起業家は自ら考え「常識ぶち破れ」 

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※この記事は日経産業新聞で2016年9月2日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

「常識をぶち破れ!」。僕が中学高校時代にスイミングクラブで使っていた水色のマイビート板に、黒の油性マジックでこう書いてあった。書いたのは僕自身だ。ビート板につかまって水面に顔を沈めてバタ足をし、息継ぎで顔を上げる度に「常識をぶち破れ!」の文字が目に飛び込んでくる。このフレーズは今や脳と体に染み込んでいる。

絶対正義とみなされがちな規則、権威や社会通念も常に疑ってきた。なぜこれが必要なのだろうかとゼロベースで考え、良いか悪いかは自分の頭で考える。知らぬ間にこんな習慣が身についていた。

「Think Different」と米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏は唱えていた。米IBMの「Think」という標語へのアンチテーゼ的な意味合いがあったのだと思う。ジョブズ氏の考え方はシリコンバレーだけでなく、世界に広まり、共感を得た。

僕はこの言葉を最初に聞いた時、違和感を覚えた。違うこと自体を目的化してはいないか、と思ったからだ。本来あるべき思考法とは、自分の頭で考えて、正しい真理を求め続けることであろう。同じか違うかは、それほど重要ではないのだ。

「Think out of the Box」という言葉が英語にはある。直訳すると「箱の外を考えよ」。常識や通念にとらわれない発想をせよという意味だ。僕はこの言葉にも違和感を持っている。箱があることを前提にしているからだ。

一番良いのは「Think without Box」、箱そのものを所与のものとせず、自由に発想することではないだろうか。社会通念にとらわれずに自由に発想できれば、その内容が結果的に他と同じであろうがなかろうが、箱の中に収まっていようがいまいが、関係ないのだ。

では、どう思考すれば良いのだろうか。僕が常に意識しているのは「Think Uniquely」という発想法だ。つまり固有なオリジナルな発想を重視する考え方だ。オリジナルとは自分固有の自由な発想だ。違いや箱は不要なのだ。あくまでも自分らしくだ。

僕は次のような仮説を持っている。「人間は皆、生まれながらにしてクリエイティブな存在だ。だが、画一的な教育、ルール、社会的通念、常識によって次第に創造性を失い、オリジナルな発想ができなくなってくるのではないか」

赤ちゃんは創造性豊かだが、教育を受け続けた大人は、次第に画一的になっていく。であるならば、受けてきた画一的な教育を意識的に忘却(Unlearning)することがThink Uniquelyには必要だという結論に達する。社会的通念を疑い、常識をぶち破って考えることも必要だ。その結果、ユニークな存在の自分が現れ、何事にもとらわれない自由な思考が生まれるのだと思う。

僕はグロービスを立ち上げた起業家だ。起業家は常識を破らないと、価値を生み出せない。画一的な思考では、ユニークなビジネスモデルは作れない。グロービス経営大学院やグロービスのベンチャーキャピタルの創設から始まり、日本版ダボス会議「G1サミット」、東北復興支援活動「KIBOW」、そしてグロービス経営大学院で順次開講する「テクノベート」科目群は皆、そうやって常識をぶち破る自由な発想から生まれた。Think Uniquelyを僕が完全にできているかどうかは分からない。だが、常に常識をぶち破って自由に考えたいと強く思っている。

起業家としての考え方を僕に植え付けたあの水色のビート板。今はどこにいったか分からない。もしかしたら捨ててしまったのかもしれない。でも黒マジックで書いた「常識をぶち破れ!」というフレーズは今も僕の中で生き続けている。

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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