グローバルリーダーが知っておくべき10の地政学リスク 

イアン・ブレマー氏、ユーラシア・グループによる寄稿
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世界は地政学的に不確かな新時代に入り、政治的なリスク分析は戦略的な意思決定のプロセスで必須の事項となった。グローバルリーダーたちは、地政学リスクを予想するための有効なツールを活用することはもちろん、地政学リスクを引き起こす要因や対策について理解することが必要だ。ここではイアン・ブレマー氏率いるユーラシア・グループが予測する、2017年の地政学リスクのトップ10を紹介する。

1. 予測不能なアメリカ

世界唯一の超大国アメリカは、かつて国際的な決定力をもっており、和解を強いて紛争を回避するために秩序を維持していた。現在ではアメリカは世界の不確定要素となっている。トランプ大統領は国際的な安定性を強化するような政策を生み出すことなく、アメリカの力を圧倒的に自国の利益増進のために利用し、より広範な影響についてはほとんど配慮しないだろう。トランプ大統領は決して孤立主義者ではなく、単独行動主義者だ。アメリカの外交政策はよりタカ派的になり、より予想しにくいものになるだろう。ヨーロッパやアジアの同盟国は態度を曖昧にする一方で、中国やロシアのようなライバル国はアメリカを試してくるだろう。アメリカが主導する機関は国際的な影響力をさらに失うだろう。

2. 中国の過剰反応

中国の指導部の交代によって、国境をはるかに越えた国際的なリスクが生じるだろう。秋の党大会を前に人事交代の支配権を維持する必要性から、外国の投資家や国際市場を動揺させるような経済政策の失敗のリスクが高まる見通しだ。それに加えて、習近平国家主席はこの時期に弱腰で決断力がないと見られる危険があることを理解している。トランプからの挑発や、アメリカ・中国間の緊張を発展させうる北朝鮮・台湾・香港・東シナ海・南シナ海のような多数の地域のために、2017年は中国と中国の成長と安定性に頼るすべての人にとって危険な年になる。

3. ヨーロッパにおける権力の空白

アンゲラ・メルケル首相の強いリーダーシップは、近年ヨーロッパが危機に対処する上で不可欠であった。2017年にヨーロッパは、フランスの選挙・ギリシャの金融問題・イギリスのEU離脱交渉・ロシアやトルコとの微妙な関係といったさらなる困難に直面するだろう。残念ながら、メルケル首相は2017年にドイツの首相として再選する可能性が高いものの、弱体化した人物として登場することになるだろう。そのためヨーロッパでは強いリーダーが本当に必要な時期に、強力なリーダーシップが全く不在のままになる見通しだ。

4. 経済発展の停滞

2017年に必要な経済改革が急速に進展するとは期待できない。インドのモディ首相やメキシコのペニャニエト大統領のような一部のリーダーは、現時点で最大限多くのことを達成している。フランスとドイツでは改革は選挙後まで待たされるだろう。中国は秋に最も重要な指導部の交代を控えている。トルコのエルドアン大統領、イギリスのメイ首相、南アフリカのズマ大統領は、当面は国内の政治的な課題に追われている。ブラジル、ナイジェリア、サウジアラビアでは意欲的な計画が進展するだろうが、求められる段階には到達しないだろう。

5. 中東を分断するテクノロジー

毎年、中東の政府は自らの正当性をいっそう低下させている。テクノロジーの変化によって、すでに分断化している地域がさらに弱体化している。このリスクはトップダウンでもありボトムアップでもある。エネルギー生産における革命により、国家歳入をいまだに石油やガスの輸出に大きく依存している国の安定性は弱体化している。自動化によって、増加する若者向けに雇用を生み出すのがいっそう困難になるだろう。新しい情報伝達テクノロジーによって、不満を持つ市民が同志を見つけて組織化する能力は向上し続けている。サイバー紛争によって、この地域の不安定な勢力バランスはさらに変化しつつある。最後に、ウィキリークスに見られるような「強制的な透明性 (情報公開) 」は、脆弱な独裁主義政権にとって特に危険となる。

6. 中央銀行への政治的介入

欧米の中央銀行は、途上国の経済をゆがめる露骨な政治的圧力のような影響を受けやすくなっている。2017年にはトランプ大統領が連邦準備制度の今後の決定に新たな圧力をかけて、政治的なスケープゴートとして利用するリスクがある。最終的にトランプ大統領は2018年2月で任期を終える予定のジャネット・イエレン議長の退職を機に後任を自分の個人的な協力者にして、連邦準備制度の長年の信頼性を損ねる可能性がある。これはアメリカだけのリスクではない。イギリスのテリーザ・メイ首相は、低金利政策が所得格差を広げているとイングランド銀行を非難している。ドイツではヴォルフガング・ショイブレ財務相が、低金利によってヨーロッパ周辺諸国が改革の必要性を受け入れるインセンティブが減っていると主張している。

7. ホワイトハウスとシリコンバレーの対立

トランプ大統領とシリコンバレーの技術業界には、共通点があまりない。トランプ大統領はセキュリティーと規制を望み、技術業界は自由と顧客のプライバシー保護を望んでいる。トランプ大統領は雇用の増加を望み、技術業界は自動化の全面的な推進を望んでいる。科学への出資についても両者の意見は大きく異なる。2017年には、トランプ大統領とシリコンバレーの巨大企業が争うテーマが多数あるだろう。

8. トルコで継続中の弾圧

エルドアン大統領は継続中の非常事態宣言を利用して、日常業務の支配権を掌握し、司法・官僚・メディアさらにビジネス部門に対し相次ぐ逮捕と粛清によって取り締まりを強化している。2017年には、エルドアン大統領は権力を集中させるための国民投票を行う見通しだ(※)。そして支配権の強化によってトルコの経済問題は悪化し、ヨーロッパや近隣諸国との関係は悪化するだろう。不安定さが増しつつある地域の中でも、トルコは不安定な国だ。

9. 武力で威嚇する北朝鮮

北朝鮮がアメリカに明確で差し迫った危険をもたらすミサイル能力をいつ獲得するのか、正確に知るのは難しい。しかし北朝鮮のミサイルは完成に近づいているように見える。金正恩は新年のメッセージの中で、大陸間弾道ミサイル (ICBM) の打ち上げは「最終段階に達した」と述べた。ただし例によって、北朝鮮の主張の真偽は第三者によって確認されてはいない。不測の事態に対処するために協力しなければならない中国とアメリカの関係が危険なほど悪化している中、好戦的な北朝鮮は大国の衝突を引き起こしうる特に危険な国だ。

10. 苦闘する南アフリカ

汚職疑惑の多い非常に不人気なジェイコブ・ズマ大統領は、自分が信用しない人間に権力を渡すことをためらっている。その結果生じた後継争いの内紛によって自国の重大な経済改革は失速し、南アフリカは近隣諸国の紛争を安定化させる上で必要なリーダーシップを十分に発揮できていない。

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※トルコでの国民投票は4月16日に行われ、大統領権限強化賛成が51.5%となった

(この記事はイアン・ブレマー氏が執筆し、2017年1月3日にTime Magazineに掲載したものを翻訳・転載した)

英語版の記事はこちら>>

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