文章を書くのは「筋トレ」 

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※この記事は日経産業新聞で2016年5月20日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

僕は、ずっと文章を書くことにコンプレックスを抱いていた。理由は簡単だ。国語の成績が全くダメだったからだ。中学・高校と国語の通信簿の成績は5段階中の2。大学受験時は文系クラスにいたが、国語の点数があまりに低かったので、高校3年生の10月に理系に転じたほどだ。「文転」は聞いたことはあるが、「理転」は聞いたことがない。それほどまで苦手意識を持っていた。

ところが起業家や大学院の学長などリーダーの立場にいると、嫌でも文章を書かなければならない。仕方がなく、文章に関する本を10~20冊読んでみた。言っていることは皆ばらばらで、どれを信用していいか分からなかった。

転機となったのが、塩野七生さんの「ローマ人の物語」を読んだ時だ。塩野さんが、カエサルの「ガリア戦記」の出だしを絶賛していたのだ。それで気になって、ガリア戦記の最初のページをめくってみた。

「ガリアは全体が三つの地域に分かれている」。何の変哲もない出だしの一文が目に飛び込んできた。塩野さんがガリア戦記の出だしを褒めていたのは、それが至極シンプルで単刀直入だったからだ。「なぁんだ。これだったら僕でも書けるや」と一気に気が楽になった。

「ゆく河の流れは絶えずして…」「つれづれなるままに…」。国語の時間、このような過去の文学の叙述ばかり覚えさせられた。そして知らず知らずのうちに「文章は、高尚で文学的素養が高い言葉で、書かなければならない」と思い込んでいたのだ。

改めて、カエサルがなぜ「ガリア戦記」を書いたのか考えてみた。おそらく執政官として統治していた自らの存在を、本国のローマ人に忘れさせないために、遠いガリアの地で書いたのだろう、と気がついた。まさに、今で言う「ブログ」のようなものだ。

同世代の人に自分の考えと行動を記し、伝える。そうすることでステークホルダーに説明責任を果たす。これがリーダーの役割だろう。そうした結論に達して書き始めたのが、「起業家の風景」というブログだ。1998年9月に書き初めて20年近くになる。文章も最初は拙かったが、推敲(すいこう)を重ねるに従い、そして書くという経験を積み重ねるに従って、読める文章になってきた(と思う)。

三島由紀夫氏が面白いことを言っていた。要約すると、「文章を書くというのは筋トレみたいなものだ。書けば書くほど文章力が高まってくる」というのだ。「筋トレ」とは文章を書き、推敲を重ねることだ。ニュアンスがピンとこない場合には違う言葉に置き換え、語順を入れ替える。言葉をかぎかっこでくくって強調し、余計な言葉を削る。段落を2つに分けたり、逆に異なる段落を1つにまとめたりする。

そうして「筋トレ」をして、文章のインパクトが高まっていくのが分かるようになると、推敲自体が面白くなる。かつてコンプレックスだった文章を書くことが、いつの間にか楽しみになっていた。

では、「良い文章」とは、どういうものなのだろうか。文章読本の類の書を数多く読んだが、結論は出なかった。そこで、自分の頭で考えて、自分なりの「文章読本」的な5つのポイントをあげてみることにした。

(1)結論が先にある(2)論理構成がしっかりしている(3)具体的事例やストーリーがある(4)無駄を省きインパクトを高めている(5)読むことで情景が浮かび感情が動かされる――だ。

良い文章とは、分かりやすく、面白いものだと思う。このコラムでもそれが実現できているかどうか分からない。だが、今も「筋トレ」という文章の執筆と推敲を重ねている。国語落第だった僕が書く文章が、少しでも皆さんの心を動かしているならば、とても幸いなことである。
 

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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