観客だけが顧客ではない、アルビレックス新潟シンガポールが作り出したエコシステム 

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長身で日焼けした肌に爽やかな笑顔で登場した是永大輔氏。インタビューの時間はあっと言う間に過ぎ去った(インタビュー編はこちら>>)。率直で謙虚な語り口が、むしろ地に足を付けて、現地のビジネスに向き合ってきたという自信を感じさせる。やはり現場でコミットしている方の言葉は自然と耳に入り、腹に響いてくるものだ。29歳でアルビレックス新潟シンガポールの社長に就任してから10年。シンガポールでのプロサッカーチームの運営は順調だ。いや、是永氏の経営をプロサッカーチームの運営と呼ぶのは相応しくないだろう。プロ野球パリーグが女性やカップル客を開拓した様々な施策は、スポーツマーケティングにおける成功モデルとして日本でも評価されたが、是永氏のシンガポールでの活躍はその上を行くものだ。「サッカーやスポーツに興味がない人に価値を感じてもらわねば成り立たない環境だった」という言葉がとても印象的だった。

BOPでの仕組み作りを彷彿させるエコシステム作り

是永氏は、アルビレックス新潟シンガポールを独り立ちさせるために、カジノ運営を行うことを決めた。やはり、日本の親会社からはかなりの反発があったそうだ。しかし、「このままでは何の発展も生むことができない」と是永氏は説いて回った。

最初、私はこの話を聞いた時に、是永氏は藁にもすがる思いで、カジノ運営に乗り出したといったニュアンスで捉えていたが、よくよく話を聞いてみると、シンガポールの社会や政治制度に立脚して、既にある社会の仕組みを巧みに自社ビジネスに取り込んでいったようだ。シンガポールには「ソサエティ」という制度があり、そこで得た収益をスポーツ事業などの社会貢献に使えるという仕組みがあるのだ。

その仕組みを使うことで、全くサッカーのことも知らないシニア層の住民を楽しませながら、資金をサッカーに還流させることに成功した。また、ホームタウンの行政区とともにサッカーアカデミーを立ち上げることで市民組織とつながりを持ち、サッカー支援という枠組み以外からの民間企業がスポンサーとして支援を名乗り出てくるといったことも起きている。一見関係なさそうなステークホルダーをどんどん巻き込んでいるのだ。

下記に、新興国でのBOPのビジネスの仕組みを表したC.K. PrahaladとStuart L. Hartのフレームワークを示した。是永氏が創り上げた世界は、企業や政府、NGO、起業家が相互に関係し合い、一体となってエコシステムを作るBOPビジネスの仕組化と相通じるものを感じる。興味が違う者や価値発揮の仕組みが違う組織を巧みに組み合わせて機能させることで、仕組みを成り立たせている。スポーツビジネスは儲かりにくいという特性を逆手にとっていることも興味深い。困難な状況でビジネスを立ち上げて行く方法論として、大いに参考になる。


知らない世界を見ることで、新たな価値観が生まれる

「旅に出よう、旅に出よう。既知の場所にはロマンがない」――。日本で5つのキャンパスを持つグロービスにおいて、上海にグロービスチャイナを設立し、シンガポールにグロービスアジアパシフィックを、タイにグロービス・タイランドを設立してきた私にとって、とても響く言葉だった。

「やりたいことをやって欲しい」。そして、自分が何をやりたいかを知るためには、「世界を自分の目で見ること」だという言葉は耳に残る。知らない世界を見ることで、今やっていることが陳腐に見えたり、逆に、やっていることの価値の高さが理解できたりする。様々な世界を本当に自分の目で見て、新たな価値観を構築する。シンガポールからバルセロナへ、そして、他の地域へと展開する是永氏の次の世界観を見るのがとても楽しみだ。私のモチベーションをもとても高めてくれた是永氏は、これからもきっとこうやって世界中にファンを増やしていくに違いない。
 

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