グロービス経営大学院研究科長ジョン・ベックが語る~私の愚かな失敗とそこから得た学び~Vol.2 ハーバードビジネススクールでの苦い思い出 

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グロービス経営大学院の研究科長(Dean)を務めるベック氏が、自身の半生を振り返り、人生やキャリアに必要なエッセンスをひも解く新企画。ハーバードやIMD、サンダーバードなど世界のビジネススクールで教鞭をとり、名だたる大企業へのコンサルティングにも従事。カンボジア首相のアドバイザー役を務めるなど、幅広い経験を持つベック氏が、自身の失敗や成功からの学びを語る。第2回は「世界に変化をもたらす」(このコラムでは、読者の皆様の様々な意見や経験談をお待ちしております)

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組織(特に教育機関において)がより効率的に、より効果的に機能するよう、変化を起こすということは、私にとっていつも気分を晴れやかにさせるものでした。

真剣に学校の変革に取り組む様子を表現する言葉としては、「気分を晴れやかにさせる」という言葉は少し奇妙な印象を与えるかもしれません。しかし、趣味や娯楽に使われそうなその言葉こそ、まさに私の気持ちを表現していると思います。

私の一つの信念として、組織というものは、私個人の必要や、私の友人たちの必要を満たすべきものだと思っています(特に私たちが「顧客」の立場であるときはいうまでもありません)。おそらく、若い頃から何度も組織の改革を経験し、成功させてきたことが、私にそのような信念を植え付けたのかもしれません。

高校、大学での成功体験

私が組織に変化をもたらした最初の大きな成功は、私が通っていた高校の組織を改革するというものでした。当時、私は生徒会の会長に選出され、一緒に選出された生徒会役員は、副会長、書記、歴史記録員を務めることとなりました。それぞれの役割は代々決まっていて、副会長はすべてのクラブ活動と生徒集会を監督。書記は集会での議事録をとり、歴史記録員は学校の活動記録を毎年編纂することになっていました。しかし、こうした役割の割り振りは、仕事の量や難しさが平等ではなく、女性が書記と歴史記録員に選出され、男性が会長と副会長に選出されることが、長年に渡って慣例になっていたのです。

私はそれを変えたかった。3人の副会長を選出し、それぞれが異なった役割を果たすことが賢明なのではないかと思いました。1人の副会長がクラブ活動を担当し、もう1人が生徒集会を担当、そして、もう1人がより管理運営に関わる分野を担当すればいいのではないかと。しかし、校則を変更するためには全学校職員による投票、さらに、すべての生徒による投票で賛同を得ないといけないのでした。

生徒会規約に変更を加えることは初めての試みでした。まず、学校職員が投票して新しい組織体勢への変更が了承されました。学校職員による同意が得られた後、歴史と公民の教師が合衆国憲法修正事項に関する特別な授業を行ったことを覚えています。教師たちは、生徒会規約の変更を、合衆国連邦議会による憲法の修正になぞらえて説明をしてくれたのです。投票台が学校のメインホールに準備され、生徒たちに投票を呼びかける横断幕も掲げられました。

開票結果は、なんと90%もの生徒が新しい生徒会規約を支持するというものでした!

これは私の自己満足を見事なほどに満たしてくれました。「歴史的な変革を成し遂げた」と感じたものです。もし、人生の中で他に何も達成することができなかったとしたら、高校の組織に新しい変化をもたらしたということが、人生の中でいつまでも輝きを放つことだろうと思ったほどでした。

たった1回の投票によって、私は確信しました。あらゆる組織は変えることができるのだと。その確信はハーバード大学へ入学してからも崩れることはありませんでした。私は大学で日本語を少し学びました。日本文学について学ぶ授業はたくさんありましたが、日本語とともに現在の日本の状況やビジネス、政治について学べるクラスはありません。日本語を一緒に学んでいた私を含めて15人の学生は、ぜひともそのような講義を受けたいと望みました。しかし私たちが新しい授業を作って欲しいと頼んでも、教授たちは忙しすぎるため実現することはありませんでした。

そこで、私たちは画期的な新しい提案をしました。生徒である私たち自身が授業内容を考案し、教材を集め、しかも生徒たちが順番で教える。だから、授業として単位も認定して欲しいというものでした。驚いたことに、大学側の回答は「許可します」。博士課程にある学生に期末試験と最終評価の判定を依頼し、私たちは大学生でありながら、授業そのものを作り上げてしまったのです。「ハーバードの歴史の中でかつて学生がこのようなことを行ったという話は聞いたことがない」と、大学職員からも賞賛されました。

ビジネススクールで味わった失敗

幸運にも教育現場に変化をもたらすという成功を何度か収めた私でしたが、ハーバードビジネススクールの学生となり、そこでも同じような試みをしたときには、少しばかり戸惑いを感じることとなりました。

MBAプログラムで学ぶ学生のリーダーが集まって話し合いをもったときのことです。私たちはMBAの学位を受けるためのコースの中に、もっとグループプロジェクトを盛り込むべきだと考えました。周囲の学生たちに話したところ、強い賛同を得ました。嘆願書(MBAプログラムで学ぶほとんどの学生の署名が入っていました)を携えた私たちは、教職員会議の場でプレゼンテーションの機会を与えられ、教職員による投票が行われました。その結果はなんと満場一致。1人残らず、すべての教職員が私たちの提案を退けたのでした。

私たちは落胆しました。「課題を減らせ」という提案ならまだしも、学生が自ら望んで課題を増やして欲しいと願っているにも関わらず、その提案が拒否されるというのは、いったいどのような理由によるものなのだろうか。不思議でなりませんでした。まったくもって理解することができませんでした。

この失敗によっていくつかの重要なことを学びました。もっとも重要なことは、組織に変化をもたらそうと試みる場合、全てのステークホルダーの視点から、引き起こされる変化の影響を見つめなければならないということです。私が高校時代に経験したことを振り返ると、大きな変化ではありましたが、実際には生徒会役員以外は、誰も深い関心を持っているものではありませんでした。特段高校生の生活や教師の日々の務めに大きな変化がもたらされるわけではなかったため、賛同者を集めることはそれほど難しいことではなかったのです。

ハーバード大学の学生として経験した日本語クラスの設置でも同じことが言えます。日本語を教える教師にとって、一時的な新しいコースの設置には特に反対する理由がありませんでした。生徒である私たちが授業に関わるすべてを準備し、しかも、その授業にはかつてないほど多くの学生からの受講希望が寄せられる。これほど両者にとって本当の意味での「Win-Win」の関係はありませんでした。

しかし、ハーバードビジネススクールでは状況が異なりました。プロジェクトを増やすことで、MBAプログラムの教職員は、プログラムそのものに大きな変更を加えることに多くの時間を費やさなければならなかったのです。あたかも学生自身による自発的なプロジェクトのようにも見えますが、その裏側では関係者に多大な労力を求めるという本末転倒な提案だったわけです。どれほどの効果を期待できるかという点でも、不確かな部分がありました。ケーススタディーは効果を高める学習手法として確立されていました。しかし、グループプロジェクトという学習手法は当時、その効果が明確に示されていなかったのです。教職員は特に、適切なプロジェクトを準備し、公正に評価し、教材として開発していくことに、懸念を抱いていたに違いありません。

これらを検討すれば、私たちの提案が却下されたのも当然のことだったのでしょう。決定に際してステークホルダーの利害、関心という面を検討しきれていなかったことが失敗の理由です。教職員は満場一致という投票結果によって、変革のリーダーシップに必要な基本的なことを、私たちが理解していないことを知らしめたのでした。その経験は、私のMBAのキャリアの中で、最も意義ある深淵な教訓となりました。

今、あの時の経験を振り返ると、失敗によって自分の世界観が変わったことに気づきます。あの失敗は、教職員の世界を変えることはありませんでしたし、後に続いたMBAの後輩の世界も変えることはありませんでした。しかし、それは私を変えてくれました。あの経験以来、何かを成し遂げたいならば、利害関係にある人や決定権を持つ人の関心や利害を満たすことや、その視点に立つことが重要であると気づきました。もし本当に「変化」をもたらしたいならば、その変化に対してもっとも関心のある人々が、生き方や考え方を変える理由を感じなければなりません。

教訓:この経験を通じて、私は大きく変化しました。たとえ過去に成功を収めていたとしても、その成功が将来にも同じように続くとは限りませんし、同じような方法で成功できるという保証はないということに気づいたのです。変化を起こすことにたまたま成功したとしても、それは単に運が良かっただけなのかもしれない、条件に恵まれていたのかもしれない。成功体験に安住せず、批判的に自分自身の体験を振り返ってみることも、時には重要ではないでしょうか。
(英文対訳:関口治)

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