対立のない組織で大丈夫ですか? 

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今回は「対立」について考えてみましょう。

一般に「対立」は良くない言葉の印象があります。事実、2015年に大塚家具で表面化した「戦略を巡る経営者親子の対立」や、先ごろセブン&アイ・ホールディングスで話題になった「後継社長選定を巡る対立」などは、対立があまり好ましくない結果(2016年5月現在)をもたらした事例と言えるでしょう。

トップレベルの大きな対立は、しばしば組織を極めて内向きにし、市場での競争力を削いでしまいますし、現場レベルでも過度に対立が起こる組織はなかなか生産性が上がりません。

では逆に、対立のない組織(なお、人間の集団である以上、対立が全くゼロということはありませんので、ここでは、それが非常に少ない組織をイメージしながら議論を進めます)は健全なのでしょうか?これはこれで、逆に危険と言えます。対立が起こらない理由として、以下のような状況が考えられるからです。

1)皆が思考停止しており、一部の人間(通常はトップ)の意見だけが通る
これは、トップが権力を持ち過ぎている場合のみならず、トップが優秀すぎるために部下の判断力が削がれる場合などにも起こります(いわゆる機長症候群)。トップが常に良い決断をしてくれるといいのですが、大きく誤ってしまった場合には組織を傾かせる可能性があります。

2)組織が同質化しすぎていて、異なる考え方の人間が少ない
いわゆる「金太郎飴」状態です。似たような考え方をする人間ばかりでは、経営環境の変化に弱くなってしまいますし、「新結合」としてのイノベーションも起こりにくくなってしまいます。

3)対立しにくい組織文化が蔓延している
対立には、後述するようなプラスの側面もあるのですが、それすら表出しづらい状況になっている状況です。こうした状況が行きすぎると、精神的なストレスが溜まり、メンタルヘルスにも悪影響をもたらします。

4)対立を嫌う人間ばかりが集まっている
こうした人間は往々にして性格が穏やかな一方で、交渉ごとや自己主張を避ける傾向があります。これでは対外的な価値獲得や価値創出が難しくなってしまいます。

対立が極端に少ない組織は、上記のような理由を抱えていることが少なくありません。これらが複合すると、非常にひ弱な組織になってしまうのです。こうした組織にありがちな欠陥として、対立のポジティブな側面への理解が浅いことがあります。典型的なポジティブな側面としては以下のようなものがあります。

1) 競争意欲が高まる
自分の主張をより強固なものにしようとすべく思考やエネルギーを投入する結果として、良いアウトプットが出、スキルアップにもつながることが少なくありません。派閥全盛期の自由民主党などは、派閥単位で大ゲンカをすることも少なくはありませんでしたが、それがエンジンとなって各派の切磋琢磨を促し、「政策通」の議員を大量に生み出しました。

2) コミュニケーションや相互理解が促進される
議論をすることで、相手の持っている思考パターンや隠れた前提に気づくことがあります。その結果、より正しい状況の共有や相手に対する理解が進み、それ以降の仕事が進めやすくなることがあります。

3) 創造性が促される
対立の解消は、往々にしてトレードオフ(例:品質か、価格かの判断など)の解消を要求します。そのためには、それまでの思い込みを打破し、クリエイティブな発想が求められることが多いのです。

4) 価値創造に目が行きやすくなる
上記とも連関しますが、建設的な対立の解消は、Win-Winの結果をもたらすことが少なくありません。これは対外的にもWin-Winの交渉を実現する能力や、その前提となる、物事を俯瞰的に捉える能力を伸ばすことにもつながります。

こう考えると、対立がほとんどない組織よりは、健全な対立が適度に起きている組織の方が強い組織と言えそうです。では、そうした組織を作る上での鍵は何でしょうか?

第一に、実質的な問題と感情的な問題を峻別するように管理職や従業員を教育することです。実質的な問題とは、方針や手順、役割に関する問題であり、感情的な問題とは個人的な感情、情動に関するものです。往々にして話がこじれてくると、本質的な問題に関する議論であったものが感情的問題にすり変わったりするものですが、それは好ましいことではありません。事柄と、感情さらには人格を混同している部下などを見かけたらしっかり指導しましょう。最悪なのは人格攻撃です。これは組織に何のプラスももたらしませんので、自らが慎むのはもちろんのこと、しっかり指導したいものです。

第二に、リーダー自身の勇気です。対立の解消はエネルギーを使うため、それが起きていても見て見ぬふりをするリーダーもいます。しかしそれは悪しき行動を促しているようなものです。すべての対立に介入するのはもちろん現実ではありませんが、いざという時にはしっかり介入をし、ズバッと判断基準を伝えるなどのパフォーマンスが必要です。リーダーは自分の一挙手一投足がすべて組織へのメッセージになっていることを正しく理解してください。

第三に、組織としてのファシリテーション能力の強化があります。ファシリテーションは単なる会議の技法ではなく、社内的な価値創造や問題解決のための技術でもあります。良き議論をするための能力向上やそのための意識付けを常日頃から行いたいものです。

対立は、使い方次第で非常に大きなエネルギーを生み出します。皆さんの会社ではそれがどちらに向いているか、ぜひ確認してみてください。
 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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