資本主義は市場価格と本来価値のギャップを克服できるか 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

前回に続き、株主利益=短期的な利己主義=資本主義の弊害、のロジックを検討します。

「短期的な儲け」と「短期的な経営」の混同

会社の株主とは、長期的視点と短期的視点の両面を持つ不思議な存在です。オーナー一族は恐らく長期的視点を持ち、上場会社株を市場で売り買いする投機家は短期的視点、というのが一般的な見方でしょう。

では、そもそもなぜ会社を上場するのでしょうか?会社への出資は融資と違って「返してくれ」と言えないカネです。その意味では会社の長期的成長に賭ける行為です。それでは怖くて出資する気にならない人が多いので、「返せとは言えない代わりに自由に他人に譲れる」ようにした、これが会社上場の制度趣旨です。会社にとって永続的な資金提供を短期的視点の投資家でもできるようにするのが上場株式市場、株主が短期的視点であることと長期的安定経営を行うことを両立させる画期的な仕組みなのです。

「物言う株主」が短期的儲けを狙って長期視点の経営を揺さぶることがよく問題視されますが、彼らが登場するケースの多くは、会社が本来持っている力が株価評価につながっていない「ギャップ」が存在します。このギャップを利用すれば株主は短期的に儲かりますが、それは経営をより短期的視点に変えさせたからではありません。

近年日本市場で活発に動いている、サードポイントという米国投資ファンドをご存知でしょうか。2013年のソニーにはじまりIHI、ファナック、セブン&アイの株式を大量取得し、経営陣にさまざまな提案を行ってきました。その結果、対象会社の株価の多くは上がり、ファンドは短期で大儲けしたと思われます。サードポイントがこれらの会社の経営をより短期視点にさせたのかというと、それは違うでしょう。サードポイントは足元の利益をもっと増やせという短期視点の提言ではなく、会社にある資産をもっと活用して価値を顕在化させろという、むしろ長期的な経営提言をしているのです。

四半期利益で経営を振り回す真犯人は誰か?

とは言え、「四半期決算の結果で株価が大きく動くのは事実だ、株主投資家が短期的利益を気にした経営に追い込んでいるではないか」という反論もあるでしょう。会社経営を四半期利益で振り回しているのは一体誰なのか?これは大きな謎です。ファイナンス理論的には企業の価値はその企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの現在価値、という長期的視点で算定されるはずなので、株価が四半期利益で右往左往することにはならないはずです。実際、私の知り合いの短期売買で悪名高いヘッジファンドのマネージャーや外資系投資銀行のアナリスト出身者も、「日本のIR説明会は四半期利益の予想にばかり質問が集中してあきれてしまう」と言っています。

ではなぜ日本のファンドマネージャーは四半期利益にこだわるのか?単純な答えは「そのほうが儲かるから」です。ではなぜ儲かるかというと、短期的に株価が大きく動く理由が利益の予想・見通しと実績の「ギャップ」にあるからです。短期的な利益の多寡が問題ではないので、たとえ足元の利益が減少するとしても、経営陣が先々の見通しをきちんと説明しているかぎり、そのこと自体は株価を乱高下させないはずです。

彼らは正直、長期的な会社経営にはあまり興味がないでしょうから、前述の「もの言う株主」のように手間をかけて経営陣に提案を行ったりしませんし、経営陣も長期的経営視点へのプレッシャーとして感じる必要もありません。もちろん、金利や為替や世界情勢などの理由で株価が乱高下することはあるでしょうが、これは他社も同様にさらされているマクロ的要因で個々の会社の経営責任を問われる話ではないので、長期的経営の軸をぶらせるものではないはずです。

ではファンドマネージャー(日本であれ海外であれ)が短期的な儲けにこだわる理由はなぜでしょう?それは彼らの評価が短期的なパフォーマンスに左右されるからだとしか考えられません。ファンドマネージャーに託されている資金は年金や生保など長期的な運用を目指す資金なのに、ファンドマネージャーの評価担当者は直近の年度や四半期の実績を見て運用先を選ぶ、ここに「短期主義(ショートターミニズム)」の原点があるのではないでしょうか?

国民の年金運用を担当するGPIFは株式投資の比重を高めつつありますが、2015年度に5兆円の運用損が出たことが6月末に公表されると野党は一斉に「責任」を追及する構えとなりました。社会保障の充実や労働者の雇用・賃金を守ることを声高に訴える人達と、年金運用の短期的な損失を責める人達が同じなのは、皮肉な話です。

日本には莫大な金額の年金資産や保険運用資産があり、それらは長期的なリターンを目指して株式投資され、その結果会社経営が長期視点で行えるようになる・・・。資本主義の制度設計としてはこれで間違っていないはずです。しかし短期的に売ったり買ったりしたほうが儲かり評価されるとしたら、運用のプロである年金・保険資金のファンドマネージャーはどうしてもそちらに流されます。そして、短期的な売り買いの方が長期投資より儲かるのは、主として市場価格と本来価値の間に「ギャップ」が生まれるからです。

資本主義が克服すべき課題は、ギャップを利用して一部の投機家が仕掛けるサヤ取り活動に投資家が過剰反応してその乱高下を助長しないようにできるかどうか、ではないかと私は考えます。
 

 

名言

PAGE
TOP