HISの「変なホテル」は業界の異端児で終わるのか? 

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去る3月中旬、HISはロボットを活用した「変なホテル」の2号店を千葉県浦安市にオープンさせた。ハウステンボスの「変なホテル」1号店と同様に、フロント対応や客室業務、室内清掃などにロボットを導入して注目を浴びている。

先頃、ヤマト運輸の労使が宅配便の荷受け量抑制で合意したように、目下のサービス現場が抱える最大の問題は、人手不足だろう。この点に関して言えば、浦安の「変なホテル」では、開業当初からたった7人の従業員で100室のホテル運営を回している。サービス現場の人手不足が懸念される中、高い労働生産性を誇る同ホテルが話題になるのは当然だと言えよう。

メディアと業界との温度差

しかし、メディアでの注目度とは異なり、宿泊業界内の反応は薄いようだ。先般会った某ホテルチェーンの幹部の方は、「ITやロボットを活用した省力化はどこのホテルも取り組んでいる。『変なホテル』は対外的な見せ方がうまかったので、注目を浴びているだけ」と冷ややかに見ていた。

確かに現時点では「変なホテル」に泊まった人に感想を聞いてみても、「驚くほどのテクノロジーではなかった」という回答が多い。加えて、人力作業をテクノロジーで代替して生産性を高める点に関しては、先ほどの幹部の方が指摘していた通り、既にホテルや旅館の現場でも積極的に取り組み始めている。例えば出張でビジネスホテルを使う方であれば、多くのホテルのチェックインや精算が自動化されてきたのを実感しているだろう。

はたして「変なホテル」は業界に革新をもたらすのか?それとも宿泊業界が冷ややかに見ているように、異端児で終わるのか?

私は「変なホテル」に分があるように思う。既存の宿泊業界が見落としていそうな点を2つほど挙げてみたい。

接客はハイタッチであるべきか?

まず既存の旅館・ホテルの側には、宿泊客の顧客満足を生みだす方法について先入観がある。確かに既存の宿泊業でもテクノロジーの活用は進んできているものの、定型的な業務や裏方的な作業にITや機械設備を導入し、表舞台の接客は人が担い続けるのが基本である。

例えば、宴会場や客室に食事を運ぶ自動搬送システムに早くから投資したことで有名な加賀屋だが、客室係は体力的な負担が減った分、お客様との接触を増やして満足度を高めるよう期待されている 。あるいはチェックイン機の導入を進めているビジネスホテルチェーンでも、自動化によって時間に余裕のできた従業員は、宿泊客への観光案内といったサービスに取り組むよう指導されている。つまり、既存の宿泊業界の発想はあくまで「ハイタッチな接客こそが顧客満足を生む」であり、テクノロジーは低付加価値の反復作業や、お客様の目に触れない裏方作業に限定して活用する考え方である。彼らの目からすれば、重要な接客をロボットに任せてしまう「変なホテル」は顧客満足創出のチャンスを自ら失っているように映るのかもしれない。

一方、「変なホテル」を運営するHISは非定形の接客業務までもテクノロジーによって代替する意思を見せている。その証拠に、HISはサービスロボットの開発や導入支援を手がける「hapi-robo st」という子会社を立ち上げ、今後ハウステンボス内で受付や案内業務を担うロボットの実用化を宣言している。

将来どんなにAIが学習を重ねても、顧客の背景にまで想像を巡らせて、相手に寄り添ったコミュニケーションを取るのは難しいと言われる。実際にAIが担えるのがどこまでで、人間が担う必要があるのはどの部分かの線引きはまだ見えてこないが、少なくとも、接客を全て人間がやってくれないと不快だという宿泊客は少数派だろう。先行してAI活用が進んでいる現場で、実際にロボットによる顧客対応を経験した人にインタビューしても、「回答がスピーディでよかった」、「(多少のミス・コミュニケーションはあったが)ロボットが相手なので愛嬌を感じた」とポジティブな声が大勢を占める。

加えて忘れてならないのは、ロボットだからこそ生み出せる顧客満足の可能性は多くある。例えば「変なホテル」で実際に行われている取り組みとして、多数の言語による24時間対応や、ロボットによる演奏会があるが、これらは人力ではコストがかかり過ぎて通常は実施できない。

既存の宿泊業の現場は「顧客はハイタッチでの手厚いコミュニケーションを求めている」と思い込んでいないか――関係者にはぜひ自問してもらいたい。

ビジネスモデル変革を成功させるための鉄則は?

労働集約型だった従来の宿泊業と、テクノロジーを多用した将来の宿泊業とでは、コスト構造や業務プロセスといった面でビジネスモデルが大きく変わることになる。こうしたビジネスモデル変革として捉えたときのアプローチにも問題がありそうだ。

先ほど書いたように、ロボットと人間(従業員)がどのように業務を分担するのが最も顧客満足を高めるのか、ロボットの活用方法としてどんな可能性があるのかについては、現時点で誰も明確な解を持っていない。こうした不確実な状況下で企業が取るべき対応は、「不確実性が減るタイミングを待ち、確実にできることのみを行う」では決してない。専門的には発見志向計画法と呼ぶが、「仮説を立てて、まずは実地で試してみて、失敗と仮説修正を繰り返しながら、正解に近づく」というアプローチが適している。

まずはできる限りの業務をロボットに任せてみるという「変なホテル」のやり方は、まさに後者を体現している。加えてHISの強みは、ハウステンボスという自由に使える実験場を抱えている点だろう。既存業界とHISとでは「サービス現場にテクノロジーを活用する」という方向性は同じでも、ノウハウ蓄積のスピードに大きく差が出るのは間違いない。

もう1つ経営学の観点から言えば、ビジネスモデルを大きく変える場合には既存のアセットの活用をいったん忘れ、市場ニーズに合わせたソリューションや業務プロセスの最適解を探るのが鉄則である。そうしないと企業はつい自社の既存アセットを活用しようと、ちぐはぐなビジネスモデルを構築してしまうからだ。既存の宿泊業界がとろうとしている漸進的なアプローチでは、既存の強み(特に、高度なスキルを持つ従業員)を何とか活かそうとして迷走する恐れがある。「従業員の手厚い接客が価値を生む」と思い込んでいる限り、本来はロボットで代替できる業務を「自社の従業員の得意分野だから」といった理由で人力のままにしたり、ロボットを活用すれば提供できるはずの便益を「自社の従業員の良さが活きないから」と見送ったりといった失敗を犯す可能性が高い。

あまり知られていないが、「変なホテル」の「変な」は「奇妙だ」という意味の「変な」ではない。「変化し続ける」という決意を込めて名付けられたそうだ。「変なホテル」の現状だけを見て安心してはいけない。「変なホテル」が秘める変化のスピードにこそ、既存の宿泊業界は危機感を持つべきではないだろうか。

参考:日経産業新聞2015年3月6日号「仕事人秘録 『おもてなし』は日本の宝⑧」
 

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