愛読書は? と聞かれ、この3冊を挙げた理由 

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「あなたの愛読書は何ですか」と聞かれ、どんな本を思い浮かべるだろうか? 筆者の山崎氏はショーペンハウエル『読書について』、ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』、本多勝一『日本語の作文技術』の3冊を挙げた。その理由は……?(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2009年3月5日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)

『日経ビジネスアソシエ』の3月3日号の第2特集は「今こそ、名著・古典に学ぼう!」というタイトルで、多くの人の愛読書を紹介する内容だった。その中に、この雑誌の連載執筆者が「座右の書」を3冊まで答えるアンケートの結果が載っていた。筆者も3冊の本を挙げたので、今回はその3冊について少し詳しく説明してみたい。

愛読書を問うという質問は、言い換えると「あなたはどんな本を愛読書としている人と見られたいか?」という意味だ。特集記事に掲載されていたほかの方の回答を見ると、サイバーエージェントの藤田晋社長はジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ボラスの『ビジョナリーカンパニー』、民主党の長妻昭代議士はマックス・ウェーバーの『職業としての政治』を挙げておられて、なるほどと思わせる。

この質問に対する回答としてどうにも頭から離れないのは、長妻さんと同じ民主党の岡田克也副代表が雑誌の取材で愛読書を問われたときに、「同じ本は2度読まない」とだけ答えたことだった。頭のいい合理的な方だから、確かに同じ本を再読することはないのかもしれないが、もう少し質問の意図をくんで答えても良かったのではないかと思った。遠からず日本の首相になるかもしれない可能性のある方なので、もう少し他人の心を読むサービス精神を持て、と注文を付けておく。

ショーペンハウエルの批判に影響を受けた筆者

860 yd book1 ショーペンハウエル『読書について 他二篇』(岩波文庫)

さて、いくらか過剰気味の自意識を持ちつつ筆者が挙げた3冊は、ショーペンハウエルの『読書について』(岩波文庫)、ミルトン・フリードマンの『資本主義と自由』(日経BP社)、本多勝一氏の『日本語の作文技術』(朝日文庫)だった。

体系的に読んでいるわけではないが、高校生のころから哲学の本は割合よく読んでいる。学生のころは哲学の本を読んでいて、新しい哲学(30年前だと、実存主義よりは構造主義という具合に)の方がいいと思う意識があった。そのうちにどのみち哲学は完成しないし、古いものでも哲学者の思考や言い分自体が面白いと思うようになった。哲学の本は理論を学ぶというより、読み物として読んでいた。そうなると文章のうまい(と筆者が思う)哲学者のものが好きになる。哲学思想的にはバラバラだが、プラトン、ギルバート・ライル、ショーペンハウエルなどがこの系統だ。ショーペンハウエルは悪口の言い様が小気味よく、何となく波長が合うし、読んでいて元気が出る。

『読書について』でショーペンハウエルは、読書とは他人の思考の跡をたどることに過ぎないのであって、自分で考えることが重要だと説いている。まず、この意見に大いに賛同する。そして実は、もう一点影響を受けた箇所があって、それは匿名の批評に対する鋭い批判だ。

匿名で行う批評がいかに卑怯で下らないものであるのかについてショーペンハウエルは口を極めてののしるのだが、この本を初めて読んだころに、ペンネームの原稿を何本も書いていた筆者にとってこの意見はこたえた。金融機関で働きながら金融政策の批判を書くというときは、会社の都合上、匿名の場合がある。一般論としても、「匿名」でなければ発表されない意見にも価値がある場合はある。しかし意見を言う以上は本人が名乗り出なければ卑怯だ、という見方には説得力があった。後年、意見はできれば実名で言いたいと思うようになって、実名で原稿を書くようになったのだが、そこには明らかにこの本の影響がある。

フリードマンの『資本主義と自由』は経済学に関する発想の宝庫

860 yd book2 ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』(日経BP社)

ミルトン・フリードマンの『資本主義と自由』も思い出深い本だ。この本は、高校3年生の正月に札幌市内の書店で見つけて、入試の「政治経済」対策でというような軽い気持ちで読んだのだ。だが、同じく受験勉強のついでに読んでいたP.A.サムエルソンの「経済学」のテキストと書いてあることが随分違うのが新鮮だった。共にノーベル経済学賞の受賞者だったので、「ノーベル賞受賞者同士の意見がこれだけ違うのだから、経済学はまだまだこれから面白そうだ」と思って、入試では経済学部に進むコースを受けることにした。

フリードマンは『選択の自由』というベストセラーもあるが、若いころに書いた『資本主義と自由』の方がキレがいいように思う。この本は経済学に関する発想の宝庫で、教育クーポンや負の所得税など、後に政策として検討されるようになったアイデアが既にいくつも提示されている。近年「新自由主義」という言葉とともに、フリードマンは弱者に冷たい悪人のように言われることがある。

しかし自由な市場を生かしながらも弱者を救済するにはどうしたらいいかという問題を考え、さらに実際にアイデアを出したことについては、なかなか立派なものだ。筆者が読んだ『資本主義と自由』の翻訳は、マグロウヒル好学社から出た熊谷尚夫監訳のものだったが、昨年、日経BP社から日経BPクラシックスのシリーズの1冊として村井章子さんによる新訳が出た。

最も役立った文章読本は『日本語の作文技術』

860 yd book3 本多勝一氏『日本語の作文技術』(朝日文庫)

本多勝一氏の『日本語の作文技術』は、一言で言うと最も役に立った文章読本だ。文章読本には、谷崎潤一郎氏や三島由紀夫氏など作家の手ものが多い。しかしこうした文豪による文章読本は、著者の文章観を知り、著者の作品を味わうためにはいいのだが、必ずしも実用的ではない場合が多い。例えば経済と株価の見通しを書くような文章には、作家の「一番おいしいところ」が応用できるわけではない。筆者も含めてビジネスパーソンがしばしば悩むのは、文章の味わいや調子を高めるといったこと以前に、具体的な文を書く際にテン(読点)やマル(句点)を付けるか付けないか、という種類の問題だ。

本多氏のこの本は、こうした実用的な悩みに丁寧に答えてくれる。筆者にとって読んで役に立ったという意味では、これまでで一番役に立った本かもしれない。これまでにも、会社の部下など若い人が「文章の書き方の参考書としては何がいいですか」と質問してきたときに、何度もこの本を勧めている。

愛読書や繰り返し読んだ本という意味では、違った本を挙げることになる。しかし「評論」「経済」そして「文章」という意味で、筆者が現在「経済評論家」という仕事(これだけではないが)をしている、きっかけを形成してくれた本といえばこの3冊になるのだ。

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