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「世界で堂々と戦える日本人を創りたい」アルビレックス新潟シンガポールの若き経営者の想い

投稿日:2016/07/27更新日:2019/04/09

人口はわずか500万人、東京23区ほどの国土しかないシンガポール。スポーツが文化として根付いているとはとても言えないこの国で、アルビレックス新潟シンガポール(以下ANS)はSリーグ(シンガポールサッカーリーグ)に参入した。異国の厳しい事業環境で日本人が​プロサッカーチームを経営するのは、至難の業だっただろう。しかし、若き経営者・是永大輔氏はチームを見事に独り立ちさせた。やりたかったのは、「世界で堂々と戦える日本人を創る」こと。サッカーはその手段でしかないと言い切る。この成功物語から、日系企業がアウェーで戦うには何が必要となるのかを学んでみたい。

どうやってプロサッカーチームを独り立ちさせたのか?

■海外で困難な状況に直面したことがチャンスに。困難だからこそ新しいビジネスの発想が生まれる
正直シンガポールでの仕事を引き受けた時に、これほど厳しい状況とは思っておらず、赴任して驚いた。日本人がシンガポールでサッカーをプレーしていることは、ほとんど話題にならない。サッカーやスポーツに興味がない人にも価値を感じてもらわねば、経営が成り立たない環境だった。しかし、今振り返れば、極めて困難な状況があったからこそ様々な発想が持てたのかもしれない。「なくてもいいもの」を「必要とされるもの」にする。その中で「マネタイズ」するにはどうすればいいのか、ひたすら考えた。

現在、ANSの収益の65%はカジノ事業から得ている。この比率は今後さらに高めていく計画だ。我々は「ソサエティ」という団体なので、クラブハウスの中でカジノを運営することができる。カジノ運営の組織は地域貢献を行っている団体であることが前提であり、その収益はサッカークラブの運営に充てることが定められている。50~60歳代の地域のシニア層がカジノのターゲット層だ。毎日、スロットマシンを興じてくれているおじちゃん・おばちゃんがクラブを支えてくれているのだが、彼らはサッカーに興味はない。

これに限らず、スポーツが軸となりその周囲に様々な形でのビジネスが取り巻く。ANSはバルセロナにもアルビレックス新潟バルセロナというクラブを持っている。サッカープレーヤー憧れの地バルセロナにあるサッカークラブであるが、実態は日本からバルセロナへの「留学ビジネス」でもある。さらに、シンガポールに限らず東南アジア諸国で、サッカーアカデミービジネス、チアリーダー、飲食ビジネス、物販ビジネス、聾学校でのサッカークリニックなど様々な業態を拡大している。スポーツそのもので儲けるのではなく、生活のあらゆる場面に関わっているスポーツ、という状況を活かして稼ぐのだ。様々なビジネスモデルの渦の真ん中に、常にスポーツがあるのだ。

当初、カジノを持つというアイデアに対して、学校法人も持っている新潟の親会社・NSGグループとしては異論もあった。しかし、シンガポールではこのビジネスモデルは社会貢献をしている組織への特権になっている。同様のモデルは欧州のサッカークラブにもある。スポーツとは縁遠い人も巻き込んでいかなければ、クラブは立ちいかなくなっていただろう。

組織や人を動かして行く上で何か鍵となったか?

■60点の出来でも仕事を回せるのが経営の腕の見せ所。ただし、方向性だけは譲らない
上から目線にならないこと。日系企業がよく使う「現地化」という言葉も好きではない。「一緒にやっていく」ことが大切だと考えている。最初からうまく行った訳ではない。当時、自分は完璧主義で、物事が進まないことにイライラしていた。最初の半年は自分自身も組織としても壁にぶつかった。しかし、そのうちに、自分が「おかしい」と思うこと自体がおかしいことに気づき始めた。そうすると、情熱と経験を持った人材に、ある程度の幅の中で任せてみようと思えるようになったのだ。これで一気に気が楽になった。

どの程度まで割り切るべきかと言えば、だいたい60点ぐらいまで。同じ「方向」に向かっているかどうか、が採点基準。方向が合っていれば、60点でも問題ない。そして、いかに残りの40点を埋めて行くのかというヒントを与える。しかし当然、自分自身が全ての答えを持っている訳でもないので、任せた相手がこの40点を超えて120点をとることもある。そういう「超えたね!」という瞬間に出会うことが、仕事をする上での醍醐味。逆に言えば、60点の出来で全体の数字を確保して、さらに拡大志向へ持って行かせるようにするのが経営だろう。

日系企業の多くは、パツンパツンで頑張っていて余裕がない。それぞれが常時120点を出さないと回らない経営をやっているように見えることもある。そうすると自分が口を出さずにはいられないし、結局、日本人を沢山連れて来てしまう。このあたりはトップがどこまで我慢し、バッファーを作れるかにかかっていると思う。

なぜユニークな仕事をし、人を巻き込むことができるのか?

■ストーリーに拘り、ストーリーに生きる
前職はIT企業で、サッカーメディアにも携わり、編集の仕事もしていた。そこで、人に物事を伝える上で、「ストーリー」を作ることがいかに重要か学んだ。また、大学は芸術学部演劇学科だった。そこで学んだことも、まさに、「物語を作って人を巻き込んで行く」ことだ。

仕事をする上でもストーリーを持つことがとても大事だと思っている。企業にもストーリーがあり、スタッフ一人一人にもストーリーがある。一人一人が「何をしたいのか」をちゃんと見ることが大事だ。会議や面談でスタッフが思っていること全てを語っているとは限らない。心に秘めたストーリーがあるはずだ。だから、誰よりも先にバカをやって、少しでも多く皆が持つストーリーに触れることもトップには必要だと思っている。 

若きビジネスパーソンにぜひメッセージをお願いしたい

■価値観をぶち壊していくと、競争相手がいなくなる

「やりたいこと」をやって欲しい。仕事の成果は情熱×時間。やりたいことには自然と情熱が持てるし、時間をかけても辛くないはずだ。やりたくないことをやる時間はないはず。やりたくないことをやらないためには、その仕事をやりたい人や得意な人にやってもらえばいい。そして、自分が何をやりたいのかを知るためには、「世界を自分の目で見ること」と伝えたい。特に、インターネットで見て分かった気にならないでほしい。

「価値観をぶち壊して行くと、競争相手がいなくなる」かもしれない。一般的なサッカーの仕事という価値観だと、単純にスタジアムの中のピッチ上で試合を行うだけ、という狭い世界にだけに閉じてしまい、いがみ合いや相手からの嫉妬も受けただろう。しかし、ピッチ上だけの勝負じゃないという自分独自の価値観を打ち立てると、同じ土俵だけで勝負していないという余裕が生まれ、競争相手にもむしろ共感を覚えたりする。

幸いにも、スポーツをスポーツ事業だけで考えない姿勢が、当地のプロサッカークラブのあるべき姿と重なっていたことに気付いた。こうした発想は、オフィスの中でウンウン唸っていても出てこなかっただろう。最後に僕がいつも心に留めている言葉を送りたい。

――旅に出よう、旅に出よう。既知の場所にはロマンがない――

【ポイント】
・困難な状況こそ新しい発想をビジネスにもたらすチャンス。前例に囚われない発想で挑め
・60点の出来でも仕事を回せるかが経営の腕の見せ所。ただし、方向性の一致だけは絶対に譲らない
・価値観をぶち壊すと競争相手がいなくなる。このプロセスを楽しむ

 

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