リーダー論に通ずる陽明学、心の陶冶を学ぶ 

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僕が最も影響を受けた思想が、陽明学と密教である。

僕が密教に興味を持ったきっかけは、尊敬する起業家である斑目力昿氏(ネミック・ラムダ=現TDKラムダ=の創業者)との出会いだ。斑目氏は高野山大学で学び、僧侶の資格を持つユニークな起業家だ。20年ほど前に、斑目氏と高野山の宿坊に泊まり、密教思想に触れる機会を直々に頂いた。その後、真言密教を大成した空海の著書や空海に関する書物を、僕は乱読し続けた。

陽明学に出会ったきっかけは、内村鑑三の「代表的日本人」を読んだことだ。この本に出てくる西郷隆盛と中江藤樹の2人の偉人に影響を与えたのが陽明学だ。その後、陽明学と名がつく本を可能な限り読破した。当時、僕は30代前半でグロービスを起業して間もない頃だった。

陽明学の代表的な教えが「心即理」と「知行合一」である。僕の解釈は、とてもシンプルだ。「心=理」、「知=行」であり、仮に「理」と「知」とを同じものと捉えると、心=理・知=行とイコールで結ばれる。つまり、心のあり方がそのまま思考となり、行動に表れるのだ。

思考と行動が違うと、言行不一致となり、信用を失う。心で思ったことと頭で考えたことが違うと、心と頭が解離した状態となり、心にストレスが生じる。心・思考・行動の一致が最も重要となる。その全ての起点となるのが、「心のあり方」だ。陽明学は、心学とも呼ばれ、心を陶冶することを勧めている。

しかし、陽明学の始祖である王陽明が「山中の賊を破るは易く、心中の賊を破るは難し」と唱えたように、心を律することは難しい。そもそも、自らの心を認識することすら、とても難しいのだ。僕自身、自らの心のありようが分からずに、部屋の隅っこでうつむきながら、悩んだ時期もあった。ヒントを与えてくれたのが、陽明学と密教だった。自らの「心」が察知できないのは、「欲望」と「頭の作用」という2つの邪魔ものがあったからだ。

名声欲や金銭欲、権力欲などの欲望があると、「お金をもうけたいから」「有名になりたいから」「権力が欲しいから」という理由で、自らが心で欲しているものではなく、欲望に流されてしまいがちになる。

一方、頭の作用が強過ぎると、自分の心を、頭で誘導しがちになる。受験戦争を繰り広げて、「良い大学に入り、良い会社に入ることが幸せだ」と頭から信じていると、本当の幸せを見失うのと同じ道理である。

心はほのかな光しか発していない。欲望と頭の作用がギラギラと光り覆い隠してしまうから心が見えにくくなるのだ。心を察知するには、その2つの邪魔ものを除去する必要がある。

欲望をそぎ落とし、頭の作用を止めるのに役に立ったのが、密教の思想だ。座禅などを通して、空(くう)の状態になることで、欲望をそぎ落とし、頭の作用を止められる。

心を察知できれば、心を陶冶できる。心の中の恐れ、怒り、ねたみ、不安など悪い心を打ち払い、希望に満ち、明るく、前向きな善い思いを心に満たし、心を強くできる。心を陶冶することを日々の業務の中で意識して行い続ける。すると心・思考・行動が一致し始め、心即理、知行合一を実行できるようになる。

密教と陽明学の教えは、僕の「心のあり方」のよりどころとなった。良い教えは、可能な限り多くの人に教えたい。密教は宗教的教えなので、経営大学院では教えにくい。だが、陽明学は可能だ。グロービスでは、「真説『陽明学』入門」(林田明大著)を経営学修士(MBA)学生の必読書として定めている。

陽明学の教えにより、心が陶冶された良きリーダーが日本から数多く輩出されることを心より願っている。

※この記事は日経産業新聞で2017年1月13日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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