のコミュニケーション戦略が、実にKYなのだ。

同社は「KY」というキーワードを前面に押し出している。同社の特徴である「カカクヤスク」「クラシヤスク」という二つのメッセージを分かりやすく伝えるためだ。「東京KY生活」なるホームページも存在する。

まずはこのCM「新生活のうた編」だ。

「西友にとり、あえ〜ずいけあ♪」。陽気な外人新婚夫婦が西友で次々と新居のアパートに家具・雑貨を運び込む映像のバックで、ちょっと舌足らずな男の子の歌声が響く。「だって家具や雑貨も安いんだもの。新生活も西友」と、続けてアナウンス。「西友に、取りあえず、行けや!」と、生活用品を買い揃える価格・利便性をアピールしているのだが、明らかに「ニトリ」「IKEA」と聞こえるように狙っている。

狙いの一つは「西友でも扱っているけど高い」と思われている商品カテゴリーに注目させることにある。昨年3月には、「シャンプーと洗剤を買ったっけ?」という夫に、妊婦の妻が「そういうのは西友では買わない!」とピシッと言うCM「夫婦編」を放映した。同7月は、当時話題のギャルの「盛りヘア」をパロディーに使ったCM「盛ってます編」で「KY=クラシヤスク」を訴求した。

今回と全く同じ狙いだったのは、「盛ってます編」の一つ前の「バッタリ編」だ。

『「コジマさーん」「ヤマダさーん!」「あ、ビックさん!」「ハーイ!」「タカタさん!」「どうしたの、みんな西友にあつまっちゃって!」。だってスーパーのテレビがスーパー安いんだもの。家電も安く。西友。』

「家具・寝具・雑貨などの生活用品は西友は高い」という認識を払拭するだけでなく、「専門店のニトリ・IKEAと同等以上に安いのだ」という訴求のため、あえて他社の社名を想起させているのである。

「どうせ西友は○○は高いでしょ!」という消費者の“気持ち(K)を読んで(Y)”、「そうじゃないよ!」と訴求するのが一連のCMのキモ。KY戦略は表立っては、「カカクヤスク」と「クラシヤスク」の2本立てということになっているが、実は「キモチヨム」が裏に隠されているのではないか。

例えば、筆者が「おっ!」と思ったのが、冷凍食品の価格訴求だ。

2002年にウォルマートと包括提携し、2008年には完全子会社となった。ウォルマートの基本はチラシに頼らない「EDLP=EveryDayLawPrice」だ。しかし、毎日チラシで買い物計画を立てるEDCP(EveryDayChirashi-dePlanning?)な日本の主婦には受け入れられず苦戦した。

そのブレイクスルーがKY戦略の一環である、「他社のチラシに掲載された特売価格が西友よりも安い場合に販売価格を引き下げる“他社チラシ価格照合制度”」だ。その中でも西友が絶対の自信を持っていたのが、当時一層の値下げをした生鮮品と冷凍食品なのだ。

その自信の源である冷凍食品の価格について、西友は自らアンチテーゼを行った。店頭にポスターを掲出したのだ。

『「冷凍食品」の割引表示やめます。「5割引」と言われると、確かに安いと思ってしまうけど、元になる定価が高かったら、たいしてお得じゃありません。だから私たちは、まぎらわしい割引表示を一切やめます。正々堂々、価格表示で勝負することを宣言します。』

「5割引って……。一体どういう定価設定だよ!」という気持ちは、消費者の誰しも頭の片隅にあったことだろう。そんな、消費者の「心の底を読んだ」のも、西友の「KY」なのだ。

ウォルマートは日本人のキモチヨム

もちろん、KBF(KeyBuyingFactor)であるEDLPを実現させるためには,裏でKSF(KeySuccessFactor)となるEDLC(EveryDayLowCost)を実現しなければならない。西友は店舗運営の徹底した効率化を進め、生産性向上によって、販売管理費を500億近く減らした。また組織や人材の育成にも手をつけ、2010年2月26日付日経MJの記事によれば、陳列やレジ打ちなど複数業務を担える従業員を育成し、労働生産性は2年間で40%以上高まったという。明確なKSFとKBFと、それを支えるシステム、そして背後にあるウォルマートの巨大な調達力が整合しあって、生態系として完成しつつあるのだ。

カジュアル衣料を見てみよう。ウォルマートの購買力を活かし、安いけど結構カッコイイ「Georgeブランド」を展開している。「SEIYUFASHIONPROJECT」として、昨年は『あなたが思っているかもしれない「スーパーの服は安いけどダサイ」を、「安いけどカッコイイ!」に変えるプロジェクト』と公表して、庶民の支持を集めることに成功している。昨年9月にはなんと子供服のファッションショーまで開いた。

あくまで「気持ちを読んでいる」のだろう。

アパレルでカジュアル以上に目立つのが、昨年後半からさらに注力している「スーツ」だ。従来、7900円で展開していた紳士ビジネススーツを、昨年10月8日からGeorgeブランドに組み込み、業界最安値の5000円でセットアップスーツとして発売した。ここでもウォルマートの購買力を活かして中国で集中生産したり、カラーをブラックのみに集約したりして実現した価格だ。さらに、今年2月から同じくGeorgeブランドで3800円の女性用就活スーツを発売。“氷河期再来”といわれる就職戦線に挑む学生を低価格スーツで応援するという。

低価格衣料は「デフレの根源」といわれたり、海外の労働力搾取の犠牲・国内産業にダメージを与えるといわれたりすることも多い。しかし、激安就活スーツは、実家からの仕送りゼロの学生が初めて1割を超え、さらに活動期間が延びるという厳しい環境下で、学生の「気持ちを考え」たら「ありがたい存在」となるだろう。

ちょっとおとぼけなCMが楽しく、何かとだじゃれでKYに持って行く、西友の「KY戦略」。しかし、日本市場で消費者の気持ちを読むことがうまくなってきているように思う。これまでドイツや韓国など先進各国で進出に失敗しているウォルマートが、日本市場に腰を据えて挑んでいることの、象徴ではなかろうか。

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