■サウスウエスト航空のミッション(編集部訳)
TheMissionofSouthwestAirlines(サウスウエスト航空の理念)
ThemissionofSouthwestAirlinesisdedicationtothehighestqualityofCustomerServicedeliveredwithasenseofwarmth,friendliness,individualpride,andCompanySpirit.(サウスウエスト航空の理念は、温かい心、親しみやすさ、個々人の矜持、そしてカンパニースピリットを重んじ、最高の顧客サービスを提供することである)
ToOurEmployees(従業員へ)
WearecommittedtoprovideourEmployeesastableworkenvironmentwithequalopportunityforlearningandpersonalgrowth.CreativityandinnovationareencouragedforimprovingtheeffectivenessofSouthwestAirlines.Aboveall,Employeeswillbeprovidedthesameconcern,respect,andcaringattitudewithintheorganizationthattheyareexpectedtoshareexternallywitheverySouthwestCustomer.(私たちは従業員に、学習と成長の機会を平等に保証し、安定した労働環境を提供することを約束する。サウスウエスト航空の企業価値を向上するために、創造性と革新性を奨励する。そして何よりも、私たちは、従業員を、敬い、尊敬し、慈しむとともに、従業員にはこれと同じ態度を持ってすべての顧客に接することを期待する)
サウスウェスト航空という会社
サウスウエスト航空は、米国テキサス州を本拠とする、短距離路線に特化した、極めてユニークな低価格航空会社(LCC)だ。「稼働率の高い人気区間の長距離国際便を多数持つ会社が儲かる」という業界の常識に反して、国内の短距離路線に徹していながら、創業以来、黒字を残しながら業容を拡大してきた。
同社のもともとの発想の原点は「空飛ぶバス」、つまり、競争相手は通常の大手エアラインではなく、バスや自動車という考え方である。この考え方もあって、同社は、多くのエアラインが採用している「ハブアンドスポークシステム」は採用していない。中規模の空港を拠点に、シンプルな乗り継ぎなしの直行便を、短い折り返し時間で効率的に飛ばす。同時に、無駄なサービスは極力カットし、「移動」という根源的な価値に絞込み、コストダウンを図るのが同社のやり方である(この点では、「髪のカット」という根源的な提供価値のみに特化したQBハウスを髣髴とさせる)。
そうした戦略・オペレーション面に加え、サウスウエスト航空の高収益を支える鍵としてよく言及されるのが、同社の組織運営の仕組みだ。現場に裁量が任され、それこそリッツカールトンホテル(第3回参照)のような、従業員の自発的行動に関するヒーロー/ヒロイン物語が社内で語られる。評価報奨はチーム単位だから、チームワークは必須。服装はラフで、通常の航空会社のような堅苦しさはない。後述するように、人材の採用基準もユニークだ。
LCCでありながら、従業員の給与レベルを高く維持しているのも同社の特筆すべき点だ。ANAやJALに比べ、圧倒的に安い給与レベルとなっている日本のLCCとの決定的な差異がそこにある。
創業者ハーブ・ケレハーのカリスマ性もさることながら、彼が長年かけて構築してきた、こうした組織運営の仕組みが同社の強みの源泉となっている。こうしたことも念頭に、同社のミッションを見ていこう。
顧客よりも社員が大事?
十数年前、『社員第一、顧客第二主義—サウスウエスト航空の奇跡』という書籍が書かれたことがある。「社員第一、顧客第二」というとややギョッとするが、これは決してサウスウエスト航空が顧客のことを劣後して考えているという意味ではない。従業員満足を第一に考え、良い人材を集め、彼らのモチベーションを高めることが、結局は顧客満足につながるという、理にかなった「コロンブスの卵」的な理屈である。
そして、サウスウエスト航空の凄さは、米国において、他社に先駆けてそのロジックを「徹底的に」信じ、そのための仕組みを作り込み、実践したところにある。事実、サウスウエスト航空のCSは、航空業界では常にナンバー1を争い、全業種の中でも指折りの地位を占めている。
サウスウエスト航空のミッションステートメントを見ると、やはりまずは顧客に良いサービスを提供することが重要と考えていることが見て取れる。
と同時に、そのすぐ後に「ToOurEmployees」と来るところが、いかにもサウスウエスト航空らしい。通常の企業であれば、ここは「行動指針」や「Principles」などとして、対外的な「我々は○○をします、我々は△△をします」といった約束が来そうなものだ。
そうではなく、「従業員へ」という形で、「我々は■■を従業員に提供する。(社内では)▲▲するよう奨励する…」という書き方は、先述の信念が反映されている証左であろう。ちょっとした書き方の差かもしれないが、神は細部に宿る。やはり従業員第一主義(従業員至上主義や温情主義ではない)の精神は息づいているのだ。
こうしたやり方は、同社のリクルーティングや一体感にも影響を与えることになる。会社が提供するものや、社内で是とされる行動様式を提示することで、それに賛同する社員が集まりやすくなるからだ。単に給料が良い等ではなく、「やりたいことがあり、会社もそれを支援してくれるからここで働く」という状況ができていることは、強くてエネルギッシュな会社の必要条件と言えよう。
矜持とカンパニースピリット
サウスウエスト航空の接客は、きわめてフレンドリーで、従業員が考えたパフォーマンスを披露するなど、時としてユーモラスでさえある。それゆえ、ハーブ・ケレハーはかつて、「従業員の採用の基準はまずはユーモア」などと答えたこともあるという。
もちろん、そうした要素は企業文化として脈々と流れているのだろうが、改めてミッションステートメントを見ると、温かい心や親しみやすさと一緒に、「矜持(individualpride)」「カンパニースピリット(Companyspirit)」という言葉が並べられているのが目を引く。
“pride”をどう訳すかは難しいところだが、私は「矜持」という言葉がピッタリくると思う。片仮名で「プライド」と書いてしまうとややネガティブな印象を受けるが(実際に、ネガティブな意味でのプライドが妙に高い航空会社は実存する)、私は、良いサービスや製品を提供する人々には、必ず強い良質の矜持が備わっていると考えている。それがあるからこそ、「この程度ではダメだ」「もっと良くしなければ」という内発的な動機が生まれる。逆に言えば、従業員に良質の矜持を強く持たせることが、良い会社の条件であり、サウスウエスト航空は、それに成功しているからこそ、ここまでのパフォーマンスを残せたのであろう。
そして「カンパニースピリット」。一般に、それほど多用される言葉ではない。しかし、私は、この言葉の背後に、会社としての強い矜持を感じる。つまり、「従業員は会社の顔であり、その従業員がチームとして提供するサービスに我々は自信を持っています」ということだ。こうした思いこそが、さまざまな施策の立案・導入につながり、それらと相まって従業員を動機付け、高いサービスレベルに結びついてきたのである。
しばしば、「単に戦略的要素のみで構想されたビジネスモデルよりも、HRMやソフト要素がうまく組み込まれたビジネスモデルの方が強力だし、模倣されにくい」と言われる。まさに、それを実現しているのがサウスウエスト航空なのだ。
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