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【日経コラム】リーダーとメディアへの信頼、世界で崩壊(ダボス会議報告2)

投稿日:2017/02/09更新日:2019/04/09

世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でもう1つ実感したことは、世界でリーダーや体制への信頼が崩壊していることだ。会議初日の朝に開催される、米大手PR会社エデルマンによる信頼度調査報告の結果は、主催者の表現によると「壊滅的」なものだった。特に顕著だったのが次の3つだ。

1つ目がリーダーの信頼度の低下だ。権威・権力は持っているが、その声がもたらす影響力は失われた。一方的な見解よりも、友達や家族、普通の人がソーシャルメディアを通じてシェアした情報をより信用するようになった。

2つ目が、大手メディアの信頼が崩壊したことだ。一方向的な情報通達よりも、人々は自ら検索して得られた情報、あるいはシェアされたネット上のコンテンツをより信頼している。

3つ目が、社会システム全般への信頼度の低下だ。53%が「システムは機能していない」と答え、「機能している」と答えたのはたった15%だ。グローバル化もイノベーションも嫌う。職が奪われ、居場所がなくなっているからだと説明があった。

社会不信や、メディアへの信頼度の衰退が米国大統領選の際のフェイク(嘘)ニュース拡散につながり、投票行動に多大な影響をもたらした。ほぼすべてのメディアが米大統領選でトランプ氏を支持しなかったのに彼が当選したのはこのためだ。

朝食会合の冒頭に、エデルマンのリチャード・エデルマン最高経営責任者(CEO)は強い言葉で警鐘を鳴らした。「リーダーもメディアも失敗している。自らを変える必死な努力が必要だ」。だが、続いて開かれたパネルディスカッションでは、自己改革の強い意識は感じられなかった。英フィナンシャル・タイムズ、ドイツ銀行、国連、米決済大手のペイパル、欧州経営大学院(INSEAD)、米食品大手のキャンベル・スープなど各界の代表が登壇した。そうそうたる顔ぶれだが、話す内容からは何ら危機感が伝わって来ず、解決の端緒が開かれる気配もない。しびれを切らした僕は、手を挙げて1つ質問してみた。

「Brexit(英国の欧州連合からの離脱)やトランプ大統領誕生の原因はリーダーの信頼度が低下したとともに、リーダーと社会との対話がなかったことだ。最も簡単な解決策はソーシャルメディアを使って、オープンなプラットフォームでリーダーが直接対話することではないだろうか。パネリストがどれだけソーシャルメディアをやっているか聞きたい。また信頼度はフォロワー数と相関関係があると思う。その仮説をどう思いますか」

だがモデレーターは鼻で笑って「ツイッターで信頼が得られるか」と質問を矮小(わいしょう)化してパネリストに投げかけた。答えたパネリストは、「ソーシャルメディアは使っていないが、ツイッターのフォロワーと信頼度は別だと思う」という否定的な一般論で終わってしまった。その鼻で笑い、否定的に一般論で答える姿勢こそが、権威主義的で人々の信頼を失わせてきた原因だと感じた。信頼は、謙虚な言葉や姿勢、感情に配慮した論理的な意見交換によってのみ醸成されていく。欧米のリーダーはその謙虚さを失い、そして社会の変化から取り残されていったのではないだろうか。

日本はその失敗を繰り返してはいけない。自分の考えていることをすべてさらけ出し、対話をする必要がある。社会から批判を浴びようがネットで炎上しようが、真摯に対話を重ね続ける姿勢のみが信頼を獲得する方法だと思う。

それをしないリーダーや、権威を振りかざし対話を拒むリーダーは退出すべきだろう。僕は思ったことをソーシャルメディアでも、このコラムでも書き続けたい。欧米で起こっている社会の断絶を日本で生みだしてはいけない。

※この記事は日経産業新聞で2017年2月3日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

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