堀義人のダボス会議2017速報(3) 世界を牽引するリーダーの不在を痛感 

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ダボス会議4日目の様子です。テリーザ・メイ首相の講演や、ヨーロッパの未来を考えるセッション、新国連事務総長の講演に参加して、「世界を正しい方向に力強く導くリーダー」の必要性を痛感しました。日本のリーダーにとっては、自ら考え抜き、世界という舞台で大胆に行動することがますます重要になってきます。日本が政治的、経済的、社会的にもしっかりとして、世界のリーダーシップを発揮する必要が出てきています。

ダボス会議4日目。朝6時に起床、メール返信など仕事をしてから、ダボス会議3日目速報コラムの執筆にとりかかる。テーマは 「第二次世界大戦後に築きあげてきた世界秩序が崩壊し始めている」だ。急いで執筆を終えて、朝7時前にホテルを出た。まだ外は暗い。朝7時からForum Member Advisors Communityの朝食会に参加。この会合は、以前は「世界の成長企業(GGC)」と呼ばれて、僕が共同議長を務めていたものだ。

朝食会に参加した経営者は、尊敬する方々ばかりだ。衛星5基を所有して地上に衛星写真を送り続けるデジタル・グローブ社のジェフリー。インドでスマホ決済のトップになったPaytmのヴィジェイ。南アフリカ発企業でアフリカ30カ国に15万人を雇用するイクバル。クエートに5つの上場企業そしてそれと同規模の5つの私企業を所有するマラワン、そして米国IDEOのティム等、凄い方ばかりだ。世界経済フォーラム側の主催者は、オリビエ・シュワブ氏。クラウス・シュワブ氏の息子さんだ。

朝食会場からメイン会議場まで戻る途中、クエートのマラワンと一緒だった。イラクによるクエート侵攻の話や中東の経済に関して意見交換した。近々クエートを訪問することを約束して、分かれてメイン会場へ。

今日の目玉は、英国のテリーザ・メイ首相のスピーチだ。何を話すのか。注目度が高い。

「言論の自由、国際化、自由貿易が、今の繁栄を築いてきた。(中略)英国のEU離脱の意思決定を過小評価してはいけない。不確実性が高い。今回の意思決定によってさらに英国の国際化を進めたい」(メイ首相)

メッセージが分かりにくい。論理的に破綻している。メイ首相自身も欧州から離脱したくないのだ。

「今後とも、自由貿易を維持する。豪州・ニュージーランド、インドなどとの自由貿易協定の交渉を始めた。このプロセスを通して、真に国際化された英国にする。これからは、グローバル英国だ」(メイ首相)

うーん・・・・・。英国の矛盾は、英国EU離脱の国民投票で負けた政治家が首相をしていることだと思う。

「国際機関が重要だ。20世紀の前半の失敗は、国際機関が不在だったことだ。だから英国は、国際機関とともに世界平和に貢献する」(メイ首相)

昨日のジョー・バイデン米国副大統領に続いて、メイ首相も第二次世界大戦について語り始めた。まさに、欧米が中心になって築いてきた世界秩序の崩壊が始まっていることを感じ取っているのだろう。

メイ首相のスピーチが終わった。「市場の自由、自由貿易、国際化を進展させる」と繰り返し強調したことは良かった。だが、最後の拍手はまばらだった。英国がEU離脱するという現実に照らした時、説得力に欠けるからだ。これからの道のりは長い。英国は、自由貿易の身勝手ないいとこ取りはできないだろう。

僕が危機を抱くのは、多くの人々に感動を与える「世界のリーダー」がいないことだ。習近平氏、去っていくジョー・バイデン氏(オバマ氏)、そしてテリーザ・メイ首相。全て言っていることは立派だ。だが、多くの人々を鼓舞して勇気づけて、難題を解決し改革を遂行し、世界を強いリーダーシップで牽引する人がいないのだ。独仏も不安定だ。やはり日本が頑張るしかないのだろうか――。

クラウス・シュワブ氏がメイ首相を紹介した時の言葉が印象的だった。「私は、第二次世界大戦前に生まれた。(1つの)ヨーロッパは夢だった。二度と戦争を起こさないために、市場を統合させEUを実現してきたこのプロセスは、正しい方向だった。一方で、私は民主主義者だ。過半数の投票を尊重しなければならない」。

戦後体制の崩壊をノスタルジックに語るリーダーが増えてきた。とても寂しい紹介だった。メイ首相のスピーチの後は、力が入らなくて会場でボーっとしていた。すると次のセッションは、「ヨーロッパの未来」について語る“Which Europe Now”だった。

英国の主張は聞いた。今度はヨーロッパ大陸の主張を聞いてみたいと思い始めた。ダボス会議では例年、テクノロジー関連のセッションを中心に参加しているのだが、今年は方針変更して、国際政治・地政学的なトピックスを中心に参加することにしていた。前の席が空いたので、真正面の前から2列目に移動して、真剣に聞くことにした。

フランス人のモデレーターが、「英国EU離脱、イタリア国民投票での敗北、今年は独仏の選挙がある。南北問題、難民問題など難題も抱えている。ここでは、可能な限りポジティブに議論したい」と口火を切ったが、登壇者の表情は暗い。

「EUの一番大きい問題は、フランスとイタリアが適切な改革を実施しないことだ」(マルク・ルッテ オランダ首相)

だが、その改革を強行するとフランスとイタリアの国内社会は、持たないであろう。イタリアは既に国民投票で敗北し、フランスでは極右のル・ペン氏が台頭している。北は南の改革が足りないと言うが、南は北に「押しつけられている」と感じている。

南北問題以外にも、ヨーロッパにおける「信頼」の崩壊を感じる。EU本部とメンバー国との軋轢だ。全ての問題は、ブリュッセルにあるヨーロッパ・コミッションのせいにされる。雨が降っても「ブリュッセルのせいだ」と子供までが言うようになった、という笑えないジョークも飛び出していた。

国内問題とヨーロッパ全体の問題、南北の経済格差・文化の違い、さらに国内行政とEU行政とのガバナンスの問題が複雑に絡み合っている。なかなか良い解が見えてこない。

そしてイデオロギーの対立がある。ミッテランもコール首相も「ヨーロッパの統一は、各国の利益に繋がる」と信じていた。だから国内政治よりもEUの一体化を優先していた。だが、最近は「EUに奪われた自由を取り戻し、国内の利益を守るんだ!」という姿勢で各国の首相が来る、とEU議会のマーティン・シュルツ議長が嘆く。

一方では、そのようなノスタルジックなロマンティシズムでは、現実の政治は遂行できない。プラグマティックなアプローチをして結果を出さなければ、選挙民は納得しない。それだけ、国内政治がひっ迫しているのだとルッテ首相は主張する。

プラグマティックな功利主義的な発想だけでも国民は納得しない。英国のEU離脱は、感情的なイデオロギーの結果だ。功利的な意思決定ではない。ナショナリズム、保護主義的な政策は、誰にも得にならないと功利的に考えると皆理解できる。だが、それを越える感情的な不満が蔓延しているのだと、EU委員会のティマーマン氏が激しく主張する。

ヨーロッパ内に、根本的なイデオロギーの対立がある。ロマンティシズム(感情的理想主義)と合理的プラグマティズムだ。両方の視点から、大衆に説明するリーダーが必要になるのであろう。いくら良いことを言っても、大衆を納得させられないと酷い結果となる。Brexitとトランプ現象がその象徴だ。リーダーの説明能力が問われているのだ。

事実オランダは、経済が3%成長し、失業率は5%を切っている。統一市場の恩恵を受け、経済が順調で結果を出している。だが、中間層が不満を持っているのだ。この若くてエネルギッシュなルッテ首相が、今年3月に予定されている選挙では、野党の極右政党に負ける可能性が高いというのだ。

EUの価値、自由貿易の意味をしっかりと国民に説明しないと、取り返しがつかない悲惨な結果につながってしまう。英国はもう既にそうなった。次の試金石は3月のオランダ選挙になる。

欧州の複雑な問題が良く理解できるセッションだった。メイン会場を出て、外に向かう。今日のダボスは、快晴。アルプスの山が美しく映えている。

メイン会場に近いホテルに入り、遅れてEYとCAテクノロジーズによるプライベートランチに参加した。ダボス会議では、公式のセッションよりも完全招待ベースのプライベートなセッションの方が面白いことが多い。ダボス会議で人気がある手法は、食事を振る舞うとともに、知的なパネルを組み合わせることだ。今回のテーマは、「Disruption」だ。食事を堪能するとともに、知的な刺激を受けることができる。

メイン会場に戻る途中に、カフェで一休みすることにした。エアバスとパランティーノが、ダボス会議期間中にカフェを作り、無料でコーヒーなどを提供している。

のんびりしていたら、カフェで偶然にハーバード留学時代の同級生に会った。今や欧州トップのベンチャーキャピタルとなったINDEXベンチャーズの創業者、Neil Rimer氏だ。グロービスも日本トップのVCとなった。嬉しい再会だ。

そして、メイン会議場に戻り、インドの経産大臣などを歴任されたKamal Nathさんと、バイ・ミーティングを実施した。インドのビジネススクールとの提携について意見交換した。ダボス会議では、セッション以外のこういう個別対談が実は重要なのである。

そして、国連の新事務総長のアントニオ・グテレス氏のスピーチを聞くことにした。

アントニオ・グテレス氏は原稿無しでガンガンに喋り、シュワブ氏との質疑応答にも臨んだ。数字をしっかりと押さえた上で、自分の言葉で説明している。情熱もある。ポルトガルの首相、そして緒形貞子さんと同じ国連難民高等弁務官も歴任された。実績もある。期待外れに終わった前事務総長よりもずっと良さそうだ。世界に1つの希望を見出した感じがする。だが、国連事務総長ができることは、限られている。トランプの米国、プーチンのロシア、習近平の中国などが、常任理事国として君臨する。どう舵をとるのだろうか。

英国のメイ首相の講演や、ヨーロッパの未来を考えるセッションに参加して感じたのは、「世界を正しい方向に力強く導くリーダー」が不在であることだ。

欧米では、社会の断絶が生まれ、国民に不満が鬱積している。感情的不満に対しては、論理的に説明しても癒されない。その結果、不満を煽るポピュリスト的なリーダーが台頭している。本来ならば、論理的にも正しいことを言うリーダーが感情的に訴えて、賛同を得る必要がある。だが、それができるリーダーが減り、結果的にポピュリズムに走るリーダーが選挙で勝っているのが現状だと思う。

そのポピュリスト的なリーダーが、「○○ファースト」と訴える。利己的なナショナリズムが今台頭しているのだ。情理と論理双方を駆使して、数多くの人々にあるべきビジョンを強く訴え続けるリーダーが必要となるのだ。

民主主義先進国であるG7がリーダーシップを発揮しないと、世界は中露に支配される。だが、G7も今激動の時代を迎えている。昨年のG7サミットに集結したリーダーのうち英伊が既に交代し、仏は5月に代わり、独も11月に代わる可能性がある。そして、明日トランプ政権が米国に誕生する。新たなVUCA(注)の時代の幕開けだ。

社会的にも、政治的にも安定している日本がリーダーシップを発揮することが、とても重要なことだ。世界政治が混迷する中、日本がリーダーシップを発揮して世界に貢献する必要が出てきている。

2017年1月19日
ダボスにて
堀義人

(注)VUCAとは、
V: Volatile (激動的な)
U: Uncertain (不確実な)
C: Complex (複雑な)
A: Ambiguous (不明瞭な)

の頭文字です。

堀義人のダボス会議2017速報(1) Brexitやトランプ氏への不安蔓延、「対話」の重要性と「日本」の役割を痛感
堀義人のダボス会議2017速報(2) 「第二次世界大戦後に築きあげてきた世界秩序が崩壊し始めている」
堀義人のダボス会議2017速報(4)完 ダボスで聞くトランプ就任演説、暗雲が世界を覆い始める

 

 

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京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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