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中央銀行は消滅するのか ―インターネット上で貨幣をつくる起業家たち

投稿日:2016/12/08更新日:2019/08/15

一般社団法人G1のフェローとして、G1サミット、G1ベンチャー、G1経営者会議などの企画・運営に携わる渡辺裕子が、各界リーダーや起業家たちと接する中で得た気付きを綴る連載。第2回は、貨幣の未来について考察します。(参考:G1サミット動画アーカイブ

「クレカって、イケてないですよね、そもそも」

2015年に開催したG1ベンチャーのパネル「インターネットが変える決済と貨幣の未来」は、そんな刺激的な発言から始まった。

BASE代表取締役の鶴岡裕太氏がこう続けた。

「もっと言うと、千円札や一万円札のような貨幣ですら最適なインターフェースじゃないと僕は思っている。

たとえば僕が舛田さんとフェイスブックでチャットをして、そこで舛田さんからありがたい言葉をいただくとする。それは価値をもらっているということだ。けれども、お金をもらうときはなぜか千円札のようなインターフェースでないといけない。

言葉をもらうのも千円札をもらうのも同じ概念なのにな、と思う。本当はそこまで価値の交換というものを落とし込むべきだと思う」

30年後の貨幣の形 ~ビットコインって結局なに?~

バーチャルなデータの交換が価値の交換になる。その思想は、ビットコインに似ている。

ビットコインとは何か。一言でいえば、発行体を必要としないインターネット上の仮想通貨である。冒頭のセッションでのbitFlyer加納裕三氏の説明がわかりやすい。

「中央集権的な発行体がなく、あくまでプログラムが発行量をコントロールしている。また、P2Pで中央サーバもない。世界でおよそ1万におよぶノード同士がコミュニケーションをすることで取引を管理する。

実際にどうすればそんな仕組みができるのかというと、すごく簡単な例として、我々はよく『電子署名付きメールの集まりです』という説明をしている。電子署名は絶対に本人であることを証明できるという前提で、たとえば加納から鶴岡さんに『100円送りました』というメールを書く。で、鶴岡さんから舛田さんに『50円送りました。よって残高は50円です』というメールを書く。これをリプライオールで書き続けたとする。そうしたメールが世界中の誰にでも閲覧可能なら、現時点で誰がいくら持っているかを把握できる。(中略)それで偽造でないと保証されたらメールチェーンだけで、あたかも通貨のやりとりのようなことができる。これがビットコインの根本的な仕組み」

技術的な用語が混じるものの、この風景は、中世ヨーロッパの取引を彷彿とさせる。かつて支払いと受取りは帳簿の上で相殺され、最後に残った差額だけが現金で相殺された。中央銀行の出現には、それから数百年を待つことになる。

円やドルといった通貨は、各国の中央銀行の信用のもとに発行される。SuicaやEdyといった仮想通貨は、私企業である発行体によって信用が保証される。ビットコインはそうではない。P2P(Peer to Peer:仲間から仲間)で保証され、流通していく。

創業3年で売上100億円 メルカリが実現する(かもしれない)経済圏

それでは、中央銀行で承認された貨幣は、インターネット時代の商取引に果たして必要なのだろうか。

創業からわずか3年で売上100億円を突破したメルカリ。フリマアプリに出品された商品の対価となるのは、もちろん円やドルだが、興味深いのは、売却した商品の代金で別の品物を購入できることだ。

たとえば使わなくなったティーセットを5000円で売却する。アプリを眺めて、気に入ったワンピースが3000円で売られていたとしたら、売却代金として計上されている金額で、商品を購入できる。

だから、誰かが価値を見出してくれるものさえ持っていたなら、現金を全く持っていなくても、欲しいものを手に入れられる。クレジットカードを持たない未成年でも取引は可能で、いわば貨幣をバーチャルに介在させた実質的な物々交換といえるかもしれない。

食べログやヤフー知恵袋といった口コミやQ&Aサイトも、実は同じだ。誰かからもたらされる無償の知恵。その知恵に返報するのは、知恵や感謝、あるいは投げ銭(ネット上のポイント)。貨幣が介在する必要はなく、個人が相互に価値を認めれば、取引が成立する。いわばインターネット上で、価値を直接交換できる。

インターネットの進化が行き着く先は物々交換? 

そもそも人類最初の経済活動は「沈黙交易」だった。

自分たちの部族の特産物を、たとえば巨木の下に置く。それを受け取った別の部族が、返礼として自分たちの特産物を置く。価値あるものへの返報の応酬。その繰り返しから交易活動が始まった。

距離や時間の制約によって、貨幣が介在するようになり、ムラの権威、やがては中央銀行が承認するようになった。それから数世紀を経て、インターネット回線を通じた直接的な「価値の交換」が実現しつつある。

我々の社会は、ゆっくりと螺旋状に進化を遂げて、物々交換の経済へと回帰しようとしている。そこにあるのは、インターネット上での直接交易であり、中央集権に承認される必要のないマネーである。

中央銀行は消滅するのか

通貨をつくりだす信用が分散化し、中央集権的な承認がなくとも貨幣が発行できるようになる。では、中央銀行はいずれ消滅するのだろうか。

おそらく、そうはならない。冒頭のセッションでも語られているように、現時点において、中央銀行が発行する法定通貨と、ビットコインのような仮想通貨には、流通量に圧倒的な差がある。またドルや円の信用の裏に、安定的な政治力や軍事力がある以上、ビットコインは法定通貨を補完し、時には権力に組み込まれていく(日本政府がビットコインを貨幣と認めたように)。

しかし我々の生活は、見えないところで、少しずつ変わっていく。

現金を多く持つよりも、メルカリやAirbnbの評価システムで信頼を蓄積する方が、有利に商取引できるかもしれない。冒頭のセッションでの発言のように、誰かに役立つ知識や言葉を提供することで、必要なものが見返りとして手に入るかもしれない。

そうなれば、生きていくのに必要なのは、少しの現金、そして誰かの役に立つ知識や技能、そして蓄積されていく信頼。ソーシャルメディアやシェアリングエコノミーで評価された「信頼」が、まるで通貨のように、格差を生み出す。そんな時代が到来しようとしている。
 

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