柔軟な楽観主義者となり幸せに生き抜くには ―『オプティミストはなぜ成功するか』 

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あの人はなぜ大変なときでも生き生きとしているんだろう?そんな風に感じる人があなたの周りにもいないだろうか。

世の中には「やってみれば何とかなる!」と前向きにとらえる楽観的な人、「どうせ自分には無理だ」と諦める悲観的な人とがいる。これは持って生まれた性質、もしくは子供のころに定着した性質のように捉えがちだが、悲観的な考え方を楽観的に変える方法があるならば、ぜひ試してみたいと思う人は多いのではないだろうか。そんな期待に応えてくれるのが本書だ。

私が心理学を学び始めたのは、人の心はなぜ病むのか、そのメカニズムを知りたいという興味からだった。社会人のうつ病が多くなってきた頃で、元気のなくなった人を回復させることが私の最大の関心事だった。しかし、実際にカウンセラーとして企業の話を聞いてみると、「そもそも心の強い人を採用するにはどうしたらいいのか」という相談が多いことに気付いた。予防策に目がいくのは当然だが、採用の時点で心の強さまで見抜くことは非常に難しい。それならば、入社後に心の強さ(ストレスへの抵抗力)を育成することで、このニーズに応えられないものだろうか――。

メンタル不調の原因はストレスと言われるが、2013年~2014年にかけてグロービス経営大学院の研究チームで、「職場での強いストレス体験と克服方法」、「克服できなかった原因」について学生たちに聞き込みを行ったところ、ある考察に至った。それは、ストレス体験の克服には何とかしようとする「主体性をもった自分」の存在が関係しているのではないかというものだ。さらに、この主体性が後天的に獲得できるのであれば、心の強さを育成することも可能なのではないかと私たちは考えている。

ここで本書にある「学習性無気力」という状態に注目したい。自分は無力であると学習すると、悲観主義になり、課題の克服を諦めてしまう。これが長く続くとうつ病の可能性も高まる。逆に、自分は困難をコントロールできるということを学習すると、楽観主義になり、課題を解決する意欲が湧いてくる。この困難をコントロールできるという状態は、私たちの研究で考察した「主体性をもった自分」に近いものと考えられる。さらには、それが学習できるという点において、意図的に「主体性」を育成できるかもしれない。

では、悲観主義な人(ペシミスト)と楽観主義な人(オプティミスト)には考え方にどのような違いがあるのか。例えば、健康のために始めた朝のランニングをサボったときの考え方を見てみよう。

A.自分は物事を継続することができない人間だ。
B.自分は運動が苦手だから続けられないんだ。

Bは続けられないことを「運動」と限定しているのに対し、Aは物事全般と捉えている点でより悲観主義の傾向が強い。つまり、ペシミストが1つのダメなことを広い範囲に適用するのに対し、オプティミストは限定的に考えるため、それ以外のオプションを探すという次の行動を踏み出し、落ち込むことなく問題解決を進めるのだ(上記の場合、健康のために食生活を見直す、など)。

本書ではAを選んだ人も自然とBを選ぶようになる思考の修正方法とその信ぴょう性について、様々な事例に基づき解説されている。研究室での実験事例のみならず、生命保険会社のセールスマンの楽観性と営業成績について、バスケットボールチームの監督の楽観性とチームの成績について、さらには、大統領選挙候補者における楽観性と当選確率についてと、非常に興味深く、理解しやすい説明がなされている。また、現実を都合よく解釈し、責任感が弱いというオプティミストの弱点と、現実を正確に把握する能力があるペシミストの長所にも言及し、楽観主義と悲観主義をうまく使い分ける必要性を補足している点も、現実的、かつ実用的である。

ポジティブ心理学の父と呼ばれる著者、セリグマン博士も、実は悲観主義から楽観主義に変わるために多くの苦労をしてきた一人だ。彼が自身の経験も踏まえ、楽観主義についての著書を多数出版し、アメリカ心理学会の会長に就任したのが1990年代。当時の日本では病気を治すための心理学という考えが主流だったため、さほど話題にはならなかった。しかし、働き方への多様性を求められるようになり、自分らしい生き方を気にし始めた今の日本こそ、人が幸せになるための心理学が脚光を浴びるべきだろう。

自己啓発のみならず、部下の育成や子育てにも使える多くの示唆を、ぜひ本書から得ていただきたい。「本を読んだだけでそんなに変わらないよ」という考え方はペシミストの典型。だが直後に、「いや、そんなに高い本でもないし、自分の参考になることもあるかも」。そんな反論が自分の中でできるなら、あなたもオプティミストの仲間入りだ。
 

『オプティミストはなぜ成功するか 新装版 』
マーティン・セリグマン(著) 山村宣子(訳)
パンローリング
1300円(税込1404円)

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