イノベーションに挑戦していますか? 

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『新版グロービスMBA経営戦略』から「イノベーションと経営戦略」を紹介します。

かつて「マネジメントの父」ことピーター・ドラッカーは、「企業の目的が顧客の創造であることから、企業には2つの基本的な機能が存在することになる。すなわち、マーケティングとイノベーションである」と述べました。イノベーションは端的に言えば、新しい価値の創造です。経営環境の変化の激しい昨今、顧客に受け入れられるイノベーションを起こせるか否かは企業の業績を大きく左右します。グーグル(アルファベット)やアマゾンといったイノベーティブな企業が数十兆円の時価総額を誇っていることからもそれは推察されるでしょう。

一方で、イノベーションは通常リスクが付き物です。特に、既存の延長線上にはない急進的イノベーションほどその傾向は強くなります。だからと言って、既存の延長線上に近い漸進的イノベーションだけを追求していては、競合に勝ち続けることはできません。さまざまなリスクも勘案しながら、急進的イノベーション、セミラディカル・イノベーション、漸進的イノベーションにバランスよく取り組むことこそが、企業の生存確率を高めるのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

イノベーションと経営戦略

事業創造と関係の深い概念に、イノベーションやビジネスモデルがある。これらの用語から想起するイメージは人によって実にさまざまであり、時に経営の議論をミスリードすることもある。そこで、まずはイノベーションやビジネスモデルの概念について、経営戦略との関係を意識しながら整理しておく。

漸進的イノベーションvs.急進的イノベーション

イノベーションが意味するところは実に広い。経済学者のジョセフ・シュンペーターは20世紀初頭、経済を発展させるメカニズムとして「新結合」という概念を提示し、これがイノベーションの起こりとなった。ピーター・ドラッカーによれば、イノベーションとは「より優れ、より経済的な財やサービスを創造すること」であり、「意識的かつ組織的に変化を探すこと」である。

ここでは、スペインのIESEビジネススクールのトニー・ダビラらが著した『イノベーション・マネジメント』をもとに、企業が取り組むイノベーションの代表的な類型をまず紹介する。

ダビラはイノベーションのタイプを、既存のビジネスからの連続性の有無によって、漸進的(インクリメンタル)か、急進的(ラディカル)かに判別する考え方を提示している。図は「テクノロジー」と「ビジネスモデル」の観点から、既存ビジネスとの連続性に着目してイノベーションを3タイプに分けたものである。

■漸進的(インクリメンタル)イノベーション
既存の製品・サービスやビジネスプロセスに小さな改善を加え、重ねていくタイプのイノベーションである。このタイプでは大きな変革や投資を避け、小規模な変更・投資により既存の製品・サービスからできるだけ大きな価値を引き出すことをねらう。目立たないように感じられるが、競争により市場シェアや収益性(またはその両方)が失われていくことを防ぐためには、非常に有用・不可欠である。なぜならば、画期的な製品・サービス、またはビジネスモデルであっても、継続的な改善がなければすぐに競合から模倣され、競争優位を失うリスクが高まるからである。

■急進的(ラディカル)イノベーション
テクノロジーとビジネスモデルの双方において同時並行的にかつ劇的な変化を起こし、新しい製品・サービスを新しい方法で提供する。このタイプのイノベーションが起こると、業界における競争のルールが根本から覆される可能性がある。結果として1社だけでなく複数の企業がネットワークに参加し、産業構造全体を革新する構造的イノベーションにつながることも多い。このような革新を主体的に導いた企業に他社が追随するのは容易ではないため、競争優位を持続できる時間は長くなる。一方で多くの場合、非常に大規模な投資が必要となるにもかかわらず、事前に結果を予測することが難しいためリスクが高くなる。

■セミラディカル・イノベーション
漸進的イノベーションと急進的イノベーションの中間に位置するのが、セミラディカル・イノベーションだ。これはテクノロジーもしくはビジネスモデルの「どちらか一方」に大きな変化を起こすものである。とは言っても、実際にはテクノロジーとビジネスモデルには連動性があるので、一方の変化によってイノベーションが起きると、もう一方にも重要な機会が生まれることが多い。にもかかわらず、多くの企業では両領域を担当する部署や人が異なっているため、せっかくの機会を見過ごしてしまいがちである。

これら3つのタイプのイノベーションは、投資額もリスクも大きく異なる。自社の事業ポートフォリオや産業のライフサイクル、競争環境等の現状を分析したうえで、それぞれのイノベーションに対する投資比率を決定することが重要である。『イノベーションのジレンマ』の著者、クレイトン・クリステンセンによれば、実績ある企業は既存のものを改良する能力、つまり漸進的イノベーションに長けている。一方で新規参入企業は、ほかの業界で開発・実践してきた技術を持ち込むため、抜本的な新技術の探求に向いており、急進的イノベーションに長けている。

(本項担当執筆者:グロービス経営大学院教員 山口英彦)
 

『新版グロービスMBA経営戦略』
グロービス経営大学院  (著)
2800円(税込3024円)

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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