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「起業家」と「経営者」の違いに悩んだ日々――設立9年で上場 i-plug取締役に聞くVol.3

投稿日:2023/09/05更新日:2023/09/28

経営環境をとりまく激流の中で、企業はどのようにして成長を遂げているのか。今回は設立9年でマザーズ上場を果たした、急成長のベンチャー企業「株式会社i-plug」の取締役兼、グループ会社「株式会社イー・ファルコン」の代表取締役 田中伸明氏に、グロービス マネジング・ディレクターの板倉 義彦がインタビュー。

Vol. 2では、多くのベンチャーが急成長の中でぶつかる「離職率の増加」という問題について、正面から語ってきた。最終回となる今回は、田中氏が「起業家」から「経営者」へと変わる中で感じたこと、またその過程における組織に必要な能力や、事業と組織のバランスなどについて伺った。

上場後は、「起業家」と「経営者」との違いを認識できるどうか

板倉 次に、田中さんが、どのように経営者として適応してきたのかについてお話を聞きたいのですが……フェーズが変わるときに、経営者として何が一番大変ですか。

田中 私はこれまで営業、マーケティング、人事、ファイナンスを経験し、上場後はIR、現在は子会社の代表を務めてきました。営業からマーケティング、マーケティングから人事やCFOになった時も大変でしたが、自身としては何とか対処してこれたのかなと思っています。外部研修に参加したり、本を読み漁ったりして、足りないものを補い、それでも対処できない時は、外部のアドバイザーに相談したり、周囲にカバーしてもらいながらやってきました。

その中で最も難しさを実感したのは、上場企業の取締役になってからです。未上場の時も、会社の取締役としての責務をもちろん果たさなければなりませんが、上場してパブリックにさらされるようになると株主など外部の評価も入ってきます。自分の中で、取締役としての責任が大きなものになりました。

上場を目指して邁進している時は、起業家でもいいのですが、上場した後は、経営者でなければならないということに、もっと早く気づけたらよかったと思うのですけど。上場してそれに気づくまでは本当に苦しかったですね。 マザーハウスの山口さん(代表取締役 兼 チーフデザイナー:山口絵理子氏)が、「起業家と経営者の違いは手触り感だ」とおっしゃっていたことがあります。それが許されるのが起業家であり、経営者になれば、その手触り感を手放さなければいけない。本当にその通りだと思います。結局それができないと人が育たないので、会社がサステナブルになれません。i-plugを上場させて、この気持ちに折り合いをつけるのが大変で、それに悩んでいました。

肩書を手放し、考え方も変え、気持ちが楽になった

板倉 田中さん自身がその辛さから抜け出せた、一番のきっかけは何ですか。 

田中 私の場合は、グロービスの知命社中での学びです。山口さんのお話を聞いたのも、ここでした。知命社中にくる前は正直病んでいたなと思うのですが、吉野で滝に打たれて元気になりました(笑)。

実際は、知命社中のさまざまなプログラムから、いろんな刺激や気づきを受けたと思うんですけど、その中でも山口さんの講義では、自分のできていなかったことが言語化できました。私の場合は、i-plugの創業メンバーという「肩書き」を手放せたことが大きかったと思います。

板倉 最近読んだ松下幸之助さんの書籍で、「エンジニアがモノを作っているように、経営者も一つの芸術作品として企業を作っている」という一文がありました。田中さんも自分が作った芸術作品を手放したという感覚なのではないでしょうか。

田中 そうですね、松下幸之助さんほど高い視座ではないかもしれませんが、事業を作ることを手放して、この会社の未来をつくるために、人を育てるのが自分の役割なんだなと考えるようになりました。それが着地点ですかね。

板倉 創業メンバーだっただけに、口でいうほど簡単な決断ではなかったのではないでしょうか。しかし、そう考えなければ継続的に会社を成長させることができないですよね。

田中 そうだと思います。機会が人をつくると考えた時に、その機会をメンバーに提供していかなければ、人が育たないし、今の経営陣がいなくなったときに人が育っていないと、この会社を継続させることができないですから。

それが全くできていないことを、知命社中で気づかされ、それで自分が事業を作ることを手放して、その機会を次なるリーダーに渡していこうと考えるようになりました。でも、私自身まだ40歳で、心の中では「そんなの嫌だ」という自分もいて、そことの葛藤があったんだと思います。
最終的に到達したのは「『or』ではなくて『and』なんだ」という考え方です。

板倉 「『or』ではなくて『and』」とは、具体的にどういうことでしょうか。

田中 私自身やりたいことが、大きく2つあります。1つは、上場企業の取締役の役割を全うすることです。それらの役割を果たせなくなったり、外部からそのような評価を受けたりしたら、退任するしかないですが、なかなか得られる機会ではないので、それまでは全力で頑張ろうと思っています。

もう1つは、自身の志へのチャレンジです。”人々の可能性に蓋をする社会をなくす”というのが私の志なのですが、i-plugやイー・ファルコンでもちろん取り組んでいきますが、その枠を飛び出し、取り組むぐらいの気持ちでチャレンジしてみたいと思っています。一度しかない人生なので。

実は、起業家としての「手触り感」を手放して、経営者になることには少し葛藤がありました。ですが、いまはいろんな人の助言もあり、どちらかを選ばなければならないという「or」ではなく、両方目指せる「and」で考えるようになりました。

40代の10年は、上場企業の取締役という経営者としての役割を果たしつつも、自身の志にチャレンジする「両利きの人生」に舵をきりたいと思います。

板倉 頑張ってください。期待しています。今日は、どうもありがとうございました。

田中 ありがとうございます。

知命社中・・・次世代のリーダー育成のために、経営層に必要なリーダーシップを磨き込むための場や機会を提供している。プログラム名の「知命」は「五十にして天命を知る」という孔子の言葉から引いたもの。「社中」は坂本龍馬の亀山社中から借りてきた言葉で、志を同じくする仲間を意味する。各界の第一人者によるエッジの効いたメッセージから刺激を受けつつ、参加者同士との本音の対話を徹底的に行うことで、内省を深め、絶対にブレない自分の軸が磨き上げる。

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