“腹落ち”が生み出す組織の実行力 

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前回は、戦略を変え、組織や仕組みを変えてもなかなか社員が動かない。その原因は「腹落ち感」の不足にある、というお話をしました。「腹落ち感」「腹に落ちる」と、よく言われることですが、そもそも「腹落ち感」とは何なのでしょうか? さらに深掘りしてみましょう。

新しい状況において、適切に判断を下すためには、単に前例を踏襲するわけにはいきません。また、上位の方針が示されても、メンバー各自の仕事の詳細まで上が決めてくれるわけではありません。そうすると、「自分の業務において何をどうすべきなのか?」を自ら考え、決める必要が出てきます。

腹落ちとは「ワクワク」、そして「当事者意識」

そのためにまず、【上位の方針や目的を、その理由や背景とともに具体的に理解する】ことが必要です。単に上位の目的や方針を単なるお題目として知っているだけでなく、なぜそれが重要なのか? 何が最も留意すべきポイントなのか? 上位の目的や方針がそのようになっている理由や背景を含め理解しないと具体的な判断ができません。

そのうえで、【上位の方針や目的をブレイクダウンし、自分の生み出すべき成果やそのためのあるべき業務のプロセスを具体化する】ことが必要です。言い換えれば、目的や方針に沿って、自分の仕事の「あるべき姿」を描くことです。

ここで重要なのは、「あるべき姿」は具体的でなければ意味がない、ということです。たとえば「お客様に最高の接客を提供する」と言っても、どんなことをどれくらいすることが「最高の接客」なのかイメージできなければ、現状の接客に問題があるのか? どの程度問題なのかが判別できず、何を変える必要があるのか? どう変える必要があるのか? を考えることができません。ここが曖昧な状態で関係者と話しても、「そこまでやることはない」「それはあなたの好みの問題ではないか?」となってしまい、説得できません。たとえば「あるべき接客を構成する要素」を分解し、それぞれどのようなレベルまで実現することが必要かを具体的に描き、言語化することが必要です。

最後に、【それを自分がやりたいと思える】ことを忘れてはいけません。何か新しいことをする、何かを変える際には、周囲の理解が得られない、強い反論を受ける、また予想しない困難に直面することもしばしばです。それを乗り越えてでも「やろう!」と思えるためには、「これができるとこんなに嬉しい」という「ワクワク感」と、「自分こそがやるべきだ」という「当事者意識」を持つことが必要です。

「腹落ち」とはこのように、「目的と理由」を深く理解し、「具体的なあるべき姿」を自ら描き、「ワクワク感や当事者意識」を持てるレベルまで納得するということです。こう考えてみると、なかなかハードルが高いと感じるのではないでしょうか? ご自分の日々の仕事を振返ってみるとどうでしょうか?  自分自身はこうした「腹落ち感」を持てているか? またリーダーとしては、自分の部下やメンバーにこうした「腹落ち感」を与えることができているでしょうか?

「腹落ち」を生み出すファシリテーション

では、「腹落ち感」は、どうすれば実現できるのでしょうか? 特にリーダーとして、どのようにメンバーを「腹落ち」させれば良いのでしょうか? 話がだいぶ遠回りしましたが、ここでポイントとなるのが「ファシリテーション」です。「腹落ち」を生み出すことこそ、ファシリテーションの目的と言ってもいいでしょう。

先に見たように、大きな方針をそのままメンバーに与えただけでは、自分のものになりません。一方で、やるべきことを事細かに指示し、「こうしろ」と一方的に伝えても、メンバーは口では「わかりました」と言うでしょうが、決して「腹落ち」には至りません。「腹落ち」させるためには、大きな方針や目的をメンバー自らにブレイクダウンさせ、自分の業務のレベルに落とし込み、自分の問題とさせる。そして実際の業務に照らして、何をどの程度どうするべきか?具体的な判断軸を自ら考えさせる。こうしたプロセスを踏むことで、「メンバーが自分で自分を納得させる」ことが必要です。

なぜそうなのだろうか? 本当にそうすべきなのだろうか? 他にもっと大事なことは無いか? もっと良いやり方は無いか? と疑問を持ち、それについて自ら考え抜いた結果、「それしかない」と感じられること。そして自分の言葉で、また具体的な事例に落とし込んで説明できるようになれば、その「腹落ち」は本物と言えます。

メンバーに一方的に指示や命令をするのではなく、相手に問いかけ、考えさせ、掴ませる。それにより行動に繋がる深い腹落ち感を目指します。さらにメンバー個人だけでなく、チームや関係者という集団に対して、それぞれが持っている様々な意見を適切に整理し、メンバーが考えるべきことを考え続けられるようにサポートする、そして納得合意のプロセスを演出する。ファシリテーションとは、メンバーの「腹落ち」をつくるために核となるコミュニケーションの営みなのです。

深い「腹落ち」はメンバーのやる気を高め、行動を強く促します。自ら考え、判断することができる人材の層が厚くなることは、継続的な業務の改善・効率性の向上を生むばかりではなく、様々な状況変化や困難に対する組織としての対応力・柔軟性・俊敏さを高めます。

企業間の競争が「何をすべきか?」から「組織として、やるべきことをいかに素早く、徹底的に実行するか?」に移ってきている中では、組織力を高めることができるリーダーが強く求められています。そしてファシリテーションはそのための強力な武器になり得るのです。

次回は、いよいよ「ファシリテーションの難所」を考えていきます。

(本稿は、グロービス経営大学院のサイト上に2007年12月に掲載された内容を、再掲するものです。既掲載分である第7回までを毎週木曜日に順次掲載のうえ、4月からは、いよいよ続編を開始の予定です。どうぞお楽しみに)

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