人口減でも生き残れるか?各社の対策をアンゾフのマトリックスで見る 

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日本は本格的な人口縮小時代に入った。その中で、各企業が必死に「縮む市場での成長戦略」を描くための努力をしている。フレームワークを通じてその姿を追ってみよう。

縮む日本市場の姿

日本の人口は2015年7月に総務省が発表した統計によると、6年連続の前年割れ、過去最大の減少で前年同期より27 万1058人少ない1億2616万3576人となったという。

27万人の減少という数字をリアルに思い描いたことはあるだろうか。地方自治法の定めにより、人口20万人以上で「特例市」となる。特例市の1つを例に挙げると、茨城県の県庁所在地であり梅の偕楽園や名産品の納豆で有名な水戸市がある。水戸市は、2016年2月1日の推計人口が270,944人だ。つまり、昨年、水戸市が日本から消えたのと同じことなのだ。

成長戦略のフレームワーク

経済学者のイゴール・アンゾフは、企業の成長戦略を4つにパターン化した。いわゆる「アンゾフのマトリックス」だ。既存の市場・顧客を対象にするのか、新規の市場・顧客を狙うのか。既存の製品を用いるのか、新製品を開発するのか。市場・顧客×製品×新規×既存の4つの掛け合わせ、4象限のマトリックスとなる。


高級化で「市場浸透」を図るキーコーヒー

キーコーヒーは2015年3月にリキッドアイスコーヒー「氷温熟成珈琲 テトラプリズマ」を発売した。コーヒー市場の戦いは熾烈だ。コンビニで淹れたてのコーヒーが100円で買える。スーパーで売られるリキッドコーヒーも低価格が主流で1リットル100円前後となっている。そんな中、キーコーヒーは2010年からコーヒー豆を増やして高級感を強調した「香味まろやか珈琲 贅沢仕立て」シリーズを発売。「税別341円とやや高かったが、リキッド品には珍しい香りの高さが人気で、14年の売上高(数量ベース)は13年比13%増と順調に伸びていた」(日経MJ3月30日号)という。

それにも関わらず、同社マーケティング本部は0度からモノが凍る直前の氷点下の温度域で生豆を熟成させ、甘い香りとまろやかな味わいに仕上げた「氷温熟成珈琲 テトラプリズマ」を開発、「贅沢仕立て」の刷新商品として458円で発売した。刷新前に比べ3割高いが、「15年9月末までに前年同期比1割増しの売上高(本数ベース)となっている」(同紙)という。

リキッドコーヒー市場の平均的な100円前後という価格からは恐ろしく乖離した価格だが、縮む市場を前提に考えれば、「売上=客数×客単価」の「客数」がどんどん減っているのだ。他社と同じことをやっていても生き残りは難しい。アンゾフのマトリックスの「市場浸透」とは、いかに市場を深掘りできるかがカギである。コアなファンを掴んで独自のポジションを確立し勝ち残りを目指す同社は一つのモデルと言えるだろう。

商業施設はオシャレ男子、セイコーは世界を目指して「新市場開拓」

アンゾフのマトリックスの「新市場開拓」には2つの意味合いがある。1つは「新たな属性(セグメント)への拡張」、もう一つは物理的な新市場を狙う「地域拡張」だ。

前者の例として、六本木ヒルズは大規模なメンズ向けエリアをオープンし、ラフォーレ原宿も期間限定でメンズブランドのみを集めた催事を開催、「天神コア109MEN’S」は開業以来の大規模改装をしている。その狙いを六本木ヒルズの担当者は「競争の激しい女性向けに比べ、伸びしろのあるメンズをテコ入れして他社と違いを出す」(日経MJ4月1日号)と語っている。確かに差別化も図れるが、競争が厳しいとされている婦人物の市場自体も縮小しているのだ。別の市場に拡張して「客数」を増やし、利益確保を図る意味も大きいはずだ。

後者の例として、セイコーウォッチは今秋から、若い男性向けの機械式腕時計ブランド「プレサージュ」を全世界で販売するそうだ。「全世界約60カ国・地域で展開するセイコーブランド専門店『セイコーブティック』を中心に販売する。既にグローバルで展開する高価格帯の『グランドセイコー』や『アストロン』に加え、比較的低価格のプレサージュを投入することでセイコーブランドの認知向上を狙う。高価格ブランド『グランドセイコー』の購入にもつなげたい考え」(日経MJ3月30日号)とある。

日本市場ではエントリーユーザーとなるべき若年人口は最も縮小している上に、スマホなどで時間を見て済ます「腕時計離れ」も広がっている。グランドセイコーなど同社ブランドを好んで購入するのは中高年がメインで、若年層でも腕時計愛好者はいるが海外ブランドを好む傾向が顕著だ。もはや、セイコーが持続的な成長を図ろうとするなら、海外市場へ拡張してユーザー育成を図り、「客数」を確保すること以外に手段はないといえる。その顕著な例がこの展開なのだ。

さらばサラダ?RF1の「新商品開発」

同じく日経MJ3月30日号の記事の1つを見て、思わず目を疑った。サラダの量り売りのRF1の記事で「さらばサラダ」と書いてある?・・・「それじゃ一体RF1は何を売るんだ?」と思って、タイトルを読み返してみると「さらばサラダ一辺倒」であった。

記事によればRF1を運営するロック・フィールドの業績は好調で、それを支えているのがサラダ以外のメニュー。客単価向上によって「2016年4月期の連結営業利益は前期比8.8%増の21億5千万と2期連続の増益を見込む」(同紙)という。同社のCEOが記事中のインタビューで狙いを明言している。「サラダ一辺倒からの脱却だ。タンパク質や脂質を取れる『おかず』を増やし、サラダとの併せ買いを促す創業以来の挑戦だ。人口が減り共働きが増える中、客数や来店頻度を増すのは難しい。客単価を上げる方が現実的だ」(同紙)と。

「売上=客数×客単価×来店頻度」の「客単価」を増やすため、同社は独自のポジションを築いている「サラダ業界」から、より広く競合も多い「総菜業界」へと業界定義を変更して広げたわけだ。縮む市場においては業際競争に勝ち残る知恵と力も試されるのである。

紳士服の青山はもはやスーツだけでは喰っていけない・・・「多角化」

青山商事は1998年に「世界一スーツを売っている企業」としてギネス認定をされている、圧倒的な業界リーダーでコストリーダーシップを発揮して自他共に認める「安くて良いスーツ」を販売し、多くのビジネスマンのファンを抱えている。だが、団塊世代の退職による就労人口の縮小や、クールビズの定着で紳士服需要は減少が続く。「総務省の家計調査によると、14年の1世帯あたりの男性用スーツの支出額は5135円と、10年前と比べ7割に減少」(日経MJ4月6日号)という状況だ。

となると、スーツ以外の稼ぎ所を探さねばならない。同社は昨年末には鍵の複製や靴修理を手がける「ミスターミニット」を買収。さらに、雑貨会社であるインテリア店運営のWTW(ダブルティー、東京・渋谷)も買収した。

「多角化」はマトリックスの他象限と異なり、勝手のわからない市場・リレーションのない顧客層に対して、今まで扱っていなかった商品を売るという、最もリスクの高い展開である。そのため成功するには、図のような何らかのシナジーが必要と言われている。「青山の店舗開発ノウハウを生かし、雑貨店の出店を拡大していく。併せてWTWが得意とする商品企画のノウハウを取り込む」(同紙)としている。だが、WTWの主要顧客層は「デザインにこだわり、購買力のある30代以上」(同紙)というから、青山とはターゲット層は被らない。シナジーがあるとすれば、同店の雑貨・衣料品の生産を青山商事のバリューチェーンに取り込んで効率化して収益性を高めるという「生産シナジー」かも知れない。いずれにしても、リスクを取った拡大策であるといえるだろう。

縮小市場においては座していれば死を待つばかり。各企業とも必死の拡大策を取っている。その勝負の方向性が、アンゾフのマトリックスで明確になっただろう。では、自社ではどのパターンが適しているのか・・・と、自分事として考えてみることが重要だ。
 

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