「本質は何?」の落とし穴に気づいていますか? 

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よく、「それはこの問題の本質ではない」、あるいは「物事の本質を考えろ(捉えろ)」「本質は何だ?」などと言う人がいます。たとえば問題解決の場面などでは、枝葉末節な部分に時間を使っても無駄ですから、最も改善感度が高い個所を探したり、より根源的な原因(真因)を探ったりします。「Where(どこに問題があるか)を丁寧に考えよ」、あるいは、トヨタ流の「なぜを5回繰り返せ」などはそうした考え方の延長にあると考えてもいいでしょう。

では、「本質は何?」の問いかけに潜む落とし穴とは何でしょうか?今回はこの点に関して考えてみます。

「本質は何?」が思考停止を促す

1つは、「本質を見抜く」あるいは「本質を捉える」といった言葉が、往々にしてビッグ・ワード化し、かえって思考停止を促してしまうということです。

たとえば、現在、舛添要一東京都知事のさまざまな行為が非常に問題になっていますが、この問題の本質は何でしょうか? いろんな識者がさまざまなことを言っています。例として、

・トップリーダーの資質に欠ける
・都民の意向が全く分かっていない
・公僕として公私混同しすぎている
・政治資金規正法がザル法である
・政治家の人材が不足している
・選挙のハードルが高く、選択肢が限定され過ぎる

などです。これらは確かにすべて重要なポイントであり、識者に言われれば、確かにそうかな、などと思ってしまいます。しかし、そもそも「本質」というものがそんなにたくさん存在するものでしょうか?

実は、因果関係が比較的明確な問題やスコープ(時間的、空間的広がり)が狭い問題などでは、問題の急所を捉えることはそれほど難しくはありません。しかし、因果関係が複雑になり、かつスコープが広がるにつれて、問題のポイントを1つに限定することは急激に難しくなるのです。

別の例で言えば、「IS(ISIS)問題の本質は何だ?」と言った問題提起があります。しかし、この問題は歴史的経緯などが複雑すぎるため、安易に1つの本質を特定することなどはできません(私自身も答えられる自信はありません)。沖縄の基地の問題もそうでしょうし、隣国との政治的軋轢の問題などもそうです。

それにもかかわらず、あたかも「本質」というものが1つしかないように「本質は何?」と問いかけることは、かえって思考を狭い範囲に留めさせる可能性があるのです。ましてや、著名な識者、あるいは企業で言えばカギとなるマネジメント人材が、安易に「これが本質」などと断言してしまうと、そこで若手の思考は停止してしまいます。

このように、「本質は何?」は若手の思考を促す問いかけであるようで、下手をすると、かえって思考停止を促す可能性がある点は意識しておきたいものです。

「本質」は当人にとってコントロールできない可能性も

もう1つの落とし穴として、特に若手にこの問いを投げかける場合、往々にしてその「本質」が当人にとってコントロール不可能なものであるという点があります。

たとえば、実績が上がらない開発担当者に対して、「で、問題の本質は何なの?」といった質問を投げかけたとします。その答えは、実はアサインメントのミスであったり、サポート体制の不足であったり、ひょっとすると上司であるあなたのマネジメント能力の欠如、あるいは社長の戦略ミスかもしれません。

自分がコントロールできないことについて必要以上に考えさせられることは、ビジネスパーソンにとって大きなストレスとなります。ましてや、もしそれが上司や経営者の責に起因する部分が大だとしたら、部下としてもそれをストレートに指摘することは難しいでしょう。

つまり、「本質は何?」という質問は、不必要にパンドラの箱を開けてしまい、上司やマネジメントに対する不信感を増すことにもつながりかねないのです。問いを投げかける自分自身が明確な解を持っており、部下に考えさせることで彼/彼女の能力開発につながるという自信があればいいのですが、安易に「本質は何?」という問いかけをすることは、自分自身の底の浅さを露呈させることにもなりかねないのです。

ではどうすればいいのでしょうか? 1つの方法は、部下が思考停止したり混乱したりしないように、「本質」というぼんやりした言葉の定義を明確化してあげることです。たとえば、このGLOBIS知見録コラムの「唯一最強の武器は『本質を見抜く力』」では、「Must to do とNice to doを見極める力」と定義しています。これは部下の指導上は非常に分かりやすい定義の1つと言えるでしょう。

問題解決のシーンであれば、「最も改善感度の高い問題解決のポイント」や「この問題の根源的な原因」なども分かりやすい定義です。戦略論について議論するのであれば、「競合に勝つための最も重要なポイント」などと言えば分かりやすいでしょう。

「問題の本質」というと何か高尚な感じがするためか、この言葉はしばしば用いられます。しかし、ちょっとした言葉の選択が、相手の生産性や能力向上に大きな影響を与えるものです。「本質は何?」という問いかけの本質的な目的をしっかり意識しておきたいものです。

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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