串焼きチェーン「くふ楽」・福原裕一氏(後編)-若い世代を熱くさせる、5つの仕掛けとは? 

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2007年度新卒採用で、KUURAKUグループは、1回だけ会社説明会を行い、「この会社に入りたい人は?」と尋ねて、手を挙げた人全員に内定を出した。端から見ると無茶なようだが、それができたのは、若い人材の育成に対し絶対的な自信があるからだという。(この記事は、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年7月5日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)

10~20代の若い社員やアルバイトをどう活用するか? 若い世代の人材活用に悩む企業が多い中、注目を集めている中堅居酒屋チェーンがある。「くふ楽」「福みみ」「生つくね 元屋」「焼酎泡盛 豚の大地」などの店舗を展開する、千葉県発祥のKUURAKUグループだ。

年間離職率5%、国内外の全18店舗で黒字経営を実現。2007年度「居酒屋甲子園」でも、覆面調査員による3カ月間に及ぶ調査の結果、「くふ楽本八幡店」は全国739店舗の中で、ベスト6入りを果たしている。

これを実現してきたのが、オーナー経営者の福原裕一氏(43歳)だ。前編では同社の経営理念を、中編では、同社の戦略を、価値創造という視点から検討した。

そこでこの後編では、同社のシステム/プロセスが、いかにして組織能力を高め、戦略を実現しているかについて見ていこうと思う。

最新の成功法則を取り入れているシステム/プロセス組織能力

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KUURAKUグループの経営システムや業務プロセス、そして組織能力の特性を、下の表にまとめてみた。表の左側の項目が、筆者がKURUAKUグループの特性と考えるもの。右側が、現代の日本企業にしばしば見出される点である。
以上20項目、KUURAKUグループの特性を挙げた。実はこれらのポイントは、成功企業だけが実践できているとされる内容ばかりである。

驚くべきことだ。勉強熱心な日本の多くの経営者や経営幹部は、本で読んだり、セミナー・講演会で学んだりして、これらの項目については、みな知識としては知っている。しかしたいていの場合、分かっちゃいるけど古いやり方から脱却できないか、または、大胆に自社に導入しようとした結果、社内が大混乱に陥って失敗するか、のいずれかだ。

KUURAKUグループでは、なぜこれらのポイントを成功裏に導入・運用できているのだろうか?

福原氏はこう述べる。「『想いの強さ』の違いだと思います。『人のために!』というのがすべての前提としてあって、そのためには一体どうしたら良いのだろうか、という切実な心情の中で導入・運用するのが基本だと思うのです。そういう手法が流行だからとか、儲かりそうだからとかいうことでカタチだけ真似たって、うまくは行かないと私は思います」

ここからは、上記のシステム/プロセス特性について、もう少し具体的に見ていこう。KUURAKUグループでは、どのように若い世代を熱くさせる仕掛けを作っているのか? そのポイントは5つある、と筆者は見ている。

ポイント1:基本は「人間性善説」

システム/プロセスを構築するに当たっては、経営トップの人間観が非常に大きな影響を及ぼす。人間性悪説に立脚する場合、リーダーシップは、上司・部下の命令服従関係の行使を基本とし、組織形態もピラミッド型となる。そこでの機能単位は、階層構造の中の各部門である。大企業でも、ワンマン経営者が恐怖政治を敷いているような企業を想像すれば分かりやすい。

それに対して、人間性善説に立脚する場合は、人間性に対する信頼と期待がベースになっているだけあり、リーダーシップのあり方は、“仕事仲間に対するサポート”というスタイルを取る。これは、まさに福原氏の人間観そのものである。「経営の主役は『現場』です。私はそのサポートをすれば良いのです」(福原氏)

ここから帰結する組織形態は、フラット(鍋蓋)型であり、機能単位はチームである。KUURAKUグループでも、正社員1名程度とアルバイト6~7人程度の各店舗を、1つのチームとして機能させているほか、店舗内に複数のチームを設定している。そして、この極小チームが自立・自律・自己完結型で機能することで、同社は、環境変化の大波も乗り越えてこられたといえる。

チームの機能を極大化するために福原氏が採った方法とは、経営理念の伝播・共有化促進、現場情報の全社的共有化、裁量権の意図的拡大を通じた自己啓発促進である。

ポイント2:経営理念を全社で共有

経営理念の全社的共有化は、あらゆる企業にとって必須の要件だが、実際にそれに成功しているところは極めてまれだ。

以前、本連載で取り上げた製薬業界の場合もそうだった。高い志をもった若い人々が経営理念に魅了されて入社しても、営業の現場でそんなものは見向きもされない。ただひたすら数字だけを要求され、多くの社員が仕事の意義を見失い、うつうつとした日々を過ごしていた。

そうした企業の特徴は、経営理念が毛筆で書かれ、立派な額縁に入れられて、社長室に掲示されていたり、朝礼に際して、空念仏のように職場全員で唱和したりする点にある。要は、社内外に向けてのポーズのようなものであり、そもそも機能させようという意志が乏しい。経営理念が機能しないとは、すなわち、嵐の海で船が羅針盤もなく航海を続けるようなもの。その末路は明らかだろう。

我が国の多くの企業がこのような状況にある中、KUURAKUグループでは、Learning、Living、Leisureという3つのL、すなわち、共に学び、共に過ごし、共に遊ぶことを、社内的に日々実践する中で、経営理念の全社的共有を進めているのである。

この3つのLは、本連載の中で取り上げたコンファレンス・コーディネーターの田中慎吾氏が、“人をときめかせ創造性を高める重要なファクター”として挙げていたものである。

これを推進するため、同社には、実に多数の全社イベントが用意されている。入社直後の富士山研修、改善活動の発表会チャレンジシップアワーズ、アルバイトの卒業式、運動会誕生日企画などなど、平均すると月1ペースくらいで存在するのである。

ポイント3:現場情報を全社的に共有する

チームの機能を極大化させるために福原氏が採った2つ目の方法は、現場情報の全社的共有化である。

KUURAKUグループでは、イントラネットをフル活用することで、それを実現している。同社のイントラネットは、各店舗のその日一日の動きがまさに一目瞭然で分かるようになっている。よくあるような数字や連絡事項の羅列というレベルのものではなく、たとえば店長からアルバイトA君への感謝の念など、一人ひとりのスタッフの性格特性や、その時どきの想いまで汲み取れるようなレベルのものになっているのである。

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KUURAKUグループのイントラネット。各店舗、各チーム、各スタッフの動きが手に取るように分かる

「私は、各店舗に顔を出すことはほとんどありませんが、毎日イントラネットを見ることで、各店舗の状況をつぶさに知ることが出来ます。ですから、たとえば、全アルバイトの顔と名前、その特性まで把握しているんですよ」と福原氏。

このことは、見方を変えれば、社員であれアルバイトであれ、自分や自分のチームが今、社内でどんな位置づけになっているかを知ることが出来るということである。貢献できているという実感も、そして、いっそうの努力を要するという実感も。

ポイント4:裁量権を意図的に拡大し、自己啓発を促進する(=Empowerment)

チームの機能を極大化させるための3つ目の方法は、裁量権の意図的拡大による自己啓発促進である。

「任せられるものは全て任せます」と福原氏は言うが、仕事を丸投げするわけではない。あくまでも、スタッフの挑戦と成長を意図した裁量権拡大である。

同社では、たとえば、店長になりたい人は自ら立候補する。そして、たいていの場合、その希望通り、店長に就任する。もちろん、本人にとっても初体験であるし、実力的に十分でない場合もあって、なかなか思うような成果が出ないこともある。そういう場合には、同社として、放置することもなく、問題解決の答えを教えることもしない。どうすればその状況を脱却し得るか考えるヒントを与えるなどして、間接的にサポートするのである。

そして、来店客からの感謝の念など、具体的な成功体験を得ることで、大きな自信が形成され、人間的にも一回り大きくなってゆく。また、こうした成功体験は、本人の意識変革を促進するので、経営理念に対する理解・共感が深まるという効果も期待できるのである。

680 ay shimada02 「豚の大地」グループ長兼新宿店店長の日高陽介氏

豚の大地グループ長 兼 新宿店店長の日高陽介氏も、こうして成長を遂げてきた一人。決してはじめから順風満帆だったわけではないし、周りと衝突したり、悩んだりしたこともあったというが、「これからも会社の中で成長し、貢献したいです」とすこぶる前向きだ。

同社のシステム/プロセスには、このような裁量権の拡大の仕掛けが、まさに網の目のように張り巡らされていて、すべてのスタッフがさまざまな機会に、挑戦と成長を実現できるようになっている。

若いアルバイトが店舗を代表して、全社的なコンファレンスに出席し、店舗の経営に関して、プレゼンテーションする機会もある。まさに全員主役型のシステム/プロセスであり、したがって、コミュニケーションのあり方も、全方向型であることが基本になっている。上も下もなければ内も外もない、仕事仲間との率直なコミュニケーションである。

680 ay shimada03 「豚の大地」新宿店アルバイトの原田基龍さん

売上の目標設定も各店舗が自主的に設定するようになっているし、日常業務の段取りについては一切マニュアルが存在を効かせて決定できるようになっている。「豚の大地」新宿店のアルバイト、原田基龍さんは言う。他の飲食店と異なり、自分で考え、行動できることが楽しいと。

こうした裁量権の拡大の成否は、実は「失敗へどのように対応するかにかかっている。スタッフが失敗した時の対応が“処罰”が基本であれば、誰も挑戦しようと思わなくなるだろう。失敗を“許容”するなら、まだ多少は挑戦への意欲もわいてくるが、積極的に挑戦させるためには、むしろ失敗を“奨励”する必要がある。KUURAKUグループでは、まさに失敗を奨励している。失敗もまた成長の機会。失敗したスタッフには、再起を賭けるチャンスをきちんと与えているのだ。

社員の失敗は、自社の経営に対して、実際損失を与える場合がある。しかし福原氏は、実際損失を懸念するのではなく、あくまでも機会損失を懸念するスタイルである。

チャンスを見抜き、それを掴み取ろうとする感性を評価する。どんな人材でも、成長することを重視する――だからこそ、2007年度の新卒者採用では、たった1回の会社説明会で「入社したい人は挙手してください」と呼びかけ、挙手した全員に内定を出したのである。

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福原氏の著書『手を挙げた人、全員内定。 ――冷めた若者をアツくする経営』(東洋経済新報社・刊)

ポイント5:ハッピー&サンクス

福原氏が実施したシステム/プロセス革新の中で、最もユニークなものとして、ハッピー&サンクスの制度化が挙げられる。

「これは、24時間以内にあった『うれしかったこと』と『感謝したいこと』をチームのメンバーを前に発表しあう仕掛けです」(福原氏)

日々を漫然と生きていると、いろいろなことが当たり前になってしまい、改めてうれしいと感動することもなく、何となく見過ごしてしまうできごとが増えてくる。あるいは、人が自分のためにしてくれたことに対して、感謝の念を自覚しないまま、過ぎ去ってゆくできごとも多い。

しかしそれでは、チーム内での信頼関係を確固たるものにしたり、来店するお客の潜在欲求(Wants)を感知したりすることは難しい。ましてや、“客の喜びは自分の喜び”など望むべくもない。

ハッピー&サンクスを日々実践することを通じて、小さな幸せとか喜びを自覚し得るようになるし、他人が自分のためにしてくれたことを確実にキャッチし得るようになる。

それは、まず、職場の雰囲気を明るく前向きにし、仲間がいてくれてこその自分ということを自覚できるようになる。来店客との関係で言えば、彼らが心の底でどんな風に感じ、何を求めているのかを敏感に察知できるようになり、感動の共有が可能になるのである。また、5.で述べた成功体験を、成功体験として明確に自覚できるようになることも極めて重要であろう

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店舗の朝礼でハッピー&サンクスを行っているところ(上)。 KUURAKUグループでは、「ハッピー&サンクス」というNPO法人の活動も行っている(下)

輝き躍動する組織(能力):

以上、5つのポイントによって、KUURAKUグループの組織(能力)は、著しく上昇している。自己実現など、ES(従業員満足)としての個人価値、ならびにチーム力としての組織価値のいずれもが高い水準を実現しており、それが、顧客価値社会価値創造の原動力になっているのだ。

同社の組織(能力)が、次のような特性を示していることに、筆者は注目している。

第1に、自分の生きる方向性が明確で、自分で考え行動できる集団になっていること。方向性が定まらないまま、“やらされ感”を抱いていやいや仕事をしている人たちとは正反対だ。

第2に、スタッフの生き甲斐が「個人と組織が輝くこと」つまり、「自分やチームが輝くこと」になっている。原田基龍さんはこう話していた。「チームの仲間たちと飲みに行くんですが、自然と仕事の話になってしまう。どうすればもっと店がよくなるか、アイディアを出し合うような雰囲気になるんですよ。愚痴が出ることはないですね」

これは、スタッフにとって職場が、“自己革新を通じた自己実現の場になっている”ということを意味する。

これを客との関係で見るならば、ひとりひとりの客の喜びが自分の喜びになる。そして仕事仲間との関係でも、“あなた(仲間)がいてくれてこその私”なのである。

異なる個性が融合したプロ集団であり、昨今の企業社会を席捲する各個人が『タコつぼ』化し、うつ病にかかった(かかりそうな)社員が集まる集団とは正反対といえるだろう。

こうした個人・組織だからこそ、目的・目標への取り組みに関しても、目的・目標を達成する喜びを共有することができる。会社がそういう組織風土になっているのである。それはまた、システム/プロセス価値の創造(=Cash Generation、現金創出力)を保証することにもつながる。

21世紀の“成功する”リーダー像とは?

最近、成功企業の経営者の方々と接する中で痛感することがある。それは福原氏を含め、彼らが口にするキーワードがほとんど同一であるということだ。

その中でも特に印象的だったことを挙げて本稿を締めくくりたい。

「現代のリーダーに求められること。それは、『人のために(貢献したい)』という想いの深さ・強さ。もう1つは、『小さな約束を守ること』、すなわち、他人が見ていないところでも、自分の発した言葉を誠実に実行することです」

経営者のこうした真摯な経営姿勢こそが、21世紀の今、実は最大の成功要因なのかもしれない。
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