起業家精神のギャップ 

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フランスのとある現象が、数週間前のNew York times紙で取り上げられた。フランスでは、起業にあたっては障壁が多く、フランス人で起業を志す者は、むしろイギリス等の国外に移り事業を起こすという。では、日本人は、起業家精神というものに対してどのような意識を持っているのか。そして、フランス同様、起業家精神に溢れた人々が国外に流出する危機に日本も直面しうるのであろうか。

記事によると、現在、約50万人のフランス人がイギリスで働いており、そのほとんどが35歳以下である。ジャン・クロード・コシアス氏もその1人だ。母国フランスと異なりイギリスでは、「経済は、国民が一定水準の豊かな暮らしを送るための必要不可欠な要素の一つとして重要視されている。この認識のおかげで、イギリスでの事業環境は全く異なったものになっている」と、コシアス氏は語る。

起業家精神の低さが依然目立つ日本

起業家の成功事例は日本でも見受けられるが、他国と比べると、日本人の起業に対する意識はかなり低い。 起業家資質に関する日本人の自己評価は、42カ国中下から2番目という結果が報告されている(『起業に関する世界調査2007年度報告』より)。米国人の43%、中国人の30%、インド人の69%が「起業家資質がある」と回答している一方で、日本人で同様の回答をしたのは、僅か9%である。起業の意思を持つ人の割合は更に低く、2%に留まっている。ちなみに、米国人の8%、中国人の31%、インド人の50%が「起業の意思がある」と回答している。このように、自ら事業を起こす能力や意思はないと感じている人がかなり多い状況では、日本人の起業家が日本を飛び出し、国外で事業を始める道を選択する可能性は否めない。

日本人の起業に対する消極的姿勢の要因は様々だ。かつてのように確実な保証があるわけではないが、やはり堅実で安定的な日本企業で働くことを選ぶ傾向にあることもその要因の一つだ。起業家精神とは、現状から脱し新たなものを作り出したいという欲求が基となって醸成される。ところが現在の日本では、敢えてリスクをとらなくとも、比較的快適な生活を手に入れることができる。例えば、日本人起業家ジョイ・イトウ氏は、数年前のブログで、「 日本の“エリート”を目指す人たちにとって、日本は依然としてローリスク・ハイリターンである」と述べている。

では日本人は今後、どんな資質を育んでいけばよいのか。“外国人起業家”の存在が大きな示唆を与えてくれている。日本国内では、日本人起業家の成功事例のほかに、外国人起業家が日本で成功を収めチャンスを掴んでいる例が数多くある。ティム・クラーク氏の著作『 Saying Yes to Japan』によれば、日本で成功した外国人起業家には、共通して、日本人から抜きん出るための五つの特徴が備わっているという。リスクテイク志向、柔軟性、顧客志向、技術主導のスピード感、そしてプロフェッショナリズムである。

起業家志向の高まりという希望

将来的にみれば、日本人の起業に対する消極的姿勢が、これからもずっと続くと悲観する必要はない。バブル崩壊後の不況下で育った若い世代の中で、起業家志向が着実に高まっている。この世代は、安定的な大企業で働くよりも、自分自身で事業を起こし挑戦していくことに関心を寄せている。そして、『サムライ人材論』で述べられているように、世界経済の大変革に日本人が順応できたことに鑑みれば、リスクテイク、柔軟性という起業家資質を日本人が身につけることも、無理な注文というわけではない。

起業家精神は経済・社会に欠かせないものであるから、その芽を大切に育てていくことが必要だ。起業家精神によって、「小規模で新しい企業が革新をもたらし、市場ニッチを埋め、競争を加速し、ひいては経済活動における資源の再配分を実現している」(『起業に関する世界調査2007年度報告』より)。忘れられがちだが、著名な大企業も創業当初は自営業や小規模ベンチャーだった。グロービス自体も、元々はたった一つの借り教室からスタートし、年に何万人もの顧客を抱えるまでに成長したのである。

起業に対する日本人の消極的姿勢の理由が何であれ、それは単なる「認識」であり、現実ではない。起業に関する訓練や支援の基盤が充実し、日本人にリスクテイク志向が芽生えた暁には、日本人の起業に対する「認識」も高まり、他国と肩を並べるまでになるはずだ。(英文対訳:岩田あさみ)

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