組織開発コンサルタントとして様々な企業の話を伺っていると、「外部環境が著しく変化し、今までのビジネスのやり方では通用しなくなってきた」「IoTやAIなどテクノロジーの進化により、今後、自社のビジネスに大きく影響しそうだ」「自社や自部門を変革させようと必死に考えているが、どこから着手したらいいのかわからない」といった問題意識を持っている方が非常に多いと感じる。この本を読めば、そういった悩みを解決する糸口がきっと見つかるだろう。
本書は、著者が12年間にわたり仕掛けてきた数々の改革が「事業モデル」の革新を引き起こし、社員340人からグローバル1万人企業へと、組織を全く違う姿に変身させた実話を元にした企業変革のドラマである。著者は、プロ経営者を目指し、30代で赤字企業2社の再建とベンチャーキャピタル会社の経営をそれぞれ社長として経験する。40代から16年間、不振企業の再建支援を行う「ターンアラウンド・スペシャリスト(事業再生専門家)」として活動した後、2002年にミスミ社長CEOに就任し、次々とミスミの改革を推し進めていった現役の経営者である。
その改革は、「3枚セットのシナリオ」から始まる。1枚目は、複雑な状況の核心に迫る「現実直視、問題の本質、強烈な反省論」、2枚目は、1枚目で明らかにされた問題の根源を解決するための「改革シナリオ、戦略、計画、対策」、3枚目は、2枚目に基づく「アクションプラン」だ。優れた経営者は、この3枚のシナリオを走りながら考えるのではなく、動き始める前に完璧だと思えるくらいまで考え抜いたうえで、シンプルなストーリーを熱く語り、社員の共感を得て、実行に移す。
3枚セットのシナリオでは、何か特別なことをやっているわけではない。しかし、それらを実行することがどれだけ大変か――。徹底的に考え抜き、必要な情報を自ら動いて収集し、仮説と検証を繰り返しながらロジックを組み立てていく。この営みを繰り返していくことで、本質的な問題を解決するシナリオを描くことができるのだ。
実際のビジネスの現場では、競合の動きも早く、少しでも早く改革を進めなければというプレッシャーもあるが、著者は、戸惑う社員に対して「焦るな。正しいやり方をせよ(Do it right!)」と指摘する。
また、何か異常を感知した場合に、現場に足を踏み入れ、ハンズオンで現物に触れて問題の本質を確かめる。周囲の部外者にも意見を聞き、問題がないとわかったらサッと引き上げる。経営とは、こうしたタッチ・アンド・ゴーの動作の繰り返しであり、本書を通じて優れたリーダーの言動やタイミングなども学びとることができるであろう。
もちろん、ミスミの会社改造を進めていく上で様々な修羅場とも直面するが、豊富な経験をもった著者は、「いつか来た道」「いつか見た景色」だと平然と対処する。いつか自分も同じセリフを言いながら、難題を冷静に解決できるようになりたいものである。
現在、組織変革の真っただ中にいる方、会社をよりよくしていきたいと考えている人にとって、数多くの実践のヒントが盛り込まれた1冊としてお勧めだ。
『ザ・会社改造 ~340人からグローバル1万人企業へ~』
三枝 匡(著)
日本経済新聞出版社
1800円(税込1944円)