2016年7月22日10時すぎ、世界中で話題になっているスマホゲーム「ポケモンGO」がついに日本でも配信開始されました。
いち早く配信が始まった米国・オーストラリア・ニュージーランドでは、7月6日の配信開始からわずか1週間で、1日あたりの利用者数(DAU)が2000万人を突破。すでにゲームとしては過去最高の利用者数に躍り出ました。また、ゲーム内で使えるコインの売上高は、iPhone版だけで1日160万ドル(1億7000万円)にのぼっているそうです。あるアナリストは、欧米圏での「ポケモンGO」アプリのダウンロード件数の3分の2を占めるアップルは、アイテム課金の手数料(30%)だけで、年30億ドルを稼ぐだろうと予測しています。こうしたとんでもない数字が次々と飛び出すのを見て、「ポケモンGO」の経済効果を「ポケモノミクス」と呼ぶ人まで現れました。
ナイアンティックラボの秀逸なプラットフォームとは?
世界中で話題になっている「ポケモンGO」ですが、なぜいきなりこれほどまでに儲かるのでしょうか。それは、このゲームを開発した米ナイアンティックラボの持つ、秀逸なプラットフォームに秘密があります。
ポケモンというゲームそのものは、任天堂とその子会社であるポケモンがIP(知的財産)を保有しています。しかし、「ポケモンGO」はナイアンティックラボが任天堂からライセンス提供を受けて開発された、まったく新しいゲームなのです。
ナイアンティックラボという企業は、実は米検索サービス大手グーグルの社内ベンチャーで、2012年から「イングレス」というゲームを作っていました。これは、石碑や壁画、オブジェなど、世界中の街中にあるランドマークを「拠点」に見立て、青チームと緑チームに分かれたユーザー同士が奪い合う、「リアル陣取りゲーム」です。
「イングレス」は世界規模で数百万人のユーザーがいるにもかかわらず、当初は完全無料のゲームでした。昨年から、ゲーム内アイテムに企業スポンサーの名前を付けたり、有料のゲーム内アイテムを追加したりして収益化をはかり始めましたが、どうみても大して儲かっているように見えず、ユーザーからも「いったいどうやって利益を出すつもりなのだろう」と心配されるほどでした。
しかし、その大赤字のかげで、ナイアンティックラボは世界中の街にあるランドマークの場所と名前やその特徴などのデータを着々と蓄積していました。その膨大なデータとノウハウを生かして開発されたのが、この「ポケモンGO」というわけです。
「ポケモンGO」は、配信当初から有料アイテムが用意されており、これらを購入しないとゲームが進められないようになっています。通常のスマホゲームでは有料課金するユーザーの比率は平均5%と言われていますが、先行する米国では、すでに20%のユーザーが有料アイテムを購入しているそうです。これも、最初から「イングレス」で蓄積した位置情報データが世界規模で使えるからこそ、一気に世界中でユーザーを夢中にするゲーム世界を作りあげられたからこそです。
集客目当てのスポンサーが続々と?
それだけでなく、企業スポンサーも最初から導入されます(すでに日本マクドナルドが名乗りを挙げています。ちなみに、日本での配信開始が遅れた理由は、国内のマクドナルド2000店以上の店舗の位置情報を登録する作業に手間取っていたからではないかと私は推測しています)。これはただのブランド広告ではありません。ポケモンを集めたい子どもたちが、マクドナルドの店舗を訪れるようになるのですから、マクドナルドにとっては直接の集客効果が見込めることになります。おそらく年数十億円のスポンサー料を払っていることでしょう。ほかにも、自社の店舗や施設に集客したい企業は、「ポケモンGO」のスポンサーに次々名乗りを挙げることでしょう。
ナイアンティックラボは、今後もこの世界規模の位置情報データを使ったほかのゲームやサービスを生み出し続けるでしょう。2012年に始めた「イングレス」はこのデータを蓄積するためのプラットフォームで、「ポケモンGO」はそのプラットフォームの上に乗るコンテンツの1つであると同時に、それもまたその上に数千万人のユーザーやスポンサー企業などを乗せるプラットフォームであるわけです。スマホやAIといったITの普及で、プラットフォームが現実の世界で持つパワーは、ますます大きくなっていくことでしょう。