チェーン店でも一つ星のサービスを ―飲食・小売業界のテクノロジー革命 

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グリー、すかいらーくでデータ分析やデジタルマーケティングを専門にしてきたリノシス社の神谷勇樹代表が、飲食・小売業界で深刻化する人手不足をテクノロジーの力で解消し、労働生産性の改善に成功した事例を紹介するセミナーの模様をお伝えします。(全2回)

特別セミナー「飲食・小売業界におけるテクノベート」講演録[1]

今日は、飲食・小売業界のテクノロジー活用についていろいろとお話させていただく。昨今、飲食・小売業界は人手不足で大変な状況になっている。そのようななか、テクノロジーの活用によってその問題を解決できる余地はかなり大きいと思っていて、私自身、そのためのシステム開発とコンサルティングを仕事にしており、そのあたりの課題について僭越ながら私見を述べたい。

今日お伝えしたいことは2つ。1つ目は飲食・小売業界に必要とされるイノベーションについて。自身の仕事も踏まえて考えると、これは「優秀な店員の方の再現」となる。それをテクノロジーの力で実現していく。テクノロジーでレバレッジをかけ、優秀な店員さんの業務を再現することが今は求められているのではないか。併せて、普通の店員さんにも優れた接客ができるようにするためのサポートも必要になる。そして2つ目は、その実現・推進を担う人材に求められるのが「ビジネスとテクノロジーの橋渡し・翻訳」という点だ。そこで、今日は私自身がこれまでやってきたことをご紹介しつつ、そのために大切だと考えていることをお伝えしたいと思う。

勤務していた「すかいらーく」では、2年間で売上が200億円増え、利益は2倍に

少し自己紹介をすると、自身のバックグラウンドはコンサルタントとエンジニアになる。これまで一貫してたずさわってきたことは2つ。1つはデータの活用・分析で、もう1つはデジタル化・IT化になる。データ活用とIT化で企業の業績にどれほど貢献してきたかというと、前職となる株式会社すかいらーくの業績推移を見てみると、そのすべてに貢献してきたと言う気はまったくないけれど、業績向上に一定の貢献はしてきたと思う。同社に入った2013年から2015年に辞めるまでのあいだ、売上はおよそ200億円、利益は約2倍に増えた。

こうした経緯を経て、テクノロジーを活用した人手不足の解消、そして付加価値最大化の同時成立ということに今は取り組んでいる。まずは人手不足の現状についてお話ししたい。最近、たとえば飲食店で「人手不足にて営業時間を当面縮小します」といった趣旨のことが書かれた張り紙等を見かけることが多くなってきたように思う。人手不足によって、店を閉めるケース、あるいは「本当ならこの時間帯は2人必要な筈だよな」というところで1人しかいなかったりするような、そんなケースが増えてきた。

人手不足で繁忙時に店員が1人しかいない、そんな過酷な状況をどうするか

先日、都心の牛丼屋に入ったときも昼のピーク時なのに店員が1人しかおらず、案の定パンクしていた。それで隣のお客さんが怒っていたりモノが散乱していたりして大変なことになっていたけれど、そういう風景を最近よく見るようになってきた。別の飲食店では店内のテーブルに「バイト募集」というシールが貼られていたこともある。食事を召し上がっていただく場所に「ここで働いてください」というシールが貼ってあるなんて、本来はおかしな話だ。「ここはレストランなのか、職安なのか」と。でも、それは分かっているけれど、「でもこのぐらいやらないと現場が回らない」という、これは現場からのSOSだと言える。

そのように今は現場がキツい状況に陥っているわけだけれど、それでも接客や料理が好きという方は飲食・小売業界に多い。「おいしいものを召し上がっていただきたい」「気持ち良くお買い物を楽しんでいただきたい」と考えている方が数多くいらっしゃるわけだ。だからこそ、なおさらそうした方々がきちんと業務にあたることができて、サービスを提供できるようサポートをしていかなければといけないと思っている。

チェーン店でもテクノロジーを活用して頑張れば、一つ星レベルのサービスは実現できる

では、具体的にはどうするべきか。私は、テクノロジーの活用によってチェーン店でも一つ星のサービスを実現できると考えている。三ツ星はさすがに難しい。特別な人にしかできないことがあるだろうから。でも、一つ星ぐらいなら頑張れば実現できるのではないかなと思うし、1000円札1枚といったチェーン店の価格帯でそのレベルのサービスを実現できるなら、消費者としても嬉しいはずだ。優秀な方の接客サービスを誰もが提供できる世界にしたい。

今のままでは飲食・小売業界が成り立たなくなるのではないかという問題意識がある。少し定量的に言うと、今10人でやっている業務を今後は7人でやらなければいけないようになる。先ほどお話ししたようなお店では今でもキツいのに、そこからさらに3人も減って運営できるのか。相当厳しいだろう。ただ、テクノロジーの活用でそうした問題を解決できる余地はある。今まで活用できていなかった面があるぶん、伸びる余地も大きいと思っている。

今までの飲食・小売業界はどちらかというとマーケティングや経営戦略の視点を中心にして語られることが多かったように思う。けれども、そもそも現場が成り立たなければビジネス云々といった話すら成り立たなくなってしまう。今後はもっとオペレーション寄りの話をしていく必要があると思う。

人手不足が加速的に進む将来に、満足度の高いサービスを提供していくために

私はボストン・コンサルティング・グループ(BCG)にいた頃、「20年後の未来を予測し、そこから現在の戦略を立てる」といった仕事をいくつか手掛けたことがある。では、そこで最も堅い未来予測は何だったかといえば人口動態だ。今から20年後に20歳の人が何人になるかというのは、死亡率等々いくつかの要素を勘案すると現時点でだいたい分かる。その人口動態によると、中位推計や低位推計といった各種推計があるものの、どの推計でも日本では今後、生産年齢人口が激減すると言われている。総人口も相当な勢いで減っていくけれども、生産年齢人口の減少はそれを上回る勢いだ。厄介なのはその勢いがどの業界でも同じではない点。誰だってツラい業界には行きたくないわけで、当然ながら労働環境の悪い業界から人は減っていく。今は物流業界の労働環境に関する話題がニュースを賑わせているが、飲食・小売業界も大変な状況になっている。2010~2020年頃までのおよそ10年で、宿泊を含めた飲食業界全体では就業者が3割減少するとの予測もあるほどだ。

また、人件費が相当な勢いで上昇している。人手不足に加え、今は「時給を何%上げるべきだ」といった国や社会からのプレッシャーもあったりするためだ。結果、決算では多くの企業で人件費率が1~2ポイント上昇していたりする。飲食業界では営業利益が10%前後あればいいという企業が多く、実際には5%や3%という企業も少なくない。その状況で人件費率が1ポイント上昇すると、それだけで利益が半分になったりする。さらには、消費税率が10%になっても外食産業には軽減税率が適用されないといった見通しもあって、とにかくいろいろな逆風が吹いている。

テクノロジーがどう現場を助けるか、が肝要

そこでテクノロジーを活用する余地は大きいと思う。まずはデータを活用した販促最適化の事例として、ある企業における売上高と広告宣伝費の変化を見てみたい。データ活用前の2012~2013年は売上が0.8%増だったけれども、かなりの広告宣伝費を投入していた。一方、データ活用後の2013上半期と2014上半期を比較してみると、売上がより大きく伸びたものの広告宣伝費は大きく減っている。

こちらでは販促内容、具体的にはクーポン内容の改善を行った。飲食・小売ではクーポンを使う会社が多いけれども、クーポンというのは内容によって効果が劇的に変わる。ただ、クーポン利用者が何人いたかを見ている企業は多いものの、それが売上や利益にどれほど寄与したかという部分まで見ている企業はそれほど多くないと感じる。では、それぞれのクーポン内容が客数増や利益増にどれほど効いているのか。横軸に客数増、縦軸に粗利の増減を取ってみると、「お子様メニュー80%オフ」「お会計より10%オフ」「お好きなコーヒー1杯無料」といった内容によってプロットの位置がかなり異なってくる。

もっとも売上に貢献するクーポンを知るために工夫したこと

今述べたなかで集客や利益に最も効くクーポンはどれか。答えは「お子様メニュー80%オフ」になる。理由はシンプル。まず、子どもは1人で来店しない。また、もともと子ども用メニューはそれほどのお値段にならないし、お子さん1人と親御さん2人といった構成のご家族連れも多い。つまり、お子さんが1人来るときはご両親2人も来店するわけだ。これが高い効果につながる。それでお子様メニューのクーポンというものを結構やっていた。最近は他社さんも同じことをやってくるようになってきた。それで少しずつ効果が落ちてきたようにも思うけれども、いずれにせよ、今お話ししたような考え方がある。

逆に効率の悪いクーポンはどれか。もちろん業態によっても違うが、お食事にいらっしゃるような業態では「お好きなコーヒー1杯無料」というクーポンの効果は低い。どこで食事をするか決めようというとき、コーヒー1杯が無料だからということでお店を決める方は少ないからだ。訪れたお店にそのクーポンがあれば多くの方が使う。食後はコーヒーを1杯飲みたいものなので、「1杯無料か。じゃあ頼もう」と。ただ、コーヒーはクーポンがなくても多くの方が頼むし、そうなるとクーポンによる売上はゼロということで、利益に対するマイナスインパクトは大きい。かつ集客にも効かないわけで、効果はかなり低い。

※この記事は、2016年10月25日にグロービス経営大学院 東京校で開催したセミナー「飲食・小売業界におけるテクノベート 」を元に編集しました

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