第2回 企業にとっての“環境問題” 

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三菱総合研究所・環境フロンティア事業推進グループ/環境・エネルギー研究本部の面々が、専門家ならではの知識・知見によってビジネスパーソンの環境リテラシー醸成を援ける連載講座。時事トピックを織り交ぜながら、環境問題がビジネスに与える影響を多面的に考察する。第2回は、企業における“環境問題”の位置づけについて、検討する。

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5月26日まで神戸でG8環境大臣会合*1が開催され、日本政府からの様々な提案がメディアにもとりあげられた。6月早々には、青森でエネルギー大臣会合*2がある。7月の洞爺湖サミット*3に向け、随分と雰囲気が醸成されてきたように感じる(サミット前後には、小欄に“特別講座”を設けるので、そちらも是非、ご覧いただければ幸いです)。

さて前回は、地球温暖化に代表される現代の環境問題は、個々人の健康・生活、そして全ての社会システムの基盤に甚大な影響を与えかねない“自然システム”に対する人為的な影響として捉えられること、そして、こうした環境問題は世界規模の安全保障問題の一つ(「気候セキュリティ」の問題)として認識されはじめていること、などを述べた。今回は、こうした環境問題を企業がどう捉えていくべきか、をテーマとしたい。

環境からCSR、そしてあらためて“環境”へ

企業が環境問題に対応するようになったのは、決して新しい話ではない。前回も触れたが、公害問題の時代から企業は環境問題に対峙してきた。周辺住民の方々に健康被害を引き起こすなどした公害問題は、まさに、直接的な経営、事業課題として、企業が対応を図ってきた(勿論、関係のあった企業に限定されるが)テーマの一つである。

温暖化をはじめとする地球環境問題に対し、企業が反応し出したのは1980年代後半から90年代初頭にかけてであった。この時期に、多くの企業が「地球環境憲章*4」を発表した。経団連主導による業界「環境自主行動計画*5」の策定もこの時期に拡がった。

その後、我が国、そして我が国の経済、企業は、バブル崩壊とともに、「失われた10年」を過ごすことになる。その間、これらの取り組みは、やや鳴りを潜めた感もあった(勿論、その間、地道かつ有益な多くの取り組みは続けられてきた)。

2000年に入り、我が国の経済、企業は息を吹き返した。それとともに、CSR*経営の概念が拡がった。ただし、我が国においてCSR経営は、環境経営を引き継ぐ形で展開、拡がりを見せてきた面も少なくない。今や、CSRに代表される非財務的な側面は、財務面と並ぶ企業価値形成の重要な要素であるとの認識も定着しつつある。環境問題は、我が国の企業にとって、CSRの傘の中に属する一つのテーマとなった。

(なお、筆者は、この時期以前に環境経営を標榜し、CSR経営に転じてきた企業と、この時期からCSR経営に着手した企業とで違いがあるように感じる。前者の企業では、“環境”と“CSR”との関係がどうもシックリしていない。後者に属する企業では、据わりは良いが“環境”が“CSR”のお題目の一つとなってしまうケースも見られる)

しかしながら、ここ数年、地球温暖化問題の予想以上の深刻化が、“環境”の位置づけ、重要性を急速に高めている。事によるとCSRの傘に収まりきらない可能性もある問題として、クローズアップされてきた。たしかに、企業が対応すべき環境問題はスケールアップした。それに伴い、新たな“環境経営”が求められはじめた、と言えるだろう。

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上図からも見て取れるように、我が国の経営者は、(わずか2年の間で)CSRを、「社会への還元」、「払うべきコスト」から、「将来への投資」、「経営の中核課題」として捉えるようになった。「経営の中核課題」として捉える経営者は既に8割を超えている。“環境”問題は、そのCSRにおけるポジションをここ2年で回復した―正確には、依然にも増して高めた。前回言及した「マイナス6」から「マイナス50」の流れの中、今後、一層のポジション、スケールアップが予見される。

今、求められる“環境経営”とは―持続的な発展に向けたイノベーションの機会として

経済、そして企業にとって、“環境問題”は、いわゆる外部コストとして存在してきた。しかし、現代の環境問題は、“外部”として取り扱うには、あまりにもその影響の規模、範囲が大きくなり過ぎた。先に“CSRの傘に収まりきらない可能性”と書いた。第1回にも記したが、現代の環境問題に対応するということは(例えば、“清廉潔白”さを見せる、追求するというよりも)、“サバイバル”を意味すると捉えられる。

業種、業態によっては、従来のビジネスマーケットが急速に悪化、縮小する可能性もある。従来のスキームでは成立し得ないコストが発生することも想定される。ほどほどの対処、対応では、意味をなさなくなったと言えるだろう。

では、“ほどほどの対処、対応”から抜け出すために、どう考えればよいであろうか。以下に、そのためのいくつかの仮説を示す。

“ほどほどでない対処、対応”を支援するいくつかの仮説
・CSR経営の拡大、浸透が示唆するもの一つは、マルチステークホルダーに対する関心、配慮、コミュニケーションの必要性であろう。現代の“環境問題”が、我々の経済社会の(全ての)基盤である“自然システム”に起因することを勘案すれば、“マルチさ”の一層の拡大-対象、時間軸-、そして、それらへの係わり方の変化、進化が、新たに要請されている。

・具体的には、経済社会と“自然システム”との関係性の見直し、そして、人類の持続性の確保のための様々な仕組み、基盤の再構築が必要である。おそらく、企業はそれを実現、推進していくための有効な器であり、機能であろう。
・こうした意味で、21世紀において持続的な発展を目指す全ての企業は、大いなる“機会”に直面している。その重要な部分は、従来のやり方、延長線からの脱却(“破壊”)、そして“自然システム”と調和する新たな技術、プロセス、市場の構築(“創造”)を実現すための“イノベーションの機会”である。
出所:MRI
環境問題は、短期的には(既に現在においても)企業に新たな制約やコスト負担を与え、一方で、新たなビジネスの機会を生みだしている。より中長期的にみれば、より多くの企業にとって、自らの生産や業務のプロセス、提供する製品・サービスに対して、そして、市場や社会におけるイノベーションの機会が提供されている。21世紀に持続的な発展を遂げることになる企業は、このイノベーションの機会を恐らくモノにしているはずだ。

今、求められている“環境経営”とは、この仮説を実践、検証しながら、“ほどほどでない対処、対応”に向け、大胆、迅速に、そして適切に見極めながら自らの進むべき道、手段を構築していくことである。

次回は、環境問題が提供する、かような“機会”を獲得するためのアプローチについて考えてみたい。

*1 主要国首脳会議(G8サミット)に先立ち、G8と欧州委員会の環境担当閣僚が一堂に会し、主な環境問題について意見交換を行うもの。2008年は、日本がサミット議長国であることから、7月の洞爺湖サミットに先駆け、5月24~26日にかけて神戸で開催された。

*2 主要国首脳会議に先立ち、関係閣僚により行われる会合の一つ。省エネルギーの推進、原子力を含むクリーン・エネルギーの導入など、エネルギー政策上の重要課題について議論するもの。2008年は、7月の洞爺湖サミットに先駆け、6月7~8日にかけて青森で開催される。

*3 2008年7月7日~9日にかけて予定されている、主要国首脳会議(G8サミット)「北海道洞爺湖サミット」。G8サミットは、毎年1回、日本・ロシア・アメリカ・フランス・ドイツ・カナダ・イタリア・イギリスの8カ国の首脳とEUの委員長が一堂に会し、世界的な課題を討議する国際会議。洞爺湖サミットでは、地球温暖化などの環境問題をはじめ、アフリカなど開発途上国との南北問題、核不拡散や対テロといった政治問題などについて議論される。

*4 企業が環境問題に取り組む際の基本姿勢や具体的取り組みの指針を定めたもの。

*5 地球温暖化の防止や廃棄物の削減等に取り組むため、各産業の業界団体が自主的に策定する行動計画。経団連は、1997年6月に「2010年度に産業部門及びエネルギー転換部門からのCO2排出量を1990年度レベル以下に抑制するよう努力する」との環境自主行動計画を策定している。

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